魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜   作:ラナ・テスタメント

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……はい、どうもテスタメントです。とりあえず一言。
つ、疲れた。と言うか、なんでこんな事になるんかいな(涙)
いや、もう心折れんばかりにいろいろありまして。
つーか一回心折れました。キース並の理不尽が極稀に起こるからリアルって怖いです。
そんな訳で三ヶ月もお待たせしましたが、ようやくオリエンテーション編続きです。では、どぞー。


オリエンテーション編「そんなに地獄を見せたいんだな……!?(By司波達也)」②

 

「ここはどこだ……?」

 

 司波達也は呆然と呟く。その目の前には、日本では決してお目に掛かれない事請け合いのナイアガラの滝もかくやと言う大滝が広がっていた。

 あれから2時間程、バスと言う名のトラックに積み込まれ、どなどなどーなどーなーとばかりに連れて来られた先には謎の秘境があった。

 何やら異様にでかい怪鳥――鳥と言うには何か爬虫類っぽいが鳥であると信じたい――が軽やかに飛翔し、地響きを立てて奇妙な咆哮を上げているン十mの獣――どこかで見た有名過ぎる最大の肉食動物では無い筈だと心に願う――が闊歩している。

 そこまで必死に現実逃避をして、達也は深々と溜息を吐き、ようやく認めた。と言うか認めざるを得なかった。ここはヤバい所だと。

 トラックから下ろされた同級生達も顔を青ざめさせ、引き攣らせている。まぁ、無理も無い。

 

「……キース。去年、ここは大峡谷じゃなかったか?」

 

 そんな達也たちを尻目に、一同の後ろからようやく現れたオーフェンが横のキースをじろりと睨む。銀髪の執事は、相も変わらぬ無表情で彼に頷いた。

 

「それが昨今、リニューアルしまして」

「リニューアル?」

「ええ、大峡谷だと殺風景で客が入らないと父っぽい母のよーな男が」

「いや、もういい」

 

 大峡谷をどこをどうやったら大滝に出来るか等聞いてはいけない。どーせまともな答えは返って来はしまい。

 一度だけ深ーく溜息を吐き、オーフェンは気を取り直すと振り向いた。そしてキースにさっさと行けと手をしっしっとする。それに頷くと執事は何故か腰ミノをいつの間にか巻きつけて森の中へと入っていった。今から始まるオリエンテーションの準備の為にだ。

 

(……今年は何で来るか)

 

 去年の事をつい思い出しそうになり、首を振って止める。どうせ去年の経験なぞ当てにはならないのだ。苦い思い出をわざわざ掘り起こす事もあるまい。

 

「オーフェン、一年生達集まったわよ」

「ん、おう。ハンゾー、点呼は?」

「完了してます。全員、集合確認しました」

 

 そんな風に思っていると、七草真由美と服部刑部少丞範蔵から集合の報告を告げられた。市原鈴音と中条あずさも集まっている。

 今回のオリエンテーションに当たり、生徒会メンバーも進行を手伝う事になっていたのだ。もちろん真由美を始め全員が抗議したのだが、生徒会顧問の権限でオーフェンが却下した。いくら何でもオリエンテーションをキースと自分+現地協力者で進めるのはぞっとしない。明らかに不満そうなのは真由美とあずさ、基本的に従順なのが範蔵、全く無表情なのが鈴音である。まぁ無理を言って来て貰ったのは確かなので、後で埋め合わせをせねばなるまい。

 

(ま、今はこっちが優先だ)

 

 そう内心で呟き、こほんと咳ばらいすると整列した一年生達に向き直った。

 

「さて、長旅ご苦労だったな。今からオリエンテーションを始める。まず――」

「その前に質問が……!」

「却下だ」

「は? い、いや、あの」

「却下だ。どーせここはどこですかとか聞きたいんだろーが、俺も知らんからな。名前は首狩り族の森らしいが」

「……日本国内なんですよね?」

「ばかだなぁ」

 

 最後に聞いたのは達也だ。そんな彼の問いにオーフェンはふっと遠くを見る。ああ、遠くまで来たもんだとか思いながら答えた。

 

「国外どころが世界外でも驚かんぞ俺は」

「……どうやって来たんですか一体」

「さぁな。道路を普通に走ってたら、いつの間にか着いてたんだ。間違っても何故とか聞くなよ」

 

 キースだからとしか答えようが無いから、と言外に含めた台詞に、達也のみならず生徒一同はげんなりとした顔となる。もう少し、ほんの少しでいいから物理法則を守って欲しいと全員(一部除く)が思うが、それこそ無駄であろう。オーフェンは同情の視線を向けながら、改めて説明を始めた。

 

