冬木に綴る超越の謳   作:tonton

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-Poetry of dusk-

 静かに閉じられる戸を見送る男。

 今しがた家を出た少年、というには立派になったと感慨深くもある。それだけ、時臣と衛宮 蓮が過ごしてきた時間というのは長く、色濃い。

 友人である衛宮 切嗣が10年前の事件で引き取り手のいない生き残りを引き取るといった時は反対もした。が、過ぎれば十年。近しい間柄として、放任が過ぎる養父の元ではあれでまっすぐ育ってくれたと思うのは親馬鹿に似た心境なのだろうか。

 娘である凛とはどういう出会い方をしたのか犬猿の仲であるが、実の娘だ。アレで曲げられないところがあるのは知っているし、我が子同然の時間を過ごした蓮がどういう性格を形成し、それが凛とどう反発するというのは大凡の察しが付く。親としては恋仲など言語道断だが、せめて友人である切嗣と自分のように信頼できる関係でいてもらいたいと思うのだ。なにせ、ただでさえ魔術師を取り巻く世界というのは閉鎖的だ。

 

「昔の私なら、こんな考えなど馬鹿げていると一蹴していただろうな」

 

 そう自嘲するくらいには、今の自分の変わりようを客観的に見ることができる。

 

 10年前のあの日、聖杯戦争の勝利を疑わず、己が足跡を過信し、根源そのものへ思考を放棄していた自分。そんな確かなものなどどこにもないのだと思い知らされた。だが、祖先たちが根源を目指した理念を否定するつもりは毛頭ない。こうしている今も、そこを目指すことに疑いなどない。

 

 そしてだからこそ、この第五次の戦いを時代に託す己の不自由を呪わずにはいられないのだ。

 

 思えば、今はこの身の無力さが恨めしいと拳を握る。あの頃から、決して手を尽くさなかったわけではない。魔力回路に異常をきたし、下半身が思うように動かないのだとしても。

 

「まったく。これではあの時のお前とあべこべだな」

 

 かつて、己の命に引き換えにしてもたった一つのモノを守ろうとした男がいた。

 

 愚かだと思った。

 一度魔道に背を向けた恥を知らずが、何を思って舞い戻ってきたのかと。

 時間はあった。だから時臣なりに考えたし、想像もついた。しかし、仮にその想像どおりだとして、決して時臣は彼を理解したとは思わない。

 

 きっと“何か”の為に戦っただろう彼の行動原理。

 形にすればあまりに陳腐で、非常にシンプルな言葉。

 だから口にするのは簡単だ。けれど、それを時臣がそうだと決めつけるのは、あの時愚かだと切って捨てた己が断定するそれは、たった一人で戦った男への侮辱でしかないだろう。

 

 

「――すまない。いつも君には面倒な役回りを頼んでばかりだな僕は」

 

 

 そうして、少年との思い出から更に昔へと時臣が思いを伸ばしていると、玄関の外より蓮の養父である衛宮 切嗣が姿を現した。

 今の今まで敷地内のどこかにはいたのだろう。大方、蓮と顔を合わせづらかったというところか。口下手な彼らしくはあるが、仮にも父親だろうと時臣は小さくため息を吐きながら彼を迎える。

 

「……そう思うなら、少しは態度で示して欲しいところだ」

 

「言おうとは、思っていたんだけどね」

 

 そういって押し黙る切嗣の気持ちは、時臣にも理解できなくはない。

 情けない話だが彼は時臣よりも“人”の親としてできている。時臣自身、10年前と比べて幾分丸くなったとは自分でも思うが、“底”知った今でさえ、時臣が思うそれは“魔術師”としての視点だ。そんな自分でさえ、我が子は愛しいのだ。切嗣と蓮の関係が義理とはいえ、二人が過ごしてきた形は紛れもなく親子のそれだ。一般的には歪に見えるかもしれないが、それは友人として時臣は保証する。

 だからそう。そうであるというのに彼が伝えるべきことを躊躇うというのは、つまりその内容は――

 

「辛いな。あの時から、私達にできることは結局変わっていない」

 

「わかっていたことだよ。僕たちは“アレ”にかかわった時から、周囲に付きまとうのはいつだってこんなことばかりだ」

 

 順番が、あるいはふとした違い。もしあるいは、朝いつものルーチンをわずかに変えるような違いといった些細なことで、結果は違ったかもしれない。今予測される未来が負にまみれていると思うのなら、彼らは俗世から身を引くべきなのだろう。

