冬木に綴る超越の謳   作:tonton

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-Phantom raider-

 

 帰宅後、私服に着替えた自分と、朝と同じ学生服に桃色のエプロンをかけた桜と共にキッチンで夕食の準備に取り掛かった。

 料理に臨む桜の表情は真剣でありながら、どこか楽しそうに笑みが絶えない。料理のできる女性は魅力的というのは少々古典的な考え方なのかもしれない。だが、いざこうして目の前にすると悪いモノではない、というよりかなりストライクゾーンに入っている気がした。

 

「よし、いい感じです!」

 

 と、さりげなく脇見をしていると、桜が余熱で仕上げていたフライパンの中身を手際よく小皿に盛りつけていく。今夜は大河も遅くなるという事だったので大皿を使用する程品を用意しなくてもいい。なら、もう少し手を抜いてもいいと思うのだが、桜的にはそのような怠惰はありえないと自分の提案は両断されてしまった。

 

「桜ーこっちもやきあがったぞ」

 

 野菜を盛り付けるかたわら、傍のオーブンが告げるタイマーの音で作業を中断して中身を取り出す。オーブンを開けた際、空腹へ直接働きかけるような匂いにつまみ食いという選択肢が脳裏を掠めたが、せっかく桜が用意してくれた夕飯だとせっせと食卓へ運び、プレートの上にそれぞれ並べていく。

 二、三回も往復すれば、彩り豊かな食卓の完成である。

 

 二人での食事の為、対面になる形で互いに手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 挨拶は同時に、だが最初の一口を自分が食べるまで窺うようにこちらをジッと見ている桜の視線は何故だかこちらまで緊張してしまう。まあといっても、彼女の料理に不手際があろうはずもなく、

 

「うん、やっぱり桜の料理はおいしいな」

 

 簡単な感想であるのに、安堵した後満足げな笑みを浮かべてようやく箸を動かす後輩の姿に和みつつ、自分も二品目に箸を伸ばした。

 

 

 

「え? 帰りですか?」

 

「ああ、もうこんな時間だしな、送っていくよ」

 

 夕食の後、ごく自然に片付けを始めようとする桜を止め、時計を指さして提案する。予想していた通り、桜はそこまでされると悪いと断ろうとしてきたが、今朝のホームルームで話題に出た事件を盾に封じ込める。最悪、先輩としての体裁を守らせてくれなど、交渉のカードは用意していたが、悩む仕草をすること数分、小さく了承の返事がもらえた。

 流石に片づけないままというのもだらしがない、と申し出た桜の言葉に、シンクへ大きめの鍋に水を溜めて、洗い物を全て投下する。仕上げに洗剤を少々――所謂漬け洗いであり、雑多で無駄の多い手段に桜は一言言いたそうだったが、背中を押して無理矢理玄関へ。自分も財布と懐のお守りを確認し、玄関先で待ってくれている桜と合流して外へ出る。

 

 

 冬に差し掛かった冬木はようやく肌寒くなってきていた。地域柄、冬といってもほかの地方と比べても暖かいらしいが、生まれも育ちも冬木の自分としては十二分に寒い。そろそろ押し入れにしまってあるコートを引っ張り出すかどうか思案していると、いつも通学時にさしかかる交差点にぶつかる。衛宮邸から学園や新都へ向かうのにしても目印となる分岐点であり、直進すれば桜の家がある坂の方へと続いている。

 

「そういえばアイツは元気なのか? また今日も学校に来なかったけど」

 

 道すがら今日の料理等を話している中、話題が学園の事にシフトしたところでふと思い出した。“アイツ”とは不明慮極まりない呼称だが、桜と二人きりの時で指す対象とは絞られる。

 

「え、あ。兄さんは夜には帰ってくるんですけど……最近は何かおもしろいことを見つけたのか、更に帰りが遅くなることが多くて」

 

 つまり、俺の悪友で、桜の馬鹿兄である。

 昔からのめり込むと周りを、というより自身に及ぶデメリットすら省みない性質ではあったが、どうもここ最近その傾向が強い気がしてならない。個人的にはアイツがどうなろうと知った事ではないが、可愛い後輩に心配をかけさせるというのも考え物だ。

