魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜   作:ラナ・テスタメント

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はい、約二週間ぶりとなります。テスタメントです。
皆様、長らくお待たせしました……! いや本当に。
言い訳させて頂きたい! このマスマチュリアの闘犬の弟をかつての二つ名としていたテスタメントですが、寄る年波に勝てず、暑さにダウンしてしまたたのです……!(意訳:暑さでへばってたら体調崩して風邪引きました、すんません)
とまぁ、そんな理由で執筆が上手くいかず二週間ばっかり更新出来ずにおりました(汗)
今回も短いのですが、後編は長くいければなと思います。
では、入学編第九話(前編)またお前か……! と達也と共に叫びつつ、お楽しみ下さい。ではどぞー。


入学編第九話「これはいろいろマズイだろ……!」(By司波達也)(前編)

 

 風紀委員にめでたくなった(本人にとっては、めでたくない)司波達也は夕食後、地下室を改造した作業室で溜息を吐いて頭を抱えていた。

 風紀委員になった事が原因ではない……いや、なくもないが、それより切羽詰まった事態が、達也をこうも悩ませていた。

 その原因は、作業机の上に裏にされて置かれた一枚の写真だった。

 そう、昨日にあの迷惑千万理不尽型執事たるキースによって忍ばされた七草真由美の盗撮写真である。

 これに気付いたのは、昨日帰宅した後だった。つい返すのをすっかり忘れていたのだ。今日即座に返すつもり(もちろん秘密裏に)だったのだが、深雪の生徒会入り&自分の風紀委員入りの騒動で、またもや返しそびれていた。

 そして今、昨日と同じく頭を抱える羽目となっているのだが。

 

「……どうやって返すか」

 

 これを自分が所持していると言うだけで、とんでもなくマズイ。まず考えられる率直な危機は当然、妹である深雪だ。こんなものが見付かれば、にっこりと微笑みながら一週間程度、絶対零度で氷の彫像にされかねない。

 凍らされた自分に「まだおしおきです」と笑い掛ける、一世代前のスラングにおけるヤンなんたらな妹を想像してゾクリと身を震わせる。

 なんと言うか、リアルに想像出来過ぎて、また妹がハマり過ぎて恐すぎる。

 次の危機は、学校関連だ。風紀委員に就任した自分がこんなものを持っていた事が判明した場合、おそらく停学になり、三年間「変態」と言われ続けるだろう。嫌過ぎる学校生活だ。

 更に、生徒会&風紀委員の女性陣がただでは済ませまい。

 それらのシュミレーションを瞬時に行い、達也は心に決める。これを返却か、破棄せねばと。出来るなら後者を選びたい――「分解」を使えば、跡形も無く消せる――のだが、それはそれで深雪にバレそうな気配があった。

 ならどうするかと言うと、やはり真由美に返却が一番だろう。どうしようもなくなったら自宅以外で分解すればいい。そう、心に決めると控えめなノックが響いた。

 達也はギクリとしながらも、自然な動作で写真をポケットに捩込み、いつものポーカーフェイスで振り向いた。同時に、扉が開かれる。

 

「失礼します、お兄様」

「ああ、いらっしゃい深雪。どうかしたのか?」

 

 出迎えた達也に、病院の検査着のようなガウンを身につけた深雪がこくりと頷く。そして、携帯端末形状のCADを差し出して来た。

 

「CADの調整をお願いしたいのですが――」

 

 そう言ってくる妹に怪訝な顔を返しつつ、達也は写真の対処を明日確実にする事を決め、一時的に忘れる事にする。

 それがどんな事になるか等、あのキースが弱みを握ったまま放置する等有り得ないと、達也が知るのは、次の日の昼休みであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「おはようございます」

 

 朝。教室の入口で深雪が挨拶すると、それだけでざわわと皆が振り返って来た。

 一年A組で、彼女が教室に入ると毎度こんな感じであった。そして、自分の席に着くと幾人かの男子生徒が近付いて来ようとする。これもいつもの事。

 しかし、今日は早目に来ていた友人がすぐに来てくれた。光井ほのかと、北山雫だ。彼女達は、男子達より早く声を掛けてくれる。

 

「深雪、おはよう」

「おはよう」

「ええ。ほのか、雫、おはよう」

 

