魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~   作:秋風

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メリークリスマス!!!(やけくそ)
皆さんお久しぶりです。秋風です
更新が約1年ぶりという……しかも、クリスマスまでもう時間もないという
遅くなって本当に申し訳ありませんでした

まあ、この小説を見てくれている方が未だにいるかも怪しいですが、時間はかかると思いますが、完結までは持っていくので気長に待っていただければ幸いです。
これからも、宜しくお願いいたします。引き続き、感想、評価、ご意見もお待ちしております。

最後に、もしこの小説のリメイク前、にじふぁんでの小説データで持っているというかたがいらっしゃいましたらご一報をお願いします。データを無くしたため、そのデータが欲しくて探しております……(汗

今回はスバル&ティアナの回になります。では、17話をどうぞ



17「機動六課の夜」(後編)

 なのはが立ち去ったあとの機動六課の食堂。そこに二人の人物がいた。一人は先程までなのはと話していたゼロ。そして、もう一人はスターズ3のスバル・ナカジマである。スバルはやや驚いたような様子でゼロの前に現れた。

 

「あの、どうして……」

 

「人の視線や気配はこの静かな食堂では目立ちやすい……それと、お前の髪がチラチラと見えていた」

 

 歴戦の戦士であるゼロだからこそ、その人の視線や気配を察知できるのだが、そのなのはとゼロの様子を気になって思わず顔を出してしまっていたところをしっかりと見られてしまった故にバレていたスバル。そんなスバルにゼロは言葉を続けた。

 

「それで、俺に何の用だ。俺に聞きたいことがあってわざわざ就寝時間が過ぎた時にやってきたんだろう?」

 

「……はい。ゼロさんに、聞きたいことがあってきました」

 

 ゼロの問いに、スバルは頷いてゼロを見る。ゼロは近くの席に座るように促して座り、スバルもソレに釣られるように席についた。

 

「聞きたいことは、大方俺の体についてか」

 

「は、はい……」

 

 なんとも気まずそうに、スバルは頷いて答える。ティアナを庇った時に吹き飛んだ腕から垂れていたコードや、体のところどころに走っていたスパーク。そして、吹き飛んだはずのうでは既にゼロの腕についている。これで普通の人間というのは無理があった。

 

「俺はレプリロイドだ。高度なAIを搭載したロボット……といえばわかりやすいか。予測していただろうが、人間ではない……少なくとも、お前のように人間の体である部分は有していないぞ、スバル」

 

「っ……!」

 

 ゼロの言葉に、スバルの顔が強張った。ゼロがロボットであるということについての驚きではない。否、ゼロがロボットという事実にも十分驚いたが、それ以上にゼロの最後の言葉の部分にスバルは驚いているように見えた。これではまるで、スバルもゼロと同様に人間ではないとゼロが知っているような言い方だった。

 

「ど、どうして……」

 

「お前から微かに聞こえる機械の駆動音だ。最初は体の四肢が義手義足であるかとも思ったが、ソレにしては動きが“あまりにも自然すぎる”。しかし、俺と同じようなレプリロイドだとしても、人間と同じように食事をし、戦闘訓練などでも汗を掻いているのはロボットとしては逆に不自然だ。故にお前は人間の体を持ちながら体の各所に機械を搭載していると考えた」

 

「……はい。ゼロさんの言うとおりです。私は……いえ、“私も”、普通の人間とは別の……『戦闘機人』と呼ばれている存在です」

 

 ゼロの予測に、スバルは頷き、静かに自身のことを打ち明けるのだった。

 

 

 

 

 ゼロがスバルから聞かされたのは、自分と姉が戦闘機人であることと、この世界に存在する戦闘機人という存在について。人体に身体能力を強化するための機械部品をインプラントし、人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得たサイボーグの総称であること。天賦の才や地道な訓練に頼る「魔導師」とは異なり、誕生に人為的な力を介在させることで安定した数の武力を揃えられる技術であるが、倫理的な面に大問題を抱えており、現在、ミッドチルダの法律では違法とされる技術でもあるのだという。鋼の骨格と人工筋肉を持ち、遺伝子調整やリンカーコアに干渉するプログラムユニットの埋め込みにより高い戦闘力を持つのだから、確かにスバルがゼロを自身と同じような存在なのではと思うのも無理はないだろう。そして、スバルはそんな自分の出生には謎が多くあり、故にゼロも同じ戦闘機人ならソレについてなにか情報を得られるのではないかと思ったのである。

