魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~ 作:秋風
秋風「了解! トランザム!」
というわけで、まさかの3連続投稿です。頭の中でアイディアが浮いているうちに固めたかったので頑張ってみました。亀がトランザムしても、大したスピードにはなりませんが(汗
今日は検査があるので更新は流石に難しいかもしれないです
では、どうぞ
月村邸 応接室
月村家自慢の応接室。一流の家具が並び、そのテーブルの上にはこれまた一流のメイドが入れた紅茶と茶菓子が並ぶ。そのテーブルを挟み、2人の人物が対面していた。1人はかつて犯罪者として名を刻んだ女性、プレシア・テスタロッサ。片や、管理局の人間であるリンディ・ハラオウンであった。彼女達の間にあるのは1つの事件と1人の少女。その問題に向き合うために2人は10年ぶりに再会した。しかし、その2人は一言も喋らずにお互い顔を見合わせているだけである。
「……」
「……」
どれだけ時間が経っただろうか。月村家のメイドであるファリン・K・エーアリヒカイトは沈黙が続く部屋でそう思った。紅茶を入れていたファリンはその後何か言われた時の対処のために部屋に残っているのだが、その重苦しい空気は彼女にとっては非常に辛いものである。思わず、隣にいたもう1人のメイドであり、自分の姉であるノエル・K・エーアリヒカイトを見るが、その姉は静かに目を瞑って自分が必要になるのを待っているようだ。仕方なく、もう1人の当事者にファリンは目を向ける。もう1人の当事者である男、ゼロである。ゼロはファリンの視線に気がつき頷くと、その沈黙を破るように口を開く。
「いつまで互いに黙っているつもりだ?」
「……そうね。少し、どう会話を始めればいいか考えていたわ」
リンディがそう言って再びプレシアを見る。ただ、相変わらずそのプレシアの表情は固い。何を言われるのか…といった表情だ。
「……見違えてしまったわ。10年前のあの時の貴女とは思えないほどに。久しぶりですね、プレシア・テスタロッサさん」
「そうね、久しぶり…かしら。リンディ・ハラオウンさん」
見違えた、というリンディの言葉にウソはない。彼女のその容姿はリンディが対峙した10年前とは思えないほど若々しい。そして容姿だけではなくその雰囲気も別人なのではないかと考えるほどだった。リンディはすでにプレシアの生存の他にアリシアの蘇生についても話を聞いている。
(人は変わる、というけれど彼女の場合は『戻った』という方が正しいのかもしれないわ)
リンディはプレシアの経歴はすでに10年前に調べ終えていた。「アレクトロ社」と呼ばれる会社の上層部からの無理難題の重圧。そしてそれによって起きてしまった悲しい事故…その時に最愛の娘を失い、狂い始めてしまったことも。だが、その狂ってしまう原因となった娘が蘇生した今、彼女が狂っている様子はない。
「…あの時の貴女のままなら、とてもではないけどフェイトには会わせられないと思っていたわ。でも、今の貴女なら、会わせても何も問題がないと思う」
「随分とあっさり言ってくれるわね……どう返していいかわからないじゃないの」
「『母親』が『娘』に会うのに、誰かの許可はいるのかしら?」
母親…そのリンディの言葉に、プレシアは顔を伏せた。その表情は暗く、沈んでいた。
「母親…ね。会いたいとは思っているけど、私は心のどこかで会っていいのかと疑問を感じているわ…知っているでしょう? 私があの娘(フェイト)に何をしたかを。それに、今のフェイトの母親は貴女だわ、リンディ・ハラオウン」
「……」
プレシアがフェイトにしたこと。それは10年前に行っていた虐待のことだ。ジュエルシードを求め、その命令を忠実に守るフェイト。そのフェイトからはその命令を遂行することで愛を受けようとしているのがフェイトから感じ取れた。しかし、プレシアはそれを根本から否定し、虐待を続けていた。きっと、フェイトにとってはトラウマになっているだろう。幸せに生活している今のフェイトだからこそ、今フェイトがプレシアと会えばフェイトは壊れてしまうのではないか…そう思っている。