 まだ入学して四日だが、既に彼女達とは気軽に挨拶出来る間柄になっていた。こちらに寄ろうとしていた男子が羨ましそうな顔をしていたが、深雪からすると彼等とそのような関係になるつもりは一切無い。

 クラスメイトではあるが、友人以上には絶対にならないのは間違い無かった。まぁ、そんな彼等はいいとして。

 

「昨日、生徒会どうだった?」

「正直、覚える事が沢山で大変そうだったわ。でも、やり甲斐はあると思う。お兄様も風紀委員になられたのだし、頑張るつもりよ」

「達也さん、風紀委員になったんだ。すごいね」

 

 ほのかの質問に答えると、雫が兄の事を聞いてくれた。深雪は微笑んで――本当に嬉しそうに微笑んで頷く。

 

「そうなの。お兄様、服部副会長と模擬戦もしたのだけど、見事に勝利して下さったわ」

「副会長と!? 確か、二年生で最強の人だって聞いたよ?」

「ええ。服部副会長も、とても強かったわ……けど、その分お兄様の実力も示されたの。流石、お兄様だったわ」

 

 驚くほのかに、我が事のように頷く深雪。雫も声には出さないものの、目を見開いていた。

 深雪にとって、兄を認められると言うのは、それだけで価値があるものだ。出来るなら事細かに話して自慢しまくりたいが、流石にそれは引かれそうなので、何とか自重する。代わりに、別の話しに切り替えようとした所で。

 

「こちらに、司波ミユキ様はいらっしゃいますかな?」

 

 入り口から聞き覚えのある声が来た。この声は……と驚きながらも振り向くと、既に彼は間近に居た。

 七草真由美の執事にして、入学式、それに一昨日に騒動を散々に引き起こした迷惑執事、キースだ。彼はやけににこやかな表情で、こちらに笑顔を見せていた。

 

「貴方は……!」

「おや、こちらにおられましたか。直接話すのは、初めてになりますかな? 七草家執事の、キース・ロイヤルと申します」

 

 明確に警戒を飛ばす深雪に、しかしあくまでも穏やかにキースは接しようとする。ほのかや雫も、警戒心を滲ませていたが、全く斟酌する事なく、彼は深雪に告げて来た。

 

「実は、一つ耳寄りな情報がございまして」

「……また嘘をおっしゃるつもりですか? 今度は逃がしませんよ」

「いえいえ。このキース、嘘は決して申しません……嘘ですが」

「嘘なんじゃないですか!?」

「嘘同盟員ですので、嘘はつきませんと」

「……嘘同盟員って」

「そんなのあるの?」

「当然です。いや、嘘ですが」

『『…………』』

 

 うぁ、ブン殴りたい――三人は全く一緒に思うが、このキースが構う筈もない。にこやかなままで続ける。

 

「一昨日、ミユキ様の兄上、タツヤ殿の懐に忍ばせたマユミ様の写真を、とんと回収し忘れまして」

「あれ、嘘ついたって認めるんだ」

「嘘同盟員ですので。それでご存知ないか、聞きに来た次第でございます」

 

 雫のツッコミもさらりと躱すキースだが、三人の視線は限りなく冷たい。特にミユキは視線だけでなく、物理的に冷気を放射しはじめていた。無意識に魔法が漏れ出しているのだ……怒りで。

 

「貴方は、お兄様がそんな不埒な写真を持っていると。そうおっしゃる訳ですか?」

「返却されていないのならば、当然かと」

「貴方が、また私達を騙していないと言う保障は?」

「ありませんな」

「そうですか――度重なるお兄様への愚弄。許しません」

 

 次の瞬間、深雪から冷気が一気にキースへと襲い掛かる。無意識に発動された凍結魔法は、迷惑執事を凍らせんと迫り、しかし彼は、すっと手を差し伸ばした。

 

「ミスフィード」

 

 ぴしり、と冷気が止まる。そして、そのまま冷気は消え失せた。魔術による中和構成だ。

 深雪が目を丸くして固まる中、優雅にキースは一礼する。

 

「今のは……」

「執事としての嗜みにございます。それはそれとして、ミユキ様。私を信用なされないのは仕方ありませんが、どうか兄上殿に聞いてみるだけでも、検討して貰えませんか?」

 

