魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜   作:ラナ・テスタメント

31 / 35
はい、テスタメントです。
まずは更新遅れてしまい、申し訳ありません……社会人は辛いよ(涙)
さて、今回、あえてオリエンテーション編としています。……まぁぶっちゃけ長くなるなと(笑)
今回はオリエンテーション編のプロローグみたいな感じで一つ(笑)
では、オリエンテーション編①、どうぞー。


無謀オリエンテーション編
オリエンテーション編「そんなに地獄を見せたいんだな……!?(By司波達也)」①


 

 週明け、つまる所月曜日。万人がとりあえず来んなと声を大にして叫びたがる曜日である。

 だが、その月曜日が来なければ給料日は来ず、好きな雑誌は発売されず、アニメの続きは見れない。まぁそんな事は一切関係無いのだが、司波達也は自分の席に座るなり頭を抱えた。

 先週の金曜日の夜に、叔母である四葉真夜の唐突な訪問とオーフェンの邂逅と言う凄まじいイベントがあった訳だが、結果は有り体に言って最低のものだった。オーフェンが何を言ったかは定かでは無いが真夜は泣き叫び、執事の葉山が来るまで一言も話そうとしなくなったのである。

 そして彼に連れられ、車に乗せられる際、燃えるような瞳に憎悪をたぎらせ、一言を呟いたのだ。「このままじゃすまさない」と。あれ程静かな感情の発露を、達也は初めて知った。深雪も顔を青ざめさせていた程だ。

 ともあれ真夜は帰り、土日はつつがなく過ごせた。そして月曜日――登校の直前に、ようやく達也は思い出したのである。オーフェン曰く週初めに何かある、と言うものを。

 今更どうにか出来る筈も無く、また休んだ時のリスクが恐すぎて――ブランシュの一件による罰で、心に深いトラウマを負った級友二人の姿が即座に過ぎった――こうして席に座っている訳だが。

 

(一体、何があるんだ……?)

 

 オーフェンがああ言った以上、何かあるのは確実だ。後は、それにどう対処するかである。そう考えると、ブランシュ日本支部で実力を見せたのは失敗だった。オーフェンの事だ。絶対に事前に対策している筈である。彼の策が読めれば、まだ何とかなるのに。いや、そもそも何があるか分かれば、まだしも――。

 

「おう、おはよう皆、席に着けよ」

 

 と、始業のチャイムと同時に件のオーフェンが教室に入って来た。この二科生特別講師は、何故か日替わりで朝教室に来て出席を取ると言うアナクロな事をしていた。相変わらず目付きが悪い。顔はそう悪くは無い筈なのだが、皮肉気に吊り上がった目が全てを台なしにしていた。

 初日に来ていたスーツでは無く、黒のシャツにこれまた黒のジーパンだ。ちゃんとしていたのは数日だけで、先週から適当な服装で授業に来ていた。酷い時は黒のジャージだった時もある。しかし毎回黒づくめなのはあれか、単なる趣味なのか、それとも何らかの理由があるのか――。

 

(いかん、現実逃避しているな)

 

 首を軽く横に振る。どうも警戒のあまり、ちょっと思考を余所にやっていたか。改めて、じっとオーフェンを見る。まさか視線に気付いていない筈もあるまいが、オーフェンは淡々と出席を取っていた。やがてそれが終わると、持って来たものか小冊子を配り始める。メールでいいだろうに紙媒体なのも、やはりオーフェンらしかった。達也は前の席のレオから受け取り、一冊を机に置いて後ろに渡す。そうしながらもその小冊子を穴が空く程に見た。そこにはこう書いてある、「オリエンテーションのお知らせ」と。

 高校入学後、団結を深める為に行われるのがオリエンテーションだ。この第一高校でも行われているらしい。達也は背に緊張が走ったのを自覚した。これだ――直感が叫び声を全力で上げる。オーフェンが言っていたのは間違いなく、このオリエンテーションだ。

 

「よし、全員に配り終わったな。おっとまだ開けるなよ。他のクラスもだ」

 

 どうも別クラスもモニターで繋いでいるらしく、釘を刺して来た。クラスの皆は怪訝そうな顔をするも、達也は呻きそうになる。さりげなくオーフェンからイデア経由で「目」に妨害が入ったのを察知したからだ。こんな真似も出来たのかと感心したくもあったが、そんな場合でも無い。彼がここまでしてくるオリエンテーション。一体何があるのか、ひたすら不気味である。

 

(オリエンテーションを名目に何をさせるつもりなんだ……?)