 

「やっぱりか。アイツも昔から変わらないからな……よし、あまり過ぎるようなら俺からも言っておくよ」

 

 そんな、と両手を大きく胸の前で力の限り振って否定の意を示してくるが、確かにここ最近学校で見ない事も多かったので、個人的に、少しだけ心配だったというのもある。桜には普段からお世話になっているので、偶には先輩らしいことでもしないと面目が立たない。所詮男の小さなプライドなのかもしれないが。

 

 

 

 しばらく歩いたころ、和風な趣きが強かった街並みが洋風のそれに代わった坂道で、桜がこちらを窺い断りを入れてきた。

 

「あ、先輩ここまでで大丈夫です」

 

 道の先を見れば彼女の家まで100メートルもない。交差点からここまで徐々に勾配が急になってきていたが、悪友の武勇伝を語り合うのに夢中で実際はかなり歩いていたようだ。本当に話題の種には事欠かないやつである。

 

「ん。まあここまでなら大丈夫だろ」

 

 周囲を確認しても不審者の影はなく、もしもの事態にならなくて内心ほっと一息をつく。後輩の手前、なんでもない風を装ってはいるが、自分だって怖いものはあるし、嫌なものだってある。

 

「ハイ! 先輩、今日は―――」

 

 律儀に礼を言おうとする桜に大したことはないと身振りで返そうとして、その背後より見慣れない老人が暗闇から現れた。

 一瞬何処から現れたと、まるで気配の無い出現に息を飲んだが、皺の深い輪郭の奥、暗闇の所為か一際黒く見える目を細め、老人はおそらく笑みを浮かべてこちらに話しかけてきた。

 

「おお、桜今帰ったか」

 

 心配しておったぞと坂の上から現れたのは、一目見て齢八十は超えているだろう老人だった。

 

「お、おじい様っ」

 

 いつも聞く桜の声とはまた違った焦りの色を感じたが、両者の呼称通り、どうやらこの老人は間桐の家のものらしい。桜の家は中々に大きな家であり、“坂の上の間桐”と言えばこのあたりでは色々な意味で有名だ。そう思うと、この御仁も昔はその方面で腕利きの人間だったのかもしれないが、杖を突いて背も曲がったその姿からは少し想像できなかった。加え、その見た目と今の時間帯と相まって、失礼とは思いつつも忌諱してしまったこともあり、少々負い目を感じて頭を下げつつ挨拶をした。

 

「ふむ――おおっ、そうかそうか。お主が孫たちがよく口にしている“衛宮”か。これはこれは、日ごろ孫たちが世話になって」

 

 自分が告げた名前に利き覚えがあるぞと、かんらかんらと笑いながら桜がどういう風に話しているのだとかを言って聞かせてくれる。初めの印象が強烈過ぎて気後れしてしまったが、これはこれで孫思いのいい祖父なのかもしれない。そう思う程に、彼は桜たちの事をよく聞かせてくれた。

 そして幾らか話した頃、横で畏縮煤様にしていた桜を小さく杖で小突く。

 

「ほれ、何をボケッとしてる。お前からも礼を言わんか」

 

「あ、今日は、ありがとうございました……」

 

 普段おとなしい桜も、祖父の前では殊更気が小さくなってしまうのか、単に家人の前では大人しいだけなのか小さく礼を告げる桜に、今度こそこの程度は何でもないと手を振って笑顔で答える。

 

「うむうむ。普段ならいつもの礼に茶の一つでも出してもてなしたい所だが、生憎とこの時間ではなぁ」

 

 日を改めてもう一度来てくれと誘ってくれる老人に社交辞令程度に言葉を返し、腕時計を確認する。確かにもう時刻は8時を過ぎる。逆を言えばこんな時間までまだ学生の孫を連れていた事に一言小言をもらってもおかしくはない。こちらこそと深く頭を下げ、桜にも朝の件も含めて改めて礼をする。

 

「それじゃ、また明日学園で」

 

 踵を返して手を振るこちらに、桜は頭を下げたまま、彼女の祖父と二人に見送られて帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 桜を送り届けてから家に着いたころには既に9時を回っていた。

