ヘルマプロディートスの恋   作:鏡秋雪

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第12話 最初にかけたボタン【コートニー5-2】

 第二六層の主街区の広場に行くと攻略組相手の商人でにぎわっていた。

「リズ。こんばんわ」

 アスナはたくさんのベンダーズ・カーペットが並ぶ通りの中央で足を止めた。

「アスナ!」

 黒のショートヘアの女の子が顔をぱっと輝かせて立ち上がった。年齢は僕とアスナと同じぐらいだろうか。彼女は僕の方を見て固まった。

「あ、紹介するね。今度、血盟騎士団に入ったコートニーさん」

 アスナは僕に手を向けながら紹介し、今度は鍛冶屋の女の子に手をむけた。「わたしの友達のリズベット。鍛冶屋をやってるの」

「よろしく」

 お互いに遠慮がちに小さく頭を下げてあいさつする。

「ちょっと、アスナ。血盟騎士団は強い人だけじゃなくて、美女も集めることにしたの?」

 リズベットが僕の顔をまじまじと見つめながらアスナに尋ねた。

「そんなわけないでしょう。コーはれっきとした攻略組。強いのよ」

 アスナはクスリと笑った。「それよりリズ。前も言ったけど髪の毛染めなよ。絶対そのほうが似合うから」

「いやあ。ピンクはないっしょ。ピンクは」

 リズベットは自分の前髪をつまみながら必死に否定した。

「絶対、似合うのになあ。あ、メンテお願い」

 アスナは腰の細剣と鎧を手渡した。「次にコーの分もよろしくね」

「毎度ー」

 僕はそんなやり取りを聞きながら、リズベットがベンダーズ・カーペットに並べている片手剣を見始めた。

 そうだ。ジークの誕生日も近いし、プレゼントをきっかけにしてちゃんと謝る事にしよう。

 僕は一つ一つ手に取って、値段と性能を見比べた。

「ジークリードさんにプレゼント?」

 耳元でアスナが囁いたので僕は飛び上がった。

「あ、いえ。そうです」

「どっちよ」

 アスナはクスクスと笑いながら僕の肩をつついた。

「来月、ジークの誕生日なんですよ」

「そうなんだ」

 何か言いたそうな微妙な笑顔でアスナは僕を見つめた。

「うん」

 どれも今一つだ。せっかくなら長く使ってもらえるような武器にしたい。最後の一つを見て、僕はため息をついた。

「リズ。他に秘蔵の武器なんかあったりしない?」

 そんな僕の様子を見かねてアスナはリズベットに尋ねた。

「んー。今はそれしかないんだよね」

 リズベットはアスナの武具をメンテしながら言った。「あのさ。二三層のフィールドに準レアのインゴットを出すモンスターがいるらしいのよ。五〇個持ってきてくれたら、あなたの気に入ったのができるまでタダで作るわ。どう?」

 リズベットはメンテが終わった武具をアスナに返すと僕に首を傾げて提案してきた。

 僕にとっては無料で作ってくれるし、五〇回やれば一つぐらいいい出来の物ができる筈だ。リズベットにとってはスキル上げもできるし、僕が気に入らなかった武器は売ればいい。ギブアンドテイクだ。

「へー。それってどれぐらいの確率で手に入るの?」

 アスナが首を傾げながら聞き返すと、リズベットはメインメニューを操作してメッセージを僕とアスナに送ってきた。

「それ、情報屋の情報。場所とかモンスターとか書いてあるよ」

「どれどれ」

 アスナはそのメッセージを速読する。「悪くないけど、もうちょっと数減らしてもらえない? わたしもやるからさ、二人で七五個とかどう?」

「えー。八〇個で」

 リズベットは眉を八の字にしてアスナに食い下がった。

「九〇個で盾も作ってくれませんか?」

 さらに僕が提案すると、二人が『え?』という顔で僕を見た。

「じゃ、それで」

 リズベットはニコリとして頷いた。「じゃあ、あなたの装備もメンテしましょ」

「お願いします」

 僕はニコリと笑って槍と鎧と200コルを渡した。

 

 

 

 その日から僕とアスナはレベル上げを中止して第二三層で準レアインゴット集めに行くことになった。

 獲得率はあのリトルネペントの胚珠よりかなり高い。だが、それでも二人で九〇個という数をそろえるのはなかなか辛かった。

 目標の九〇個がそろわないうちに第二六層のマッピングが終了した。

 五つの攻略ギルドは会議を行い、合同でボス部屋に二〇人規模の偵察隊を送り込むことになった。血盟騎士団の割り当て人数は四人。そのメンバー選出のために、ギルドハウスに血盟騎士団全員が集まった。

 あの第二五層の次のボスという事でみんな躊躇していた。第二五層のボスはほぼ二撃で攻略組を葬る力を持っていたから次の第二六層のボスは一撃で攻略組を葬る力があるかもしれない。そう考えると恐ろしい。横並びの日本人らしく、誰も偵察部隊への立候補しなかった。

「公平にくじ引きしまひょか」

 ダイゼンが全員を見渡しながら言った。

「ルーレットにしようぜ。上位四人が参加ってことで」

 セルバンテスが言うと、みんなが頷いた。そして、メインメニューの操作を始める。

 ルーレットはレアアイテムの分配やちょっとした賭けの時に使う。スタートと押すと一から百までの数字がランダムに表示されストップを押すと確定されるという単純なものだ。ごまかしがきかないように確定された数字は見える範囲にいる人のシステムログに記録される仕組みになっている。