 

「なるほど、それでお前は俺を戦闘機人だと思った、と」

 

「……はい」

 

 一通り話を聞いてから、ゼロはそうスバルに問いかけた。スバルもそのゼロの言葉に頷いてゼロを見ている。スバルにとってゼロは最初こそ自分たちの任務でフォワードメンバー全員を助けてくれた恩人であり、この機動六課に協力してくれている仲間だという認識だった。しかし、ホテルアグスタでの戦いでゼロの姿を見た時、スバルは直感的にゼロが自分たちと同じ戦闘機人なのではないだろうかと思い込んだ。故に、スバルはゼロのことをもっと知りたいと思い、ゼロにこうして話をすることにしたのである。しかし、ゼロは戦闘機人ではなく、すべてを機械で構成するレプリロイドという存在。人の形をしていながらも、人ではないゼロの存在はスバルに大きな衝撃を与えていた。

 

「確かに、俺(レプリロイド)とお前(戦闘機人)は似てはいるが……まったく違う存在だ。残念だが、お前の出生についてはわかるような情報はないだろう」

 

「そう、ですよね……すみませんでした」

 

「……それで? 他に何が聞きたい」

 

「っ……!」

 

 ゼロがそうスバルに問いかけた瞬間、スバルの表情が強張った。スバルが本当に聞きたいこと……それは、自分の出生についての情報など二の次。ゼロに聞きたいのはまた違うことだった。

 

「ど、どうして……」

 

「かつて、何度か似たような目をしたやつを見てきた。迷ったり、思い悩んだり、苦しんでいる、そんなやつの目を」

 

 かつて、なのはが自身の今後について悩んでいた頃や、フェイトが自分の出生で思い悩んでいたときの目。スバルの目はゼロからすれば同じように見えていた。それは、かつて戦った戦士、クラフトも似た目をしていたからこそ、ゼロはそれを理解できたのだろう。その鋭い眼差しに、スバルは嘘をつくことは出来ないと観念したのか、静かにゼロに問う。

 

「ゼロさんから見て、私は、戦闘機人は、人間に見えるでしょうか……」

 

「……」

 

 いつも明るく笑顔を絶やさないスバルからは考えられないほど落ち込んだ表情で、ゼロに問いかける。彼女の悩み……それは、自分がまっとうな人間ではない、普通の人間とは違う形で生まれて生きていることについてだった。自分の事情について知っている者たちは自分を人間として扱ってくれている。ある者は自分を家族として、ある者は自分を友人として、自分に接してくれている。それは、とても嬉しいことだ……だが、その気持ちの裏で「自分は本当に彼らと共にいることは正しいのか」と思ってしまう。自分は人間ではなく戦闘機人……“人間”ではないのだ。もし、自分のことを今後知る人が増え、自分のことを知った人間から自分が拒絶されたら、怯えられたらと思うと、震えが止まらなくなる……故に、自分と似た存在、否、自分と同じように人ではないゼロから見て、自分はどう映るのか、それを聞いてみたかったのだ。

 

「……俺から見ても、お前は人間には見えない。当然だ、お前は戦闘機人なのだから」

 

「っ……!」

 

「だが、お前が人間でありたいと願うなら。お前は人間であり続けられるはずだ」

 

「……え?」

 

 ゼロの否定する言葉に、一瞬辛そうに顔を歪めたスバルだったが、そのゼロが続けた言葉に、スバルは思わず声を漏らす。

 

「お前が戦闘機人であることは覆しようのない事実。人間にはなれないが、それでも“機械”ではなく“人”として生きることをお前が願い、望むのならば、お前は人であり続けられるはずだ」

 

 それは、ゼロ自身が同じようにしているからこそ出た言葉。ゼロとスバルは少しだけ似ていた。かつて、自身の肉体と精神を分けられ、精神を写し身の体に入れられたゼロ。それによってまがい物であるとまで言われていた。しかし、友は言った。「心はまぎれもなく本物」だと。故に、その言葉を信じて自身をゼロだという。たとえ、自分の体が写し身の体だとしても、自身をゼロであることを望み、ゼロでありたいと願った。だからこそ、ゼロはゼロでいられるのだ。かつて、フェイトに言ったときと同じように、ゼロはスバルにそう話す。

 