 大河からの連絡もない為、板戸を引出し縁側周りと簡単に戸締りをすませる。一通り確認した後は、出かける前に漬けておいた洗い物との格闘だ。もともと洗剤を浸したものに漬けていた為に油等の汚れは落ちている。とはいえ、自分一人の物であるなら兎も角、大河に桜、舞弥も入れて他の人間も扱うものであり、もう一度洗剤を付けたスポンジで一つ一つ丁寧に洗っていく。

 

 二人分の食器である為、時間的に然程手間はかからない。明日の朝食用に研いだ米を電子ジャーにいれてタイマーを合わせる。と、ここまでくれば普通に就寝準備に入るだけだが、生憎と自分にはこなさなくてはならない日課がまだ残っていた。

 

 居間の電気を消し、一か所だけ空けておいた縁側からサンダルを履いて、庭の一角に作られた土蔵に入る。

 この家は土塀から木製に瓦屋根の門。硝子板のはめ込まれた引き戸に板張りの廊下、暖簾や襖で仕切られた居間など、純和風の造りとなっている。親父が伝手で大河の実家、その親である藤村 雷画から買い取った物で、当時は廃墟同然に荒れていたらしい。

 養子である自分がこの家に来たころはまだ見れる外観であったが、罅の入った壁や傷んだ畳が見られ、大改修に参加したのはいい記憶だ。

 それはさておき、そんな我が家には家屋以外に何故か道場と、昔から土蔵がある。切嗣の職業というのはよく知らないが、その割にこんな家をかまえるあたり、それなりに収益があるらしい。そして家主のいない今、この土蔵は自分の鍛練場となっている。

 

 だが、鍛練をするなら折角道場という似合いの場所がある。なのになぜこのように閉鎖的で灯りに乏しい場所を鍛練場とするのか、当然それには理由がある。

 

「ふぅ――じゃ、始めますか」

 

 土蔵の中で敷いたマットの上に座り、土蔵の床、自分の前に液体を入れたフラスコ、アルコールランプに三脚台をセットする。小学校で行なう理科の実験でおなじみの品だ。そこに摩訶不思議な特別な物、ということはない。

 そして鍛練といった通り、これは己を練磨する為のモノであり、単なる実験を行うのではない。

 取り出したマッチでアルコールランプに火をつける。フラスコが熱せられ、中の液体の温度が上がっていき、フラスコ内部が気体化した蒸気で徐々に曇り出す。

 

 そうして、鍛練の準備が整った。

 

 息を整え、瞳を閉じ、自己の内へと沈んでいくイメージ。

 小さい頃から繰り返してきたことだとはいえ、この時ばかりは緊張する。

 なぜなら、“魔術”とは死と隣り合わせなのだから。

 

  時よ 止まれ

『arrest hour』

 

 己の親にして師である切嗣から教わった魔術。幼いながらに憧れて付けた自分だけの始動キー。“魔術師”が“魔術”を行使する際、己の中に眠っている“魔術回路”を起動する為の家電製品で言うオンオフの為のスイッチだ。

 

 “魔術”とは一般にイメージされる様な“魔法”とは違う。

 

 魔術師が魔術を行使する為には魔力が必要不可欠であり、その魔力を生成するのが魔術回路であり、それは起動させる術式に魔力を通すパイプだ。そして、魔術回路とは潜在的に人に備わっている。つまりは普通に生活する上では必要ないとされるパーツ。そもそも魔力を生成するのに回路が消費するのが生命力だというのだから、不要、というのはいうまでもない。

 そして同時に、生まれながらに備わっている回路の本数が決まっており、通常はその本数を増やす事は出来ない、困難とされている。

 故にそれが魔術は才能がモノをいうと言われる所以でもある。その為、魔術師達は代を重ねるごとに回路を増やそうと躍起になる。だからこそ、魔術師の界隈では血筋が重要視されるのだ。

 言い換えれば、切嗣の実の息子でもない自分は血筋としては下の下であるのは言うまでもなく、才能といっても中の下程。回路を増やせないという事は自分だけで至れる魔術というのは程度が知れている。

 

