魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜   作:ラナ・テスタメント

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ども、テスタメントです。
く、更新遅れた……! いや、すみません。リアルが少しばかり忙しくなりまして。主に、メグリンとか、メグリンとか(笑)
あ、メグリンとは秋田先生の新作で巡ル結魂者と言う小説です。某異世界来訪物に、某ISのような設定なんですが、そこはやはり秋田先生。冴え渡る秋田節のおかげで、全くそうは見えない。どう言う事だ(笑)
そんなこんなで更新遅かった上に、今回ギャグが無く申し訳ありませぬ(汗)
では、第八話(前編)、どぞー。


入学編第八話「スカウトの日に」(前編)

 

 ボディーガード兼第一高校特別講師である所の、オーフェン・フィンランディの通勤は、七草真由美、そしてスクルド・フィンランディと共に行われる。

 キャビネットと呼ばれる二人乗り、もしく四人乗りのリニア式小型車両によってだ。なお、基本的に一応真由美の専属執事のキース・ロイヤルは置いていかれる。……まぁ、必ず追いつかれるのだが。

 そんなキャビネットでお喋りに興じるスクルドと真由美を尻目に、オーフェンはくぁっと欠伸を噛み殺した。このキャビネットもそうなのだが、二年でこの世界の利便さに慣れた事に、オーフェンは苦笑する。これでは元の世界に戻った時が大変そうだ。いや、いっそ再現する手もなくは無いが……。

 

「ねぇ、オーフェンもそう思わない?」

 

 そんな風に取り留めもない思案に耽っていると、唐突に真由美から問いを投げ掛けられた。スクルドもこちらを見ている。どうも、先程のお喋りには自分も頭数に入れられていたらしい。とは言え、全く聞いていなかったので返事のしようがないのだが。

 

「あー……悪い、聞いて無かった。何の話だ?」

「もぅ、ちゃんと聞いててよね。今年の生徒会に誰を入れようかって話よ」

「そんなの新入生総代でいいだろ。タツヤの妹の、ミユキって言ったか?」

「でも、もう一人候補が居るんだよねー?」

「もう一人?」

「当の達也くんよ」

 

 小さくため息を吐いて、真由美は言う。タツヤ? と一瞬、オーフェンは疑問符を浮かべ掛けるが、司波達也の入試成績をすぐに思い出した。成る程と納得する。

 

「そう言う事か」

「そうなの。今までの慣例からすると、深雪さんにお願いするのだけど、達也くんの成績が飛び抜けてるのよね……」

「でも、タツヤって二科生だよね? 確か、生徒会は一科生しかなれないんじゃなかったっけー?」

「ううん。去年、私が生徒会長になったと同時に行った生徒総会で、制度改定したから大丈夫よ。達也くんを生徒会に入れるのに問題ないわ。……けど、ねぇ」

「反発はあるだろうな」

 

 すかさず続きをオーフェンが言ってやると、真由美が私は頭痛がしますとばかりに額を抑えた。慣例に従うなら深雪だろうが、達也も捨て難いのだろう。だが、達也を生徒会に入れるには反発がある。いくら一科生と二科生の間で差別意識が薄れているとは言え、無くなった訳では無い。特に、新入生達にとっては。

 それが無ければ、二人共に生徒会入りしてもらうと言う手も無くは無いのだが。

 

「せめて達也くんの成績を公表出来たらねぇ」

「……一応言っておくが、入試成績は本来部外秘だからな。どこから仕入れたか知らんが」

「だから悩んでるんじゃない」

 

 ぶーと、膨れたように拗ねる真由美に、オーフェンは肩を竦める。新入生総代は、総合成績最優秀の者が行う。これだけで、司波深雪は誰もが納得出来る実績があるが、司波達也のそれは示せないのだ。これで達也を入れては公私混同と取られても仕方ない。

 

「どうしたらいいものかしら」

「今回はタツヤは諦めた方がいいんじゃないか?」

「んー、惜しいけど、それしか無いかも」

 

 二兎を追って一兎も得られ無いのでは話にならない。深雪だけでも、相当なのだ。達也に関しては、次回以降と言う手もある。

 半ば自分でも結論は出していただろうが、オーフェンに話した事で決定したのだろう。真由美は一人頷いた。それを見て、ふと思い出す。

 

「そういやスクルド。お前はどうするんだ?」

「私? どこにも入んないよー」

「そうなのか?」

「うん。これでも、天世界の門の代表ですからー?」

 