 だが、それだけはできないと誓ったのだ。そして、あの時たった一人の被害者を見て見ぬふりはできないと手を伸ばしてしまったから。

 

「だから、今度もこの手で決着をつける。だけど今だけは――」

 

 わずかでいい。少しの間の平穏を。

 彼が小さい頃、魔法使いだという戯言に純粋なまなざしを向けた少年。その彼が今も大切にする日々を。

 

 コートから取り出した煙草に火をつける彼の仕草は、なぜかこの時、少したどたどしかったように見えた。

 

 

 

 

 

 人は学ぶ生き物である。

 失敗に失敗を重ね。試行錯誤の果てに進化と隆盛を勝ち取った種族である。

 遠い祖先、原初よりの進化。その過程には諸説あれど必ず諍いが起き、力ないし、知恵の優劣の先に繁栄と淘汰があった。

 つまり、学び蓄積された経験の道に、人の歴史があるということは疑いようもないのだ。

 

 であれば、ここに何を言いたいかというと。

 

 

「やっべぇ……さっぱりわかんねぇよオイ」

 

 

 衛宮 蓮。

 ただいまノートと格闘中である。

 

「風邪で一日や二日休んだ程度ならともかく、衛宮の場合はほぼ一週間休学していたからな」

 

 教室から場所を生徒会室に移し、優良生徒であらせられる生徒会長殿とマンツーマンでの授業中だ。

 ここ数日の怒涛の如く押し寄せた異物たちによって、もろくも瓦解しかけている愛すべき日常。今まさにその愛し子に頬を殴られている現状なわけではあるが、

 

「あーうん。はい。感謝していますよ生徒会長殿」

 

 こうして場所を提供してもらっている上に、休学中の授業、その全教科を見せてもらっている手前、さじを投げるわけにもいかない。

 

「真面に顔を出さずにテストだけ上を行く阿呆もいるとはいえ、ああいうのは単なる例外だ。手本にすらならん。が、衛宮とて決して頭が悪いというわけではないからな。どれ、昼休みが終わるまでは付き合うさ」

 

「ハハ……なんともありがたい友情だ事で」

 

 向かいの席を拝借した一成が、ノートと格闘しているこちらに助け舟を出してくれる。もっとも、自他ともに厳しい彼らしく、その指導は教員顔負けに厳しいものだったのだが。

 

「む? 茶が切れたか。待っていろ」

 

 どの学校も常備しているのかは不明だが、この学校の生徒会室は質素な割にはいい茶葉を置いている。大体は一成の好みなのだろうが、教えてもらう手前、そこまでされては立つ瀬がないと断ろうとすると。

 

「気にするな。茶の一つや二つ程度なら大差もあるまい。それより――お前は余所見せずノートと向き合っていろ」

 

 そのまま目の前に置かれていた湯呑を取り上げ、慣れた手つきで給仕を始める生徒会長。仮にもこの生徒会室(へや)の主なのだから、もっとどっしりしていればいいだろうに。立場があべこべだろうと伸ばした手をむなしく握ったり開いたりしてみる。

 

「ほら。もうひと頑張りだ。あまり時間もないしな」

 

「へーへーい」

 

 とん、と置かれた湯呑を受け取る。確かに、集中が乱れ気味かと喝を入れる意味で熱いお茶を一口口に入れ、姿勢を正す。声こそやる気の無い態だが、いくらなんでも友人の行為を前にだらけきる程怠惰に生きているわけではないのだ。

 

 ――がしかし。

 

「な、なあ一成。ここ」

 

「早い。もう少し問題と格闘しろ」

 

 こちらに視線をやりつつも、自分は手元に教科書――別教科の物――を広げて目下復習中の模様。文武両道ということで勘違いする輩もいるが、一成は基本能力にかまけて努力をおろそかにするタイプではない。むろん、その言動に違わず、彼はその心身における出来もすこぶる高いというハイパーなスペックの持ち主という補足はつくが。

 

「? どうした? まだ衛宮がそこまでつまずくようなところではないと思ったが」

 

「ああ、そうじゃない。ただ――」

 

