魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜   作:ラナ・テスタメント

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はい、テスタメントです。
第十五話中編です。ついにボリーさん登場。今話、情報量がえらい事になりますが、仕方ないよねボリーさんだもの(笑)
なお、劣等生最新巻のネタバレも多少含まれますので注意を。では、第十五話中編どぞー。
なお、後書きにてちょっとした解説&補説をします。


入学編第十五話「我が名に従え愚者」(中編)

 

「きゃは、きゃはははは、きゃはははははははははははっ!?」

 

 笑う。司一”だった”ものが。のっぺりとした人形の顔で、けたたましく。それは何かが壊れてしまった笑いだった。彼は笑い続け、背に投影された男。スウェーデンボリーへと振り向く。

 

「これは、なんだ? この力は!? 最高じゃないか! きゃはは!? 人間だった事が馬鹿らしくなる……素晴らしい!」

『お気にめしたかね。盟友――いや殺人人形』

「もちろんだ……いや、違うか。もちろんです、我が主」

『ならば、我が名において命じよう。彼らの、抹殺を』

「――我は主命を受諾するのみ」

 

 

 にやり、と笑って人形がついにこちらへ振り返る。それを眺めながら、オーフェンは星の紋章の剣を引き抜き、構えた。切っ先を人形へ、そしてスウェーデンボリーに向ける。

 

「茶番は、もう済んだか?」

『建前は大事だ。君も覚えがあるだろうに』

「どっちも馬鹿らしい事には違いないが、一緒にすんな」

『ふむ……まぁ、認めよう。そもそも、今回全てが茶番である事も含めてな』

「……そう言う事か」

 

 ようやくオーフェンはこの件における賢者会議、いやスウェーデンボリーの意図を悟った。彼らの狙いは自分の試しであった事に。

 やたら巨人やら沈黙魔術の兵装やらをブランシュ、と言うよりは司一に提供したのは自分を引っ張り出す為だったのだ。賢者会議の関与があれば、どうあってもオーフェンは動く。そう見越していた訳だ。

 

「わざわざ俺に会う――と言うか、話す為だけにここまでしたのか。暇人め」

『百数十億もの年月を引きこもれば、たまにはちょっかいも出したくなる。暇人では……まぁ、あるな。さて改めて言おうか、久しぶりだ旧友よ』

「その旧友ってのは止めろ。鬱陶しい奴らを思い出して仕方ない」

『だとしても、我々の関係を端的に示すのはそれだろう?』

 

 確かに、それは認めざるを得ない。オーフェンにとってこの魔王は、長年の友とも言えた。友情を感じた事が無いと言えば、嘘になるだろう。その友情が、ただの一度も油断出来ないものであったにしてもだ。

 友である……認めよう。

 一種の共犯だ……正しい。

 だが、徹底的なまでに苛まれ続けた厄介者だ。

 そんな厄介者であるスウェーデンボリーの背後に唖然とした達也と深雪を見て、オーフェンは舌打ちを堪えた。まさか魔王がこんな形で現れる事になろうとは予想していなかった。二人を逃がそうとしても、もう遅すぎる。司一であった殺人人形は、彼等にも気を配っていた。

 

(最悪だな……これ以上は無い事を祈るしかない)

 

 恐らくこれで終わりでは無いと知っていながら、オーフェンは一人ごちる。それを分かった訳でも無いだろうに、スウェーデンボリーは薄く笑って来た。

 

『互いの定義も決まった事ではあるし、本題に入ろう。旧友よ、面白い玩具を作成したようだが……まさか、それだけでは無いだろう?』

「何の事だ」

『一年前』

 

 これ以上は無い程、端的に魔王は告げる。一年前……その言葉に、オーフェンは顔を明確にしかめた。表情に出さずに我慢も出来たが、意味が無い。スウェーデンボリーもそれを理解してか、鷹揚に頷く。

 

『そう、一年前だ。彼女は暴走したな? 終焉の力を存分に発揮した。元より神人種族は己が抱える矛盾で発狂しているのが常だが……あれは唐突に過ぎた。何故だ?』

「さぁな。ウチの女神は気まぐれなんだ。どっかの姉妹のように、たまに訳も無く理不尽に暴れたくなったんだろ」

『なら何故、君は彼女を封印出来た?』

 

 ぴたり、とオーフェンは口をつぐむ。スウェーデンボリーは相変わらず笑ったままだ。超然とした、魔王の笑み。そのままに続ける。

 