「戦闘機人、と呼ばれている以上、戦闘機械になることも、人になることも可能だろう。たとえ他人からなんと言われようとも、お前が人間であり続けようと思うのならばお前は人間でいられる。大切なのは、お前がそう願い続ける心だ。スバル・ナカジマ」

 

 自身が望み続けるのならば人間でいられる。ゼロの言葉に、スバルの目からは自然と大粒の涙がボトンとテーブルの床に落ちていた。

 

「あ、れ……? なんで、涙が……す、すみません! ちょっと待っていてください!」

 

 そう言ってTシャツの袖でその涙を拭うが、一向にその涙が枯れる気配がない。そんな様子を見て、ゼロは一つ小さなため息を吐いて立ち上がると、持っていたハンカチでその涙を拭ってやる。

 

「あっ……」

 

「……今までよく頑張った」

 

 よく頑張った、とは、スバルが今まで思い悩んでいたことを誰にも打ち明けていないという予測故に出た一言だった。そのスバルの悩みの深さはゼロにはわからない。しかし、いつも笑顔でいるスバルが涙を流して泣いているのだから、その悩みの深さは相当なものだったのだろう。我慢ができなくなったスバルは思わずゼロに抱きつき、声を出して泣き始めた。ゼロもそれを振り払わず、先程はやてとなのはへしたように抱きとめ、スバルが泣き止むまで優しく頭をなで続けて慰めるのであった。

 

 

 

 

 ゼロがスバルと話をしている丁度同時刻。

 

「シューット!」

 

 スバルの相棒であり、スターズ4であるティアナは食事を終えて、一人で猛特訓をしていた。出現させたスフィアを撃ち落とす簡単なもの。しかし、その撃ち落とす明確な射撃、そして一撃で落とす威力、それを何時間も行えば当然無理も生じるのだが……

 

「もっと……まだ足りない……!」

 

 身体に負担をかけてしまうその特訓を何時間も繰り返すティアナには、今日のような失敗をもう二度としないために、と訓練に励む。しかし、その脳裏にはあのVAVAの顔が映っていた。あの恐怖の対象でしかない男を忘れようと、がむしゃらに特訓を重ねる。もちろん、そんな無理な訓練は許可されているわけが無く、隊長であるなのははティアナの特訓は知らない

 

「あ……」

 しかし、その無理が祟ったのか、突然目まいが起き、ティアナはその場に倒れこんでしまった。

 

(あたしは凡人なんだから、強くならなきゃ……もっと……もっと……!)

 ティアナの意識は、闇の中へと溶けていくのだった。

 

 

 それからしばらくして、ティアナは再び意識を覚醒させた。そこには、予想外の人物の顔が映り込んでいた。

 

「……あ、れ? 私……」

 

「あ、ティアナさん。目が覚めました? 良かった……」

 

「え……シエル、さん?」

 

 意識を覚醒させたティアナの目に飛び込んできたのは、自分が疑念を抱いている少女、シエルだった。彼女が自分を上から覗き込むように見ていることに驚く。自分は今まで一体何をしていたのか、と。自分は確か、今日の戦闘でのミスを隊長、副隊長に叱られ、その後そのミスの悔しさから自主練をしていたはずだ。だというのに、どうして自分はシエルに膝枕をされているのか……と

 

「そこの林の中で倒れていたの。それで、このベンチまで運んできたんですけど、うなされていたみたいだったから……クロスミラージュさんが私を呼んでくれなかったら、きっとそこで寝たままだったと思うわ」

 

 そう言いながらニッコリと笑みを見せるシエル。そんなシエルにティアナはなんと言っていいかわからず、頭を抑えながら体を起こした。すると、シエルはそんなティアナにスポーツドリンクを差し出した。

 

「どうぞ。ちょっと、ぬるくなったかもしれませんけど……」

 

「あ、ありがとう……」

 

 お礼を言ってスポーツドリンクを受け取り、ティアナはそれを口にする。ぬるくなった、と言っていたがそんなことはなく、程よく冷えたスポーツドリンクが体の中に染みていくのがわかった。スポーツドリンクを飲み終え、ティアナは改めてシエルへ疑問を問うことにした。

 

「……でも、どうして貴女がここに?」

 

「少し散歩していたのと、ティアナさんとお話がしたかったから」

 

「私と?」

 

 ええ、とシエルは頷くも、そんなシエルにティアナは疑問を抱く。自分はゼロと、そしてシエルに対しては不信感を抱いている。ソレはおそらく、シエル自身も理解していることだろう。だというのに、そんな自分と話がしたい、というのはいったいどういうつもりなのか。