 魔法を無効化されて呆然となった深雪に、キースは言い募る。そんな彼をじっと彼女は見つめた。

 キースの言い分を認めるつもりは深雪に無い。兄、達也がそんな写真を持っていないと確信してるからだ。

 そもそも、このキースは前回も今回も自分を騙している。彼自身が言った通り、信用出来る筈が無い。しかし、そう言えば一昨日も昨日も、達也は真由美に写真を返していた覚えが無いのも確かだった。なら、ひょっとして、万分の一か、億分の一の確率で、忘れていると言う事は無いだろうか? あの完璧な兄と言えど、それくらいは有り得るかも知れない……。

 

「……分かりました。お昼休みに、お兄様に聞いてみます。忘れたままでポケットに入れている可能性もありますので」

「おお……! 有り難い。感謝致します、ミユキ様。これは、その印にございます」

 

 そう言って、キースがそそくさと渡して来たものは、何故かゲイバーの、ストリップ劇場の入場券だった。それに気付くと、深雪は軽く悲鳴を上げて、その場に投げ捨てる。

 

「こ、こんなものを渡さないで下さい!」

「おや、お気に召しませんでしたか? 私のかつての婚約者と元主は、このような場所に出入りしておりましたが」

「どんな婚約者と主ですか!」

「まぁ、それはそれとして。では、よろしくお願い致します」

 

 なお、元主であるボニー・マギーにそんな趣味は無かったので悪しからず。

 ともあれ、そう言って再び一礼すると、ぱかりと教室の床が開き、キースは消えた。

 あんまりにも、あんまりな退場の仕方に、三人どころかクラスの皆は絶句する。

 

「……ここにも、落とし穴あったんだ」

「ひょっとして、本当にここって、あの人のトラップだらけなんじゃ」

 

 雫とほのかが揃って顔を青くする。それを尻目に、深雪は一人頷いて決心した。まず、兄に確認する。そして対処を決めようと。きっと持っていないか、忘れただけの筈だ。

 しかし、もし、”そうじゃなかったら”――どうしてあげようかしら?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 魔法科高校も、基本的には普通の学校と変わりない。それは、昼休みもそうだった。四限目の数学を終え、達也は席を立つ。

 隣の美月や前のレオ。こちらに近付いて来たエリカへと視線を向けると、彼女達も笑って来た。

 

「また生徒会室? 昨日に引き続き、今日も熱心だね、達也くん」

「からかうなよ、エリカ。それに、今日はちょっと用事もあるんだ」

「そうなんですか? でも、達也くんって、毎回用事があるような……」

「そりゃ言えてるな。何か、毎度忙しそうにしてるイメージがあるよな」

「……そんなに落ち着いていないように見えてるのか、俺は」

「そう言う意味じゃなくて……ほら、休んでる所をイメージ出来ないと言うか」

 

 美月、レオ、エリカに交互に言われ、そんな事はないぞと達也は思うのだが、ここに入学して以来、あちこちで騒動に巻き込まれているのも確かである。

 その半分は、あのキース絡みと言う所がまた泣ける。そう言えば、一日置きにキースは絡んで来ていた。今日も、あるいは……。

 胸ポケットの写真も早々に対処すべきだろう。そう結論し、三人に手を振って歩き出そうとした所で。

 

「失礼致します。こちらに、お兄様はいらっしゃるでしょうか?」

 

 入口から、凜とした声が届いた。そちらに目を向けると、深雪がそこに居る。彼女は達也を見付けると、一礼するなり教室に入って来た。

 昨日もそうだったが、今日も達也は彼女と待ち合わせて生徒会に行く予定だった――もちろん写真は返して――のだが、まさか彼女がここに来るとは。

 どう言う事なのかと訝しんだ所で、深雪が前に到着するなり率直に聞いて来た。

 

「お兄様、一昨日の写真なのですが、ひょっとして、まだお持ちになっておられませんか?」

 

 達也は一瞬、何を言われたのかと呆然となる。何故、深雪がそれを知っているのかと。

 達也は相変わらずの無表情に見えるが、深雪は僅かな気配の変化に気付いた。警戒にも近い気配が僅かながら、兄からする。

 

「……お兄様?」

「ああ。いや、確かに持っているよ。今から会長に返そうとしていた所でね」

「……お兄様? 写真の事を知っておられたのですか?」

「ああ、それが」

 

