レストランスペースに近づくと、部屋の中から5人の楽しそうな声が聞こえてきた。
本当に仲が良くなったんだね。
笑顔を浮かべ、障子を開けた。
「お待たせいたしました。」
「来た!」
みんなから一斉に歓声ががる。
本当はこういった方法をとるのは良くないだろうけど、みんなに料理を配りながら今日の料理、フルコースについて説明を行った。
「今日は皆様にフルコースをご用意いたしました。フルコースというのは、簡単に言えば一定の順序で提供される一連の料理のことを言います。前菜から始まり、サラダにスープ、魚料理に肉料理、最後にデザートという順番で料理を提供します。」
「わぁー。」
「すごーい!」
目の前に置かれた料理を見て、それぞれが歓声を上げる。
おっ、文はさっそくメモ帳に書き込んでいるな。
ブン屋としてその行動は素晴らしいな。
「それでは、まずは前菜の「筍と胡瓜の梅肉ソース」です。召し上がれ。」
「キュウリ!?」
料理の名前を聞いた途端、にとりさんが声を発した。
そう言えばキュウリが大好物だったよね。河童だから。
…あれ?
「妹紅さん、食べないのですか?」
さっきから料理をじっと見つめて…。
「すごい、タケノコにこんな調理法があったなんて。ありがとうな、欧我!私の大好きなタケノコを。」
「どういたしまして。」
にとりさんはキュウリ、妹紅さんはタケノコ…。
それぞれの好物について事前に調べておいたけど、結局屠自古さんと天子さんの好物は分からなかった。
だから、フルコースにその食材を使うことは…
「欧我。」
「はい。」
この声は、屠自古さんか。
どうしたのだろう?
…え?涙目!?
「美味しい料理をありがとう。それに、私の大好きな梅を使ってくれるなんて…。」
「…え?」
か、感動しているの!?
それに梅が大好きなんて初めて聞いた。
…まあでも、みんなの好物をフルコースで使うという目標が達成できそうでよかったよ。
「すごいですね、キュウリとタケノコのシャキシャキとした歯ごたえに梅肉の酸味と甘み…。それらが口の中で一つに調和して…。」
「すごいね。」
思わず感嘆の声を漏らす。
文、いつの間に食レポの腕を上げたんだ?
「うん、これは使えそうね。忘れないうちに書き留めなくっちゃ。」
あの…声に出ちゃっていますが。
まあいいや。
それぞれの料理の状況を確認する。
どうやらみんなもうすぐで食べ終えるようですね。
じゃあ、そろそろサラダの準備をしましょうか。
部屋を後にして、台所へと向かった。
「あれ、妖夢?」
台所に戻ると、幽々子様の姿はなく、代わりに妖夢の姿があった。
台所に立ち、せっせと調理を進めている。
「あ、欧我さん。料理の方はどうですか?」
手を止めずに、顔だけをこちらに向けて聞いてきた。
「料理はまあ喜んでくれました。でも、どうして妖夢が料理なんか。」
「ああ、それはですね。欧我さんがお客様を迎える日くらいは私が幽々子様の食事を作ろうかなと思いまして。」
「え?」
どうして?
それは俺の仕事なのに。
「欧我さんはお客様の対応で忙しいと思います。それに、せっかく3ヶ月ぶりに会うのですから、その時間くらいはお客様とゆっくり話をしてはいかがですか?」
右目でウィンクをし、再び調理に取り掛かる。
その妖夢の言葉が、とても嬉しかった。
確かに、お客様に料理を提供することだけがレストランではない。
3ヶ月ぶりに会うお客様と再会を喜び、楽しく会話をすることも重要な仕事の一つだ。
どうやら俺は、専属料理人という仕事に縛られていたのかもしれない。
妖夢の言葉は、俺を縛り付けるそのロープをスルスルと解いてくれた。
「うん、ありがとね。妖夢。」
妖夢の背中にそう笑いかけ、サラダの準備にとりかかった。
春が旬の野菜、新キャベツにレタス、アスパラガスに新玉ねぎを皿の上に彩り、特製の和風ドレッシングをかける。
よし、こんなもんかな。
お盆に乗せ、レストランスペースへと運んだ。
サラダ―季節野菜の和風サラダ―
「このドレッシング美味しいな!野菜の旨味をしっかりと引き立てている。」
「なあ、このドレッシングの作り方を教えてくれないか!?」
ごめんね妹紅さん。それのレシピ、企業秘密です。
スープ―和風出汁の利いたかぼちゃのスープ―
「あー、なんかほっとするわ。」
天子さん、いい顔してる。
ほっとしているのがこちらまで伝わってくる。
「あ、屠自古さん。スプーンを使ってください。」
「すぷーん…?」
魚料理―無し―
「ごめんなさい、魚が無いです。」
「ま、まあ仕方ないわよ。」
肉料理―ポークステーキのフルーツソースがけ―
「肉汁がすごい!口に入れたらすぐにとろける~!」
こう見えて、文は脂ののった肉が大好物なんだよな。
意外と肉食系女子なんだよ。本当の意味で。
「フルーツの酸味が肉に合うわね。果物にこんな使い方があったなんて驚きよ。」
そう言えば天子さんって果物が好きだったような気が…。
デザート―抹茶ケーキ―
「う~ん、最高~!」
あの、メモをしなくても大丈夫ですか?
肉料理のあたりからメモ帳を投げ出して料理に夢中になっていましたが。
…まあいいや、気にしないでおこう。
こうして、レストランが始まって初めてのお客様に、感謝の気持ちを込めたフルコースをすべて提供することができた。非常に美味しそうに食べてくれて、その表情を見ているだけでなんだかとても幸せな気持ちになってくる。
「それでは、最後に食後の飲み物を用意します。コーヒーか緑茶、好きな方を選んでください。」
「「「緑茶。」」」
「私はコーヒーをお願い。」
「あ、私もお願いします。」
「かしこまりました。」
えーと、天子さんと文はコーヒーで、それ以外の3人は緑茶ね。
脳内でコーヒーの淹れ方をイメージしながら、台所へと向かった。