 ダイゼンを除くメンバー全員がルーレットを回し、室内にメニューを操作する電子音が響いた。

 その結果、上位四人はマリオ、ジークリード、セルバンテスそして僕の順番だった。

(あー。今日明日でインゴットを集めたかったのになあ。これじゃ、ジークのプレゼントはボス攻略後かな)

 と、考えていたら、アスナが立ち上がって話し始めた。

「やっぱり、ギルドを指揮する者が一人も入っていないのはまずいわ。わたしがコートニーさんと代わります」

 副団長命令です。とは言わなかったけれど、力強いその言葉にみんなは頷くしかなかった。

 アスナは僕にインゴット集めの時間を与えようとしてくれているのだ。その気持ちがとてもありがたく嬉しかった。

 アスナと視線が合うと、彼女は口元をほころばせた。僕もアスナの気持ちが嬉しくて声には出さず『ありがとう』と口の形で気持ちを伝えた。

「では、マリオ、ジークリード、セルバンテスは明日九時にここに集合。他のメンバーはボス戦に備えてオフとする。以上」

 アスナは周囲を見渡して指示を出すと、全員が立ち上がり一斉に敬礼した。

 みんな敬礼が終わると雑談をしながらギルドハウスから次々と出て行った。

「アスナ」

 僕は立ち上がって、アスナの所に走って彼女の手を取った。「ありがとう。ごめんね。気を遣わせちゃって」

「いいのよ。今日と明日、手伝えないけど大丈夫だよね」

 アスナもにっこり笑った。

「もちろん!」

「お話し中すまん」

 割り込んできたのは斧戦士のゴドフリーだった。なにやらとても深刻そうな表情を見せている。

「どうしたの? ゴドフリー」

 その表情にアスナは真剣に向き合った。

「コートニーさん。ジークリードの奴をいい加減許してやってくれないか?」

 ゴドフリーはすがるような瞳で僕に語りかけた。

「え? 許すも何も……」

 もう、僕の中では許すを通り過ぎて、謝るタイミングを計っているところなのにゴドフリーは何を言っているのだろう。

「だって、ぜんぜんあいつとしゃべってないだろう?」

「それは、パーティーも違うし、夜はアスナと一緒にレベル上げしてるし……話すチャンスが。彼の事を許すっていうか、僕の方から謝ろうとは思ってるんだけど、きっかけがなくて」

 僕はしどろもどろになりながら言った。ゴドフリーに言いたいことはちゃんと伝わっただろうか?

「よくわからんが、あいつの事を許しているんだよな。できれば今すぐにそれを伝えてやってくれないか?」

「ええ? 今すぐ?」

 それは、ちょっと心とプレゼントの準備ができないよ。僕はおろおろとしてしまう。

「待って、ゴドフリー」

 そんな僕を見かねたのか、アスナが間に入ってきた。「どうして、そこまであなたが口を出すの? ジークリードさんはどういう状態なの?」

「あいつ、突っ込みすぎるんだ。戦闘が始まるとひたすらぶつかって行って……」

「あーそれは昔からの癖で……」

 僕はゴドフリーの言葉をさえぎって言った。ジークはベータテストの時と変わってないなって思ってクスリと笑った。

「笑い事じゃない!」

 ゴドフリーは窓がびりびりと震えるほどの大音響で叫んだ。「このままだとジークリードは死ぬぞ。コートニーさん。あんたはそれでいいのか!」

「そんな……でも、ジークが突っ込んでいくのは昔からの癖で、ちゃんとヒットポイントを見てあげて指示をしてあげれば……」

 ゴドフリーの大声と『ジークリードは死ぬ』というキーワードで僕の声は震え、思わず目から涙があふれ出した。

「あんなの癖とかじゃねぇ。あいつは死を恐れていない。いや、もしかすると死ぬことを望んでいるかも知れない。あいつの生きる理由をあんたが作ってやらねえと……。このあいだのボス戦の時と明らかに動きが違う。今のあいつは死を恐れぬバーサーカーだ」

 激しい口調でゴドフリーは僕に迫ってきた。

「ゴドフリー。あなたの言いたいことは分かったわ」

 アスナが僕の肩を優しく抱いて言葉を続けた。「ジークリードさんの件は明日のボス偵察で実際にわたしが見て判断します。それでいいかしら?」

「ああ。俺の杞憂ならいいんだがな。とにかく、しっかりフォローしてやってくれ」

「分かったわ」

「すまん。コートニーさん。言葉がきつくなってしまった」

 ゴドフリーは深々と頭を下げた。

「いえ。ちょっとびっくりしただけです。ごめんなさい。泣いちゃって」

 僕は涙をぬぐいながらはっきりとゴドフリーに返事をした。「大丈夫です」

 ゴドフリーは頷いてギルドハウスから出て行った。

「コー。安心して。ジークリードさんはわたしが絶対守るから」

 アスナはしっかりと僕の肩を抱いて耳元で囁いた。

「うん。ごめんなさい」

「謝らなくていいのよ。コーはとにかくインゴットを集める事に集中して。彼の事を考えながら戦っちゃだめよ。フィールドで集中力が欠けると危ないからね」

「ありがとう」

「気持ちをしっかり持ってね」

 アスナは僕を安心させようと笑顔で頭を撫でてくれた。

「うん」

 アスナの気持ちを無にしないためにもしっかりしなきゃいけない。何としても明日中にインゴットを集めなければ。そうすれば、プレゼントをきっかけにしてジークと和解して全てがうまくいく。僕はそう考えた。

