レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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お待たせいたしました。
久しぶりの甘々シーンなので暴走してしまい、気付いたら7763文字も書いていましたw
なので前篇と後編に別けます。

甘々シーンは後編にあるのでよろしくお願いします。


それでは前編 -新たな家族- をどうぞ!
 


第56話 異変解決後の宴会

 

 「ん……あれ…?」

 

 

 ゆっくりと目を開けると、外からのまぶしい光が一斉に飛び込んできた。そのせいで目の前がよく見えなかったが、枕元から俺の名前を呼ぶ大好きな人の声が聞こえる。眩しい光に目が慣れると、枕元に座って心配そうな表情を浮かべる文の顔が見えた。俺が目を覚ましたことでその表情は悲しみから驚きに変わり、その直後に喜びに満ち溢れた笑顔に変わった。

 

 

「おはよう」

 

 

 優しい笑顔を浮かべているが、その笑顔にはわずかに疲れの色が滲んでいる。そっか、俺が目を覚ますまでずっと手当てをしてくれていたんだ。俺がどれほどの間気を失っていたのかは分からないけど、文には感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 

「ありがとうね、文」

 

 

「うん」

 

 

 文に感謝の言葉を述べると、笑顔で頷いてくれた。その笑顔が、文の一番大好きなところだ。誰よりも眩しくて、明るくて、そして愛おしいその笑顔が。

 

 

「文、大好…」

 

 

「欧我!起きたんだね!」

 

 

 言葉を遮るように小傘が俺の胸に飛び込んできた。その衝撃で胸に激痛が走ったけど、それをこらえて小傘の背中に両腕を回し、優しく抱きしめる。小傘も俺の事をずっと心配してくれていたんだから、痛みに任せて振りほどくのはやっちゃいけないもんね。

 しばらく抱きしめあっていると、何かを思い出したように「あっ」という声を漏らす。そしてイタズラのような笑みを浮かべた。そしていつもより少し低めな大人っぽい声でゆっくりと話し始めた。

 

 

「あ、ねぇ。欧我が眠っている間何をしていたと思う?」

 

 

「え、俺が?」

 

 

 小傘の言葉に、文ははっと息をのんで目線をそらした。かすかに顔が赤く染まっている。えっ、まさか俺が何かしちゃった?

 

 

「実はね、欧我は文の翼の中で寝てたんだよ」

 

 

「えっ!?」

 

 

 俺が、文の翼で!?確かにあの時背中から翼が生えているのを初めて見たけど、その翼で寝たってどういうこと?その状況を理解するために、脳内でイマジネーションを働かせる。つまり、横になった文の翼に包まれるようにして眠っていたということか。…っ!まさかその時に!?

 驚いた表情を浮かべながら口元に動かした右手を見て、小傘はニヤニヤという笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「そうよ。翼を甘噛みしたりぎゅっと握ったりしていたから、その度に文が「ひゃん」とか「あんっ」とか言いながら顔を…むぐっ!」

 

 

「ちょっ、やめなさい小傘!」

 

 

 もう我慢できないと体現するかのように小傘の口を封じる文。その光景を眺めながら、小傘からされた死刑宣告に似た事実を聞かされ、俺の脳内でイメージが暴走を始めてしまった。一度暴走を始めたイメージを止める事が出来ず次々とイメージされるその時の光景。俺が眠っている間にそんなことが…。

 恥ずかしさと文の可愛さによって見る見るうちに真っ赤に染まる顔を見られまいと、

布団を引き上げて頭まですっぽりと覆い隠した。

 

 

「欧我、ちょっといいかしら?」

 

 

 そんな中、その声と共に障子の開く音が聞こえた。鼻の所まで布団をめくると、障子の所から幽々子様が中を覗いていた。慌てて起き上がろうとしたが、幽々子様からそのままでいいと言われたので再び枕に頭を乗せた。それよりも、顔が赤くなってないよね?