「さて、じゃあちょっとした説明だ。毎年この時期に、一年へオリエンテーションを実施する事になっている。二泊三日、自然に囲まれた環境で協調性を養う、と言うのが主な目的だな」

「お泊りだって。ちょっと楽しみね」

「ふふ、そうだね」

 

 エリカと美月が囁くように笑いあう。他のクラスメイトもだ。お気楽な林間学校みたいなものと言う認識である。達也もそう思いたかった。思いたかったが、先週末からのオーフェンの態度が不穏過ぎた。

 

「よし、じゃあ一ページ目を各員開けてくれ」

 

 言われ、一斉に小冊子を開けるクラスメイト。達也もすぐに開き――数秒、間違いなく気を失った。

 これは確信を持って言えるが、一年生全員(深雪除く)がそうだったろう。何故なら、一ページの最初にどでかくこう書かれてあったから。

 

 責任者:キース・ロイヤル。

 

「みんな、これは罠だ――」

「かかれぇ――――――――――!」

 

 誰よりも最初に気を取り直した達也が机を叩いて立ち上がると同時に、オーフェンが号令を掛ける。

 直後、一斉に教室へと生徒が雪崩込んで来た。これは二年と三年生! 彼等は唖然としたクラスメイトを手早く捕らえ、即座に縛り上げていった。

 

「く……! まさか上級生を潜ませていたのか!?」

「達也、これどう言うごはぁ!?」

「……すまんな」

 

 慌てて振り返って来たレオが真上からまるで吊り天井を喰らったように床へと叩きつけられる。

 まさかと視線を向けると、そこには部活連会頭にして十師族、十文字家次期当主――建て前上は――の十文字克人が威風堂々と立っていた。そして、汎用型CADを操作すると次々にクラスメイト達を床へと這わせていく。

 

「こ、これが噂に聞くファランクス――こんなしょうもない所で使いますか!?」

「しょうもなかろうが何だろうが、これには我々全員の将来が掛かっているのだ。司波、お前には分かるまい。あの悲劇を我々は繰り返す訳にはいかぬのだ!」

「そんな風に言われましても!」

 

 もはや語るまい。そう言わんばかりに、克人が次々にファランクスを発動させてこちらへと放って来る。多重障壁による連続打撃――まずい、と達也は悟る。この魔法は分解と殊更相性が悪い。いくら分解しても連続で生み出し続けられる障壁は途切れる事が無い。しかも今はCADすら無いのだ。

 誰か援軍をと周りを見渡すと、エリカが風紀委員長、渡辺摩利に捕まっていた。

 

「この女……!」

「許せエリカ。シュウの妹と言えど、こればっかりは譲れないんだ!」

「意味分かんないわよバカ――――!」

 

 涙目となってじたばた暴れるエリカを、摩利はふん縛っていく。ちょっと楽しそうに見えたのは気のせいか。

 最早、一年E組で残るは自分一人――ファランクス相手に何とか逃げ回っているが、それも時間の問題だ。いっそ床を分解して逃げるか。そう決心した瞬間、声が響いた。

 

「我は呼ぶ破裂の姉妹!」

「っ――――!?」

 

 ついに来たかと言う思いと頭上に衝撃波が炸裂したのは同時だった。達也は素早く伏せ、やり過ごす。そうしながら見る先にはオーフェンがにやりと笑って立っていた。その横にスクルドが並んでいる。にこやかにこちらを見て来る彼女を見て、達也は悟った。スクルドは向こう側だと。

 

「オーフェン先生……! スクルド!」

「我は踊る天の楼閣!」

 

 呼び声に応える事無くオーフェンはスクルドの肩に手を置いて、構成を解き放つ。擬似空間転移、それも特殊な構成を用いたものだ。

 ファランクスを突き抜けて、二人は伏せる自分の前へと転移する。そして踏み付けて来るオーフェンの靴底を転がって回避しながら勢いを利用して立ち上がった。そこにスクルドが襲い掛かって来る。

 

「何故だ、スクルド!」

「ごめんねー、でもほら、私オーフェンの妹だし」

 

 全然申し訳なさそうには見えないが、謝りながら打ち込んで来た存外重い拳をなんとか捌き、続けて放たれた肘を膝を上げて防ぐ。流石の体術だが、打撃戦では自分に分があると達也は感じた。彼女だけならば、どうにかなる――だが敵は他に二人も居た。それも厄介なのが二人も。

 肘打ちを防がれたと見るや、下がるスクルドを援護するようにファランクスの一撃が迫る。これを受ければ捕縛は必至だ。なので、ファランクスに囲まれた狭い空間を縫うようにして達也は駆けた。