 

 

 

 次の日。僕は朝からインゴット集めに時間を費やした。

 休憩をはさみながらひたすら準レアインゴットを落とすモンスターを狩り続けた。

 一六時ごろ、索敵スキルに人の反応があった。ギルドメニューで確認するとアスナが同じフィールドにいる事が分かった。おそらく、この反応はアスナだろう。

「コー」

 五分もしないうちに思った通り、アスナが現れた。だが、その表情はとても硬かった。

 まさか……。僕はギルドメニューでジークリードの生死を確認した。

(よかった。生きてる)

 僕は胸をなでおろした。ジークは第二六層の宿屋にいるらしい。

「すぐに転移結晶でタフトに行きましょう。今、リズはそこで修行してるらしいの」

「でも、インゴットは三〇ぐらい足りないです」

「わたしの剣は後回しでいいわ。手持ちのインゴットでコーの注文をやってもらいましょう」

「でも、そんなのアスナに申し訳ないよ」

「わたしのは後でいいから。今はジークリードさんの事を考えて。詳しい事はタフトで話すわ」

 アスナは厳しい表情のまま転移結晶を取り出した。僕も頷いて転移結晶を取り出した。

「「転移! タフト」」

 僕たちの周りの風景が光に溶けていき、やがて見慣れたタフトの転移門の風景に変わった。

 タフトのNPCの鍛冶屋で修行していたリズベットに僕たちはインゴットを渡した。

「アスナ。62個しかないじゃない? どういうつもりなの?」

 からかうような目つきでリズベットはアスナの顔を覗き込んだ。

「ごめん。リズ。まず、コーの分、片手剣と盾をそれで作ってくれないかな」

 アスナは真剣な表情でリズベッドに答えた。

「うん。分かった」

 リズベットはその真剣な表情に息をのんで表情を引き締め頷いた。「三〇分ぐらい待ってて」

「ごめんね。急に頼んで」

「いいよいいよ。アスナの頼みならなんでも聞いちゃうよ!」

 リズベットは笑顔で腕まくりをしてインゴットを炉に放り込んだ。

「じゃ、わたしたちは宿屋にいるから何かあったらメッセージちょうだい」

「え? 宿屋? まだ四時だよ?」

 リズベッドは目を丸くして聞き返してきた。

「ちょっと、他の人には聞かれたくない話だから。ごめんね」

 アスナは両手を合わせてリズベットに謝罪した。「じゃ、行きましょ」

「うん」

 僕たちはシングルルームをとって中に入った。

 アスナはジークの何を語るのだろう。僕は緊張しながらアスナが指し示したソファーに腰かけた。

「まず、昨日ゴドフリーが言ってたのは本当だった。ジークリードさんの行動は異常だわ。できるだけ早くコーはジークリードさんと話をした方がいい」

 アスナは僕の左隣に座って静かに言った。

 そして、アスナはボス偵察でのジークの行動について話し始めた。

 アスナが止めたのにいきなり聖竜連合のレンバーとデュエルした事。

 そのデュエルの後、レンバーのギルド移籍に心を動かされているようだったという事。

 ボス偵察の時、アスナの指示に従わずひたすら攻撃を続け、マリオの機転によって命が救われた事。

 その後、アスナたちを置いて勝手に帰ってしまった事。

 僕はどれも信じられなかった。

 ジークのイメージは真面目で紳士で柔軟で思慮深くて、男の中の男という感じなのだ。それが、勝手にデュエルを受けるという軽挙、ギルド移籍に心を動かされるという不誠実、ボス戦闘での周りの指示に従わないという頑なさ、ボス戦の途中で帰ってしまうという不真面目さ。どれもジークらしくない。僕が知っているジークじゃない。