『彼女を解消せず、力のみを封印? これ以上無い程完全に? まさか、たまたまや偶然とは言うまいな?』

「なら奇跡だろ」

『奇跡なぞ無い事は君が世界の誰よりも知っていると思っていたが』

「ならそれに近い何かか。どちらにしろ答える義務は無い」

『義理はある。と受け取れそうな回答だな、旧友』

 

 もう答える積もりも無く、オーフェンは星の紋章の剣を差し向けながら月の紋章の剣を捨て、隠しポケットからスローイングダガーを二つ取り出す。知る限りではあるが、殺人人形の身体にさほど強度は無い。身体の魔術文字を削れば、それだけ戦闘能力は落ちていく。

 スウェーデンボリーは肩を竦め、殺人人形は笑みのまま細い指を空へと走らせ始め――オーフェンは叫んだ。魔王達の後ろで、特化型CAD、トライデントを向ける達也に。

 

「止めろ! 魔法は使うな――」

 

 次の瞬間、達也の右手が消えた。青白い炎だけが一瞬上がり、トライデントが床に落ちる。驚愕に目を見開く彼は表情こそ歪めるが、悲鳴は上げなかった。しかし、腕に抱かれていた深雪が小さく声を漏らす。

 

「お兄様!?」

 

 殺人人形の視線がそちらに移る前に、オーフェンも動いた。スローイングダガーを一息で放ち、星の紋章の剣を持つ右手を掲げる。編み上げるは最速の構成。それも構成を誤魔化した暗号術だ。同時に鎧を演算処理モードで制御を補佐させて、発動する。

 

「我は描く光刃の軌跡!」

 

 鎧の補正により倍速で発動した構成により、オーフェンの周囲に七つの光球が現れた。

 擬似球電。術者の意思で操作出来、光速で対象に転移して接触と同時に激しく燃え盛ると言う構成である。人間レベルではまず防御不可能で、確実に殺しかね無い構成だ。

 オーフェンは殺人人形へと七つの擬似球電全てを転移させ、全周囲から襲わせた。だが、狙いは全て外れ、殺人人形の周りを燃やすに留まる。うち二つは放ったスローイングダガーへと転移”させられた”。

 

(これでも、ダメか……!)

『前よりも制御の手並みはマシになったな。鎧の補正もある』

「その”制御を丸ごと奪っておいて”言う台詞か」

「制御を奪った……?」

 

 深雪が呆然と呟き、達也がぐっと息を飲む。それを聞き、オーフェンは頷いた。

 スウェーデンボリーの十八番、制御の奪取。魔術の王たる彼は、その制御力において他者の追随を許さない。構成を奪う程度は余裕でやってのけるのだ。しかも、それだけでは無い。

 殺人人形がようやく描き終わった魔術文字を、魔王がちらりと見る。それだけで、空中に描かれた文字が倍々に増えた。構成を奪い、改竄し、強化したのだ。スウェーデンボリーは自力では魔術も魔法も使えない。だが、彼こそは魔術、魔法を統べる王であった。故に、魔王。

 神殺しと言われた魔王。神人種族。スウェーデンボリー!

 

『では、お手並み拝見だ。旧友よ』

「くそったれ!」

 

 魔術文字が一気にオーフェンへと放たれる。構成は理解出来た。破壊の文字だ。接触すれば、オーフェンの身体は壊される。鎧を身体強化モードに設定し、矢のように飛び出した。一瞬先まで居た場所を魔術文字が通過していく。

 

(魔王術を使うしか無い。だが、その時間があるか……!?)

 

 それが絶望的な試みだと、オーフェンは理解する。魔王術ならば、制御を奪われる事は無い。だが、スウェーデンボリーがそれを許す筈も無かった。展開された魔術文字が引っ切り無しに襲い掛かって来る。最悪、”最後の手段”を使わざるを得ないか――と、直後に声が来た。

 

(オーフェン先生、文字の構成を!)

「っ――!?」

 

 聞こえて来たのは、ネットワークによる思念通話。達也に繋げたままだったものだ。それを介して、彼が深く繋がって来るのを理解する。同調術――達也の目と、オーフェンの感覚が同調した。

 馬鹿野郎と叫びたくなるが、達也は止まらない。再成を終えた手で再びトライデントを構えると魔術文字へと差し向けた。それをスウェーデンボリーが一瞥する。

 

(させるか……!)

 

 今日何度目かの賭けをオーフェンは迷う事なく行う。鎧を演算処理モードに変更し、達也の分解をオーフェンが制御を奪い取った上で、スウェーデンボリーの制御と奪い合う!

