レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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なんと日間ランキングでこの小説が26位にランクインしていました!!
未だに実感がわきませんw

でも、この順位に浮かれることなく気を引き締めて執筆をしていきます。
これからも応援や感想をよろしくお願いいたします!!


では、物語の続きをお楽しみください。


第61話 引越し のち 一悶着

 

 人間の里の北東部。ここに、まるで里から追い出されたかのように佇む一軒のさびれた道場がある。何時から立っていたのか、そして誰が何を教えるために建てたのかは一切記録が残っておらず、誰にも見向きもされないまま存在を忘れ去られ、独り寂しく朽ち果てていた。しかし、朽ち果てているとはいっても構造や土台は案外しっかりとしており、少し手を加えれば十分暮らせそうな感じだ。広さも申し分ないからこの建物をレストランのホール部分として再利用しようと言う事になった。そうすれば一から建てるよりもコストも労力も日数も格段に減らす事が出来る。

 しかし、この計画には一つの大きな問題があった。それは、『どうやって冥界へ持っていくか』だ。いくら怪力の鬼がいるからと言って、こんな建物を運ぶことはできないだろう。そこで俺が白羽の矢を立てたのは萃香さんの能力だ。萃香さんの能力、それは『密と疎を操る程度の能力』、つまり密度を操る事が出来るのだ。物質は密度を高めれば高熱を帯び、逆に密度を下げれば物質は霧状になる性質がある。つまり、萃香さんにこの道場を霧状に変えてもらい、俺が固めた空気で包み込んで運べば、たった2人で引っ越しが完了するのだ。

 

 …っと、簡単に説明をしながら空を飛んでいたらお目当ての建物が見えてきた。先に飛んで行ったはずの文の姿が見えないけど、どこ行ったんだろう。

 

 

「あっ、文に目的地を言って無い…」

 

 

 そりゃあここにいないわけだ。文、ごめん。

 

 

「仕方ないよ、私たちを置いて飛び出して行った文が悪い。それよりも早く始めようよ」

 

 

「そうですね、ではお願いします」

 

 

 まあ文の事だ、こちらが探しに行かなくても何かの手掛かりを見つけてここに来るだろう。

 萃香さんは道場の外壁に両手をあて、目を閉じて集中力を高めている。すると、道場の輪郭がゆらゆらと揺らめきだした。境目が曖昧になってくると言う事は、霧になり始めていると言う事だろうか。能力を発動させて道場の周りの空気に意識を集中し、覆いかぶさるようにドーム状に空気を固めた。

 

 

「いい?いくよ!」

 

 

「おう!」

 

 

 萃香さんの放った拳の一撃が打ち込まれ、衝撃波がまるで津波のように壁を走り、駆け、あっという間に道場全体に響き渡る。すると、道場がガラガラと崩れるかのように中心から細かい粒子が溢れだした。これが霧になったと言う事なのかな。っていうか、まさか本当に崩れてないよね、これ。

 

 

「すげぇ…」

 

 

 道場から巻き起こる霧を見上げ、その言葉が無意識の内に口をついて飛び出した。やっぱり、鬼の能力(ちから)には圧倒されるな…。萃香さんは「どんなもんだい!」と自慢げに胸を張っている。そのまぶしい笑顔と体の小ささから幼い女の子のような見た目だが、その小さな体に秘められた底知れない力と実力は計り知れない。

 

 

「さてと、俺も負けていられないな。この空気を操って霧を冥界へと」

 

 

 建設予定地にはすでに目印をつけている。後はそこへ空気を…

 

 

「飛んでけぇぇぇ!!」

 

 

 空気のドームの頂点を掴み、冥界と顕界を隔てる結界の穴を目がけて背負い投げの要領で投げ飛ばした。まるで首長竜がまっすぐ首を伸ばしていくかのようにドームから伸びる様はさながら天に上る龍のごとく。

 …まあ、本当はこんなことしなくても普通に飛ばせるんだけど、萃香さんの拳の一撃に触発されてカッコつけてみただけさ。別に深い意味は無いぞ。

 