 

「今日の戦闘での失敗のことで、すごく自分を責めているみたいだったから」

 

「……」

 

 シエルの言葉に、ティアナの表情は険しくなった。なぜ、この人がそのことで自分のところに来たのかと。今日の自分のミスショットについて彼女は全く関係ないし、心配されるのも余計なお世話だ。そうシエルに言おうとしたティアナだが、それは叶わなかった。

 

「ティアナさんのお兄さんこと、ヴィータさんから聞いたわ。それに、実力がついてないと言って、毎晩なのはさんたちに黙って自主練習をしていることも」

 

「んなっ……!?」

 

 シエルの言葉に、目を見開くティアナ。まさか、夜に禁止されていたはずの自主練習のことが副隊長であるヴィータにバレていたとは。シエルが自分の事情について知ったということに怒りを覚えたが、その内緒にしていた自主練習がバレていることに驚いてそんな怒りの感情はどこかへと行ってしまっていた。

 

「みんなに近づくために、強くなろうとすることはとても立派だと思う。でも、そんな風に体を痛めつけてまで訓練をすることは……きっと、お兄さんも望んでいないと思うの」

 

「っ……! うるさいっ! 貴女に何がわかるっていうのよ!」

 

「確かに、私は貴女のことを深く理解しているわけじゃないわ……でも」

 

「だったらほっといてよ! 貴女には関係ないじゃない! 私は強くならないといけないの! 凡人の私にできるのは、練習の量を増やして実力を上げることしかないんだから!」

 

 関係ない……ティアナにとって、シエルは仲間と認識しているわけではない。敵なのではないかという疑念すらある。そんな彼女に、自分のことは関係ないだろう、と、ティアナは立ち上がってそう言葉をぶつける。しかし、シエル引こうとはしない。

 

「確かに、関係ないかもしれない。でも、貴女のその気持ちはとてもよくわかる」

 

「なんっ……」

 

「私もかつて、大切な人を失ってしまったことがあるから」

 

「っ……!?」

 

 シエルの言葉に、ティアナは思わず息を呑む。驚くティアナにシエルはかつて自分が自分たちの世界でレジスタンスとして活動していたことを告げた。そして、とある者を甦らせるために、『二人』の人物を失ってしまったことも

 

「私の目の前で、彼らは死んでしまった。その時、私は思ったわ……私に、もっと力があったならって……」

 

「……」

 

「でも、私はレジスタンスのみんなやゼロのように戦う才能はないし、技術もない……無理に力を得ても、それは所詮付け焼刃……すぐにほころびが出てしまう」

 

 何度、シエルは自分の無力さを嘆いたかはわからない。自分の間違いに気が付き、不当な廃棄処分を言い渡されたレプリロイドたちを連れてネオ・アルカディアを出た。でも、そんな自分たちをネオ・アルカディアが見逃すはずもなく、何人もの仲間が殺されてしまった。そんな時思った。自分に戦う力があれば、みんなを守れるのに……と。しかし、シエルは所詮人間の少女。とても戦うことはできなかった。故に、彼女は別の道を取ることにした。

 

「だから、私は自分にだけできる精一杯をしようって決めたの。他人を真似ることはできない……ならせめて、私が得意とする『科学の力』で、みんなを助けたいと思った」

 

「自分にできる、精一杯……」

 

 その結果、彼女はシステマ・シエルを生み出し、エリアゼロで再び人間とレプリロイドが共存できる場所を作ることが出来た。戦うことが出来ない彼女だからこそできた選択と言えるだろう。

 

「私にもあった、自分にだけできる精一杯……だから、きっと、ティアナさんにもあるはず。貴女にだけできる精一杯が」

 

「あたしにだけできる、精一杯……」

 

「ティアナさんは、確かに戦う力がみんなより劣っているかもしれない……でも、その代わりにきっと、ティアナさんにしかできない、精一杯できることがあるはず。そして何より、貴女は一人じゃない……スバルさんたちも、きっと貴女だけが強くなることなんて望んでいないと思うわ」

 