 ちょっと考え事をなと誤魔化すと、すぐさま戯けと喝が飛んでくる。真面目ゆえか、面倒見がいい彼は手を抜くことがない。たしかに、教わってばかりでは力にならないのは重々承知しているし、理由はともかく、蓮自身としても頭は働かせているつもりだ。そう、つもりだが――されとて理解が追いつくかはまた別問題だろう。

 喝をもらいながらも改めて読み返すが、二度三度と視線を往復させては見たものの、てんで頭上の電球はうんともすんともいわなかった。

 

 そして、自身の復習の傍ら、どこにそんな余裕があるのかという具合に、こちらの問いを解く手が止まると指摘がすぐさま飛んでくる。一人ではこうはいかなかっただろうと、一成に感謝しながら進める事十数分。そろそろ約束の昼休み終了が近づいてきたころ。

 

「しかし、今回はえらく不運が重なったな。なんだ、今度はどんな不祥事を起こしたんだ」

 

 あらかた自分の分は終えたのか、机に広げた勉強道具を片付け始めながら問いかけてくる一成。不運、というのは彼流にいうのなら因果応報。何かしら負に見舞われるような行を重ねたのかということだろう。

 

「まるで俺がトラブルを引き起こしてるみたいな物言いは大変誤解を招くからやめてくれ」

 

「そうは言ってもだな。ここ最近衛宮の周りで起きるトラブルを思えば、そう思うのも無理は無かろう。アレか、類は友を呼ぶとでもいうやつなのか」

 

 先ほどから遠回しでシンジを罵倒している生徒会長殿。聞けば自分が登校し、彼が屋上で姿を現したあの日からも学校には現れていないらしい。といっても、今向き合っても喧嘩腰にしかならないのは目に見えているので、そう言った面では気が楽だし助かってはいる。が、あれと同類にされるのはどうにも飲み込みかねる。

 

「……その理屈だとお前もその“類”に含まれることになるぞ」

 

「なるほど。何事も例外はあるという実例だな」

 

「オイ」

 

 湯呑を傾け、目をつむり納得したようにさも当然と受け流す一成。そこでさじ投げるのはどうなのかと突っ込めば、保護者の責任だろうと訳も分からないこれまたバッサリと。いや、確かにシンジの問題行動の収拾は事あるごとに、というより毎度巻き込まれて仕方なくそのポジションに立たされている現状。これに関しては甚だ遺憾である。むしろ自分は被害者側だろと弁護するが、

 

「そろそろ昼休みも終わる。ノートは次の授業までで構わんから、自主勉強、大いに励めよ」

 

 筆記用具も終い終えた鞄を椅子の上に置くと、彼はそのまま自分の湯飲みを手に取り、こちらの物も手に取って流しへ下げる。当たり前な自然の流れを前に、思わず感謝の言葉をこぼしてしまうぐらいに堂に入っている。つまりはまぁ、完全に話の腰を折られた形だ。

 

「よし、忘れ物はないな?」

 

 時計を確認すればもう五限目が始まる五分前というところだ。教室まで走るほどあわてるような時間ではないが、あまり悠長にしてられる時間でもない。

 手早く荷物をまとめた蓮は入口で待っている一成に駆け寄って大丈夫だと手で返礼した。

 

「ところで」

 

 戸締りを確認し、生徒会室から教室へと向かう途中、一成が思い出したかのように蓮へと視線を向けてくる。正確には蓮の右側へ。

 

「その手袋はなんだ、やはり外せない物なのか?」

 

「あ、ああ。ちょっとな」

 

 やはりお前にも指摘されるのかと溜息をこぼしつつ、この日何度目になるかわからない言い訳を脳内からぴっぱりだしていた。

 

 

 

 

 

 怪我人、それも連日立て続けにトラブルに見舞われた者というのはどうにも気を使われるのが常のようである。

 表向きはトラック追突爆発事故。街内を騒がせている暴漢騒ぎに巻き込まれたなど。その聴取や手続き諸々は切嗣や時臣達が手配してくれたらしい。実際、学校に来てみれば教師陣はその理由で納得している。蓮個人としては、もう少し右手の黒手袋などに疑問を持たないものかと思ったが、詮索がないことは正直助かるのでそのままにしている。

 いや、学校どころか診断書の作成や教師陣の説得など、どうやったと若干の恐怖を感じもする。これ以上深く考えると少々背筋が冷たいどころでは済まなくなりそうなのでそれ以上の思考を放棄したともいえる。