 

「おぉ~、すごいね!」

 

 

「いやいや、萃香さんほどではないですよ。後そっちにある倉庫もお願いしますね」

 

 

 そう言って指差した先には道場の敷地内に建つ一軒の倉庫。道場よりもやや身長が高いその建物は道場で使うさまざまな道具を保管するために建てられたに違いない。だって倉庫だし。事前に確認したところ中は空っぽの状態だったから冥界へ運んでも大丈夫だろう。ここを改装して調理スペースの一部に使おうという計画だ。

 

 

「あやややや!ここにいたんですね!」

 

 

 倉庫の方に移ろうとした途端、その声と共に文が俺達の前に華麗に着地を決めた。そして俺たちの背後で小さくなり続ける空気のドームを見て目を見開いた。

 

 

「ちょ、ちょっとこれどうなっているのですか!?人間たちの間で龍が天に昇っていくようだと騒ぎが起こっていましたよ!」

 

 

 文の一言を聞き、俺は頭を抱えて項垂れた。もう少し詳しく里の人々に説明をしておけばよかったという後悔の念が頭を駆け巡った。こりゃあ後で弁明と謝罪の意味も込めて何かしないとな…。と思っていたが、文の嬉々とした声がその思考を遮った。

 

 

「これはものすごいネタになるかもしれません!仕組みを詳しく教えてくれませんか?」

 

 

 おいおい、里の人々に迷惑がどうこうといった話はどうしたんだよ。はあ、まあ仕方がないか。倉庫の方も残っているからどっちにしてもやらないといけないし。

 

 

「わかりました。萃香さん、お願いしますね」

 

 

「りょーかい」

 

 

 カメラを構える文の目の前で、同じ要領で萃香さんが倉庫を霧に変え、俺が空気で包んで冥界へと飛ばした。道場の方はもう半分以上が飛んで行っているからこのままいけば順調に引っ越しが完了するはずだ。そう思っていたが…

 

 

「待ちなさい!」

 

 

 不意に何者かの声が響いた。その声がした方に視線を向けると、上空からお祓い棒を構えた霊夢さんがじっと俺達を見下ろしていた。しかもこれ、ものすごく睨んでないか?

 

 

「あなたたちどういうつもり?これは一体何なのよ!」

 

 

 かなりの剣幕で怒鳴り、お祓い棒を向けた先には冥界へと延びる2本の空気のドームがあった。

 

 

「これはレストラン建設のための引っ越しです。こうした方が一番手っ取り早いんですよ」

 

 

 霊夢さんの怒りを刺激しないように、努めて穏やかに説明をする。倉庫の方は引っ越しが始まったばかりだし、道場の方もまだ時間がかかる。何とか全ての引っ越しが終わるまで時間を持たせないと。

 

 

「それに、俺は面倒なことを起こし…」

 

 

「面倒なこと…?」

 

 

 しかし、俺のその一言が霊夢さんの逆鱗に触れたようだ。怒りの炎をたぎらせ、怒鳴り声を上げた。

 

 

「里の人々が、異変が起こったと勘違いして騒いでいる。これだけで十分面倒な事なのよ!」

 

 

「うぐっ…」

 

 

 霊夢さんの放った言葉に、俺は返す言葉が見つからなかった。文と霊夢さんが言っていた通り、里の人々は天へ上る2本の龍を見て異変が起こったと勘違いし騒ぎが起こっている。異変解決を生業とする博麗の巫女にとって、異変ではない出来事によって騒ぎを起こした事は、紛れも無く面倒なことである。しかも霊夢さんにとっては異変を起こすこと自体面倒なことだ。

 物事に集中すると周りが見えなくなる…。俺の一番の欠点だなぁ。

 

 

「とにかく、これ以上はさせないわ!今すぐ止めなさい!もし止めなかったら…分かるわよね?」

 

 