 シエルの言葉に、ティアナはその視線を落として自分のデバイス、クロスミラージュを見つめていた。そんなティアナの手を、シエルが優しく包み込む。そんな彼女の優しさに触れてか、ティアナは冷静になり改めて、今までの自分の事を振り返った。他のフォワードメンバーやゼロに嫉妬して、一人で無茶な訓練を続けてきたことを。確かに個人の能力を上げることは間違っていない。凡人である自分が他のメンバーたちに追いつくために……しかし、自分一人の能力を上げるだけでは意味が無い。今の自分は一人で戦っているわけでも、スバルと二人で戦っているわけでもない。スバルはもちろん、それにエリオやキャロと、そしてなのはやヴィータ、フェイトやシグナム、そしてゼロと共に戦っているのだ。確かに、このメンバーの中では自分は火力不足だが、自分が必要なのはそこではない。センターガードとしてより正確に、より早く敵を打ち抜くための判断力と、チームを指示するための視野の広さが必要になる。それは、自分のしてきた今までの訓練ではまったく伸びていないことだった。しかし、ティアナはそれこそ自分にできる精一杯であることを理解する。そして、もう一つ理解する……自分が今までどれだけ愚かなことをしていたのかと。

 

「……シエルさん、ありがとうございます」

 

「ティアナさん?」

 

「シエルさんの言うとおりです。あたし、どうかしていた……みんながいるのに、みんな、一緒に戦う仲間なのに、勝手に嫉妬して、自分だけ強くなろうとして……無茶をしてスバルを危ない目に合せて……私がすべきことは、あたしが出来ることは、それだけじゃないのに」

 

 そう言いながら、ティアナは今までの自分を振り返って悔しそうに自分のデバイスであるクロスミラージュを握る。

 

「あたし、ゼロさんにも嫉妬していたんです」

 

「ゼロに?」

 

「ゼロさんと初めて会った時、スバルたちはただその力に驚いていました。でも……あたしはただただ『“怖かった”』。あの人が見せる、その圧倒的な力が。でも、同時にそんな力を持っているゼロさんを羨ましく思ってしまっていました」

 

 ゼロとの出会いで、自分の力不足であることを更に抱くこととなったのは間違いない。圧倒的なその力に恐怖し、そして嫉妬して、いつしか、自分以外のメンバー全員に自分は劣る凡人だと思うようになってしまった。

 

「冷静に考えてみれば、馬鹿みたいですね……あたしって。失敗のことを気にして、倒れるまで訓練をするなんて」

 

 先程シエルが言ったとおり、得意でない所を無理に伸ばしてもそれはただの付け焼刃。熟練、熟知した力こそ、誰よりも勝る力になる。自分も輝いてはいないものがある。例えばの話だが、相対して輝きを放つ上司のなのはは、その10年という年月をかけて極めたからこそ得た輝きなのだ。

 

「そんなことはないわ。それに、力を求めるのは誰もが考えることよ……でも、力を求めすぎるあまり、暴走してしまうのも、それもまた間違いなの」

 

「シエルさん……?」

 

「……昔、私たちの仲間にいたわ。力を求めるあまり、狂ってしまった人が。その人は、私とゼロがいたレジスタンスの司令官だった。当時の私達にとって、とても心強い仲間だった」

 

 かつて、ゼロが自らを囮として自分たちを逃した後のことをシエルは思い出す。自分たち以外のレジスタンス。そんな彼らと合流した時は、ゼロがいなくなったこともあってとてつもない喜びと安心を得たのを覚えている。その別のレジスタンスにいた男に司令官を任せることにした。その男の名はエルピス。ゼロと再び合流するまでの間、自分や他のレジスタンスのメンバーを支えてくれた大切な仲間だった。

 

「でも彼はある時1つの失敗をした……急ぎ過ぎて、取り返しのつかない、大きな失敗を」

 

「……一体、何を」

 

「“正義の一撃作戦”……そう名付けられた作戦で、作戦に参加した彼以外のメンバーが、全員戦死してしまったの」

 

「っ……!?」

 

 その時のことを、シエルは今も後悔していた。あの時、自分がもっとはやくシステマ・シエルを完成させていたら、もし、あの時無理にでもゼロに頼んでエルピスを取り押さえてでも作戦を中止にできていたら……彼が作戦を失敗することもなかっただろうし、彼が狂ってしまうこともなかったのかもしれない。

 

「その1つの失敗から彼は狂ってしまった。力を求め、人間を抹殺することで彼は英雄になろうとしたの」

 

「そんな……」

 

――力が欲しい……力が欲しいよ……力を手に入れ……ネオ・アルカディアを、人間を滅ぼし……今度こそ……英雄になってやるんだ―――!