「信じられない……」

 僕は心の中に渦巻く戸惑いをそう表現するしかなかった。

「プライベートな事を聞いてごめんね。コーはあれからずっとジークリードさんと話をしてないの?」

「うん……昨日ゴドフリーさんにも言ったけど、パーティーも違ったし夜はアスナと一緒にいたし」

「わたしのせいだね。きっかけはきっと……」

 アスナはうつむいて床を見つめた。

「アスナは悪くない。僕とジークが悪いんです。ちゃんと向かい合わなかったから。僕だってすぐに謝ればよかったのに、ジークだって苦しいなら……あ……」

 その時、僕は先日見つけた心の小石を思い出した。

「どうしたの?」

「ジークは僕に話せなかったのかもしれない」

「どういうこと?」

「ジークが同じことを考えてるか分からないんですけど」

 僕はそう前置きをして、隣に座るアスナの顔を見た。「僕、アスナさんとレベル上げをしててすごい申し訳ない気持ちでいっぱいなんです」

「え?」

 なんでそんな話が出るんだろう? そんな表情でアスナは首を傾けて視線を合わせてきた。

「だって、僕がいなければもっと効率よくレベル上げできるじゃないですか」

「ううん。わたしはコーが強くなってくれるのが嬉しいし、自分のレベル上げだってそんなに遅れてるとは思わないわ」

 アスナは首を振って僕の言葉を否定した。

「そうです。その言葉を僕はジークに言わなくちゃいけなかったんです。それなのに僕は……」

 僕は視線を落とした。でも、今からでも遅くないはずだ。「ジークにメッセージを送ります」

「うん。そうしてあげて」

 アスナは頷いて微笑んだ。

 僕はショートメッセージをジークに送ろうとメインメニューを呼び出してキーボードを叩いた。

 謝罪の言葉と今日会って話をしたいという気持ちを文章にしてメッセージを送った。が、すぐにエラー表示が目の前に広がった。

「は?」

 僕は絶句した。

「どうしたの?」

 アスナはエラー表示を見て首をかしげた。

「僕……ジークをブロックリストに入れたままだった……」

「ええええええ? いつから? コー。なんでジークリードさんをブロックリストなんかに入れてたの?」

 アスナが驚愕の表情で声を上げた。

 僕はなんてことをしていたんだ。もしかしたらジークはいろいろ話しかけようとしていたかもしれないのに、僕はそれを無視し続けていたことになる。

 ジークはこの事でどれだけ苦しんだことだろう。そう考えると全身に震えが走った。

「とにかく、ブロックリストから外さなきゃ」

 僕は震える指でジークリードをブロックリストから外した。

 そして、先ほどエラーになってしまったメッセージを再び打ち直す。今更、なんと言って謝罪すればいいのだろう。なかなか文章が思い浮かばない。そのうちにシステムメッセージが届いた。

 

【Siegridさんのブロックリストに登録されました。今後、Siegridさんとの会話は全てブロックされます。これを解除するには…………】

 

 僕は呆然としてこのメッセージを眺めた。心の中が空っぽになって涙があふれてきた。

 これは罰だ。ジークを放っておいて、アスナと一緒に楽しくレベル上げをしていた罰だ。

 僕はまるで聖書に出てくる放蕩息子だ。帰るべき場所を捨てて楽しい場所で遊びほうけているうちにすべてを失おうとしている。聖書の放蕩息子は無事に帰れたが、僕はどうしたらジークに許してもらえるのだろうか?

「どうしたの? コー」

 涙を流して固まった僕に驚いて、アスナは僕の肩を揺さぶりながら聞いてきた。

「どうしよう、アスナ……ジークのブロックリストに入れられちゃった」

 僕は感情を抑える事が出来なくなって子供のように泣き始めた。

「コー、落ち着いて」

 アスナは僕の肩を抱いて、落ち着かせようと頭を撫でてくれた。突然、その手が止まった。「うそ……」

「アスナ?」

「落ち着いて聞いて、たった今、ジークリードさんから血盟騎士団の脱退申請がきたわ」

 もう、おしまいだ。ジークは僕との絆をすべて切り捨てようとしている。血盟騎士団を脱退したら彼の場所をモニターする手段がなくなる。アインクラッドは広い。そんな状態で隠れられたら二度と見つけ出す事は出来ないだろう。

 そうなってはせっかく、リズベットに片手剣と盾を作ってもらってるのに渡すどころか会う事も出来ないし、会ったとしても言葉を交わせないのだ。

 ジークが張り巡らせた拒絶の壁の厚さと高さに僕は絶望した。絶望が深すぎて涙が止まった。

「ちょっと、メッセージを打たせて」

 アスナはメインメニューからキーボードを呼び出してメッセージを打ちはじめた。「団長にこの脱退申請を承認しないようにお願いする。あの人、去る者は追わない主義だから釘を刺しておかないと」

 アスナはしばらくヒースクリフとメッセージのやり取りをしていた。

 こんな事になるなんて、どこで間違えてしまったのだろう。多分最初は些細な事。僕がジークの頬を叩いた事。ジークが僕にちゃんと想いを伝えてくれなかった事。すぐに謝れば、話し合えばここまで絶望的な状態にならなかったのに。放っておいたのは僕の罪。ブロックリストに入れっぱなしで忘れた僕の罪。

 ジークが僕から去るというのは彼が死ぬ事以上に心に堪える。

 ああ、そうか。僕がブロックリストに入れていた間、ジークはこんな思いで僕を見ていたんだ。僕がジークを捨ててアスナと一緒に強くなる道を選んだと思って……。

 僕はジークが死を恐れないバーサーカーになった理由が分かったような気がした。

「コー。大丈夫?」

 アスナは呆然としていた僕の肩を叩いた。

「なんか、ジークの気持ちが分かっちゃった。死にたくなっちゃった……」

「しっかりして。まだ、間に合うわ。このまま終わっちゃっていいの?」

「でも……」

「コーは一週間前のコーじゃないわ」

 アスナは僕の頬を優しく両手で包んで優しい瞳で見つめてくる。「一週間前のコーだったら、ジークリードさんの気持ちとか絶望感を知る事が出来なかった。でも、今は違う。ちゃんと理解できてる。ジークリードさんの心に寄り添って話し合えるわ」

