レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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コラボも無事に終わり、レストランの物語が再開します。
 
今回は家族で出かける物語を書きました。
久しぶりのほのぼのシーンだと言う事もあり、書きたい内容を書いていたら6000文字を超えてしまいました。
今後は、5000文字以上を目指していきたいと思います。

では、ひさしぶりの葉月一家の物語をお楽しみください。


第10章 レストラン白玉楼
第69話 家族旅行


 

「ふぃ~終わったぁ!」

 

 

 白玉楼の台所で朝食の洗い物を終え、大きく伸びをする。別の次元での調査を無事完遂し、昨夜は家族のみんなと酒を飲み料理を食べ、夜遅くまで語り合った。文に甘えられなかった寂しさからか、酔いの力も相まって文に向かって思いっきり甘えてしまったけど、それでも文は受け入れてくれたっけな。今思い返してみると、小傘と心華が若干引いちゃっていた。今後は気を付けないと。うん。

 

 

「お疲れ様」

 

 

「お、ありがとう」

 

 

 背後から声が聞こえ、振り返ると文が熱々のお茶が入った湯呑を差し出してくれた。お礼を言って湯呑を受け取る。手の平から伝わってくる温もり、鼻をくすぐる香り、そして口に含んだ時のほのかな苦み。やっぱり緑茶って最高の飲み物だ。しかもそれが文が淹れてくれた緑茶となると、もちろん愛情も伝わってくるよ。

 

 

「ふはぁ~。やっぱり文が淹れてくれたお茶は最高だ」

 

 

「うふふ、もう欧我ったら」

 

 

 そして2人で笑い合った。やはりというか、文の笑顔を見ていると自然と心が癒されていく。大好きな人の大好きな笑顔。俺にとって無くしたくない大切なものだ。それにしても、1日ほど別れていただけなのに、笑顔を見ただけでこれほどまで心がドキドキするとは思ってもみなかったな。やはり俺の文欠乏症は重傷なようだ。

 残っていた緑茶をグイッと飲み干し、ふぅーと長めに息を吐く。そのおかげで眠気も疲れも吐き出す事が出来た。

 

 

「ごちそうさま」

 

 

「お粗末様でした」

 

 

 文に湯呑を返し、よしっと気合を込める。1日開いちゃったけど、あと少しでレストランが完成する。今日の空いている時間を使って完成させよう!そう意気込んで台所を出ようとするが、不意に文に腕を掴まれた。

 

 

「欧我、どこに行くの?」

 

 

「どこって、レストランを見に行きたいんだけど」

 

 

 レストランと言う言葉を耳にした直後、文はピクッと眉を動かした。瞬く間に起こった一瞬の小さな動きだったが、俺の目はしっかりととらえていた。一体文は何を考えているのか、その表情からは読み取れない。少しの沈黙が開いた後、文は何かを思い出したように「あっ」という声を漏らした。

 

 

「そ、そうだ!ねえ知ってる?最近里に新しい甘味屋が出来たの。実は私一度も行ったことが無くって、ブン屋としては早く行ってネタにしたいし。だからさ、欧我。一緒に行かない?」

 

 

「甘味屋?甘い物に目が無い文らしいね」

 

 

「えへへ。あ、そうだ!小傘と心華も連れて行きましょうよ!」

 

 

「良いね、最近家族で遊びに行くってことしてなかったし。よし、レストランの様子を見てから…」

 

 

「ダメよ!」

 

 

 レストランを見てから行こうと言いたかったのだが、途中で文に遮られた。なぜか真剣な面持ちをしているけど何があるというのだろうか。

 

 

「あの店には数量限定の特別な大福があるの!早く行かないと売り切れちゃう!私その大福がどうしても食べたいから早く行こうよ!」

 

 

「え、でも今から行くのは早すぎるんじゃ…」

 

 

 今の時間は7時45分をまわったところ。店はまだ開いてはいない時間帯だし、里でこんな朝早くから開いている店なんて今まで見たことも聞いたことも無い。そう文に告げると、途端にしょんぼりとしてがっくりと肩を落とした。文の小さな子供のような言動には驚いたけど、落ち込んでいる様子を見ているとなんだか申し訳なく思えてきた。

 

 

「わかったよ、今日はずっと文たちと一緒にいるよ」

 

 

 そう言って頭をよしよしと撫でると、途端に顔を上げぱあっと笑顔になる文。

 

 

「本当に!?」

 

 

「もちろんだよ。それによく考えたら最近レストランにかかりきりで、家族みんなで過ごした事ってほとんどなかったからね。今日1日はレストランのことを忘れて、みんなで何処かへ遊びに行こうよ」

