魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~ 作:秋風
ただでさえ遅い更新ですが、さらに遅くなるかもしれません
今月中に就職活動に決着をつけたいので、正直なところ来週の日曜日に新しい話を上げる自信がありません
私事にて、大変申し訳ありませんが、なにとぞご了承くださいませ
では、最新話です
フェイトが部隊長室を後にしてからしばらく経って、はやてはようやく報告書を書き終えた。デスクワークには慣れているはやてだが、その量は半端ではない。やっとの思いで書き終えた報告書を見て、大きくため息をついた。
「ほへぇ…終わった」
「お疲れ様です、我が主」
「お疲れ様です! はやてちゃん」
とりあえず書き上げた報告書だが、はやての仕事はこれで終わりではない。今回の機動六課初出動の任務で保護された、次元漂流者との面会が残っているからだ。
「ほな、次元漂流者さんに会いに行こか」
「そうですね」
「どんな人なんでしょうね~ 多次元世界のことをすぐに理解する人達なんて初めて聞いたです!」
リインフォースⅡの言葉に、はやては確かにと頷く。次元漂流者…それは、自分たちのいるミッドチルダとは“異なる世界”からの来訪者のこと。世界規模での迷子のことである。はやてもまた、この世界とは違う場所の出身であり、自分の住んでいる場所以外に世界があるなど、魔法を知る前は考えもしなかった。そもそも、他に世界があるという話をはやての世界では誰が信じるのだろうか。今まではやてが管理局員として勤めてきた中で、多次元世界のことを理解してくれる人間など数えるほどしかいない。最後まで信じてもらえず、やむなく気絶させて元の世界に送りかえしたなんて話も聞いたことがある。それにも関わらず、すんなりと多次元世界のことを理解してくれるその次元漂流者に対して、はやては驚き半分、安堵半分である。そして、その人物がどんな人物なのか、はやては興味があった。
「案外、以前に次元漂流者になったことがあったりしてな~」
「もしかしたら、そんなこともあるかもしれませんね」
そんな話をしながらはやては歩いていたが、次元漂流者、という言葉ではやては小さく、「もう9年か」と呟く。魔法と出会う以前、はやては地球で異世界からの来訪者に会ったことがある。美しい金髪の髪と、燃えるような紅いボディを纏う1人の戦士。それははやてにとって、そして家族であるヴォルケンリッターにとって、大切な存在。
(今頃、何してんのやろ…シエルさんたちと再会して、向こうの世界の人やレプリロイド達のためにまだ戦ってるんやろうか…)
願わくば、彼がもう戦わず平和に暮らしていて欲しいと思うはやて。その様子に気づいたのか、リインフォースⅠがニッコリと笑う。
「大丈夫ですよ我が主。ゼロならきっと、平和な世界で暮らしています」
「せやな、心配しててもしゃーないわ」
「なんのお話です?」
二人の会話に首を傾げるリインフォースⅡ。彼女だけは、ヴォルケンリッターの中でゼロとの面識がない。今はいないもう1人の家族、ゼロのことを説明すると、リインフォースⅡは「あぁ~」と頷く。
「いつかリインも会ってみたいです。そのゼロさんという方」
そんな会話をしていると、いつの間にか3人は応接室へと辿りついた。果たして、どのような人物が待っているのか。はやては若干緊張しながらも、扉の前に立った。
「よっしゃ、ご対面と行こか」
はやてが部屋をノックすると、「はい」と可愛らしい女の子の声が帰ってきた。それを聞いて、はやてはその声がどこかで聞いたような気がすると思いながらも、部屋のドアを開いて中に入った。
「初めまして、この部隊を指揮する部隊長、八神はやてと……え?」
部屋に第一歩を踏み出し、自己紹介をした瞬間、はやては硬直した。その目の前にいる人物に釘付けになったからだ。美しく輝く黄金の髪、黒のボディースーツと、それの上に羽織る、燃えるような紅いボディ。見間違えようがない。後から入ってきたリインフォースが声を上げるよりも先に、はやては駆け出し、その人物へと飛び付いた。
「ゼロ――――!」