 何事も首を突っ込めばいいというわけではない。

 君子危うき近づかず。

 昔の偉い人の言葉らしいので、ここは今を生きる人間として素直に従うべきだと、そう結論付けたしだいだ。

 

 部活は、去年故あって辞めた身でもある。生徒会は一成との付き合いで手伝いに顔を出すこともあるが―――今この有様で顔を出しても馬鹿者めといわれて追い返されるのが落ちだろう。

 まぁ、言ってしまえば、本日の授業を終えれば特にすることなどないのである。

 

「いや、まぁ……帰ったら帰ったで山積みなんだけどさ。問題が」

 

 ノートやプリント類で少々重くなった鞄を肩に担ぎ、半壊した実家の修繕や、そもそも“聖杯戦争”自体に対する対策、結局姿を見せない親父についてを思い浮かべてみる。あげればきりがないほど積み重なっており、比例して頭痛の種が積み重なっていくだけというのは輪をかけて痛い。

 DIYという論理が広まりつつある世の中とはいえ、蓮自身にそのようなスキルが都合よくあるはずもなく、手を尽くしても穴の開いた壁に板といった応急処置程度だ。専門の職人らに依頼しようにも、現状、物騒極まりない渦中にいれば結局は元通りになるといういやな未来が幻視できるというのも一役買っている。

 

 鞄に入っている宿題の山といい。一成の言葉を肯定するのは遺憾ではあるが、最近はホント厄に見舞われている気がして肩が重い。

 せめて一つづつ片付けられるよう、今日は平穏無事に一日が過ぎることを切に願うばかりだ。

 

「先輩!」

 

 そんな校舎口へと向かうために歩き出した蓮を後ろから呼び止める声が一つ。

 

「お? 桜か。どうし―――」

 

 振り返れば菫色の髪を揺蕩せながら、間桐 桜が階段を駆け下りてきたところだった。あまり運動得意ではない彼女が駆けている姿も珍しいが、何よりもまず階段を駆け下りるのはどうだろうか。主に女性的に。何がと言葉にはしないが、少々はしたないのではと思わなくもない。仮にも自分は先輩である。桜の事を思えばとさりげなく注意しようとして、こちらの言葉を遮るように語尾を荒げ気味に、彼女はこちらの右手をいきなり掴んできた。

 

「どうしたもこうしたもありませんっ、この間から連絡の一つもなくて、舞弥さんは心配ありませんの一点張りだし――」

 

 本当に心配したんですからと言葉を次々まくしたてる桜。個人的にはそれは単に必要以上の心配をかけたくなかったし、言えば巻き込みそうな気がしたという不安があったのだが、目尻にうっすらと涙を浮かべていた彼女の姿を見てその言葉を飲み込んだ。

 蓮にとっては体感で二日前の出来事だが、アサシンの襲撃があったのはあの日桜を家に送り届けた夜の事だ。それから連日事件が起こり、学校はおろか友人にはまるで会っていないし連絡も取っていない。魔術に傾倒した事態を思えば言い訳は立つかもしれないが、桜はあくまで一般人だ。想像でしかないが、それなりの付き合いであるし、きっと自分に責任を感じたり過度に心配をさせてしまったのだろう。可愛い後輩を何泣かせてる現状、先輩失格だなと自嘲気味に、蓮は桜の小言を大人しく受け止めることにするのだった。

 

「そもそもからして――って、聞いてますか先輩っ」

 

「はいはい。しっかりと聞いてますよ」

 

 返事は適当になってしまった気がするが、やはりここまでよく話し怒る桜というものも珍しく、どうしても微笑ましく思えてしまうのだから仕方ない。と、彼女に負い目を感じる手前、話は受け止めているがそれでも段々と気はそれていってしまう。

 

 そうなれば、自然と意識は違う方向に流れていくもので――

 

 自然と。

 

 本当に意識していたわけではない。

 

 だがこの時、自分は放課後独特の喧騒や、目の前で腰に手を当てて指を立てる後輩の微笑ましい姿よりも。

 

 なぜか。

 

 本当になぜか。

 

 その彼女の首元から目が離せないでいた。

 高学年になってから、片側の髪をサイドで結う事で露わになっているその白い肌に。

 

 

「? 先輩?」

 

 

「……あ、いや。すまん」

 