 脇を寸でで障壁の一打が抜ける。しかし、そこに待ち構えていたのはオーフェンだった。彼にしては珍しく右の拳を大振りしている。それを疑問に思うが構う暇は無く、達也は屈むようにして拳を避けた。それこそが、オーフェンの狙いだった。

 

「な……!?」

 

 オーフェンの横を通り抜けようとした達也が驚愕の声を上げる。何故なら、その体に縄が絡みついていたから。よく見れば、その縄の終端をオーフェンが握っている。最初からこれが狙いだったか。

 広がる縄に自分から飛び込むように入ってしまう達也を、抱きしめるように縄が絡んで来る。即座に抜けようとしたが、その隙をスクルドが見過ごす筈も無く、飛び蹴りを敢行して来た。何とか腕を十字にしてガードするも、苦虫を噛み潰した表情となる。これが絶対の隙になると理解したからだ。それは正解だった。

 オーフェンが振り返るなり、達也の背中へと肩を抉るように突き込んで来た。衝撃で息を詰まらせ、転倒する。

 そして素早くオーフェンがこちらの身を抑え込んだ。詰みだ――無念そうに呻く達也。そんな自分を、彼は手際良く縛り上げた。

 

「よし、これでE組はクリアだ。タツヤが最大の懸念だったからな」

「こんぷりーとだねー」

「お見事です、オーフェン師」

「ああ、お前等も良くやってくれた。後は……」

 

 携帯端末を取り出し、オーフェンはどこぞに繋げる。すると次々に「G組クリア!」「B組制圧!」「F組完了です」「C組、後数分お待ち下さい」と声が飛び出す。これは、まさか。

 

「一年全クラスを同時に襲ったんですか……!?」

「まぁな。前回の反省を活かして今回は問答無用にとっ捕まえる事にしたんだ」

「どう言う事です! たかだかオリエンテーションでしょう!?」

「そうだ。たかがオリエンテーションだ。しかし、こいつが仕切っててな……」

 

 いかにも頭痛を押さえる仕草で、オーフェンは例の小冊子を見せて来る。その一ページ目に変わらず――変わって欲しいと祈ったがダメだった――記載された責任者:キース・ロイヤルの名前に達也はぐっと息を飲んだ。

 恐らく去年も奴が責任者だったのだろう。そして当時の一年生は逃げ出した、と言う訳だ。しかし何故今年は二、三年生が襲い掛かるのか。そんな問いが達也の頭を過ぎると同時に、オーフェンが二ページ目を開ける。そこにはこう書かれていた――「なお一年生の半分がボイコットした場合、責任を取って全校生徒強制参加とする」。

 

「去年、結局全校生徒強制参加になってなぁ。そりゃあもうえらい事になったもんだ」

「我々は、あの悪夢を忘れない。司波、お前達には済まないと思う――」

「ならこの縄を外して下さい十文字会頭! 十師族として誇りある選択を! 会頭!」

「しかし、それは出来んのだ! 二度もあそこに行く気は無い!」

「あそこってどこだ――――!」

「どーせ後で知るんだ。今知る事も無いだろ」

 

 絶叫する達也へ吐き捨てるようにオーフェンは答え、携帯端末から各戦果を聞く。やがてA組クリアの報告を聞き、達也は目を見開いた。そう、一年全クラスを襲撃したと言う事は則ち深雪も襲われたと言う事だ。まさか彼女も捕われたと言うのか。

 

「オーフェン先生……まさか、深雪に手荒い真似を」

「出来る訳が無いだろうが。もしするなら俺が出向いてるさ」

 

 一瞬殺気混じりの視線を達也が寄越すが、オーフェンは肩を竦めてあっさり流した。そしてきょとんとする彼に同情めいた苦笑を送り、携帯端末からA組教室のモニターを連動して見せる。そこにはこんな場面が映っていた。

 

『まぁっ、では今回のオリエンテーションは”キースさんの故郷”で行うのですね』

『はい。我が郷里、首狩り族の森――単なる秘境ですが、きっと一年の皆様にも良い思い出となって頂けると確信しております』

 

 一年A組。そこでは先の連絡通り、クラスのほぼ全員が縛り上げられていた――たった一人を除いて。その例外は達也の愛妹、深雪であった。何故彼女は縛られていないのか、その理由を達也は知る。それは会話しているあの超絶厄介型迷惑変態執事であるキースにあった。

 達也は悟る。深雪は何故かあの執事を気に入っており、奴が深雪を騙くらかしているのだと。

 