「……久しぶりだな、はやて」
飛びついて来たことに驚きはしたものの、それをしっかりと受け止めたゼロはそう一言、はやてに返す。ゼロとクロワールにとっては1年ぶり。はやてにとっては9年ぶりの再会。感動がないわけがない……はずであった
「え? え? なんで? なんでゼロが? 本物? あれ?」
喜びの涙の前に、はやてを混乱が襲っていた。確か、自分は次元漂流者と会いに来たはず。なのに、ずっと自分が長年再会を待ちわびた人物に自分は抱きついている。いったい、何がどうなっているのか、はやては現状が理解できない。そんな様子を見て、ゼロが小さくため息をついた。
「……なのはやフェイトから、聞いていなかったのか?」
「ほぇ? え? え?」
「落ちつけ。俺達が次元漂流という形で、この世界に来たこと。聞いてなかったのか?」
ゼロに言われて落ち着きを取り戻したはやては、フェイトとの会話を思い出す。フェイトはこう言っていた。“多次元世界の説明を理解している次元漂流者”これはつまり、最初から自分が次元漂流者である自覚があるということ。はやてはそこでようやく、フェイトが自分を驚かせるために名前を言わなかったことに気がついた。
「ふ、ふふふふふ…フェイトちゃん、後で覚えとれよ」
「…変わらないな、お前は」
「ホントホント」
短く笑うゼロと笑顔のクロワールの言葉にはやては慌てて離れ、顔を真っ赤にしながらゼロ達を指差した。
「なっ…ゼロ達やって変わってへん! 9年経ってるのになーんも!」
それもそうだな、と短く笑うゼロを見て、はやてはゼロが帰ってきたことに改めて涙を流し、笑顔を見せた。
「おかえり、ゼロ、クロワール」
「……ああ、ただいま」
「ただいま、はやて」
「あー…コホン」
嬉しそうに抱きついているはやてを見て若干嫉妬心を持ったのか、ジト眼でリインフォースがゼロを見た。
「ゼロ、私には何もないのですか?」
「久しぶりだな、リインフォース…お前も、かわりないようで安心した」
「…ええ、貴方も同じようにおかわりなく」
ようやく自分の名前を呼んでもらえたことに喜び、リインフォースⅠはニッコリと笑みを見せる。
「でもゼロ、どうしてこの世界に?」
「…それを説明する前に、紹介する仲間がいる。シエル」
「え? あ、え? 何?」
シエルという言葉を聞いて、はやては驚いて声の主の所を見る。そこには美しい金髪と可愛らしいピンク色の服を着た少女が立っていたからだ。シエルもはやてとリインフォースの行動に驚いてフリーズしていたが、ゼロに呼ばれて正気を取り戻した。
「俺の世界の仲間…昔、話したことがある。シエルだ」
「えっと、シエルと言います。初めまして」
そうお辞儀をするシエルを見て、はやては驚く。まだ、幼い少女ではないか…と。ゼロの話では、レプリロイド達を守るために戦うレジスタンスのリーダーであり、ゼロを蘇らせた存在。そして何より、人間とレプリロイドのために新たなエネルギーを開発した天才科学者であるとゼロから聞いていた。かつて夢に見た時のことから、シエルという女性は今の自分よりもっと年上の女性だと思っていた。しかし、今目の前にいるのは自分の部隊にいるフォワードメンバー、スバルやティアナたちとそう変わっていない少女だ。少し戸惑いながらも、はやてはシエルの前に立った。
「機動六課部隊長、八神はやて言います」
「部隊長補佐、リインフォースⅠだ」
「同じく、部隊長補佐のリインフォースⅡですよ~」
そう言って互いに握手を交わすが、そこでシエルがリインフォースⅡを見て驚く。
「サイバー…エルフ?」
「なんですか? それ」
聞いたことのない言葉に首を傾げているリインフォースⅡに苦笑するはやてだが、それもそのはず。リインフォースⅡのような姿のデバイスはゼロの世界ではサイバーエルフに等しい。そして、リインフォースⅡからすれば、そのサイバーエルフを知らない。互いに当然の反応である。
「リインはサイバーエルフというのじゃないですよ! ユニゾンデバイスです!」
「ゼロとクロワールは驚かへんの?」
「話は聞いていたからな」
「名前も本当にそうしたのね」
