レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第38話 葉月一家

 

「えー、では、ケーキカットに移ります!」

 

 

 レミリアさんによって始まった弾幕ごっこも無事に終了し、みんなそろって披露宴の会場に戻ってきた。もちろん俺達は再びタキシードとドレスに着替えている。再び宴会で騒ごうとした直前、そうはさせるかとばかりに司会進行役の妖夢が大声を張り上げた。

 ああ、そう言えばまだやることが残っていたね。本来の、初めての夫妻共同作業であるケーキカット。

 

 

「それでは、ケーキ入場!」

 

 

 妖夢の合図によって、陽炎さんが会場に巨大なケーキを運んできた。いくつものスポンジ生地を何層も重ねた巨大なケーキは純白に輝くクリームでコーティングされ、色鮮やかなフルーツやホイップクリームによる飾りつけが施されている。そして、なんと大量のキノコが飾りつけに含まれている。青や赤、黄色といった、一見毒々しいキノコばかりが立ち並んでいるが、これは食べても大丈夫なのだろうか…。

 それにしても、まさかこれほど豪華なケーキを作ってくれるなんて。さすがはアリスさんだ。うん、まあ手伝ってくれた魔理沙さんもね。

 わぁ、これは切るのがもったいない。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

 

「ええ」

 

 

 席を立ちあがり、ケーキの前に移動した。文がケーキカット用のナイフを両手で握りしめ、その手に俺の右手を重ね合わせる。その状態で、ゆっくりとナイフをケーキに差し込んだ。

 

 

「こっち見て、こっち!」

 

 

 その様子を、写真屋がしきりにカメラに収めている。ここが大一番だと言いたげに写真に熱中する小傘を見ていると、師匠として、そして同じ写真屋として小傘を一人前の写真屋に育て上げることができたんだなと実感することができる。

 

ツルッ

 

 

「きゃん!?」どてっ!

 

 

「小傘!?」

 

 

 おっちょこちょいなのは、相変わらずだけど。

 その後も少し落ち込んだ小傘によって大量の写真が撮られながら、無事にケーキカットを終了させた。文が緊張して両手が小刻みに震えちゃっていたから、断面が少しいびつになってしまったが…。まあこんな小さなことが気になってしまうのも、料理人の性なんだろうか。

 

 

 

 ケーキカットの後はキャンドルサービス。各テーブルを回りながら来てくださったみんなと挨拶を交わし、少し談笑する。みんなから結婚を祝う言葉や冗談などを言われ、笑いあい、驚きながらテーブルを回っていく。本当に、俺は最高の仲間たちに囲まれていて非常に幸せだ。

 

 

 

 すべてのテーブルを回り終わり、自分たちの席に戻ってきた。この後はいよいよブーケトスだ。一体誰が手にするのか、それが非常に楽しみだ。

 

 

「ブーケトスを行います!参加者は前に集まってください!」

 

 

 ブーケトスを行う理由は、結婚の幸せをみんなにお裾分けするためだ。

 一段高いところに文が立ち、その前に参加者全員がずらっと並ぶ。この中で幸せを手にするのはいったい誰なのか。あらかじめ弾幕と能力の発動、そして飛ぶことは禁止という注意を行っているから、まあ喧嘩や取り合いは起こらないだろう。

 幽香さんから送られた色鮮やかなブーケを胸元に抱え、みんなに背を向けた。

 

 

「よし、行きます!」

 

 

 その掛け声とともに、ブーケが天高く投げ上げられる。天高く昇って行くブーケはやがてその勢いを失い、地球の重力につかまって徐々に落下してきた。みんなの視線がブーケに集中する。その直後…

 

 

「えいっ!」

 

 

 どこからか巨大な腕が伸びてきて、そのブーケを空中で掴みとった。この機械的な腕は…

 

 

「やったよ!」

 

 

 その腕をたどっていくと、それはにとりさんの背負う大きなリュックから伸びていた。まさか、必殺の「のびーるアーム」を使うなんて。

 周りからの視線を気にすることなくにっしっしと笑顔を浮かべて両手でピースを突き出すにとりさんのもとに、潤さんが駆け寄ってきた。

 

 

「やったな、にとり」

 

 

「うん!やはり河童の科学は偉大だね!」

 

 

 そう言って潤さんにウィンクを飛ばす。

 

 

「あ、ねえ、知ってるか?」

 

 

「え、何を?」

 

 

「ブーケを手にした人は、次に結婚できるって言われているんだぜ」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

 その瞬間、にとりの顔から笑顔が消え、かぁーっと真っ赤に染まっていった。

 

 

「ほっ、本当に!?わ、私が結婚って?一体、だ、誰と!?」

 

 

「さー、誰だろーねー」

 

 

 顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに慌てふためくにとりを見て、潤さんはからかうような笑みを浮かべている。非常に仲がよさそうで、とてもお似合いな関係に見える。