 

 あの時の狂気に満ちたエルピスの声を、そして顔をシエルは今でも忘れない。結果として、ゼロの親友であるエックスのボディを砕いてダークエルフという力を得たものの、最終的にはゼロによってその野望は打ち砕かれた。

 

「彼が失敗によって狂ってしまったあの時の目……さっきのティアナさんととてもよく似ていたの」

 

「……!」

 

「だから、もしかしたらティアナさんがその失敗を悔いてもっと無茶をして、今度はスバルさんたちすら巻き込んで、大きな失敗をしてしまうんじゃないかって、私は思ったわ。だから、私はどうしても無茶な訓練をしていた貴女を止めたかったの」

 

「シエルさん……」

 

 そんな風に語るシエルの笑顔は、儚く、そして寂しげだったとティアナは思った。そんなことを思っていたティアナを、シエルは優しく抱きしめる。

 

「あっ……」

 

「だから、どうか……今日の失敗をずっと責めて抱えこまないで。もし、私たちを信頼してもらえるときが来たら……その時は遠慮なく、私たちにも相談してね」

 

「……シエルさん。ありがとう、ございます」

 

 抱きしめられたティアナはそう静かにシエルに抱きしめ返す。その頬には、一筋の涙が零れ落ちるのだった。

 

 

 

 

翌日

 

「早朝から失礼します、なのはさん」

 

「ティアナ? どうしたの?」

 

 朝練が始まるだいぶ前。いつもならティアナがスバルと一緒に自主練習をしている時間。しかし、今日はその朝練をせず、なのはが部屋から出るのをずっと待っていた。そんなティアナに首を傾げるなのはだが、そんななのはに構わず、ティアナは思いっきりなのはに向かって頭を下げた。

 

「すみませんでした!」

 

 突然の謝罪に驚くなのはだが、そんななのはにティアナは今まで自分が無断で訓練をしていたことを話した。なのはが教えていた教導に背いた訓練をして、教えられた戦い方を無視した技術すら覚えて戦いに取り入れようとしたことを……しかし、それを聞いたなのははティアナを咎めるようなことはしなかった。むしろ逆に、なのはもティアナに謝罪をした。かつての自分と似たような事態になっていたのにも関わらず、それに気が付くことが出来ずに放置していたこと、自分の教導の意味を、言葉で言わずに理解できると勝手に思っていたことを……そして

 

「みんなに少しだけ、昔の私のことを知って欲しいんだ」

 

 ティアナにだけではなく、スバルと、そしてエリオとキャロにもなのはは自分の過去の事を語った。そして、その無茶から起きた代償と、それ故に掲げる自分の教導の意味を。今日の朝練は体を動かさずに終わってしまったものの、フォワードメンバーたちが少しだけ成長したのは確かなことだろう。

 

 

 

 

 そんな朝練の後に行われた午前中の訓練。その訓練場でフォワードメンバーを見守るゼロの横には、珍しくシエルの姿がそこにあった。昨日ゼロと話をしたなのは、そしてスバルはもちろんのこと、ティアナの動きも数日前に比べ格段によくなっていた。

 

「珍しいな、シエル。お前がここに来るのは」

 

「ええ、ちょっとね。あれからティアナさんたちがどんな様子なのか気になって」

 

「……フォワードメンバーの動き、とくにティアナの動きが良くなった。いったい、何の話をしたんだ?」

 

「……ふふっ、そこは女の子同士の秘密よ」

 

 そう笑みを見せるシエルに、ゼロは「フッ」と短く笑い視線を訓練するメンバーに向き直る。

 

「そうか、なら何も言うまい」

 

 そんなゼロに苦笑しつつも、シエルも同じように視線を訓練するフォワードメンバーに戻し、訓練する彼らを見守るのだった。

 




NEXT 18「機動六課とゼロたちの休日」

なのはの魔王回フラグの回避回でした。本当は、ゼロVS魔王なのはもやってもよかったんですけどね……そっちだともっとまとめきれそうになかったので、リメイク前同様にやめました
現在、ロックマンゼロ×FGOの小説を書いている途中です。ただ、設定上ゼロが英霊として召喚されるか、それともこの小説同様に母の妖精さんによって別世界に飛ばされる設定にするか悩み中です
もしよろしければ、そちらのご意見もいただければ幸いです

ではではノシ

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