 

 

「うん!ありがとう欧我!」

 

 

 文は笑顔で何度もうなずくと、胸に飛び込んで抱き着いてきた。両腕を背中に回し、文の身体を優しく抱きしめる。そう言えば、ここ最近はレストランばかりを気にして、家族のみんなに何が出来たのだろう。罪滅ぼしとは違うかもしれないけど、今日は家族のために時間を使おう。

 

 

「よし、じゃあ時間もあるし弁当を作ろうか」

 

 

「弁当?…それって!」

 

 

「うん。甘味屋へ行くついでにどこか景色の良い場所へ出かけて食べようよ。ちょうど開店まで時間あるし、それにみんなで作った方が美味しいと思うよ」

 

 

「うんうんっ!じゃあ私小傘達を呼んでくるね!」

 

 

 台所を飛び出していく文から視線を離し準備を始めようとしたが、文は不意に立ち止まる。どうしたのかなと思っていると文が笑顔で振り返り、

 

 

「欧我大好き!」

 

 

 と言う言葉を残して台所を出て行った。俺はその言葉を聞き、走り去る文の背中を見送る事しかできなかった。心のドキドキが収まらないが、その言葉は本当に嬉しかった。

 その気持ちのまま、準備を進めていく。家族で料理をすることはとっても楽しいから、つい時間をかけてしまう。でも今回は数量限定の特別大福があるからちゃちゃっと作っちゃおう。唐揚げは無しの方向で…。

 

 

 

 

 

「欧我、早く早く!」

 

 

「わかったわかった。小傘、心華!遅れないでよ!」

 

 

「うん!小傘ちゃんお先に!」

 

 

「あっ、待ってよー!」

 

 

 文と手を繋ぎながら人里の街道を爆走する。いや、ほぼ引っ張られる形で文について行くのがやっとだった。限定品の大福は大変な人気で開店と同時に長蛇の列ができ、あっという間に完売してしまうという情報が文の耳に入り、何としても完売前に店に辿り着こうと全力疾走。俺が空中に浮いているから転ばないことを知っている文は容赦なくスピードを上げていくが、後に続く小傘と心華は徐々に離されていく。俺たちの事に気が回らなくなるほど熱中するなんて、甘い物、特に限定品に目が無いんだな。女の子ってみんなそうなのか?

 しばらく走り続けていると、ようやく目的の店舗が見えてきたようだ。なぜなら文の嬉々とした声が聞こえたからだ。俺の目にも店の様子が見えてきたが、やはりイメージ通り長蛇の列が出来ている。大丈夫かな、限定の大福は。

 

 

「大丈夫かしら」

 

 

「待つしかないよ。売り切れたら諦めるしかないね。それよりも、小傘も心華もお疲れ様。お茶飲む?」

 

 

「うん、ありがとう」

 

 

「走りすぎて疲れちゃった。心華ちゃん、先飲んでいいよ」

 

 

 差し出した水筒を受け取り、仲良くお茶を飲む2人。かなり距離は開いちゃっていたけど、逸れることなく無事追いつく事が出来たみたいでほっと胸を撫で下ろす。一方の文はちょっと申し訳なさそうな表情を浮かべている。どうやら2人のことを考えてやれなかったことが申し訳なかったみたい。まあ次気を付ければいいよ。

 そして4人で談笑しながら時間をつぶすこと30分。とうとう俺たちの番がやってきた。満面の笑顔を浮かべ、文が店のおばちゃんに向かって指を4本突き出した。

 

 

「限定の大福を4つください!」

 

 

 しかし、途端におばちゃんは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

 

「ごめんねぇ。大福は後3つしかないんだよ」

 

 

「えっ!?」

 

 

 その言葉に驚きを隠せない俺達。もっと早く来ればよかったという後悔の念にさいなまれたが、とりあえず残っていた饅頭3つを買い、広場に移動してベンチに腰を下ろす。大福の個数3個に対して俺達は4人。誰か1人は我慢しないといけない。どうしようかという相談を文がしようとしたが、俺は大福の入った袋を文に手渡した。

 

 

「俺はいいからさ、3人で食べてよ」

 

 

「えっ!?でも欧我、レストランで作る大福の参考にしたいとか言ってたじゃない」

 

 

「大丈夫、大福以外にも美味しいものがあるし、それを作るつもりだから。それに、俺は甘い物が好きじゃないしね」

 

 

「欧我…。ありがとう、頂くわね」

 

 