 片目を閉じて、やれやれとばかりに言って来る。そんな彼女に罰の悪そうな顔となって、オーフェンは目を逸らした。

 一年前に天世界の門を設立した際、代表をスクルドとしたのは、オーフェンとキースだ。それは、彼女の正体をスポンサーである七草弘一に知られてしまった事。そして、彼がスクルドの信奉者となったのが原因だった。まぁ、後者に関しては建前だ――が、戦略級魔法師を遥かに凌駕する神そのものであるスクルドを、彼が代表にと求めるのは至極当然ではあった。

 七草家は秘密裏にではあるが、スクルドの後見人である事を自認している。事実上、十師族のコミュニティとは別に、彼女の支配下に収まっているとすら言えた。

 そんな彼女は、帰ってからも意外に忙しいのだ。オーフェンとしては、若干の申し訳なさを感じる。

 

「オーフェンが代表を代行してくれたら、部活に入ったりも考えるのになー?」

「無理言うな。頼むから」

 

 流石にオーフェンも反論する。現在、天世界の門は、代表スクルド、渉外役キース、そして実行部隊隊長オーフェン――正メンバーはこの三人しかいないので、実質オーフェン一人――と、なっている。これで代表までさせられた日には、とても持ちそうに無い。そこはスクルドも分かっているので、ふふんと笑うだけに留めてくれたが。

 そうこう言ってる内に、キャビネットが駅に到着する。三人は連れ立って、車両から降りた。

 

「さて、それじゃあ校門で達也くんと深雪さんを待つかな。オーフェンとスーちゃんはどうするの?」

「……本職はお前のボディーガードなんだが、最近忘れてないか、マユミ?」

「もちろん忘れてないわ、ただ聞いてみただけよ。スーちゃんはどうする?」

「マユミもオーフェンも待つなら、一緒にいるよー。タツヤとミユキとも話したいし」

 

 生徒会入りの件もあるのか、校門で待とうとする真由美に、オーフェンとスクルドも共に居る事にする。しばらくそのまま待っていると、見慣れた一団が見えた。

 

「タツヤ達だな。一緒に居るのは、同じクラスの奴らか」

「うん。昨日と同じメンバーね。それじゃあ早速……達也く〜〜ん!」

 

 目当ての人物を発見して、真由美が悪戯めいた笑みを一瞬浮かべると、彼の元へとスクルドを伴って駆けていく。それを見ながら、オーフェンは後ろから歩いて追い付く事にした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 昼休み。オーフェンは今頃、あいつら話しをしてる頃かなと思いつつ、身体を半歩分ズラして前に出た。その眼前を拳が通り抜けていく。

 拳を放ったと言う事は身を開いたと言う事であり、それは急所を晒すと言う事でもある。なのでオーフェンも例に漏れず、半歩進んだ勢いと体重を、開いた左掌に乗せて目の前の人物に撃ち込んだ。

 くぐもった悲鳴と共にその人物、男はぐらついて後退する。鳩尾に一撃貰ったにも関わらず立っていられるのは、受け身を何とか取ったからか。にやりと笑ってやりながら、ぐるりと身を回して肘を後方へと投げ込む。そこに今まさに放たれたであろう蹴りを迎撃する為だ。

 オーフェンの五感は構成を展開するが如く空間に指を伸ばし、冴え渡っている。かの万物の暗殺者、レッドドラゴン・バーサーカーの奇襲すらも捌いてのけた感覚だ。後ろからの攻撃だろうと、今更受けるわけが無い。

 

(まぁ、それだけと言えばそれだけなんだがな)

 

 苦笑を内心に押し込めながら、更に前進。蹴りを受け止めた肘の力点を変え、蹴りの威力自体を加速に使う。後ろから打撃を打って来た男の顔が見えた、と思った時には肩を身体の中心に触れさせ、突き上げている。

 それだけ。それだけで、男は景気良く転倒した。本来なら、ここで踏み付ける所だが、肩を竦めるに留めてやる。

 

「ハンゾー、カツトは受け身を取ったぜ?」

「精進、します……!」

 

 酸素を求めて喘ぎながら、倒された男、第一高校生徒会副会長、服部刑部少丞範蔵は弱々しく言った。

 そしてオーフェンはゆるりと振り返る。そこには先程、受け身を取った大柄の男子がいる。彼は、ようやく息を整え終わっていた所だった。

 第一高校部活連会頭、十文字克人。十師族次期当主と言われる生徒だ。彼は油断なくこちらの隙を探っている。オーフェンは構えすら取っておらず、静かに立っているだけなのだが、もちろん隙を晒したりはしない。だが、そのせいで攻めあぐねて硬直状態にもなっている。それを解すと言う訳でもないが、少し聞いてやる事にした。

