魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~ 作:秋風
5月になったので、本格的に連載再開です。ただし、次の話の構想が2つ別れているのでどっちにしようか悩み中のため、来週か、その次位になりそうです
…戦闘描写は相変わらず辛い
07「紅き破壊神VS烈火の将」
機動六課 訓練スペース
「お前と戦うのは10年前…あの模擬戦以来か」
「ああ。あの時使っていのは木刀…だが、今回は違う」
機動六課の訓練スペース。そのフィールドは平地。訓練を見せるつもりが、急遽二人の決闘が始まったのである。戦闘用区域とされた場所から離れた場所に観戦場が設けられ、そこにはなのはと新人達の他、フェイト、ヴィータがいる。当初、なのはは二人の戦いは訓練見学としては刺激が強すぎると反対してシグナムを止めたのだが、「新人たちには刺激も必要だ」と言って聞かず、ゼロも「雑魚と戦うよりもよほどいい」とやや乗り気である。挙句、後ろについて来ていたヴィータも「諦めろ」と首を振り、フェイトに至っては「シグナムずるい…」と、羨ましそうに二人を見ている。このため、なのはもどうとでもなれと諦めたのである。
「闘う前にゼロ、お前に渡しておくものがある。受け取れ」
「…?」
シグナムはそう言って、手に持っていた袋を開けてソレをゼロに投げてよこした。ゼロが受け取ったのは、かつてこちらの世界でロストロギア「コピーウェポン」と戦った時に落としたヘルメット。ぴかぴかに磨かれたソレは、最早新品同様であった。
「これは…」
「主がお前に渡してくれ、とな。素材はなるべく近い物を使っているらしい」
「…感謝する」
「礼なら主に。きっと喜んでくれるだろう」
そう言いながらシグナムはレヴァンティンの柄に手をかけて抜刀の構えを取った。ゼロも受け取ったヘルメットを被り、Zセイバーを抜刀して構えを取った。
「ああ…やっとだ、やっとお前と戦える。これをどれだけ待ちわびたか。行くぞゼロ。手加減は不要だ」
「……無論だ。全力で戦わせてもらう」
「夜天の書が守護騎士、ヴォルケンリッターの将シグナム! いざ参る!」
「……いくぞ」
互いにその言葉と共に地面を蹴り、シグナムはレヴァンティンを抜いてゼロへ。ゼロもZセイバーを振るってシグナムへ。お互いにその刃を振り下ろした。その瞬間に凄まじい衝撃音が鳴り響く。Zセイバーの刃はビーム兵装であり、本来ならシグナムの持つレヴァンティンのような物質兵器などは容易く切り裂くことが出来る。しかし、シグナムの持つレヴァンティンはただの剣ではなくデバイス。レヴァンティン自身がゼロの兵装を理解し、魔力をいつもより多く纏っていることで、このお互いの拮抗が生まれていた。
「はあっ!」
「っ…!?」
しばらく続いた鍔迫り合いだったが、シグナムはそれを拒否。片足を軽く浮かせ、地に着いた足を軸にして回転。回転後に両手でレヴァンティンを持ってゼロへ一閃する。回転を加えて威力を上げたシグナムの一撃。ゼロはそれに対して避けることをせず、Zセイバーで再び対抗する。いつもなら腕1本でZセイバーを扱うゼロだが、その一撃は片手で支えられるものではなく弾かれてしまう。それを直感的に不味いと感じたゼロは地面を蹴って距離を取り、バスターショットを構えてトリガーを引く
「この程度!」
「チィ…!」
連射されたバスターの弾丸はシグナムによっていとも容易く打ち落とされる。さらに、それを終えたシグナムは空中へと飛ぶ。しかし、その飛ぶという行為はすぐに停止させた。
「行くぞゼロ、この一撃…受けてみろ。レヴァンティンっ!」
「…!」
『ロードカートリッジ』
ガシャン、と音を立ててレヴァンティンがカートリッジを装填する。それと同時にレヴァンティンに炎が灯り、シグナムがゼロめがけて急降下する。
「紫電、一閃!」
「……!」
炎を纏ったレヴァンティンとZセイバーがぶつかると同時に、激しい爆発が巻き起こる。それによってお互いに吹き飛ばされ、ゼロは回転しながら地面に着地する。一方のシグナムも、反動で空中へと押し戻された。
「やるなゼロ…しかし今の一撃を受け止めるとは…」
「ちょっとした小細工だ」
そう言ってゼロは立ちあがりながら、Zセイバーを拾いあげて見せる。すると、その翡翠の刀身は黄色く光を放ち、バチバチと音を立てていた。ソレを見たシグナムは自分の一撃を止めたられた理由を理解したのか、短く笑う。
「なるほど…私の“炎熱”に対して有効な属性武器を使ったのか」
「雷の属性付与。上手くいくとは思わなかったがな」