『でもでも、クラスの皆を縛るのは流石にやり過ぎなのでは……?』

『これは森に入るにあたりイニシェーション。一種の儀式でありましてな。それに、皆様縛られて嬉しそうにしていらっしゃるのが分かりますかな? ……これが、最近の流行なのです』

『そ、そうなの? ほのか、雫?』

『もがもがもが――! もが――!(訳:騙されちゃダメ――っ! 深雪――!)』

『もがもが………(訳:無駄だと思うよ、ほのか)』

 

 達也の目は光井ほのかと北山雫が何と言ったのか正確に理解していたが、深雪にそれを求めるのは酷であろう。案の定、そうかも? と言う顔になっている。更にキースはモニター越しにも関わらず達也に微笑して見せ、駄目押しとばかりに告げる。

 

『ほら、ご友人A、B殿も喜んでおられます……それはタツヤ殿も例外ではありません』

『……お、お兄様も? もし深雪が縛っても喜んで頂けるでしょうか……?』

『もちろんです。このように麗しい妹君に縛られるのは兄として至福でしょうな。もしよろしければ縛り方のレクチャーして差し上げますが』

『で、ではちょっとだけ――』

「深雪――――――! あの執事ィィィィィィィィィ!」

 

 モニターがブラックアウトすると同時に達也が断末魔もかくやとばかりに叫ぶ。オーフェン達はそんな彼へと、ただ同情の視線を送った。ああ、帰った後が大変そうだなこいつ、と。

 ともあれ、これで一年全クラスは制圧完了である。オーフェンは一つ頷くと、校内放送に携帯端末を繋げ、全校放送を開始した。

 

『あーテステス、マイクテス……こほん。あー、たった今、一年生全員の確保を完了した。二年、三年、今年は良くやり遂げた。喜べ、これで去年の悲劇は防げたぞ』

 

 おおおおっ! と、教室が震えるかのような歓声が響き渡った。間違いなく上級生達である。こんだけ彼等が喜ぶとは、このオリエンテーション、どれだけヤバいと言うのか。

 達也は縄に分解を掛けるも上手くいかず(この時点で例の魔術絡みの物だと分かった)、何とか縄抜けを試すが、オーフェンの縛りは完璧だった。これはもう半身を分解するくらいしか抜ける方法はあるまい。しかしそうやって抜ける事を考えてか、オーフェンは達也から離れようとしなかった。

 

『ついては一年達に連絡だ。本日たった今からオリエンテーションに出発する』

「「今!?」」

 

 クラスメイト全員が異口同音に愕然と叫ぶ。オーフェンはオリエンテーションのお知らせのページをまためくった。そこに書かれた開始日は明らかに今日の日付であった。

 やがて校内に次々と大型車が入って来た――大型車。しかし、それは運転席の他に立派な荷台が取り付けられていた。それだけしか無いが。

 

「……オーフェン先生、あのトラックは?」

「おお、来たな。あれが、お前らが行き帰りで乗るバスだ」

「待って下さい……! あれは明らかにトラックですよね!?」

「細かい奴だなぁ。ちょっと待ってろ」

 

 うるさそうにこちらを見て、携帯端末を繋げると何事かを指示する。すると運転手が手にスプレーのペンキを持って下りて来るなり、荷台にこう書いて行く。バスですと。

 

「よし、これで文句ないだろ」

「……いや、もういいです」

 

 既に諦めの境地に入ったのか、達也はツッコミを放棄する。そんな彼にレオやエリカが「諦めるな、達也、立つんだ!」「達也くんだけが、頼りなのよ!?」と呼び掛けるが、知った事では無い。達也が抵抗を諦めた事を理解してうんうんとオーフェンは頷くと、再度全校放送で呼び掛ける。

 

『それじゃあ一年共を積み込めー。出発するぞー』

「「一年生は出荷よ――――――!」」

 

 どこにだよと言うツッコミは多分きっと無駄なんだろうなと達也はそれだけで解脱出来そうな程に悟りながら、克人にレオ共々担がれていく。やがて一年生全員をバス(と言う名のトラック)は積み込み、無事出発したのだった――なお深雪のみ荷台ではなく助手席だったと記載しておく。

 

 

(オリエンテーション編②に続く)

 




はい、オリエンテーション編①でした。
責任者:キース・ロイヤル
この一文だけで恐怖過ぎる(笑)
てか出発だけでここまでなるとか思ってませんでしたよ……これもお兄様が無駄な抵抗するから(笑)
多分、⑤くらいで終わるかなと思います。今回で悟りきったかのようなお兄様はまだ甘い(笑)
ではでは、次回をお楽しみに――。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。