 文は笑顔で差し出した紙袋を受け取り、中から大福を取り出して小傘達に分け与えた。その大福はモチモチな純白の皮で包まれており、中には採れたて新鮮な苺がこしあんとクリームと共に包まれた所謂苺大福だ。苺の甘酸っぱさとこしあん、クリームの甘味の調和をお楽しみください…と言うのが店のパンフレットからの情報だ。

 いただきますという掛け声で3人は大福にかぶりついた。その瞬間繰り出される満面の笑顔、ん~と言う声、揺れ出す身体…。

 

 

「美味しい!これはネタにできそうね!」

 

 

 どうやら期待通り、いや期待以上の美味しさだったようだ。文はその美味しさを記事にまとめようとメモ帳を取り出す。小傘も心華もいい笑顔だ。その後も笑顔を浮かべ感想を述べ合いながら食べ進めていき、そしてあっという間に完食してしまった。俺はその笑顔を眺めているだけでお腹一杯だよ。

 

 

 

 

 

 人間の里を後にした俺達が向かったのは太陽の畑の傍に広がる野原。ここには色とりどりの花が咲き誇り、優しく吹き行く風の中に花の香りが漂う絶好のお昼寝スポット…だと思う。ここには凶悪な妖怪や屈強な猛獣が現れることは殆ど無いという。巷では、この野原を憩いの場とするべく幽香さんが迫りくる妖怪を追い払ってはソーセージを作り出すという噂が流れている。ソーセージの部分は幽香さんへの畏怖の念を込めた作り話だろうが、太陽の畑や所謂ゆうかりんランドが近いことから幽香さんが何かしらの策を講じているのだろう。そのおかげで思い切りくつろぐ事が出来る。

 俺達がここに来たのは弁当を食べるためだ。食費が無く、使える食材も限られているためおかずは少ししか無いが、生憎米はたくさんある。そのためおにぎりが8割を占めている。でも、飽きてしまわないようにおにぎりの具には様々なものを詰め込んだ。鮭に昆布はもちろん玉子焼きやエビの天ぷら、残っていた佃煮に肉味噌、そして漬物。バリエーション豊かなおにぎりが10個。人間の里を疾走した上に大福を食べていないからお腹も減っているし、早速食べちゃおう。

 

 

「いただきます!」

 

 

 目の前にあったおにぎりを掴み、口元へと運ぶ。そしてがぶりとかぶりついた。作ってから時間があいてしまったため冷めていてひんやりとしているが、中に入っている肉味噌の味がご飯にしみこんでいてとても美味しい。流石料理人が作った肉味噌だと自画自賛してみたり。

 

 

「小傘は何が入ってた?」

 

 

 並んでいるおにぎりを見ていると、ほとんど同じ形で具材が何かが分からなくなっているため、くじ引きのような感じで選ぶのが楽しい。みんなが食べているおにぎりの具材が何かが気になったので、話題になるのかなと思い聞いてみた。

 

 

「私は玉子焼きよ。欧我は何が入っていたの?」

 

 

 小傘のおにぎりに入っていたのは玉子焼きだったようだ。個人的に狙っていた具材だったので少し悔しかった。だってこの玉子焼きは文が作ったんだもん。まあ食べられちゃったのは仕方ないからおかずの方を食べよう。

 

 

「俺?俺のは肉味噌だね」

 

 

「肉味噌!?」

 

 

 小傘に聞かれたため自分のおにぎりの具材を言ったら、途端に文が詰め寄ってきた。この具材は文が狙っていたらしかった。

 

 

「ねえ欧我、一口頂戴」

 

 

 全部食べたかったのだが、目をキラキラと輝かせながらお願いしてくる文の顔を見ていると断れなくなってしまった。

 

 

「仕方ないな。ほら、あーんして」

 

 

「あーん」

 

 

 恥ずかしがるそぶりを見せず大きく開けた口の中に食べかけのおにぎりを近づけると、がぶっとかぶりついた。

 

 

「ん~!最高ね!」

 

 

「ありがと」

 

 

 やっぱり自分の料理が褒められるというのは本当に嬉しいことだよな。しかも料理を食べた人が浮かべる笑顔を見ていると、こちらも満たされた感じがしてとても幸せな気分になる。特に愛する家族の笑顔を見るのはこれ以上ないほど至福のひと時だな。

 

 

「私もやりたい!欧我、あーんして!」

 

 

 俺と文のやり取りに感化されたのか、心華がおにぎりを掴んで差し出してきた。文と小傘はその光景を見てニヤニヤとした笑みを浮かべながらじっと俺の方を見てきたので恥ずかしくて抵抗を感じてしまったが、やらないと心華が悲しんでしまうかもしれないと思い、恥ずかしさをこらえながらがぶっとかぶりついた。このおにぎりの中身は…