そう、カートリッジを使ったシグナムの一撃を受け止めたのはなにも、純粋にゼロだけの力と言うわけではない。もちろんゼロ内部に宿るクロワールのサポートもあってこそだが、それだけではまだパワー負けしてしまう。ならば、とゼロが付けたのは3種類存在する属性チップのうちの1つ、雷のパワーを宿したチップ。ゼロの世界においてはそれぞれ属性攻撃をする際、雷⇒炎⇒氷⇒雷という三すくみが存在する。ゼロがネオアルカディア四天王と互角以上の戦いを繰り広げてきたのも、ファントムを除いた彼ら四天王に対して有効な属性をぶつけていたことで助けられた部分も大きい。しかし、世界が違うが故に、この三すくみはこの世界でも成立しているのかという疑念がゼロの中にもあった。結果としては相手の攻撃の属性に対してその攻撃を軽減させるだけの効力はあったらしい。
「さて、仕切り直しと行こうかゼロ」
「ああ…そうだな」
互いに持つ刃を構え直し、ゼロは地面を蹴って空中へ跳び、Zセイバーを振りあげる。シグナムも空中からの制御をやめて重力に任せて降下し剣を振り下ろすのだった。
*
「何、コレ…」
ティアナが最初に漏らした言葉がそれだった。自分達の上司であるシグナム。その名は烈火の将として管理局内では広く知られているが、その実力を見るのは初めてである。その実力は歴戦の勇士といっても過言ではないほど。それにティアナは納得が出来た。しかし、片やゼロの実力もそれに拮抗するか、それ以上の力を持っているように見える。ガジェットを圧倒していたところを見るに強いのは理解していたが、これほどとは思わなかった。
「やっぱりゼロさん強いねぇ」
「うん。昔の私たちじゃ歯が立たなかったもん」
「えっ…お二人もゼロさんと戦ったことあるんですか?」
なのは、フェイトの言葉に驚いたようにスバルが声を上げた。
「そうだよ。10年も前の話だけどねー…私とフェイト隊長、それに2人を加えた4人でゼロさんに挑んだけど結果は惨敗。私とフェイト隊長は気絶させられちゃったし」
「ちなみに、シグナムも10年前に1度模擬戦やってんぞ」
なのはが苦笑している横で、ヴィータは二人の戦いを見ながらそう呟く。全員の視線がヴィータに集中したことに気がついたか、そのまま言葉を続ける。
「うちらがゼロと会って間もないころにな。互いに木刀でやり合った」
「結果はどうだったんですか?」
ヴィータの言葉に、キャロがその結果を聞く。キャロだけではなく、その場にいる全員が気になる内容とも言えるだろう。
「結果は引き分けだ」
「引き分け…?」
「二人にはまだまだ余裕があったんだが木刀が先に折れた」
ヴィータの言葉に、開いた口が塞がらないスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。一方のなのはたちはあの人達ならありえるかも、と苦笑している。
「ただ、あの時点ではゼロの方が間違いなく強かったと思う」
「どういうこと? ヴィータ」
「だって、引き分けなんですよね」
フェイト、エリオの言葉にヴィータは小さくため息を吐く。なにも、二人の質問が馬鹿らしい、というわけではない。この後のリアクションに対応するのが面倒だと思っているからだ。
「ゼロはシグナムの攻撃をその場から動かず、動くのは片足で重心を動かすだけ。シグナムの振り下ろした木刀を全部捌いて反撃してた」
そのヴィータの言葉に、その場にいた数人が「えー!?」と声を上げた。ヴィータもソレを予想していたらしく、ため息を吐いて「うるせぇ」と一蹴するだけであった。
「なにソレ凄い」
「あの人、何者なんですか」
スバルが驚いている中、ティアナがそんな風にヴィータへと問い掛ける。
「何者もなにも、アイツは…レ「ちょ、ヴィータちゃん!?」お、おい何するんだ」
レプリロイド、という言葉が出る前になのはがそのヴィータの口を塞ぐ。その様子に驚くスバルたちだったが、なのはは乾いた笑いでその場をやり過ごす。そんな光景を見て、ティアナは彼女達が何か隠しているのではないかと考える。
(やっぱり、あの人には何かあるの…? でも、隠すようなこと…? いったい、何が)
ティアナはなのはたちから視線を外し、再びシグナムとゼロの戦いが映るモニターへと視線を戻した。そこでは両者がかなりズタボロで戦っている様子が映し出されていた。
(……これだけ強い“人達”を保有する機動六課。その目的ってなんなの? それに、私はどうしてこの部隊にいるんだろう)
睨むかのように、ティアナはそのモニターを見続けるのであった。
*
戻って戦闘区域。その場は最初こそ平地であったのにもかかわらず、いつの間にか荒野と化していた。シグナムの炎熱によって焼かれて焦げた大地。ゼロのZセイバーのチャージによって砕かれた地面や、えぐれた地面。それらを行った両者もボロボロであった。