 

 

「はい、いいですよ」

 

 

 そう言うと、幽々子様はうんと頷いて部屋に入ってきた。その後ろには今回異変を起こした犯人である付喪神の心華ちゃんもいる。その様子から見ると俺が眠っている間に和解できたようだが、一体何の用事だろうか。

 

 

「実は、欧我が眠っている間に文と小傘と相談したんだけど、心華を貴方の家族に迎え入れてくれないかしら?」

 

 

「えっ…。しかしその子は幽々子様の手鏡…」

 

 

「いいのよ。私といるよりも、貴方たち家族の中で愛情に囲まれて過ごせば、この子の悲しみや孤独といった負の感情を癒せるんじゃないかと思ってね。それにこの子もそれを望んでいるみたいよ」

 

 

「心華ちゃんも?」

 

 

 そう言って、幽々子様の陰に隠れてじっと俺の顔を見ている心華ちゃんを見つめる。心華ちゃんは何も言わず首を縦に振った。確かに幽々子様の言う通りたくさんの愛情に包まれて過ごせばマイナスの感情も癒されるだろう。本人がそれを望んでいるのなら、俺に断る理由などない。

 

 

「はい、わかりました」

 

 

「えっ」

 

 

 俺の返事を聞き、心華ちゃんは驚いたような声を上げた。俺は何も言わず優しい笑顔を浮かべて頷いて見せる。

 

 

「おいで、心華」

 

 

「うん!」

 

 

 心華は涙目でうなずくと俺の胸に飛び込んできた。心華の身体を受け止め、優しく抱きしめる。色々とあったけど、まさか家族がもう一人増えるとは思わなかった。これからはこの家族4人で仲良く幸せに過ごしていこう。

 

 

「よろしくね、パパ!」

 

 

「パパは止めて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、白玉楼には大勢の人々…いや妖怪が集まっていた。人間の里と妖怪の山で起こった共鳴鏡乱(きょうめいきょうらん)異変が無事に終結し、そのお祝いの宴会が開かれている。この宴会は白玉楼の主である幽々子が提案したもので、今回異変を起こした犯人である付喪神が白玉楼で生まれたことからここ白玉楼が会場に選ばれた。もちろん料理や酒といったものも白玉楼が用意したもので、欧我と妖夢が台所に立ち必死に両腕を動かした。

 宴会の会場には、今回の異変で活躍した霊夢や異変に全く関係ない宴会好きな妖怪たちがたくさん集まっていて、盛大な宴会が開かれている。そんな会場の中、欧我は料理に一段落を付け、一人離れた縁側で身体を休ませていた。

 

 

「ふぃ~…」

 

 

 今までどれくらいの時間台所に立っていたんだろうか…。今日の午後3時くらいから料理を作り始めていたのに、文の知らせを受けたみんなが殺到して開始時間である午後6時を待たずして宴会を始めてしまったから、折角作り置きしていた料理がどんどんみんなの胃袋の中に消えていった。だから次から次へ作らないといけなくなってしまった。でもこれで当分は大丈夫かな?

 大きく伸びをし、ワイワイと騒ぎまくっているみんなを眺めた。こういった宴会は眺めているだけでも楽しいし、一生懸命作った料理を喜んでくれるのは本当にうれしいからな。

 

 

「ん?」

 

 

 すると、その中から小傘と心華がこちらに向かって歩いてきた。心華は俺に駆け寄ると、ちょこんと膝の上に腰を下ろし、小傘は俺の隣に座った。どうやら全員に挨拶を済ませたようだ。

 

 

「お疲れ様。どうだった?みんなと馴染めそう?」

 

 

「うん、みんな優しそうでよかったよ!それよりも、甘えるって楽しいの?」

 

 

「えっ?」

 

 

 甘える…?