 

 

「ん゛っ!?」

 

 

 次の瞬間口いっぱいに広がる辛味、口の粘膜に針が刺さったような痛みが走り、ぶわあっと汗が噴き出す。心華が差し出したおにぎりには七味唐辛子がたっぷりと入っていた。俺は辛いものは大好きなのだが、まさかおにぎりに入っているとは思わず、意表を突かれてしまった。

 

 

「やった、大成功ね!」

 

 

 そう言ってキャッキャッとはしゃぐ小傘。まさかこれは小傘が作った物なのか?

 

 

「実はね、欧我をびっくりさせるために内緒で作ったんだ。ねえ驚いた?驚いた?」

 

 

 ニシシと言ういたずらっ子のような笑みを浮かべ、そう聞いてくる小傘。そう言えば小傘はおにぎりを作るとき俺達と離れた場所でこそこそと握っていたな。まさかその時にこのおにぎりを作っていたのか。

 

 

「まあ、驚いたけど…。残念ながら俺は辛いもの好きだからね、これはこれでアリかな」

 

 

「えっ、そんなー!せっかく3つ作ったのに」

 

 

「「「3つ!?」」」

 

 

 小傘から放たれた爆弾発言に思わず同時に驚きの声を漏らした。つまり、残されている5つのおにぎりの中に七味唐辛子がたっぷり入った小傘特製激辛おにぎりがあと2つ紛れ込んでいると言う事だ。確率で言うと40%。家族で過ごすほのぼのとしたひと時が一転、ハズレを引けば激辛が待つ恐怖のロシアンルーレット会場へと一変してしまった。みんなおにぎりに手を伸ばすことなく、無言の雰囲気が辺り一帯を包み込む。

 

 

「おっ、こんな所にいたのか!探したぜ!」

 

 

 その雰囲気を壊すかのように声が聞こえ、上空から魔理沙さんが下りてきた。言葉の内容から俺達を探していたようだが、一体何か用事でもあるのだろうか。

 

 

「あれ、魔理沙さん何か用ですか?」

 

 

「ああ、欧我に見せたいものがあってな。早く冥界に行こうぜ!」

 

 

 冥界。その言葉を聞いた瞬間、はっと息をのむ。まさかレストランの事か!?

 

 

「レストランが完成したのですか!?」

 

 

 そう聞くと、魔理沙さんはニッと笑ってうんと頷いた。

 

 

「欧我、今まで黙っててごめんなさい。欧我が別の次元に言っている間にレストランを完成させて驚かそうと思っていたけど、思っていたよりも早く帰ってきてしまって間に合わなかったの。それで…」

 

 

「それで俺にレストランが完成するまで見せないために、人間の里へ誘ったというの?」

 

 

 俺の問いに文は申し訳なさそうに頷いた。俺は文の言葉を遮るように文をぎゅっと抱きしめた。俺のために、レストランを完成させてくれたことが嬉しかったからだ。

 

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

 

 

 ぎゅっと抱きしめた文の耳元で何度もお礼の言葉を述べる。文も俺の身体をしっかりと抱きしめてくれた。もっと抱きしめあっていたかったが、レストランが完成したならば早く見に行きたいという衝動をこらえきれなかった。文を引き離し、上空へと飛びあがる。そして「お先に!」と言う言葉を残し、家族と弁当を置き去りに冥界へと飛んで行った。

 

 

 

 欧我の後を追い飛び立つ文たちを見送る魔理沙。しかし彼らは欧我の後を追うのに必死で弁当を広げたまま忘れて行ってしまった。

 

 

「あいつら弁当を残して行きやがって、幽香に見つかったら怒られるぞ。それにしても美味そうな弁当だな。ちょっと食べちゃおうぜ」

 

 

 そう言っておにぎりの中から一つを持ち上げる。欧我が作ったおにぎりの中身は何か、それが非常に楽しみだと言った感じに、じっとおにぎりを見つめる。

 

 

「いっただっきまーす!」

 

 

 大きな口を開けてかぶりついた魔理沙は中身が何かを楽しむようにもぐもぐと食べているが、途端に目を見開いた。

 

 

「かっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 野原に響き渡る絶叫。見事にハズレを引いた魔理沙であった。

  




 
はい、お待たせいたしました!
レストラン、ついに完成です!

どのようなレストランになったのか、その全貌は次回明らかに!
こうご期待!

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