 あまりにも反応がなかった所為か。逆に心配をさせてしまったようだ。先ほどまで珍しく眉を吊り上げていた桜が一転して不安げにこちらをうかがってきていた。

 

「やっぱり、まだどこか無理してるんじゃないですか」

 

 確認というよりも半ば確信しているかのような問いかけに、失敗したという後悔の念がわく。桜は基本的に自ら進んで矢面に立ったりするタイプではない。所謂自己主張の苦手な部類なのだが、これでどうして、なかなかに頑固な面がある。

 

「いや、今朝も確認してもらってお墨付きが出てるし、ホラ今さっきまで何もなかったんだしさ」

 

「いーえ! こういう時に自己判断はダメですっ。さ、保健室にいきましょう」

 

 どうやら今の彼女は、その頑固な面が前面に出ているようだ。保健室まで連行しようと大胆にも手を取って引っ張ろうとするなど普段の彼女からすれば考えられないのだが。

 

「なにも桜がそこまで――」

 

「でももなにもありません! 先輩は大人しく休んでいるべきです」

 

 そもそも放課後だといえば、衛宮のおじ様に迎えに来てもらおうと言い切り。

 今連絡がつかないといえば一昨日会ったばかりだという。

 この通り、取りつく島もないとはこのことだろう。男女のという事から、蓮が桜の手を振りほどけないわけではない。それは単に女性である桜に対して力ずくでという行為を、衛宮 蓮という人間は容認できないからというだけのくだらない理由なのだが。

 

「あーっもう、だな。とりあえず休めっていうのは分かったからっ」

 

 蓮も運動部等に在籍しているわけではない。が、同年代の中ではこれでもそれなりに動けると自負している。魔術を使わない“素”の状態で、だ。無論、部のエース級の彼等には及ばないが。とりあえず放課後のこの人目の多い時間にこの絵図は勘弁してくれと何とか説得を試みるが――

 

 

「ちょっといいかしら」

 

 

 その出先を、階段横を通り過ぎようとしたところを呼び止められた。

 

「遠坂、せんぱい」

 

 皆と同じ学生服を身に纏いながら、一人違う風格を漂わせ階段をゆっくりと降りてくる彼女。

 

「なんだ、今ちょっと」

 

 考えてみればこの状況で第三者は助け舟が普通なのだろうが、そこに居るのが遠坂 凛その人となると話はガラリと変わる。

 

「御門先生から直々の呼び出しよ。ちょっと資料室まで連れてきてほしいって言われたの」

 

 要は助けなどでは断じてなく、厄介事が歩いてきたというだけの話なのだから。

 

 上級生ーーというのなら蓮も同じだがーーである凛が現れたことで委縮したのか、桜が引き留めようとして挙げたと思われる手が空を泳いでいた。

 

「大丈夫だよ桜。御門先生ならそんな面倒な用事じゃないだろうし」

 

 個人的にはあの御門(・・)先生からの呼び出しというのが非常に気になる。いや、十中八九この場から蓮を連れ出すための口実なのだと予想はできる。問題は桜が強引についていくと言い出さないかという一点だったが――どうやらその心配はないようだった。

 

「それに、だな。流石に俺も体の調子が本格的に悪かったら断るよ」

 

 つかみ損ねた手を胸元に持っていく姿に一安心する。

 凛が連れて行こうとする先はおそらく資料室などではないだろう。昨日今日、おそらく聖杯戦争関連の事で、関係者、それも敵対者である御門先生(キャスター)の元に妹分同然の桜が尋ねかねない可能性を選ぶとは思わない。口実として他の教師より厳しめと有名な彼の先生の名前にあやかったところか。いや、あの屋上での続きよろしくに三陣営による問答が幕あけるという可能性も無きにしも非ずではあるが。

 

「じゃ、そういうわけだから」

 

「あ……」

 

 そうしているといい加減焦れてきたのか、凛が空気を両断するかのように言葉で持って強引に引っ張りにかかった。

 承諾した手前、またここ数日の空白の情報を埋めておくためにも、改めて彼女と話す機会は必要だったことだ。

 心配してくれる後輩には悪いが、ここは凛の言葉に乗る形で左手で礼の形をり、先行く彼女の後を追う事にした。

 

 

 







 そろそろ主人公してもらわないとと思いつつ、日常編もちゃんと書くよ!
 ただ、彼女らが混入しているからね(

 あ、然りと執筆は続けていますです!
 遅れてすいません。

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