 制御の奪い合いは一瞬だけ拮抗してのけた。そして、達也には一瞬で充分だった。

 術式解散。飛翔する魔術文字が全て、分解される。

 

『ほぅ……』

「っ……!」

 

 感心するスウェーデンボリーへと達也は止まらずにCADを向け、三連分解魔法「トライデント」を殺人人形へと放とうとする。だが、それは魔王が視線を向けただけで魔法式ごと消された。オーフェンが補助してすら、制御を奪われたのだ。

 人形となった司一。その背後霊の如く、空中に投影されている男。オーフェンの言葉を借りるなら、スウェーデンボリーと言ったか。達也は苦々しくも認めた。この男は、誰よりも魔法に通じている。

 つい昨日の八雲の言葉を思い出す。「心する事だ、達也君。君は、生まれて初めて、真なる意味で君を凌駕する者と戦うかもしれない」――。

 

『先程のネットワーク・イデアからのバックアップで気にはなっていたのだが……成る程』

「スウェーデンボリー! お前の相手は俺の筈だ!」

『旧友よ。そう急く必要も無いだろう? それとも彼等を私に見せたくないのか? それならば杞憂と言っておこう』

「……何?」

『”彼等の事は知っている”。そう言ったのさ』

 

 知っている。そう告げたスウェーデンボリーに、オーフェンは眉を潜め、達也と深雪を見る。彼等はありありと驚愕していた。二人はスウェーデンボリーの事を何も知らない。だが、魔王は知っている。

 

「どう言う、事だ?」

『君の名前は……知らないな。だが、そうだな。”ミヤとマヤは息災か?”』

 

 思わず尋ねた達也に、スウェーデンボリーは、はぐらかすかのように問いを重ねる。だが、その名前に達也は内心で呻いた。深雪は……言うまでもなく、驚愕から立ち直れていない。だからと言う訳でも無いが、達也は答える。

 

「……母は――深夜は、死んだ」

『そうか。まぁ、あの様子では長くは持たなかったろう。ネットワーク・イデアから直接合成人間をデザイン出来る稀有な能力は惜しかったが』

「何を、言っている……?」

『分からないと言う事はあるまい? そうだな、昔語りをしてやるのも悪くは無いか――』

「止めろ。タツヤ、聞くな……!」

『旧友よ。それは無理と言うものだ。人は、誰しも自らのルーツを得たくなるもの。良かれにせよ悪しかれにせよな。殺人人形、少しばかり彼の相手を任せよう』

「――我は主命を受諾するのみ」

 

 スウェーデンボリーの命に人形が応え、彼の支配下から脱すると、一気にオーフェンへと襲い掛かった。右手首から短い刃が伸び、左手は魔術文字を描き始める。

 

「少しばかり付き合ってもらおう! 先程の借りもあるしなぁ!」

「この……!」

 

 咄嗟に魔術を放ち、迎撃しようとするが、急に声が出なくなった。見れば魔王がどこから取り出したのか、一つの魔術文字をこちらに掲げている。魔術文字による音声封じ、音声魔術封じだ。仕方なく、オーフェンは星の紋章の剣で突き込まれた人形の一撃を叩き落とす。だが、同時に人形の沈黙魔術も完成していた。

 文字が猛烈に回転し、真空の刃を生み出しながら突っ込んで来る。それを星の紋章の剣を横にして受けるも真空の刃が掠め、身体のそこかしこに傷が走った。ついでに鎧の文字にもダメージを負う。

 

(鎧は自己修復も出来るが……くそ)

 

 明らかに時間稼ぎをされている。それが分かっていながらどうしようも無い。しかも、同調術まで切られていた。ご丁寧にネットワークを遮断したか。

 

『さて、では語ろう。君達のルーツを。まずは……そうだな。君達が何者であるか、から告げようか。少年よ、少女よ』

 

 オーフェンを封じ、超然とした笑みのままスウェーデンボリーは達也と深雪を見る。オーフェンの言う通り、こんな事をしている場合では無いのだろう。魔法は使えないが、今なら離脱も難しく無い。なのに達也も深雪も、まるで空間に縫い止められたように身動きしなかった。しようとすら思わなかった。

 二人は知らない。悟れない。スウェーデンボリーが悟らせないから。それはネットワークを介して行われる精神干渉……いや、精神支配。そうとすら気付かせず、魔王は二人を支配していた。

 そして告げる。彼等のルーツの、最初となる言葉を。

 

『君達は四葉の希望と絶望、狂気からデザインされた合成人間だ』

 