はやての疑問に答えるゼロ。すると、リインフォースⅡがゼロの前に来る。
「貴方がゼロさんですね~。そして、貴女はクロワールさん。はやてちゃんやお姉ちゃん、それにシグナム達からも話を聞いてるですよ~。私はリインフォースⅡです! さっきも言った通り、お姉ちゃん、リインフォースⅠの後継機なのです!」
「そうか。なら、自己紹介は不要だな」
「はい~! 暇な時はいつもはやてちゃんやお姉ちゃんからゼロさんのことを「そ、それよりゼロ!」も、もが!?」
リインフォースⅡが余計なことを言う前にと、慌ててはやてがリインフォースⅡの口をふさぐ。
「ゼロ、そろそろ説明してもらいたいんや。なして、ゼロやクロワール、シエルさんがこの世界に来たのかを」
「そうだな、まずは説明する。その前に、盗聴されることを想定して結界を頼む。信用しているが、出来れば他人には聞かれたくない話だ」
「…? そら構わんけども」
ゼロの言葉に疑問を持ちながらも、はやては結界を展開する。聞かれたくない内容、果たしてそれはゼロがこの世界に来たこととどう結び付くのか。
「まず、この世界に来た経緯と、今までについて話そう…」
ゼロは、この世界に来るまでの経緯を細かく話すことにした。まず、自分達が住む世界と、この世界の時差のこと。そして異常なエネルギー調査で出会ったテスタロッサ親子のこと。さらに、その時に押収したロストロギア『ジュエルシード』の発動。マザーエルフのことと、マザーエルフの暗示のこと……ゼロは細かく丁寧に説明をしたが、はやてやリインフォース達は驚かざるをえない。
「な、なんてコメント返したらええか思いつかへん…」
「半分以上、ありえないとしか返せません」
「リ、リインにはさっぱりです~…」
当然の反応か、とゼロは呟きながらゼロは言葉を続ける。
「だが、現に俺がここにいることがその証拠だ」
「せやな…マザーエルフってのが私とゼロを巡り合わせたってことなんやろうか?」
「そうなのかもれしれないな」
うーむ、とはやては考える。これからゼロ達をどうすべきか、頭を悩ませる所である。次元犯罪者として名を知られているプレシア・テスタロッサと、その娘のアリシア。本局が知ればまず間違いなくプレシアは逮捕されるし、アリシアはロストロギアの影響とはいえ、死者から蘇った存在として調査が入る。下手をすれば、アリシアは実験動物扱いされる可能性だってあるだろう。ゼロの話ではプレシアは現在正常で、話が出来る人物だと聞いている。プレシアについては自分で話してみなければわからないことがあるが、一番の問題はゼロ達だ。シエルはともかく、ゼロは人間ではなくレプリロイド。その存在が明るみに出ることだけははやてとしても避けたい。9年前、リンディからゼロをない物として扱うようにしていた理由を聞き、はやてもどうにかしてゼロの存在を管理局から隠せないかと考える。そして、ゼロ達の言っていたマザーエルフの言葉も気になる。世界の崩壊という不吉な言葉。
「ゼロたちは、これからどないするつもりや?」
「それについては…シエル」
ゼロの言葉に、ええ、と頷いてからシエルがはやてを見る。
「私達をこの世界に連れてきたのは間違いなく、マザーエルフです。でも、そのマザーエルフを追うにしても、彼女が今この世界にいるとも言いきれません。それに、彼女の言っていた世界の崩壊…私の考えではもしかしたら、この世界か私達の世界、またはその双方が崩壊する可能性を彼女は考えているのかもしれません」
「つまり、そのためにゼロと貴女はマザーエルフによってこの世界に呼ばれる必要があったと?」
「その通りです。この世界と私達の世界を繋がれているのにも何かわけがある気もします。今後、私達の力が必要だからこそ、1年前いえ、この世界では9年前、マザーエルフはゼロを救い、地球と言う場所へ送りこんだ。異世界という場所をゼロが知るために。ゼロの話では偶然にも、と言っていたらしいですけど、彼女がジュエルシードを発動させる所を見て、もしかしたら彼女はこの世界を知っていたのではないかと考えたんです」