「でも、僕はブロックリストに入れられて」

「それはわたしが解除させる。今、ジークリードさんに『脱退を認めてほしかったら、十七時にギルドハウスの裏庭に来なさい』ってメッセージを送ったわ。そこでブロックリストから外してもらう。もし、来なくても明日の二四時まではウチの団員だからどこにいるか分かるわ。わたしがそこに行って絶対ブロックリストから外してもらう。このままお別れなんて辛すぎるよ。コーの気持ちをちゃんとジークリードさんにぶつけなきゃ」

 そうだ、もう一度やってみよう。チャレンジしてみよう。

 アスナの言葉で力が甦ってきた。

 ああ、アスナってすごいな、かっこいいなって思った。容姿だけじゃなくて、強くて、頭もよくて、こんな励ましまでできてしまう。本当に欠点なんて何もない。

「ありがとう。アスナ。僕、がんばってみる」

「がんばれ。コー」 

 アスナは僕の両頬を温めていた手をほどいて僕をぎゅっと抱きしめた。

「うん」

 僕はアスナを抱きしめた。アスナの力と勇気を分けてもらえたような気がした。

 なんだか、自分が男であることを忘れてしまう。アスナが親友でジークが恋人。もうこれでいいのかもしれない。

 

 

 

 三〇分経ったので、僕とアスナはリズベットの所に向かった。

「あ。すみません、先約があるんで~」

 リズベットが男性剣士に深々と頭を下げてからこちらに走ってきた。

「すみません。商売の邪魔しちゃって」

 僕がそう謝るとリズベットは明るい笑顔で手を振った。

「いーのいーの。これだって商売だよ!」 

 リズベットはメインメニューを操作して片手剣と盾を実体化させた。「結構いいのができたよ。片手剣は≪ゴライアスソード≫武器防御スキル補正が+100もあるよ。盾は≪マゲン・ダビド≫こっちは盾スキル補正が+50ある。なんか不思議でさー。別々に作ったのにセットみたいな感じがするの」

 ≪ゴライアスソード≫は柄の部分に六芒星が掘りこまれており、かなり幅広の剣だ。結構な筋力要求値だが、血盟騎士団のレべリングノルマを考えるとジークは装備できると思われた。≪マゲン・ダビド≫は見かけはヒーターシールドだが、これもまた中央に六芒星が描かれていた。確かにリズベットが言うように並べてみると違和感がなくセットのように見えた。

「≪ゴライアスソード≫と≪マゲン・ダビド≫……」

 僕は受け取った二つの武具を抱きしめた。「神様……ありがとうございます」

「どうしたの? コー」

 不思議そうにアスナが尋ねてきた。

「ゴライアスっていうのはゴリアテの事。マゲン・ダビドは≪ダビデの盾≫」

「ダビデって聞いたことあるようなないような。なんだっけ?」

 リズベットが首をかしげた。

「旧約聖書に出てくる英雄ね。ダビデは侵略者のゴリアテを倒してその剣を自分の武器にしたの。なるほど、確かにこれはセットね」

 アスナが僕の代わりにリズベットに答えた。

「ゴリアテを倒した武器はスリング……」

 僕が補足すると、アスナが「あ」と声を上げてから頷いた。

 そう、僕の主力武器はスリング。人は単なる偶然だと笑うだろう。でも、僕はこれだけの事でとても勇気づけられた。そして、この剣と盾をジークにずっと使ってほしいと心から願った。

「リズベットさん、素晴らしい武器をありがとう」

 僕は深々と頭を下げた。

「ううん。あたしもコートニーさんの顔見たらすごい幸せな気持ちになった。ありがとう」

 リズベットは僕の両手を取ってにっこりと微笑んだ。僕はその笑顔にまた力と勇気を分けてもらった気がした。

 ああ、確かにアスナが言うように彼女にはピンクの髪が似合うかも。リズベットの明るい笑顔を見て僕はそう思った。

 

 

 

 約束の一七時までまだ時間があったので、僕とアスナはギルドハウスで待つ事にした。ギルドハウスの窓際のソファーに二人で腰かけ、無言で外を見ていた。

 沈黙の間に時が流れ、約束の五分前になった。否応なしに僕の緊張感が高まってきた。

「あのね」

 アスナがはにかみながら言った。「今だから、ぶっちゃけちゃうけど。最初に会った時、わたし、コーが大嫌いだった」

「うん……。僕もアスナって嫌な奴って思ってたよ」

 僕はその時の感情を思い出してクスリと笑った。今は全然違う。なにもかも大好きだ。「お互い様だね」

「うん。あの初日の見張りの時ね、ジークリードさんが言ったの『コーを頼みます。強くしてください』って。そう言われなければ、スキル上げしてた時にコーを追い返していたと思う」

「ああ……あの時、アスナの態度が微妙だったのはそういう事だったんだ」

「お互い嫌ってたわたしたちがこんなに仲良くなれるんだもの。元々いい関係だったコーとジークリードさんもきっと元通りになれるよ」

 アスナはそう言って、僕の長い髪を手ですいた。

「うん」

「もしね。ジークリードさんが『血盟騎士団か俺を選べ』って言ってきたら、彼の方を選んでいいからね」

 アスナはしばらく、僕の髪をもてあそんだあと、静かに言った。

「でも……」

「間違えちゃだめよ。わたしはジークリードさんの代わりにはなれないのよ。一番大切なものを見失わないでね」

 アスナは僕の髪から手を放してメインメニューを操作した。「フレンド登録しましょ」

「うん」

 同じギルドに所属していればフレンド登録する意味はない。ギルドの機能はフレンド機能の上位互換だからだ。フレンド登録すれば血盟騎士団を抜けてもアスナとの絆は残る。少しでも僕の選択肢を広げてあげようというアスナの心遣いが心にしみた。