 合成人間。その単語に、達也と深雪は息を詰まらせる。その不穏な呼び名にだ。一瞬、調整魔法師を指しているかと思ったが、わざわざ分ける必要は無い。なら何だと言うのか。

 

『合成人間とは、ネットワーク――イデアからデザインされ、生み出された存在の事だ。君達はイデアから直接生み出された存在とも言える』

「イデアから、直接?」

『大漢の絶望、そう呼ばれる事件は知っているな? 四葉も絡んだあの事件。あれには私達、賢者会議も介入していた。その時だ。私はある双子の姉妹に出会った――四葉のな』

「四葉の、双子……まさか」

『四葉の姉妹。名を、四葉ミヤ、四葉マヤと言った』

 

 確定だ……声には出さず、達也は内心で認めた。スウェーデンボリー、この男は自分達の出生に関わっている。深雪は青ざめ、口元を押さえていた。吐き出しそうなのだろう、達也も同じだ。凄まじい気持ち悪さを胸に覚えていた。そんな二人に構わず、魔王は続ける。

 

『二人の魔法資質。その特性については今更説明の必要も無いだろう。特にミヤの魔法資質は見事なものだった。精神構造干渉能力。他者の精神へと干渉し、構造を変化させる力。だがこの能力の本質は、イデアを介して行われる事にあった。イデアを通じ、精神のエイドスを改変してしまう事にな。そして胎児へと精神構造干渉を行い続ける事により、母の、叔母の、四葉の「理想」をイデアから生み出した訳だ。……尤も、君達はそれぞれ別の意図を持ってデザインされているようだがな』

「何で、そんな事が分かる……!」

『決まっているだろう? ”その方法を教えたのが私だからだ”』

 

 ずるり、と達也の手からついにCADが落ちる。……確定だ。そう思いたくなくとも、認めざるを得なかった。

 四葉の合成人間。イデアから直接生み出された存在。それが、自分達だと。

 

『ミヤとマヤに会ったのは、彼女達が”壊れた”後だった。四葉の他者はどうだか知らなかったが、彼女達は揃って望んでいたよ。世界の破滅を、世界への復讐を、世界の崩壊を。私は彼女達の望みを叶える為に、合成人間の作り方を教えた、と言う訳だ。まさか、ここでその成果を見る事になるとは思っても見なかったが……だが、ミヤにも躊躇いはあったか』

「躊躇い……? なんだ、それは」

『君達の能力は限定的過ぎる。それぞれ片方づつに合成人間の特性――解決者たる能力を振り分けたようにな。これでは解決者とは呼べまい。ふむ……そうだな。今、ここで君達を定義しよう』

 

 何がそんなに嬉しいのか、殊更にこやかに魔王は笑う。そして、二人へと新たな呼び名を与えた。解決者足り得ず、しかしネットワークに根差した存在としての名を。それは。

 

『「解答者」。この世界に於ける魔法の解答たる存在。そう、君達を私は定義しよう』

 

 解答者。解決者成らざるイデアに根差した超越なる者。達也と深雪がそうだと、スウェーデンボリーは告げたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 これ以上はダメだ。そうオーフェンは覚悟を決め、真空を生み出し続ける魔術文字を掴んだ。右手がずたずたになるが構わない。鎧の情報介入を最大にし、沈黙魔術の制御を奪う。これにはニタニタ笑っていた殺人人形が目を剥いた。

 

「貴様、私の魔法を……!?」

(お前の、じゃないだろう)

 

 声が出せないので、オーフェンは心の中だけで言ってやりながら、魔術文字を投げ返す。殺人人形は両手を挙げ、これを受け止めた。両手の掌に魔術文字が浮かんでいるのが見える。あれで構成を中和しているに違いない。

 ともあれ時間を得たオーフェンは、振り返るなり星の紋章の剣を投げ付けた。魔術文字の機能は奪われる可能性を捨てきれず、使わない――代わりに直接投げたのである。狙いは魔王、その手にある魔術文字。

 果たして、回転しながら突き進んだ星の紋章の剣は魔術文字へと直撃した。これで声が出せる――見れば、達也と深雪は揃ってぼんやりとしていた。精神支配だ。

 人形はもうすぐ復帰し、魔王はこちらへと視線を戻し、達也と深雪は精神支配に掛けられている。

 最悪の更新はいくらでもあると分かっていたが、状況の悪化は次々と起こってくれる。このままではろくな事にならないと悟り、オーフェンは”使う”事を決めた。今、現状の全てをひっくり返す為の、力の行使を。