 

「カツト、今日本にいる中で超一級と呼んでいい魔法師の名前を何人言える?」

「……?」

 

 こちらの意図が分からなかったのだろう。克人が訝し気な顔となる。まぁ、気まぐれなので分かる訳が無いのだが。

 ともあれ答える気になったのか、克人は少しだけ思案し、思い付く限りの名前を並べ始めた。

 

「まず、それぞれの十師族当主の方々に、師補十八家を含めた二十八家当主。そして、百家の当主の方々――彼らを別とするならば、当然老師、九島烈。一条家の長男にして次期当主であるクリムゾン・プリンス、一条将輝――」

「まだいけるか?」

「あと百人は余裕です」

「多いな、三人でいい」

「では先程の彼らを含めて、自分が知る限り最強の三人を。極東の魔王、夜の女王、四葉真夜。戦略級魔法師、十三使徒である五輪澪……そしてオーフェン・フィンランディ。魔法遣いではない、魔法使い」

「魔法師限定の積もりだったんだがな。俺は魔術士だぞ」

 

 軽く訂正だけして、オーフェンは満足したように頷いた。そして軽く手を振って、言ってやる。

 

「十文字カツト。その中でなら、お前は五本の指に入るよ。謙遜抜きでな。だからまぁ、萎縮せずに掛かって来い」

 

 言われて、カツトが身を震わせたのが分かった。硬直していたのが自分でも分かったからだろう。少しだけ息を吸って、吐く――それで覚悟を決めた。滑るように前進しながらカツトの呟きが聞こえた。

 

「いきます」

「ああ」

 

 直後、二人の影は交差し、決着は付けられた。

 

 

 

 

 

 

「ま、こんなもんだろ」

 

 オーフェンはぐるりと息を吐くと二人に振り返った。そこにはたった今、床へと這わせた範蔵と克人がいた。

 オーフェンは二科生特別講師ではあるのだが、それとは別に顧問としての仕事もしていた。生徒会、風紀委員、部活連の代表達の希望者に、戦闘訓練を行うと言うものだ。そして、この昼休みにも腹ごなしを兼ねて魔法抜きの体技を行っており、相手は彼等二人だった。

 急所を打たれ、簡単に立ち上がれる筈も無いが、範蔵と克人を見渡して、オーフェンは続ける。

 

「カツトもハンゾーも動きは良くなってる。この分だと、俺の教えられる事は殆ど無くなるな」

「だが、二人掛かりで我々はこのざまだ……そうは、とても思えません」

 

 息も絶え絶えで克人が呻くように言う。範蔵も悔しそうに俯いていた。彼等が何を言いたいのか、分からないでも無い。だが、オーフェンはあっさりと否定してやる。

 

「そりゃそうだろ。簡単に追いつかれたら、俺の立つ瀬が無いだろうが。お前らを圧倒出来たのは、ただ単に経験の差だ。戦闘技術と言う点では、二人とも完成に近くなってるだろうさ」

 

 そうは言ってやるのだが、二人は明らかに納得していなさそうだった。……まぁ、無理も無い。自分も彼等と同年代の時は、師匠であるチャイルドマンにそう思っていたものだったから。

 そもそも二人が二人とも、自分とは要求されるスキルもスタイルも違うし、魔法を使わない戦闘訓練は、言わば余技だ――こと現代魔法戦闘においては。なので気にする必要は無いのだが。

 

「ほれ、そろそろ立てるだろ? 起きろよ」

「は、はい……!」

 

 それぞれ身に力を入れて、無理矢理起き上がる。

 大柄な克人はともかく、痩身の範蔵は辛そうだった。特に手加減して突いていないので、当たり前なのだが。

 

「じゃあ今日はここまで」

「いえ、自分はまだ――」

「……おいおい、まだやるとか言うなよ? 俺も若くないんだ。身体持たねぇよ。この辺で勘弁しろ」

 

 範蔵が食い下がろうとするが、流石にオーフェンは苦笑して拒否する。範蔵が納得していないのは分かっていたが、反論を許さない内に背を向けた。

 克人がフっと笑い、力を抜くのを見て、範蔵もため息を吐いて、ようやく休憩に入る。それぞれ持ち込んでいた自前のスポーツドリンクを飲み始めた。オーフェンも二人に倣ってドリンクを手に取る。そこで、ふと時計に目を遣る。昼休みも、もう半分以上過ぎようとしていた。