 ならなぜそんな自分が魔道を志したのか。そういわれれば、過去に見た光景。魔術を教えてくれと言い出した自分に、切嗣が困り顔で一度だけ見せてくれた魔術が原因だと思う。その可能性に、どうしようもなく心惹かれたからだ。

 厳密に言えば憧れても方向性が違った。自分の願いは時を引き延ばして遅らせたり加速するだけでは届かない。その願いを告げた時、それが出来たら魔法使いになれるよなど、当時は笑われたものだ。

 しかし、自分は当時と変わらず、今も本気だった。だからこそ、それほど興味の持てなかった魔術を続けられている。もし、衛宮 切嗣と出会っていなけば、あの時彼の魔術を見せてもらっていなければ、自身と魔道は交わることはなかったかもしれない。

 

「構成分子――把握終了」

 

 ともあれ、身体の内にある“魔術回路”の起動を確認した俺はゆっくりと身体に魔力を流し、目の前にある熱せられたフラスコに注力する。正確にはその中身、無色透明の“水”にだ。

 水は熱せば気体に、冷やせば固体になる三つの姿を持つ流体。この鍛練では常態である流体を熱し続けた状態から、その存在を“押し止め”、気体に変わろうとする分子の結合が離れるのを阻害しようとする試みだ。

 

「原子振動――抑制」

 

 理屈で言えば小学生の理科程度のレベルでも解る範囲。だが、何事も言うは易し。理屈では理解していても、自然の変化、条理を捻じ曲げるというのは決して簡単ではない。今行っている事象は規模としては小さいものだが、魔術師として半端ものである自分には難題である。これが師である切嗣や、知り合いの魔術師の娘なら難なくできるのかもしれない。しかも、それで同い年というのだから世の中は不平等極まりないだろう。

 などと、いるかもわからない神などに恨み言を連ねていた為に罰が下ったのか、単に集中が乱れたためなのか、

 

「――っ」

 

 突如右腕に走った痛みに流していた魔力を急停止させる。無論、一度流していた魔力の流れをせき止めれば回路に過負荷がかかるので、努めてゆっくりと、ではあったが。

 抑制していた魔術を解いてしまったため、押し止めていたビーカーの中身である水は留めていたエネルギーに一気にさらされ、ものの見事に沸騰してしまった。

 

「くっそ、何なんだよいった、い?」

 

 失敗にイラつくよりも、それが外的要因によって引き起こされた事がより憤りを蓄積してしまう。そうしてその原因とやらを確認すれば、そこには赤い痣、三画の模様が浮かび上がっていた。

 腕に見た痣は何かをかたどっている様も見え、一見するとタトゥーの様に見えなくもない。光に晒してみるとその形が明確に何かの形を持っている事、そして魔術的な魔力を感じる事に困惑した。

 

 切嗣が持っていた魔術の本にこんな印は見た事ないし、初め以外に痛みや何か呪術的な重さを感じない事から、呪いの類ではないだろうが。

 

 だがこいつの所為でケチがついたのは事実。また時刻も遅い事、体に害がなさそうな事を簡単に調べたこともあって今日の鍛練はここまでと片付けを始める事にする。と、痣の影響か流れていた血を拭きとり、棚の上に置いていた救急箱を引っ張り出して包帯を取出し、適当に腕に巻いて止血をしていると――深夜に差し掛かる前という夜遅くに、母屋に連動させていた機器からチャイムの音が鳴り響いた。

 

「あーくそ、こんな時間にっ」

 

 加えて、余程せっかちな客なのか、インターホンを連打してくる始末。

 そういえばまだ門は閉めてなかったかと後悔の念が顔を出す。

 

「あぁ! ハイハイ今行きますって」

 

 広げていた道具を簡単に一纏めにし、巻きかけていた包帯を乱雑にとめて不届きな客の顔を拝んでやると気持ち足音も荒く玄関へと向かった。

 

 

 

 

「ハイ、どちらさまですか」

 

 乱暴気味に、ぶっきらぼうで不機嫌な態を隠す事無く扉を開け放ち、件の訪問者の顔を拝もうと木戸を開けると――そこには丘があった。

 

「夜分にすいません。こちら、衛宮 切嗣さんの自宅ですか?」

 