「そろそろ、いこっか」

「はい」

 僕たちは立ち上がってギルドハウスを出た。勝負の時だ。 

 

 

 

 裏庭と呼ばれる公園のベンチに人影があった。ジークだ。

 血盟騎士団の制服ではなく、以前着ていた普段着を身に着けていた。夕日に照らされているためだろうか、ジークがとても遠い存在に見えた。

 僕たちの足音に気づいてジークは立ち上がって振り返った。そして、僕たちを睨みつけたあと、視線を逸らした。

 それだけで、僕の心に亀裂が走った。もう、僕たちは修復不可能な状態なのだろうか。

「ジークリードさん。まず、コーをブロックリストから外してくれないかしら」

 アスナが凛然たる態度で言った。

 それに対してジークは不承不承メインメニューを操作した。間もなく、僕にシステムメッセージが届いた。

 

【Siegridさんのブロックリストから解除されました。今後、Siegridさんと会話ができるようになります】

 

 アスナが目で僕に確認してきた。僕が頷くとアスナはジークに視線を戻した。

「ジークリードさん。脱退申請は了解しました。ただ、私も団長も許可するつもりはありません。個人的には取り下げてくれることを希望します。以上」

 え? それだけ? と思ったが、あとは僕とジークの問題なのだ。アスナがジークにどんなに言葉を尽くしても、僕の一言の方がジークにとって重い事を理解してるのだ。

 そして、アスナに優しく背中を押された。

「がんばれ。コー」

 アスナはそれだけを言うと振りかえってギルドハウスへ歩いて行った。

「はい」

 僕は覚悟を決めてジークの前へ歩いていった。

 とても長い距離だった。地面を踏みしめるたびに緊張が高まり頭の中が白くなっていく。

「ジーク……」

 一週間前の時のように僕はジークを見上げる。返事がない。ジークの表情は硬く、僕は今更ながら一週間の空白の大きさを実感した。

(話のきっかけ……きっかけ。そうだ、プレゼントで)

 僕はメインメニューからジークにトレードを申し込んだ。≪ゴライアスソード≫と≪マゲン・ダビド≫をトレード画面に表示させた。

「ちょっと早いけど、ジークの誕生日プレゼント。これで明日のボス戦を……」

 僕は最後までその言葉を言わせてもらえなかった。ジークが左手でトレードをキャンセルしたからだ。また、僕の心の亀裂が広がった。もう、ばらばらに砕けてしまいそうだった。

「ボス戦には行かない。だからそれはいらない。他の人にあげてくれ」

 ジークは僕に背を向けて歩き出した。

「ジーク。待って!」

 僕は夢中でジークを後ろから抱きしめた。

「離して。コートニー」

 『コー』ではなく『コートニー』と呼ばれた事で僕の心は完全に砕けた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 僕は息の続く限り謝罪の言葉を続けた。最後には涙声になっていた。「信じてくれないかもしれないけど、ずっとブロックリストにいれるつもりはなかったんだ」

「いいんだ。もう……」

 ジークの言葉はまだ冷たかった。

「僕、ジークのいう事を何でも聞く。だから、一緒にいて。お願いします!」

 僕は自分の思いをぶつけた。どんなに醜い見苦しいと思われても、もうジークにすがる事しか思いつかなかった。「強くなれっていうなら強くなる。血盟騎士団をやめろっていうならやめる。聖竜連合に行くのならついて行く。何でもいう事を聞くから……僕の帰る場所を……僕の居場所を残してください」

「コートニー。顔を見せて」

 ジークが僕の腕を優しく撫でた。

「うん」

 僕は腕をほどいてジークの前に立ち、彼の顔を見つめた。まだ、表情は硬い。けれど完全拒絶ではなく、話は聞いてくれそうだ。「いっぱい。いっぱい、お話しよう。ジークが考えている事。僕が考えてる事。この一週間の事……」

 僕はまたすべての言葉を口にすることはできなかった。ジークの表情が一瞬で野獣のように変わり、あっと思った時には僕はジークに唇を奪われていた。

 目の前にハラスメントコードの赤いウィンドウが広がった。

 あわててジークを振り払った。

「ちょっと、ジーク、やめて」

 声を上げたがジークが僕の腕をねじ上げ再び唇を重ねてきた。

 男同士だというのに意外と嫌な感じはしない。むしろ、気持ちがいい。もう、僕の心はコートニーという女性に変わってきているのかも知れない。頭も体も熱くなって全身の力が抜けて行く。

 何でもいう事を聞くと言ってしまったのだし、このままジークに身を委ねてもいいかもしれない。

 

(だめだ!)