「ふ、ふふふ…流石はゼロだ。心が躍る!」
「強くなったものだ…」
笑みを浮かべるシグナム。それは強者と戦えることに対する喜び。ここまで来ると戦闘マニアというよりも戦闘中毒者(バトルジャンキー)と呼んだ方が正しいかもしれない。そして、その強さを見せるシグナムに対してゼロも素直に彼女の実力を称賛していた。10年前は四天王と互角の実力と思っていたが、今ではそれ以上の実力を持っているようにも思える。しかし、ゼロは戦いながらシグナムにある違和感を感じ取っていた。だが、それに対してシグナムはなにも言ってこない。ならば、ゼロも何も言わない。彼女が「全力で」と言ったならば、それに答えるまでである。
「お互いボロボロだな…恐らく、次が最後の一手か」
「……そのようだ」
シグナムは手持ちの最後の撃てる数発のカートリッジを見つめ、それをレヴァンティンへと込める。一方のゼロも手に握るZセイバーをチャージして力を込めた。
「行くぞ…! ゼロ!」
「こちらも行くぞ、シグナム…!」
両者が駆け出し、その己の刃をぶつける。その力はもはや疲弊も重なりほぼ互角である。ここからは両者がどう仕掛けるかで勝負が決まってくる。
「レヴァンティン!」
『ロードカートリッジ!』
「紫電…!」
「させるか…!」
先に仕掛けたシグナムに対して、言いながらゼロがZセイバーに籠るチャージを解放し、チャージ斬りを放った。この0距離からの必殺技はゼロも読んでいた。ゼロもそのまま強引にレヴァンティンを斬ろうとしたが、ソレは失敗に終わる。突然シグナムの持っていたレヴァンティンの刀身が崩れたのだ。
「なにっ…!?」
「…かかったな、ゼロ」
刀身が崩れ、目標を失ったチャージは地面をえぐり取る。刀身が崩れたからにはシグナムを捉えると思っていたゼロだったが、その刃が崩れると同時に身を引き、そのレヴァンティンを振るう。そう、彼女が発動させたのは“紫電”ではなかった。
「飛龍、一閃!」
鞭のようにしなりながら宙を舞うレヴァンティンの連結刃。それはゼロを絡め取る。ソレを確認したシグナムは力任せにレヴァンティンを振りあげ、ゼロはその反動で空高く放り投げられる。本来の飛龍一閃はその連結刃となったレヴァンティンを振り下ろす技なのだが、今回はそうではない。そう、このゼロを空中へと吹き飛ばすことこそ、シグナムの真の狙い。
「決めるぞレヴァンティン!」
『了解。ロードカートリッジ』
そのレヴァンティンの声と共に、レヴァンティンが鞘と重なり1つになる。生まれるのは弓。それこそシグナムの持つ炎の魔剣レヴァンティン第三の姿。本来ベルカの騎士が不得意とする「遠距離」を制するための一撃必殺の攻撃を達成するための形態であり、鞘と一体化して形成される。シグナムが魔力で生成した矢を作りだし、標準を空中で無防備となったゼロへ狙いを定める。
「駆けよ、隼!」
『Sturm Fa l ke!』
レヴァンティンの声と共にシグナムの矢が飛んでいく。「シュツルムファルケン」の名を与えられたこの射撃は、発動・発射には多大な隙を生じるものの、到達速度・破壊力の2点においてはシグナム保有の攻撃魔法の中でも最大級の性能を誇っている。ゼロを空中に飛ばしたのも、このスキをカバーするためのものである。その矢はゼロが避ける間もなく爆発。ソレを見て、シグナムは渾身の一撃を与えたと確信する。
「やったか…?」
『手ごたえはあったと思いますが…』
しかし次の瞬間爆発の煙から何かが飛びだし、地面へと着地する。それは紅き身体と、金色の髪をなびかせる存在。紛れもない、ゼロであった。ソレを見てシグナムは驚きを隠せなかった。有に数十メートル空中へと投げ出され、姿勢制御もままならない状態でシュツルムファルケンを受けたと言うのに、どうして無事なのか。その一瞬の考えが、シグナムの隙を生んだ。Zセイバーを構えたゼロが地面を蹴り、一気にシグナムへと距離を詰めて突っ込み、その刃を振り下ろす。
「はああっ!」
「しまっ…!」
周囲に衝撃が走り、砂埃が立ち上る。しばらくは砂埃で見えなかった周囲。その視界が晴れたその場には、倒れるシグナムの姿があった。そして、そのすぐ横には、Zセイバーが突き刺さり、そのシグナムの上に乗る形でゼロがいた。
「俺の勝ちだ」
「ああ……そして、私の敗北だ」
ゼロは静かに自らの勝利を、そしてシグナムも静かに自らの敗北を宣言するのだった。
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