 目を閉じ、己の内面へとオーフェンは意識を沈める。そこにあるものを、引っ張り出す。

 それは起きるなり暴れ始めた。身体を突き破り、全てを晒け出し、解放せんとする。だが、その全てをオーフェンは押さえ付け、纏め上げ、制御していく。自制に自制を重ね、構成へとそれを転化し、改変し、望む形へと作り上げる。

 たった一つ。一つの事しか望んでは”ならない”。思考の全ては、現実を改竄しかねない。規模は最小限に、寒気が背中を凍らせる。

 

「小さき宇宙へ、大きな量子へ、巡る巡る、その一欠けら。腐る世界を、空だけが見る――」

 

 展開するのは、偽典構成。一切の妥協も、妥当性も許さない、まるで黒のような何ものにも染まらない構成。魔術を持って編まれる構成だ。それが、魔王の声音で世界へと生み出されていく。だが、それは常のものとは違っていた。スウェーデンボリーが目を見開く。

 

『旧友よ、それは……まさか――』

(構うな)

 

 世界の全てを遮断し、ただ己の作業のみに没頭する。構成は莫大量のものだった。それが、瞬時に編まれていく。あまりにも規模も時間も違う偽典構成。オーフェンは先のスウェーデンボリーの声に、歓喜が混ざっていた事を認めた。

 

「痛む声は、誰もが応え、望む全てを叶えない。お前は何も得られない。何を望んでも、得られない!」

 

 偽典構成をオーフェンはただ窮め続ける。目を見開いた。同時に構成が世界を書き換えていく――!

 

「時の檻に囲まれて、苦悶の時代を眺め続けよ! 小さき量子の、大きな宇宙の中で!」

 

 右手を振り放ち、それを解放する。世界が法則から丸ごと書き変わっていくのを、オーフェンは理解した。それを最小限度に収めなければならない。

 魔王術。常世界法則そのものを改竄する。魔術で再現された魔法。だが、オーフェンが放ったのは魔王術”では無かった”。

 やがて世界が組み替えられ、望む配置へと置き換えられる。空間転移も兼ねたのか、オーフェンの背後に達也たちが居た。精神支配も解けている。彼等が我に返っているのを理解した。

 

「オーフェン先生、今のは……!?」

「え? お兄様、オーフェン先生がこの方?」

 

 ……そう言えば、深雪には自分の事を教えていなかった。苦笑したくなったが、止める。そして、前を向いた。呆然とした、魔王と殺人人形へと。

 

『は――は、ははは。ははははははははは!? そうか、そう言う事だったのか、旧友よ! 今、全てが分かった! 一年前、何故彼女が暴走したのか! 何故彼女を封印出来たのか! 何故封印したままなのか! そうか、”ようやく”か! 二十年、奪い返さなかった甲斐は、ようやく結実したか……!』

「……ああ、そうだ」

 

 認める。認めるしか、無かった。忸怩たる思いと共に、それを。

 やがて笑い続けた魔王は、オーフェンへと手を開いて頷いた。歓喜を抑えられず、まだ全身から溢れさせている。そして見た、オーフェンの開かれた目を。

 

『巨人化(ヴァンパイアライズ)……それが、君の巨人化だ。私が望み続け、叶えられた、超克だ。そうだろう? オーフェン・フィンランディ・”スウェーデンボリー”』

 

 一説にはこうある。魔王、スウェーデンボリーの瞳は青色であったと。

 オーフェンの目は、”澄んだ青色”の光を湛えていた――。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第十五話中編でした。
おい、これはどう言う事だと言うかはよ追憶編やれよとか言われそうですが、スティです。ええ、お待ち下さい。
さて、今回達也と深雪の出生について一年後くらいにやるであろうネタバレをかますボリーさん。
さすボリと呼んで上げて下さい。
てか、ボリーさん書いて思うんですが、一番ヤバいのは制御奪う事でも何でもなく、精神性だと思います。こいつはぁ、凶悪だ……。
さて、達也が合成人間となった訳ですが、これは劣等生最新巻の達也、深雪出生に、オーフェン世界の合成人間作成を混ぜた考察となっております。
ようは深夜の精神構造干渉によりネットワークから達也を生み出した、と思えば。ただし、元よりあった胎児をデザインし直した為、達也は真性の解決者では無く、深雪と機能半々にした形となります。
なので、解答者とボリーさんには名付けられました。
さて、最後のオーフェンのあれに、え? 魔王の力は鋏にしてたよね? て思った方は正解です。その辺は次話で。
さぁ、盛り上がって参りました。次回、ついにブランシュ戦決着です。
これ終わった後もエピローグがあるけどね。
ではでは、次回もお楽しみにー。

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