 

 僕とジークはここを出発点にしちゃいけない。お互いの想いが歪んでしまう。今回の仲たがいはお互いの気持ちのすれ違いが原因だ。

 最初にボタンを掛け違えて気づかずに服を着てしまった時のように最初で気付いて直せばこれほどの大事にならなかったのだ。

 お互いの気持ちがはっきりしない状態でキスから再び関係を始めていくのはよくない。このままだと歪んだ関係になってしまう。

 僕たちは一週間前の時点からやり直すべきだ。もう一度最初のボタンから掛け直すんだ。

 僕は両手の自由を奪われていたので、まばたきで≪引き離す≫をクリックしてハラスメントコードを発動させた。

「バンッ!」

 大きな音が耳を叩き、目を開けるとジークはモンスターに殴り飛ばされたように地面を転がって行った。

「ごめん、ジーク。大丈夫?」

 僕はあわててジークのもとに駆け寄って、隣に座った。

「コーはいつも私の事を紳士だって言ってくれたけど、私なんてこんなもんだよ」

 ジークは自分を恥じて顔を両手で覆った。

「いいよ。僕はちょっと安心した」

 ジークが紳士な態度を破ってきたのは驚きだけど、それだけ本心をぶつけてきてくれたのだと思う。僕はこんな男女だけれどジークに求められているというのは嬉しかった。

「え?」

 きょとんとした顔でジークは僕の顔を見た。

「男の子が好きな女の子を襲いたくなるのは普通でしょ?」

 僕はジークに安心してほしくて微笑みかけた。「でも、ああいうのはちょっと……。嫌じゃないけど、今はお話がしたい」

「嫌じゃないんだ」

 おい、今、そこは突っ込むところじゃないだろって思ったけど、それがかえって僕の心にふんわりとした温かい風を吹き込んでくれた。

「ナイスツッコミ」

 僕はクスリと笑いながらジークの頭を優しく抱きしめた。少しだけ、一週間前の関係を取り戻せたような気がする。最初のボタンを掛け違えてしまった場所からもう一度やり直そう。「ねえ。二六層の塔に行こう」

 僕は腕をほどいてジークの頬の涙をぬぐいながら視線を合わせた。

「塔?」

「うん。ジークとレンバーさんが話し合った場所。あそこから全部始まってるんでしょ? あそこからやり直そう」

 僕は立ち上がり、ジークの手を取って立ち上がらせた。

「うん」

 僕たちは第二六層の鐘楼へ向かった。

 

 

 

 第二六層の鐘楼の頂上にたどり着くまで僕たちは無言のままだった。

 僕は以前のようにジークの左腕を掴みながら一緒に一歩一歩塔を登った。なんだか、階段を一つ上がるごとに一週間前に戻れる気がして胸がわくわくした。

 天辺にたどり着くと、夕日に照らされオレンジ色に輝く幻想的な街並みが飛び込んできた。

「すごい! 綺麗!」

 僕は夢中になって鐘楼を一回りして茜色に染まる景色を目に焼き付けた。

 そして、風景を眺めに来たわけでない事を思い出して、あわててジークの所に駆け寄った。

「ごめん。つい、夢中になっちゃった」

「いいよ」

 ジークの優しい微笑みが戻ってきた。僕の心がじんわりと温められた。

「聞かせて。レンバーさんがジークに何を言ったか。そして、ジークがどう考えたか」

 僕はもう一歩ジークに近づいてその顔を見つめた。

「うん」

 ジークはレンバーから『コートニーを縛り付けるな』『コートニーはもっと強くなってみんなの希望になるべきだ』と言われた事を話してくれた。

 そして、そのために僕がジークを見捨てて強くなればいいと思っていた事を話した。

 レンバーの言葉はまったく意外だったけれど、その後のジークの考えは理解できた。アスナが言った通り、今の僕だから理解できたのかもしれない。一週間前の自分だったらジークの想いを否定するだけで、彼の心に寄り添って考える事が出来なかったかもしれない。

 僕は僕の想いを伝えよう。ジークが許してくれるかは分からないけれど、言葉にして伝えなければ前に進めない。

「僕はジークと一緒にいたい。これが第一条件。他は何にも譲れない」

 僕は緊張しながら静かに言った。「でも、ジークのために何でもするよ。強くなるよ。レンバーさんが文句を言えないくらいに僕は強くなるよ。みんなから、『コートニーすげえ』って言われるように頑張るよ。だから、一緒にいてもいいですか?」

「うれしいけど、私はずっとコーを騙してるんだ。実は……」

 僕の頭に嫌な予感が走った。何かジークの口から絶望的な事が伝えられそうで僕はとっさにジークの両手を掴んで叫んだ。

「ストップ! それ、言っちゃったら僕はどうなっちゃう? この関係が終わっちゃう?」

「終わっちゃうと思う」

「じゃあ、言わないで」

「え?」

「言ったでしょ。僕はジークと一緒にいるのが第一条件! それにひどい事、ジークを騙すような事は僕もやってるよ。だからジークも僕が見えない所、感知できない所で僕を騙してもいい」

 そうだ。僕はこの偽物のアバターでジークの心を弄んでいる。僕の本当の姿を知ったら、彼は僕の前から消えてしまうだろう。そんなのは嫌だ。この先、地獄に落ちるとしても僕はジークを手放したくない。