「話しを戻すぞ。今からオリエンテーションを始めるに当たっての説明だ。まず、三人で班を作って貰う。この三人でオリエンテーション中はチームとなる。チーム分けは好きにしろ。クラス、一科、二科も関係無い」

 

 淡々とした説明に生徒達は少しざわつく。オリエンテーションは班で行うのが確かに基本だが、三人で一班と言うのはかなり小人数だ。しかもクラスや科別の制限も無いと言う。

 

(だが、クラスの生徒以外と班を組む生徒は居ないだろうな)

 

 達也はオーフェンの意図に半ば気付きつつ、そう思う。達也自身、レオと後一人を適当に選んで組むつもりだった。

 しばらくオーフェンは生徒達の反応を見て、手を上げる。それで皆も黙った。

 

「説明を続けるぞ。班を組み終わったらオリエンテーション開始だ。各自チェックポイントを通過して森を抜けて貰う。罠の類は一切無いが、この森ならではの天然トラップ満載なので注意するように。なお、自衛の為にCADの所持を許可する。魔法の使用も制限無しだ。ただし、例外を除いて生徒同士には使用を禁じる」

「例外とは?」

「禁を破って魔法で攻撃された場合は迎撃で使用を認める。また、禁を破った生徒は後で説教&処罰するからな。E組の千葉と西城がどんな目に合ったか――説明は要らんだろ」

 

 生徒一同即座に頷く。大切な事なので二回しっかりとだ。達也なぞ念の為三回は頷くべきだと声高に主張すべきか、少し迷った程だ。オーフェンも満足そうに皆を見遣った。

 

「またチェックポイントでは生徒同士の魔法戦も有り得る。それも例外とする」

「……魔法戦、ですか?」

「制限付きのな。言い忘れたが、各チェックポイントではそれぞれ課題がある。それをクリアしない限り通過出来ないから、その積もりでな」

 

 この説明を聞いて反応は二種類に分かれた。片や喜びに、片や悲嘆にだ。言うまでも無いがそれは一科生と二科生に分かれている。前者は一科生、後者は二科生だ。もちろん例外もいる――達也や深雪がそうだった。

 

(魔法戦だけじゃないだろうな、オーフェン先生の事だ)

 

 去年、二科生の成績を上げた実績を持つ彼の事である。おそらく魔法戦や実技の課題だけではあるまい。視線を感じ、ちらりと見るとA組からモブ崎――じゃない森崎がふふんと嘲笑してこちらを見ていた。それに達也は苦笑する。お前、その分だとオーフェン先生の狙い通りだぞと。

 

「また今回オリエンテーションはキャンプを行う予定だ。チェックポイントを通過する毎にテントや食材、飲料等を配布する……が、これは必要数の半分しか用意していなくてな。ま、早いもの勝ちだ」

「あの、取れなかったら、どうなるんですか?」

「そりゃお前、野宿だろ。食料、飲料も自前で調達だな」

 

 これは流石にショックだったのか、不利な二科生だけで無く一科生も息を飲んだ。まさか、そこまで厳しいとは想像していなかったのである。今はまだ春、当然夜は肌寒い。四月も終わりとは言え、野宿は嫌だった。

 そんな生徒達を見て頷くと、最後にオーフェンは説明を締めくくる。

 

「また最後尾から今回の責任者である問答無用超絶はた迷惑執事ことキース・ロイヤルが追っ掛けて来る予定だ。野宿でもいいから適当にしようなんて考えてるとエライ目に合うからな」

「あ、あの執事が……!?」

「ちなみに去年は大量の着ぐるみを強制着用させられた上にオリエンテーションが終わるまで脱げないと言う罰だったな」

「あれは見ていて地味にきつそうだったわ……」

 

 遠い目をして呟く真由美の声を聞いてか、うっと呻く一同。派手さは無いが、確かに嫌な罰である。

 では今年は、と思い至った直後、地響きが鳴り始めた。これは――?

 

「……オーフェン先生?」

「地響きだと? あの野郎、今年は何を」

 

 オーフェンも知らないのか眉を寄せる。果たして、あの執事は何を用意したと言うのか、そう固唾を飲んだ一同の前に、にゅっとそれは現れた。

 小屋、と言うには幾分大きめの家である。それは、確かに家だった。家の筈だ。

 ……手足がくっついたモノを家と呼べるなら、だが。

 唖然とした皆を前に、屋根に立つ言わずと知れた銀髪執事はいつもの無表情で一礼した。

 

「お待たせいたしました、黒魔術士殿」

「あー、うん、まぁ、なんだ。全然待っちゃいないし、むしろ来ないで欲しいくらいだったが」

「またまた、そんな照れ隠しなぞしなくても」

「誰が照れてるか!? いや、それはいい。それよりキース、それは何だ?」

「よくぞ聞いて下さいました黒魔術士殿。これこそが、今回のオリエンテーションで皆様を追わせて頂きますシリーズ第二弾でございます」

「そんなシリーズは初耳だが……まず、その家はなんだ」

「おや、覚えが無いと? まぁ百聞は一見に如かずと申します。黒魔術士殿、とりあえず一度中に御招待しましょう――」

 

 直後、オーフェンは言い知れぬ壮絶な悪寒を覚えた。反射的に隣にいた範蔵の襟首をむんずと掴み、有無を言わさず前に突き出す!