「確かに、貴女の言うとおり…貴女のしたことは許されることじゃない。……でもね、それでも、あの子の母親はプレシアさん…貴女なの。あの子は確かに私のことを「母」と呼んでくれるけど…でも、貴女のことを私以上に母親だと思っているはず」
「そんなこと…!」
「でなきゃ、T(テスタロッサ)をとっくに捨てているわ」
「…!」
フェイト・T・ハラオウン。そう、フェイトはハラオウン家の養子となる時、そのテスタロッサという名を捨てなかった。フェイトなりに、母であるプレシアと決別したくなかったからかもしれない。
「あの子ね、5月27日には必ずこっちに帰ってくるの」
「5月27日…?」
「貴女が、虚数空間に落ちたあの日…公式では、貴女が死んだ日よ」
「…!」
「あの子、自分の初任給で何をしたと思う? 貴女のお墓をこっちに作ったの…そしてそのお墓の前で、何があったのか、どんな事件を受けて、どんな人と出会ったのかを話しているわ」
プレシアはリンディの言葉を聞いて絶句する。フェイトは未だに自分のことを母だと思っていてくれるのか、と。そして、同時にわからなくなる。自分は会って何を言えばいいのか、と。自分の娘であるはずなのに、どんな言葉を会った時にかければいいのかが分からない。そう考えていると、リンディが静かにプレシアに語りかける。
「ねぇ、貴女は誰かしら?」
「私は…私は、プレシア・テスタロッサ」
「それが答え。フェイトにとっても、私達にとっても…貴女はプレシア・テスタロッサ。アリシア・テスタロッサの母であり、そして…次女、フェイト・テスタロッサの母親なの」
「……!」
簡単なことでしょう? そう語りかけるリンディの言葉に、プレシアの目から涙が溢れた。リンディの言葉は、プレシアにとっては彼女の心の闇を晴らすのに十分なものだった。リンディもプレシアをフェイトの母として赦し、フェイトのためにもプレシアとフェイトを会わせたいと思うが故にでた言葉だった。
「でも、あの子は許してくれるかしら…会ってくれるかしら…」
いくら自分が会いたいと願っても、いくら自分がフェイトを娘だと思いなおしても、フェイト自身が自分に会った時拒絶しないだろうか? そうプレシアが思う。しかし、そんなプレシアの言葉にリンディはにっこりと笑みを見せる。
「大丈夫、フェイトは優しい子よ? それは貴女が一番分かっているはずだわ」
「リンディさん…」
「ほら、涙を拭いて? 行きましょうか」
「え、行くってどこへ…」
「フェイトに会いに…よ」
そう言ってリンディがプレシアの手を取り立ち上がる。
「それじゃあゼロ、プレシアさんを借りるわ。はやてちゃんにもそう伝えておいて」
「了解したが…どこへ行くつもりだ? フェイトをここに呼んだ方がいいと思うが」
「そうなんだけど、今日はフェイトの場所が分かるからいいのよ」
そうウィンクするリンディ。その部屋に置かれた時計には5月27日と示されていた。
*
海鳴市 海鳴霊園
「久しぶり、母さん、それにアリシア姉さん。今日は任務でこっちに戻ってきたんだけど、はやてから許可をもらって抜けてきちゃった」
海鳴にある霊園。そこにフェイトの姿があった。今日は5月27日…フェイトにとっては忘れられない日。故に、少しだけ無理を言ってフェイトはここに来ていた。
「本当はエリオやキャロも連れて来たかったんだけど、二人までサボらせるわけにはいかなかったから、私1人なの。そうだ、聞いて? 新しくはやてが作った部隊、機動六課ができて、なのはやはやてたちとも同じ部隊なんだ…でね、10年前に突然別れちゃったゼロとまた会えたの。私、思わず抱きついちゃって…それで…」
フェイトの声が、静かに霊園に響き渡る。この時間帯には人はおらず、その霊園にいるのはフェイトだけ。故にフェイトは周囲の目を気にせずにその返答のない墓石に言葉を投げ続ける。それは機動六課が始まってからの仕事の日々、ゼロたちとの日常を楽しそうに話す。まるで、そこにプレシアがいるかのように。自分はこんなにも幸せだとプレシアに言うように。
「あ、そうだ。今日はお土産があるの。なのはの実家、翠屋のケーキ。前にケーキを渡した時は母さん、食べてくれなかったけど…今日は、食べて欲しいかな」