 どうかしたのか、と達也は続けようとして、出来なかった。何故なら、微笑む深雪から急激な冷気が放出されたから。

 一瞬で春のうららかな空気がロシアの永久凍土を思わせる寒さへと変わる。

 

「み、深雪?」

「お兄様、もう一度確認致します。”写真を持っていたと知っていられたのですね?” 今の今まで、忘れた訳でもなく。――つまり、”持っていたかった”、と」

「待て! その発想の飛躍はおかしい! おかしいぞ深雪!?」

 

 それは流石に理不尽過ぎるだろと達也は叫びたくなると言うか叫んでいたが、深雪はその全てを無視した。

 可憐な微笑は、より可愛いさを増す。それに比例するように、猛烈なプレッシャーが迫り来ていた。

 

「信じていたのに……お兄様が、まさかそんな不埒な写真を持っていたかったなんて、思わなかったのに……ウラギリマシタネ?」

 

 もはや何を言っても無駄。それを悟り、達也は一時離脱を図るべく、凄まじい体捌きで教室の真ん中から窓へと疾走すると、身を踊らせた。

 ガラスを自身の身体で叩き割りつつも、飛び降りた。

 実に鮮やかな逃げっぷりである。だが、教室の誰もが唖然とする中、深雪だけは冷たい視線のままに呟いた。

 

「お兄様。私から、逃げられるとお思いですか?」

 

 ふふふふ、と聞こえた笑い声は決して幻聴ではあるまい。そして、深雪は教室から出ていった。それを皆は見送って。

 

「……何だったんだ?」

「さぁ……?」

 

 レオの疑問に答えられる筈もなく、エリカと美月は首を傾げた。

 しかし、彼等はまだ知らない。騒動の始まりは、まさにこれからだと言う事を。それを知るまで、後数秒後――。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

(どう言う事なんだ……!?)

 

 中庭を異様な速度で駆け抜けながら、達也は内心で叫ぶ。その疑問は当然、深雪であった。

 何故、写真の事を知っていたのか。そして、何故あれ程の怒っているのか。いや、怒るのは分かるのだが、さっきの深雪は尋常では無かった。

 果して、朝別れてから彼女に何があったと言うのか。

 

(とりあえず、さっさと七草会長に写真返してしまおう)

 

 生徒会室へと向かいながら、そう思う。最悪の場合は「分解」してしまえばいい。

 だが、そんな達也をオーフェンが見たらきっとこう言っただろう。「最悪と言うのは、考えてた以上に最悪ってのがあるもんだよ。奴が絡むと特に」と。その最悪は、すぐに来た。

 

《第一高校の皆様、三日ぶりにございます。七草家執事の、キース・ロイヤルにございます》

 

 唐突に聞こえた校内放送に、達也は吹き出しかけた。声の主は、あのキースだったから。

 どうやって校内放送を乗っ取ったのかは謎だが、それより遥かに気に掛かる事がある。理由だ。

 何の為に、校内放送を乗っ取ったと言うのか――嫌な予感がする、と言うか、それしかしない。それは大正解だった。

 

《今回、校内放送を使わせて頂いたのは、一つのお願いがあるのです。実はつい先日。我が主、七草マユミ様の盗撮写真が校内に出回り、それを回収したのですが……一枚だけ、回収を忘れた写真がありました。それを是非とも、皆様に回収して頂きたいのです! 何、タダとは申しません。写真には賞金を掛けましょう……部費に使うもよし、個人で使うもよしであります!》

「あ、あ、あの執事……!」

 

 全ての事情を悟り、達也は走りながら頭を抱えた。深雪の件も、これで理解した。全ては、あの執事の仕業だったのだ!

 達也は自分が甘く見ていた事を後悔する。あの執事が用意した以上、この写真はヤバい代物だったと。

 

《加えて、その写真を進呈してもいい……マユミ様ファンクラブの方々の協定は、一時的に凍結。写真に関して、一切の制限は無しとさせて頂きます!》

 

 何だ、ファンクラブって。あるのか、そんなものが。いやあるのだろうが……達也はげんなりとしながら、走る速度を上げた。あの執事が次に何を言い出すか、分かりきっていたからだ。つまり。

 

《なお、写真を持っているのは、一年E組、司波タツヤ殿であられます……では、皆様、ご武運を!》

『『見付けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!』』

 