リインフォースの言葉に頷くシエルを見て、はやては“すごい”と驚いていた。自分より年下の少女がいくつもの疑問に対してすぐに自分の考えをまとめ、推理している。それらは全て説得力のある説明。はやては、彼女が伊達に修羅場を潜っていないと再認識させられる。
「奴の手のひらで踊らされているというわけか」
「…ええ、でもそこまでするほど、マザーエルフは何かを危惧していると思うわ」
母なる妖精、そう謳われた彼女が危惧する世界の崩壊。はやてはそれを聞き、この部隊の設立の理由が結び合わさるような気がする。
(もしかしたら…カリムの言うとった“アレ”はそういうこと? だからゼロが…)
「どうした、はやて」
ずっと考え込んでいるはやてを見て、ゼロが声をかける。そのはやての表情は少し暗いようにも思える。まるで、何かを我慢しているかのように
「えっと…その…」
その様子に、ゼロは小さくため息をついてシエルを見る。シエルもまた、この状況で自分達が何をするべきなのがベストかを分かっているようだ。はやての様子を見て自分に頷くシエル。彼女もまた、はやてが切り出せない言葉を分かっているようだった。
「はやて、お前達が望むなら…俺達は機動六課に協力する」
「「「!」」」
「お前のことだ。俺達を案じて何か策を練ろうとしていたのだろう?」
「ゼロ…でも!」
はやてが素直にゼロへ協力を頼めなかったのには、彼女の性格が関係している。はやては単純に、身内に対してとことん甘い。争いが終わり、剣を降ろすことが出来た世界にいたゼロに、はやては再び剣を取らせたくなどなかった。はやてがそれを断ろうとした時、それよりも先にゼロが口を開く。
「はやて、これはこの世界だけの問題ではない。マザーエルフが俺達をここに呼んだということは、俺達の世界にも何か関係のあることが起こるのかもしれない。それを阻止するには、俺達の力も必要になるはずだ」
「ゼロ…」
はやてにも分かっている。マザーエルフが何故ミッドチルダにゼロ達を送りこんだのか? 理由は簡単だ。ゼロがマザーエルフの選ぶ最強の“戦士”だから。ゼロと言う戦士にしかできないことが起こることを想定して、マザーエルフはゼロ達を此方へ呼び寄せた。だからこそ、ゼロがここにいることは正しいと言える。はやては小さくため息をついた。
「まったく、ゼロには敵わへんなぁ…そこまで言われたら断れへんよ」
「俺達の処遇についてはお前に任せる」
「うん、必ずなんとかするから任しとき」
こうして、ゼロははやて達機動六課へと協力をすることとなるのだった。
*
「素晴らしいっ…!」
とある場所で、そんな声が響きわたった。その声を出した主は紫色の髪に、白衣を身に纏った男。その男の前には、ゼロがガジェットと戦う姿が映し出されていた。その様子を不思議そうに女性が見る。
「どうしかいたしましたか? ドクター」
「ご覧よウーノ! 私、ジェイル・スカリエッティの開発したガジェットをいともたやすくこなごなにする彼を!」
男の名はジェイル・スカリエッティ。次元犯罪者として名をとどろかす科学者の男である。男は自分が作ったと言っているガジェットがゼロに破壊されるのを楽しそうに眺めていた。
「ドクター…? この男が何か?」
「この男はAMF下にも関わらずこれほどの力を振るっているんだ。Fの残滓、不屈のエースオブエース…今回取るべきデータはそれだけだったはずなのに、想像以上だ」
スカリエッティは興奮してその映像を見る。その眼はまるで子供が新しいおもちゃを見つけた時のような目にも見える。しかし同時に、どこかなつかしむような顔でゼロを見ている。
「ふふふ、彼の詳しいデータが欲しいところだ…まさか、とは思うが彼は…ふふふふふ、ウーノ、彼のデータを出来るだけ採取してくれたまえ」
「…承知しました、直ちにデータを探してみます」
無邪気にはしゃぎながら映像を見るスカリエッティに一言言ってから女性は立ち去る。しかし、それを気にせず、スカリエッティはその映像に夢中になって見続ける。
「まさかとは思うが…私の記憶の片隅にある、彼の作品かな? Dr.ワイリー」
誰もいなくなった場所で、スカリエッティは静かに呟くのだった
ゼロが優しすぎる…こんなゼロでいいのだろうか
Next「ゼロの実力」