 

「は!?」

「影薄副会長バリア――――!」

 

 そして凄まじい速度で何かが駆け抜け、副会長バリアーこと範蔵が捕まった。手だ。家から突き出た手が、恐ろしい勢いで範蔵を掴んだのである。そして、開いた家の中にポイと投げ込んだ――次の瞬間。

 

『も、もかもかァァァァァァァァァァァァァ――――――!?』

 

 悲鳴が響いた。断末魔っぽい、アレでソレな感じの、悲鳴が。その内容に覚えがあったオーフェンは油汗を滲ませ、表情を引き攣らせる。まさか、あの家は、まさか。

 

『あ、あ、ああああああ! く、来るな来るな来るな来るな――! 嫌だ、ここは嫌なんだ! 黒い、ごわごわしてる! 助けて、助けて下さい! 誰か、誰でもいいから誰か――――――! あ、あ、あ、あ、あ……』

 

 誰もが沈黙する中、やがてチーンと音が鳴ると、ぺいっと範蔵が排出された。真っ白になり、ミイラもかくやとばかりになった彼が。

 誰かがごくりと息を飲んだ音が聞こえ、オーフェンが恐々とキースを振り返る。すると執事はにっこりと笑って告げた。

 

「もかもか室です。久しぶりでございましょう?」

「て、てめぇ! よりにもよってソレを持ち出しやがったのか! よくもハンゾーをあんな目に!」

「……オーフェン、それ言って胸痛くならない?」

「ハンゾーは犠牲になったんだ――キースの理不尽と言う犠牲そのものにな……!」

 

 全く悪びれないオーフェンに、生徒一同も流石に白い目で見るが、そんなものは何するものぞと完全に無視した。とりあえずバリアーは後何個あるかなと考えていると、即座に真由美を始め生徒会メンバーが距離を取ったのを見て舌打ちする。

 

「マユミ、何で離れるんだ。近くに居ろよ」

「嫌よ! 去年の事、私忘れてないからね!」

 

 そう言えばバリアーにされたとか入学式の時に聞いたなと達也は現実逃避込みで思い出す。まさかマジだったとは。それにしても、範蔵をああまでするもかもか室とは、一体何なのか。オーフェンは知っているようだが……誰もが思うとキースが懐から何やら大きめのファイルを取り出すとこちらに見せて来た。そこには大きく写真が載っている。そう、写真だ。複数の男性の写真。ただし全員、どえらい量の胸毛を蓄えていた。一人の老人なぞ身体が見えてすらいない、まるで胸毛の雪だるまのようになっている。

 もかもか室と言う名前、そしてファイルの胸毛の男達。まさか……! と達也が震撼すると同時に、執事が頷く。

 

「我が故郷、『モグモゲラ村』の胸毛ランキングトップ20に協力願いました」

「……あの中に?」

「ええ、半裸でひしめき合っております」

 

 最悪だ……! 感情が失せた達也でさえも顔を青ざめさせる。もかもか室――あれはダメだ、あってはいけない、存在してはならない。もしあの中に入れられようものなら、確実に逝く!

 思わず無意識的に分解をもかもか室に叩き込むが、あっさり霧散された。しっかりと自分対策を施しているらしい。この分では深雪の魔法を持ってすら無効化しそうだった。

 生徒一同が理解した事を反応を見て確認し、キースは恭しく一礼した。

 

「では、お早く班を組んで頂きますよう。でないと、このもかもか室……勝手に動き出すかもと言うか動きます」

「40秒で班を決めろ――――!」

 

 オーフェンの叫びにそんな無茶なとは誰も言わず、率先して生徒達は班を組み始めたのだった。

 

 

(オリエンテーション編③に続く)

 




はい、オリエンテーション編②でした。
キース……お前は何てもんを持ち出すんだ……(汗)
ゴメン、前書きに書いたキース並の理不尽は嘘です。こんな理不尽リアルにねぇ(笑)
そんな訳でオリエンテーション開始となります。説明回の筈……筈なんですが、何このカオス。
果たして達也たちはもかもか室から抜け出せるのか。そしてモブ崎はいつもかもか室に入るのか……(オイ
次回もお楽しみにです。
次は早く更新出来ればいいな……
ではでは。

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