 次の瞬間、走る達也を見てか、次々に生徒達がこちらを指差して来た。同時に、何人かが追ってくる。

 案の定、顔を知られているらしい事に涙したくなりつつ、達也は走る速度を更に上げた。

 だが、その前にずざざと土煙を上げながら立ち塞がる者達がいた。彼等はCAD無しで、一斉に魔法式を展開しようとする。

 

「我等、七草会長ファンクラブ、『もっと(M)もっと(M)マユミ(M)様』のナンバー三十二、溝口巧!」

「同じく、ファンクラブのナンバー二十一、新井紡!」

「そして栄えあるナンバー七、二十日矢来! 司波達也、大人しく写真を――」

「自己紹介が長い!」

『『な、何ぃ!』』

 

 決めポーズまで取ろうとするMMMとやらを、達也は一気にジャンプし、全員を踏み付けて飛び上がった。

 そのまま窓の縁に指を掛け、身体を引っ張り上げる。窓は開いていたので、すぐに身を校内へと滑り込ませた。

 

『『お、俺達を踏み台にしただと……!』』

 

 これ以上コントに付き合ってやる義理も無い。なので直ぐさま、達也は走り去る。そして生徒会室へと続くルートを頭の中で思い描き、絶望した。

 どう考えても、辿り着く前に捕まる。生徒達に捕まる分にはまだいいが、深雪に捕まると目も当てられない。

 なので最終手段を取る事にした。つまり、「分解」による写真の抹消! モノが無くなれば、この騒動もまだマシになる筈だ。

 走りながら写真を取り出すと、直ぐに「分解」を発動。原子単位で消し去ろうとして――愕然とした。

 たかが写真である。その写真が、「分解」を弾いたのである。「目」は、これがただの写真だと訴えている。なのに、これはどう言う事なのか……。

 

「おいタツヤ!」

「っ……! お、オーフェンさんでしたか」

 

 声を掛けられ、びくっとなりつつ――つまり、それだけ驚愕で我を忘れていた――達也は振り向く。そこには案の定、どこか皮肉気な容貌の特別講師兼ボディーガード(本来は逆)、オーフェンが居た。

 

「お前、またキースに絡まれてるようだな。よくもまぁ……」

「俺が望んだ事ではありません!」

「そりゃ分かるが……写真はお前が持ってるのか?」

「ええ、これです」

 

 動揺を何とか隠しつつ、達也はオーフェンに写真を手渡す。表では、真由美の下着姿が写っていたが、オーフェンは全く気にも止めず写真をためつすがめつ、よく見る。

 もちろん、助平な根性を発揮した訳ではない。何か仕掛けられていないか、確認しているのだ。やがて思いっきり顔をしかめると、達也へと視線を向ける。

 

「あ、あの野郎……おいタツヤ、これ、本当にキースに渡されたものなんだな?」

「忍びこまされたが正解ですが……はい」

「これ、燃やそうとか切り刻もうとか、何でもいい、何かしようとしたか?」

「はい、たった今消そうとしました。ですが、何故か出来なくて」

「だろうよ。魔法師でも魔術士でも不可能だからな」

「は……?」

 

 深い、深ーいため息を吐くオーフェンに、達也が疑問符を浮かべる。それは、一体どう言う事なのかと。

 オーフェンはそんな達也に額に手をやり、頭痛を抑えるようにして、答えた。

 

「これは人間の魔法の産物じゃない」

「……は?」

「”精霊魔術の媒介”……契約書だよ、これはな」

 

 ひらひらと写真を振りながら、オーフェンは達也に告げる。

 平和の獣、フェアリードラゴン・ヴァルキリーの精霊魔術。”その再現術”であると、彼は告げたのだった。

 

 

(入学編第九話後編に続く)

 




はい、入学編第九話(前編)でした。
キース……お前何でもありすぎだろうと言うか、精霊魔術を再現とかお前どうやった!?
ええ、答えは一つでございます読者様方。
「キースだから」
よし、オチた(嘘)
しかしまたかキース……と言うか、もはや学校中に精霊魔術使ってないだろうなと怪しい事この上ないのですが、まぁキースですんで(笑)
あ、MMMの元ネタは分かる人は分かる筈と信じてます(笑)
しかし、深雪と被りそう……そこらはどうなるのか。
では、次回もお楽しみにー。

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