帰ってくるはずのない問いかけをするフェイト。その墓石から返答が返ってくるわけないのが分かっているが、それでも返答を期待してしまう。そんな自分におかしくなってクスリと笑うフェイトはチラリと時計に目をやった。時間を見ればもうその場で30分以上1人喋っていたことに気がつく。
「そろそろ戻らないと、なのはたちに迷惑かかっちゃう…じゃあ母さん、それにアリシア姉さん。また来るね…そうだ、今度はゼロも連れてくるよ。あ、あとケーキ、食べてね?」
そう言ってその場から立ち去ろうとするフェイト。だが、それは叶わなかった。
「ええ、必ず食べるわ……フェイト」
「え…?」
帰ってくるはずのない返答が、フェイトの動きを止めた。だが、その返答は当然ながら墓石からなどではない。声はフェイトの背後から聞こえていた。その声に釣られてフェイトは思わず後ろを振り返る。
「そんな…なんで……」
そして、その振り返ったフェイトの視線の先には1人の女性が立っている。紫色の服とロングスカートのその女性。その女性はフェイトにとって特別で、忘れられない人物。その名は…
「プレシア、母さん…?」
「……フェイト」
誰かが悪戯で変身魔法でも使っているのかと考えてしまう。しかし、そのプレシアの後ろには義母であるリンディ・ハラオウンの姿もある。リンディがこんな悪質ないたずらをするわけがない…ということは、と。1つの結論がフェイトの中で導き出された。
「ほん、もの…?」
「……フェイト、あ、あのね…?」
プレシアが何かを言おうとするが、それよりも前にフェイトの身体が動いていた。フェイトは勢いよく駆け出しプレシアに抱きついていた。
「フェ、フェイト…?」
「母さん…! 母さん…! プレシア母さん…! う、うああああああああっ!」
大粒の涙を流し、顔をクシャクシャにして泣き叫ぶフェイト。化粧が涙で落ちようが、鼻水が垂れてしまおうが知ったことではなかった。フェイトはプレシアを離すまいと強く強くプレシアを抱きしめた。
「フェイト、ごめんね…ごめんね…!」
そしてプレシアも同じようにフェイトを強く抱きしめる。もう離すまいと…そしてそんなプレシアの瞳からも涙が流れ落ち、二人はその霊園で泣き続けた。その10年越しの再会を喜びながら…
*
同時刻 海鳴市 バニングス家保有の別荘
「そっか、ちゃんとフェイトちゃんに会いに行ったんか」
「ああ。後で合流することになるだろう…リンディもいるから問題は起きないはずだ」
「せやな…そう信じるとしますか」
一方、ゼロはリンディたちと別れた後、バニングス家の保有する別荘へと戻ってきていた。当然ながらシエル、アリシアも共にいる状態である。もっとも、シエルは別荘の外で遊んでいるアリシアの面倒を見ている状態だが。
「任務の進み具合はどうだ?」
「うん、サーチャーは撒いたから、後はそれに引っかかってくれるのを待つだけやね」
そう言いながら夕食の準備をするはやてとゼロ。その後ろには大量の食材があった。人数はゼロを除き、機動六課の面々にアリサとすずか。それに後から来るハラオウン一家であるが、その人数の倍の食材があるのはスバルとエリオが原因と言うのは言うまでもないだろう。
「久しぶりに料理するから腕が鳴るでぇ…この間のゼロの料理食べて久しぶりに料理したくなったわ」
「…張り切るのはいいが、怪我はしてくれるなよ」
「そんなドジっ娘じゃあらへんよ」
そう笑いながら野菜を切るはやて。夕食は鉄板焼きなので基本野菜を切るだけなのだが、久々の料理なので張り切っているように見える。すると、そこへアリサとすずかがやってきた。
「ゼロ、ここは私達が請け負うわ。さっきからアリシアちゃんがゼロのことを探してるの」
「…そうか。ならこの場は任せる」
アリサの言葉にあっさりと外へ出ていくゼロ。それを確認したアリサははやてに顔を向ける。
「で? ゼロとなんか進展したの?」
「…っ!?」
アリサの言葉と共に、勢いよく包丁を振り降ろしてしまうはやて。危うく指が真っ二つになる所である。
「ア、アリサちゃん!? 何を言うとるん!?」
「いや、アンタがゼロの事好きなのはすずかと同じくバレバレだから。隠そうたって無駄よ?」