 

「そろそろか。マユミは上手くやれたかね」

「何の話しですか?」

 

 小さく呟いたつもりだったが、どうやら聞こえたらしく範蔵が聞いて来た。克人もこちらを見ている。それにやれやれと嘆息しつつ教えてやる。

 

「マユミがな。新入生を生徒会にスカウトしている頃合いなのさ。ハンゾー、聞いてないか?」

「……そう言えば、今日でしたね。会長は二人の内どちらにするか決めたのでしょうか?」

「その話しも聞いていたのか。一応、新入生総代であるミユキにするつもりだそうだ。タツヤだと、反発がな」

「そうですか……惜しいな」

「ん?」

 

 範蔵の台詞の後半部分に、思わず聞き返してしまった。それに、彼は小さく苦笑する。

 

「司波達也……司波深雪さんの兄で、入学式の時、オーフェン師とあの執事を取り押さえた新入生でしょう?」

「なんだ、覚えてたのか」

「ええ。あの執事を一度とは言え、捕らえた体術を見ましたから」

「確かに、あれは見事だった」

「……今日、体技のみの組み手にこだわったのは、それが理由かお前ら」

 

 半眼で聞いてやると、二人とも目を逸らした。つまり、図星と言う事だ。まぁそれはいいとして、なら惜しいとは。

 

「ハンゾーは、タツヤを生徒会に入れるのを希望していたのか?」

「ええ。二科生と言う事は魔法実技が苦手なのでしょうが、入試成績は抜群でしたし。……それとは無関係に、ちょっと試したくもあります」

「試す?」

「彼の実力です。オーフェン師が随分と買っている様子でしたから」

 

 にやりと笑って言う。そんな範蔵の台詞に、オーフェンはそう言う事かと納得した。

 範蔵はこの一年いろいろあったせいで、半ば自分を理想化しつつある。克人も若干ではあるが、その節はあった。そんな自分が使った――つまり実力を認めた達也に興味が湧かない筈も無い。

 元の世界での弟子といい、こちらでの彼等といい、そう言った目で見られるのは、オーフェンとしても苦いものがあったが、さりとて止めろとも言えない。自分に出来るのは、彼等が間違った時に止めてやる事くらいだろう。

 

「司波達也か……生徒会が駄目なら、部活連で引き取りたいものだが」

「渡辺風紀委員長も狙っていそうですが」

「……お前ら、一応先輩なんだ。ほどほどにしとけよ」

 

 司波達也争奪戦に成りかねない空気に、とりあえず言う事だけは言ってやり、オーフェンはその場を後にする事にした。

 そして直後に、案の定摩利が達也を風紀委員にスカウトしたと言う話しを聞いて、苦笑と共に肩を竦めたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 午後からのオーフェンの予定は、一年二科生が合同で行う実習の監督だった。本来ならば端末越しに行うのが普通らしいが、オーフェンは基本的に同じ部屋に居る事にしている。

 理由としては、オーフェンが教鞭を取っていた時の癖がまだある――端末越しでは教えている気にならない――事と、もう一つ、構成、この世界では起動式と魔法式を見る事であった。

 特に後者は重要で、どちらの式も構成と見る事により、問題をある程度把握出来る。例えば、個人個人によって、魔法の得意、不得意分野が存在するが、CADにより起動式を取り込んで魔法式を展開すると言う方式に従うならば、これは少しばかりおかしい。

 ほぼ全てを自動化し、汎用性を上げているのにも関わらず、個性により差別化が行われているのだ。おそらく無意識領域で知らぬ内に、個々人の特性が出ていると見ているのだが。

 

(……しかしな)

 

 内心でふむと頷き、手元の端末にオーフェンは結果と構成の問題点を入力する。

 一年生最初の授業は、壁面モニターに表示される操作手順に従い、据置型の教育用CADを操作。三十センチほどの小さな台車をレールの端から端まで連続で三往復させるものだった。単なる実習用CADの操作に慣れる事を目的としたものだが、オーフェンはここで大体の力量――現代の魔法基準に従ったもの、を判断する。それとこっそり、それぞれの構成の展開を。

 おおよそ構成には個性が反映されるので、この程度の魔法でも、ある程度は見れる。

 今、台車を動かした生徒の展開された魔法式は、若干の歪さがあった。確か、吉田幹比古と言ったか。構成を展開するまで、妙にもたついているようにも見えたが。

 

(CADの扱いに慣れてない……だけじゃないな、これは。構成に余分が過ぎる?)