 正確には女性特有の膨らみだ。つまり当然不躾な訪問者は不審な男、という予想に外れて、長身でスーツに身を包んだ妙齢の女性だった。

 

「あ、切――親父は今留守にしてますけど」

 

 艶のある黒の長髪を後ろに一つに編み上げ、その先を大きめの髪留めでとめている。黒のフォーマルスーツをゆったりと着こなし、その上に着た紅いコートの前を止めず下にきている。コートもスーツも前を止めていない為に覗くブラウスまで大きく胸元を見せていて、少々目のやり場に困る格好だ。しかし、冬木が比較的暖かな気候だとはいえ今は冬だ。コートの意味があるのかという居出立ちに疑問を持ちつつ、やはり不審者かと警戒心を保ったまま応対する為に気を引き締める。

 

「そうですか……あ、いつごろ帰られるか分かりますか?」

 

 なので彼女の質問に一言わからないと突き放すように答え、何の用でここに来たのかとこれまた無遠慮に聞き返す。そもそも知人だとしてもこんな時間に訪れるのは少々常識外れだろう。言い換えればいい迷惑だ。実際、訪問されている側の自分が言うのだから間違いない。

 

「ああ、私彼とは昔の仕事仲間だったんですけど、この度こちらに飛ばされまして、夜遅くになってしまったんですけど挨拶を――」

 

 なら電話なりなんなり前もって確認すればいいだろうと思うが、目の前の彼女にはそんな選択肢もなかったらしい。傍迷惑だと思いつつも、努めて笑みを絶やさず話しかけてくるトークの弾幕に怯まないようにそっけない返事で続くだろう言葉を躱し、さっさとお帰り願おうとすると、

 

「あれ、その手怪我されたんですか?」

 

 先程変な痣が浮かんだ右腕を見て無遠慮にも手をつかまれた。

 いきなりの事に無理矢理引きはがす。突発的な事でかなり力を入れてしまった為、女性相手に何をとこちらは委縮しかけたが、対する女は災難でしたねというなんでもない風に笑って返す。

 

 少し拍子抜けしたが、調子を狂わされたのも事実。深夜突然の訪問に加えての事態に、内心の苛立ちは既に隠せないレベルだ。だが、ここで顔に出したとしても、あまり態度に出すのはみっともないと思いとどまり、コレで終わりだと断りを入れて引き戸を閉めようと木戸に手を掛ける。

 

「ほら、もういいだろ。親父は今日明日じゃ帰ってこないし、言伝くらいはしておくから――」

 

「あー実はそうもいかなくなったんだよねー」

 

 途端に崩れて帰ってきた口調に疑問に思うよりも早く、身体に走った衝撃と共に浮遊感を味わい、刹那、背中に激痛が走った。

 

「がぁ――はっ」

 

 あまりの痛みに一瞬呼吸を忘れ、痛みをうったえる腹を抑え込むように丸まる。嘔吐こうにも口からは血が混じった胃液と吐しゃ物、そこにきて自分がようやく玄関から廊下の突き辺りまで“殴り飛ばされた”のだと理解した。

 

「いやーごめんね少年。疑わしきは打ち首っていうじゃない? 悪いんだけど、君けっこう灰色なんだよね」

 

 いつの間にか女性の衣装はスーツ姿から今ではあまり見ないような和服に身を包んでいる。肩を露出し、その両腕に深紅の手甲をはめて土足で玄関を上がる姿は、先程の攻撃を踏まえ、こちらを殺す対象としてみていた。

 

「だから悪いけど、大人しく死んでくれるかな」

 

 法治国家であるこの国で、斬った張ったの殺し合いなど馬鹿げている。いつかクラスメイトの一人がそんなものはファンタジーにすぎないと小馬鹿にしていたのをふと思い出した。

 だが、痛む体を無理やり起こしながら目のあたりにしたものは、生涯で二度目となるそのファンタジー。絶体絶命という命を懸けた綱渡りだった。

 

 






 まず主人公は殺されかける。鉄板だよね!!
 という訳でサーヴァントによる襲撃を受けた“衛宮”くん。ここまでは流れ的に察せられると思いますが、徐々にオリジナリティを出していこうとおもいます。

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