「ア、アリサちゃん…!」
横にいたすずかまでも顔を真っ赤にして慌てているが、アリサはそれを気にせず言葉を続ける。
「で? 10年越しに会った想い人に何かした?」
「いや、えっと…だ…」
「だ?」
「抱きついた…」
「それで?」
「…それだけ」
はやてが恥ずかしそうにいう。そんな彼女の手元の野菜は鉄板焼き用のはずなのにみじん切りになっている。そしてそんな様子のはやてにアリサは呆れたように声を上げた。
「それだけぇ!? すずかといいアンタと言い奥手ねぇ…キスの1つくらいしなさいよ」
「キ、キスって…」
「ゼロさんに…キス…」
顔を真っ赤にする2人に呆れた様子でため息をつくアリサ。そんなアリサの方に、ふわりと何かが着地する。言わずもがな、クロワールである。
「普通の人間なら効果的だけど、ゼロだとどうなのかしらね…それ」
「あらクロワール」
「楽しそうな話が聞こえてきたから飛んできたわ」
「丁度よかった。貴女に聞きたかったのよ。あのシエルっていう子はゼロの何?」
アリサの言葉に少し考えるクロワール。仲間、といえばそれまでではないかと思うが、どこか違う。クロワールは少しして、回答を出した。
「うーん…少なくとも、シエルが恋心を抱いているのかと聞かれれば微妙な所かしら?」
「どうして? それはゼロがレプリロイドだから…とか?」
人間とロボットが恋をする…SFではよくあるような内容かもしれないが、それが実際ある場合はどうなのかと考えるアリサだったが、クロワールが首を横に振る。
「別に、レプリロイドに人間が想いを寄せることも、その逆も別に私達の世界じゃありえない話じゃないわよ? 実際、そういう人達がいたもの」
クロワールが思い出すのはかつてゼロが戦った戦士、クラフト。そしてエリアゼロにいるジャーナリストのネージュだ。互いに二人は人間とレプリロイドという枠を超えて惹かれあっていた。もっとも、その互いの恋は実ることなく終わってしまったわけだが。
「じゃあ、どうしてシエルさんが恋心を抱いているか微妙なの?」
「シエルの場合、ゼロには好意を寄せるというより頼りにしているっていうか、依存しているって言うか…恋とはまた別の何かだと思うの。シエルの周りにはそういうことを教える人はいなかったし」
科学者として生まれ、コピーエックスを作ることを強いられたシエル。その後はレジスタンスのリーダーとしてレプリロイド達を連れて抵抗運動を続けていた。そしてその後は争いをなくすために新エネルギーの開発に没頭…とてもではないが、普通の女の子が歩むような人生ではない。シエルの場合その恋と言うものを知る環境がなさすぎたといった方が正しいかもしれない。
「でも、さっきすずかがゼロに抱きついた時シエル、ちょっと驚いてたし…その信頼が恋心になってくれるかもしれないわね」
楽しみだわ、と嬉しそうに笑うクロワール。クロワールとしてはシエルを応援したいと思っているのだろう。そんな話を聞いたアリサはため息を吐く。
「難儀ね…ゼロの場合ライバルが多い上に何よりそういう感情について疎いんじゃない?」
「そうねぇ。はやてにすずか、シエル…それに、アインスだってそうでしょ? それに、なのはやフェイトももしかしたら…」
「それだけ聞くとただの女たらしね」
「本人が無自覚なのがなお性質悪いわよね」
そう言ってアリサとクロワールが顔を見合わせる。そんな様子のアリサに、すずかはふと疑問を漏らす。
「アリサちゃんは違うの?」
「あたし? うーん、確かに昔、ちょっとだけドキっとしたことはあったけど…はやてやすずかたちみたいにゼロにときめくようなイベントがなかったからなぁ…」
「じゃ、そんなイベントがあればアリサもゼロに?」
「どうかしらね」
そうアリサが笑う。そんな感じで彼女達のガールズトークが続き、時は過ぎていく。この後、夕食の準備が進まずにフォワードたちが帰ってくるまでに準備が間に合わなかったのは言うまでもないだろう。
自分で書いてて思ったことを一言
シリアスとほのぼのパートの落差激しすぎぃ!
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