「あの」

「ん?」

 

 幹比古の構成を思い浮かべながら、その構成を再現しつつ問題点をイメージしていると、声を掛けられた。当人からだ。彼は、眉を寄せてこちらを見ている。

 

「何か、僕の魔法に問題がありましたか? 難しい顔をしていましたが」

「ま、問題と言えば問題だな。最初の授業なんだ、当たり前だろ。それがどうした?」

「いえ……良かったら、お聞きしたいなと」

「悪いが、他の生徒の邪魔になる。後にしろ」

 

 きっぱりと言ってオーフェンは彼は追い返そうとする。しかし、幹比古は顔を歪めていた。納得出来てない訳では無いのだろうが……オーフェンはため息を吐いて、とりあえず言ってやる。

 

「台車を動かすだけにしちゃ構成に余分が見受けられた。こんなもんは、全員同じだがな。お前は特にそれがある。もっと構成を絞れ。これでいいか?」

「え?」

「特別扱いは二度も無いぞ。さっさと戻れ」

「は、はい!」

 

 頷いて足早に幹比古が駆けて行く。その間にも何人かの生徒が台車を動かしていたが、オーフェンはもちろん構成を見ていた。だが、生徒にそんなものが分かる訳では無く、少しの非難の視線を感じる。小さく嘆息し、オーフェンは黙って監督を続ける。次は、千葉エリカの番だった。すうっと息を吸い、一拍置いて、想子の波動が彼女から放たれる。起動式と魔法式を発動する際に、使い切れ無かった余分な想子の光だ。つまり、台車を動かすと言う構成に対して、それだけ余分な想子を出していると言う事でもあるが、一年生ならこんなものだろう。

 展開された魔法式の構成もまずまずだ。台車が走り出し、折り返して戻る。これを三回繰り返して、彼女が小さくガッツポーズを取ったのが見えたが、それは見てないフリをして、オーフェンはエリカの構成を思い浮かべる。少しばかり加速に傾倒した構成だが、悪くは無い。

 ふむと頷き、次の生徒を見て、オーフェンはにやりと笑う。達也だ。彼はいつものポーカーフェイスで、CADを支える脚の高さを調節していた。そして、パネルに掌を押し当て、想子を流す――。

 

(……ん?)

 

 直後、オーフェンが見たのは歪と言う言葉すらおこがましい構成だった。明らかに展開速度が遅い。だが、魔法式自体は一種、異様な程に整い過ぎている。”余分が一切無い程に”。これはどう言う事か。

 

「司波タツヤ、ちょっといいか?」

「……なんでしょう」

 

 台車を戻し終え、戻ろうとする達也を呼び止める。彼は振り向くが、少しばかり身を引いていた。

 警戒されているようにも見える。だが、オーフェンはそれについては何も言わず、聞くべき事を聞く事にした。

 

「お前、今のは本気か?」

「ええ。そうですが、何か?」

「……いや、ならいいんだ。悪かったな――」

 

 そこまで言った所で、オーフェンは試しにとびっきり凶悪な構成、空間爆砕の構成を瞬時に編み上げて見た。すると、達也が右手を上げかけて、すぐに下げる。

 やはりそうだ。今、達也は”魔法式を直接展開し掛けた”。

 

「……ひっかけですか?」

「それが分かるって事は、お前やっぱり俺の構成が見えるんだな」

「…………」

「ま、今のについちゃ黙っといてやる。何らかの事情がありそうだしな」

 

 そう言うと、オーフェンは元の位置に戻った。そして、達也の先程展開仕掛けた魔法式を思い浮かべる。こちらの構成にアドリブで対処しようとした魔法式だ。イメージは「分解」。

 

(……あいつ、俺の構成を分解する魔法式を展開しやがった)

 

 あの一瞬でだ。魔法については、オーフェンが知るものでは無い。だが、やはり彼は何かおかしい。それが良く分かった。端末には今の事は入力せず、続きを生徒に促す。

 そして、それから数十人分の結果を見て、午後の実習は終わりとなった。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第八話(前編)でした。原作のオーフェンサイドみたいなお話しですな。
ちなみに某ハンゾー君ですが、オーフェンのせいでアレな感じになってます。大体分かってくれる筈(オイ)。
次回は放課後のお話し、どうなるかお楽しみにです。では、第八話後編でお会いしましょう。ではではー。

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