「そんな軽い物じゃなくって、もっと根本的な……」

 苦しそうにジークが訴える。けれど、僕の気持ちは変わらない。ジークと一緒にいたい。これだけは譲れない。だから、笑顔で言った。

「この関係が壊れる事なら聞きたくない。この関係が壊れるから僕もこの思いは言わない」

「なんか、仮面夫婦みたい」

 ぽつりとジークが言った。

「えー違うよ。だって僕にとってジークは一番だし……。ジークは?」

「私にとってコーが一番だよ」

「じゃあ、いいじゃない。ここが僕たちの出発点。お互いがお互いを一番大切に思ってる。一緒にいたいと思ってる。全部、ここから考えよ」

 ジークの『コーが一番』という言葉が嬉しかった。嬉しくてにやける自分が抑えきれない。そう、ここからならやり直せる。僕はジークの首に腕を回してじっと見つめた。「――だから、キスしようぜ」

 つい、男言葉が出てしまった。やばいと思ってジークを見たがそんな事は気にしていないようだった。僕は安心して目を閉じてジークにすべてを委ねた。

 心臓が早鐘のように脈打ち、全身を締め付けてきた。僕は大好きな相手の唇を待った。

「ゴーン! ゴーン!」

 その瞬間、大音響で僕たちの身体が震えた。一八時の鐘だ。驚いて目を開けると、目の前でジークは目を丸くして揺れる鐘を見つめていた。

 僕はその間の抜けた表情が可笑しくてお腹を押さえて笑った。せっかくのシリアスシーンだったのに台無しだ。笑い続ける僕をジークは戸惑いの表情で見つめていた。

 鐘の音は非常に大きく、大笑いしているのに自分の笑い声も聞こえなかった。

 むくむくといたずら心が湧いてきた。今、秘密を言っちゃおう。

「僕ねー! 本当は男なんだ! ごめんね! でも、ジークが大好きだよ!」

 僕の大声の告白は鐘の音に消し去られた。言ってとてもすっきりした。こんなの懺悔にもならないけど、なんだか心が軽くなった。

「何を言ってたの?」

 鐘が六回鳴って鳴りやんだ時、ジークが聞いてきた。

「ジークとの関係が壊れる秘密」

 僕はクスリと笑ってにっこりと笑顔を作った。「言葉にして言ったらなんかすごいすっきりした!」

「なんだか、ずるい!」

 ジークは心底悔しそうに言った。

「あ、そうだ」

 僕はジークに先ほど受け取ってもらえなかった≪ゴライアスソード≫と≪マゲン・ダビド≫をトレードメニューにのせて頭を下げた。「さっき言ってた誕生日プレゼント。受け取ってください」

「ありがとう」

 ジークは笑顔で受け取ってくれた。僕はほっとして少し力が抜けた。

「装備してみて。準レアのインゴットを使って鍛冶屋さんに作ってもらったんだよ。すごいでしょ、武器防御のスキル補正が+100もあるんだよ」

「あれ?」

「どうしたの?」

 ジークはマゲン・ダビドを装備したけれどなかなかゴライアスソードを装備しようとしない。いったいどうしたのだろう?

「筋力値が足りない。たった3だけど」

「ええええええええ! レベルアップパラメータの振り方変えたの?」

「ゴドフリーに言われて、ちょっと敏捷度に振ったんだ」

 つい一週間前まではジークの全てを知っていたのに……。この一週間の空白はとても大きいものだったのだと改めて痛感した。

「レベル上げに行こう! 今から行けば明日に間に合うから」

 けれど、やり直せる。ここからならいくらでも!

 僕はジークの腕を引っ張った。

「ええ? でもこの間上がったばかりだし」

「アスナにいいポイントを教えてもらってるから大丈夫! いこいこ。ダンジョンデート! 血盟騎士団の制服も着てよ! ほらほら」

 ぶつぶつ言うジークの左手を掴んで僕は階段を降りはじめた。

 そうだ、アスナに『ありがとう。大丈夫だったよ』ってメッセージを送っておかなくっちゃ。

 本当にアスナには色々と助けてもらった。

 これからアスナをお手本にしよう。まずは身のこなしとかファッションとか。きっとジークもその方が喜んでくれる。このアインクラッドという牢獄にいる間、僕はジークのために素敵な女の子でいよう。

 この先どんな運命が待ち受けているか分からない。だから全力で走っていこう。ジークと一緒に!

 ジークが強く僕の右手を握ってくれた。僕は微笑みながらその手を握り返した。

 この手はもう絶対離さない。僕たちの関係の最初のボタンがしっかりとかけられた。




戦闘シーン。今回も手抜きです。全く書いていません。人間ドラマを(ry

キマシタワー アスナ×コートニー いえいえ、男女です。
┌(┌^o^)┐ホモォ ジークリード×コートニー いえいえ、男女です。
もう、書いている本人がわからなくなってきました。

ネカマ宣言をしてしまったコートニーさん。現実に帰った時に苦労するぞぉ。まあ、いつ死ぬかわからん状態ですから悔いがないように生きていくのは正解かも知れませんが。

コートニーとアスナがよかれと思ってやってることがジークリードの嫉妬心を盛り上げていたという誤解を楽しんでいただけたらいいかなと思います。

あと、仲間思いのゴトフリーさん△。この仲間思いで血盟騎士団のメンバーの融和を目指していた彼が後々……クラディールに付け込まれることに……。

現実でも、よくあるんですよ。そんなつもりがないのに誤解されて攻撃されることが;;
私はどこで間違えちゃったんでしょうね><

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