 懐から数枚の御札を取りだしながら、相手を威圧するかのような低い声で言い放った。つまり、今すぐこの引っ越しを止めなかったら、力づくで止めさせると言う事だ。数々の異変を解決してきた霊夢さんを相手にしたら勝ち目はないだろう。実力の差は歴然としている。しかし、こちらのプロジェクトには白玉楼の未来が賭かっている。幽々子様の食事が賭かっている。だから、何としてもレストランを完成させなければならない。

 

 

「ふっ…」

 

 

 自分でも、こんな感情が湧き上がってきたことに少し驚いた。霊夢さんがその気なら、受けて立とうと言う感情に。脳裏に浮かぶのは、生前文のために奮闘した永嵐異変の際、異変解決に来た霊夢さんたちと戦った時の光景。結局勝つ事が出来なかったが、その時感じていた恐れや焦り、そして興奮や胸の高鳴り、楽しさが思い起こされる。幽霊となった今、俺はどれくらい強くなったのだろうか。使える能力が変わった今、どれだけ通用するのだろうか。それを試したくてうずうずが止まらない。

 

 

「ふふふ…。もちろん分かるさ、力づくだろ?」

 

 

 帽子を深めにかぶりなおし、ゴーグルを目の位置に合わせた。俺のその言動に萃香さんと文は戸惑いの表情を浮かべる。

 

 

「申し訳ないが、このプロジェクトを止めるわけにはいかない。霊夢さんがその気なら、受けて立ちますよ!」

 

 

「そう…」

 

 

 霊夢さんはお祓い棒を構えなおし、敵対心をむき出しにした瞳で俺を睨みつける。

 

 

「文、萃香さん。ごめんなさい、少し暴れてきます」

 

 

 2人にそう言い残し、上空に浮かび上がって霊夢さんと対面した。霊夢さんから感じられる殺気と威圧感。そう言った感情に怖気づくと同時に、言いようもない闘志やワクワクする興奮といったプラスの感情も湧き起ってくる。言うなれば、高い壁に直面した時の高揚感に近い。これを突破すれば、さらに自分が成長するんじゃないかという感覚。過去に霊夢さんと対面したレミリアさんや幽々子様、輝夜さん達も同じような感情を抱いたのだろうか。

 

 

「少し痛い目に合わないと分からないみたいね。相手があんただからって容赦はしないわ」

 

 

「ええ、その方が嬉しいです。しかし、俺にはまだやることが残っているのであまり時間をかけるわけにはいきません。だから、こちらが使うスペルカードは3枚!俺のとっておきの3枚、霊夢さんにブレイクできますか?」

 

 

「私を甘く見ないことね。あっという間に退治してやるわ!」

 

 

 そう宣言した直後、霊夢さんは御札を投げつけた。

 

 

「それを言うなら“成仏”だろ。ま、大好きな妻が生きている間は何があっても成仏なんかしないけどね」

 

 

 そう(ひと)()ち、周りの空気を固めて真っ白な弾幕を作り出した。この御札には自動で相手に狙いをつける誘導機能が備わっている。避けたとしても向きを変えて迫ってくる。つまりこの攻撃の対処法はたった一つ、撃ち落とすのみ!

 

 

「そらぁ!」

 

 

 真っ白な弾幕を放ち、全ての御札を撃ち抜いた。はらはらと地面に散っていくお札を前にしても、霊夢さんは眉1つ動かさなかった。様々な強敵と激戦を繰り広げていた霊夢さんにとっては、こんな光景は何度も見てきたのだろう。また、俺もすべての御札を撃ち落としても喜びの表情を浮かべなかった。御札の数が少ないし動きも単調。撃ち落とすことは俺にとってできて当然なのだ。

 

 

「これくらい出来て当然よね。次の攻撃は凌げるかしら?」

 

 

「ああ、凌いで見せるさ。俺を甘く見るな!」

 




 
霊夢さんとの弾幕ごっこは書ききるのに時間がかかるかと思います。
それに、欧我君のとっておきのスペルカードを3つも考えないといけませんからね。

次の投稿はかなり先になるかと思います。
予めご了承ください。

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