 

 

「小傘ちゃんが欧我に甘えていると幸せを感じるって言ってたから、私も甘えてみようと思って!」

 

 

「ちょ、心華ちゃん!?」

 

 

「えへへへ!」

 

 

 心華の言葉を聞き、小傘の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。そっか、小傘が俺に甘えてくるのは幸せを感じるためだったんだね。でも、だったらなぜ今小傘も甘えてこないだろうか。

 

 

「小傘は甘えてこないの?」

 

 

「わ、私はいいの!だって私はお姉ちゃんだからお姉ちゃんらしくしようと思ってね」

 

 

「そっか。そういえば最近いきなり大人っぽくなったよね。この前まではずっと甘えてきたのに」

 

 

「それはねー、欧我に甘えた…ぎゃっ」

 

 

「心華ちゃん!それ以上はだめっ!!」

 

 

 トマトのように顔を真っ赤に染めて小傘は心華の口を封じた。

 

 

 

 その3人の様子を、一人離れたところでじっと見つめる文。文は1人カメラを片手に今回の宴会の取材を行ってきた。写真を撮っている途中にそんな3人の姿を見つけたのだ。3人を見つめる瞳はかすかに悲しみを抱いていた。

 

 

「文さん、飲みませんか?」

 

 

 そんな文のもとに、椛が徳利(とっくり)とコップを持ってやってきた。椛の顔は真っ赤になっていて、酒に酔っているようだった。

 

 

「ありがとう。頂くわ」

 

 

 文はコップを受け取り、なみなみと注がれた酒をじっと見つめる。そしてグイッと飲み干した。

 

 

「あ、美味しい」

 

 

「でしょ?」

 

 

 しかし、その直後頭がかぁっと熱くなってきた。いくら酒に強い私でもコップ1杯を飲み干しただけでこのようになってしまうのは、もしかして…

 

 

「も…椛、これって?」

 

 

「さぁ、向こうに一杯ありますから飲みましょうよ!」

 

 

 そう言って文の手を引っ張る椛の目は「ごめんなさい!」と訴えていた。その目からすべてを理解した文は死を覚悟した。椛に連れてこられた先には、案の定萃香と勇儀の2人の鬼がいた。

 

 

「待ってたよ、文。椛もお疲れ様」

 

 

「は、はい」

 

 

 鬼の2人の周りには空になった酒の瓶が散乱し、背後ではにとりがダウンしていた。この状況に身体がぶるぶると震えそうになるが、必死に堪えた。

 

 

「伊吹様に星熊様、お久しぶりです」

 

 

 平静を装って出した声はかすかに震えていた。

 

 

「何よ堅苦しい。それに様はつけなくてもいいよ。それよりも、身体が震えてない?」

 

 

「い、いえとんでもございません!私は震えてなど…」

 

 

「そう?そのようには見えないねぇ。私は天狗のそう言った嘘が嫌いなのよ」

 

 

「あやややっ!?」

 

 

 萃香から図星を突かれ、文の顔からは血の気が引いて行く。その様子を見て、鬼の2人はため息をついた。

 

 

「まあいい。それよりもお前、欧我に甘えたいんじゃないか?」

 

 

「えっ!?」

 

 

「さっきも欧我にじゃれる2人を羨ましそうに見つめていただろ?この際自分に正直になって本心から甘えてみればいいじゃないか」

 

 

 勇儀から言われた通り、文の心にはもっと甘えたいという気持ちがあった。しかし小傘がいつも甘えていたり、欧我に迷惑がかかるんじゃないかと思って遠慮をしていた。

 

 

「で、ですが私は…」

 

 

「何よ、正直じゃないね。ほら、こういう言葉もあるだろ?酒に酔った勢いで甘えなさいって」

 

 

 その言葉ですべてを理解した文はこの場を逃げようとしたが、それよりも早く椛に羽交い絞めにされた。どうやら逃げ出すことは想定済みだったらしい。

 

 

「さあ、一緒に飲もうじゃないか」

 

 

 そう言って萃香と勇儀の2人は真っ黒な笑みを浮かべながらコップに注がれた酒を近づける。その酒はもちろん鬼たちが飲む度数が高いものだ。

 文はこの世の終わりが来たような表情で必死にもがくが、椛の束縛からは逃れられなかった。ここで文を逃したら自分が標的にされるという恐怖心が椛の力を強くしたのだ。

 

 

「も、椛!離しなさい!嫌っ、誰か!誰…むぐっ」ゴクッ

 

 

 文の悲鳴に似た言葉は、残念ながら欧我に届いていなかった。




 
文さんが酒に酔ったらどんな行動をとってしまうのか…。
それは後編でのお楽しみ!
 

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