 もしかしたら、次に結婚式を挙げるのはあの2人になりそうだな。

 どうしよう、自然とニヤニヤしてしまう…。まあ、みんなもニヤニヤしたりひそひそと話し合ったりしているから良いか。

 

 

「よし、じゃあ宴会を続けましょう!さあ、今日は一杯食べるわよー!」

 

 

 霊夢さんの言葉に呼応するかのように、集まったみんなはそれぞれの席に戻って宴会を始めた。俺達も前の席に戻って文と一緒に用意された沢山の料理を堪能した。

 これで、結婚披露宴の日程もほとんどが終了した。とうとう、俺は文と夫妻になることができた。これからは、ずっと隣で文を守って生きていこう。それにしても…

 

 

「結婚したのに、妻と別れて暮らすのか…」

 

 

 俺は冥界の外で一日以上過ごすことができない。しかし、それは文も同じだ。天狗と言う縦社会の中に身を置いている文にとって、妖怪の山を飛び出して冥界で一緒に暮らすことはできない。つまり、夫妻そろって一緒に暮らすことができないのだ。

 しかし、文が思いもよらないことを口にした。

 

 

「ううん、そうとも限らないわよ」

 

 

「えっ?」

 

 

「急な招集に応じるのであれば、金土日の3日間は白玉楼で暮らしてもいいって天魔様が」

 

 

 本当に!?無意識の内に俺の顔がパァッと笑顔になっていく。3日だけだが、文と暮らすことができる。それだけで非常に嬉しかった。

 

 

「でも、これだけじゃないの。結婚祝いとして天魔様から2週間休暇がもらえたの!結婚してからの2週間はずっとそばにいることができるのよ!」

 

 

「ほんとうに!?」

 

 

「ええ!」

 

 

 満面の笑みでそう答える文。2週間は、全てを忘れて大好きな文と暮らすことができる。それが非常に嬉しくて、思わず文を抱きしめてしまった。文は驚いたものの、俺の体をしっかりと抱きしめてくれた。しっかりと抱きしめあい、幸せを分かち合う。

 

 

「それにしても、俺は本当に幸せだな」

 

 

「どうして?」

 

 

「隣に大好きな人がいて、一人前の写真屋という後継者がいて、支え合い、盛大に祝ってくれる大切な仲間がいる。それだけで本当に幸せなんだ。もっとみんなに、レストランで恩返しをしたい」

 

 

 俺の言葉を聞いた途端、文が何かを閃いたようだ。

 

 

「でしたら、私が記事を書きますよ!」

 

 

「文々。新聞で?」

 

 

「ええ!任せてください、一目見ただけで絶対に行きたくなる記事を書いて見せます!その代り、報酬はいただきますよ」

 

 

「えっ、報酬?」

 

 

「はい。私が今、一番欲しいものを貴方からプレゼントしてください」

 

 

「俺から?それって何を?」

 

 

「それは…」

 

 

 顔を赤らめ、俺の顔をじっと見つめてくる文。文が今一番欲しい物って一体何なのだろうか…。

 

 

「欧我の、苗字です」

 

 

「えっ…」

 

 

 俺の、苗字!?いや、まあ結婚したら苗字を同じにするのは普通だけど、文は苗字を変えていいのか?

 

 

「ダメ…ですか?」

 

 

「ダメじゃないけど、苗字を変えちゃってもいいの?」

 

 

「ええ、取材中や天狗として仕事をしている時は『射命丸』を使います。でも、欧我と一緒にいるときくらいは、貴方の『葉月』という苗字を使いたい」

 

 

「そっか…。うん、分かった。俺の苗字を大好きな文にプレゼントするよ」

 

 

 俺の返事を聞き、文は今までで最高の笑顔を浮かべた。

 

 

「じゃあ私は葉月小傘ね!」

 

 

 そんな2人のもとにやってくる小傘。どうして小傘まで苗字を変える必要があるんだ?

 

 

「だって、私たちは家族でしょ?家族なら苗字を一緒にするのが普通だよね?」

 

 

 笑顔で聞いてくる小傘。そうだ、家族は文だけではない。小傘も大切な家族の一員なんだ。

 笑顔で頷くと、小傘は嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。その様子を笑顔で眺める俺と文。血の繋がりは無いけど、俺達は“葉月一家”なのだから。

 

 

「よーし、葉月小傘としての初仕事よ!2人の写真を思いっきり撮らせてね!」

 

 

 そして懐からカメラを取り出し、レンズを俺達に向けた。

 

 

「よし、いいよ。文も、撮られるのは好きじゃないとか言わないでよ」

 

 

「分かったわよ。仕方ないわね」

 

 

 立ち上がった文の肩を右腕で支え、左腕を膝の後ろに通して抱き上げた。

 

 

「あややややややっ!?こっ、これはっ!?」

 

 

「これ?お姫様抱っこ」

 

 

 文の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。恥ずかしそうに両手で顔を覆い、両足をバタバタと動かす。でも、常に浮かんでいる俺はそんなことで降ろしたりしないよ。

 

 

「お、降ろしてよっ!恥ずかしいじゃない!」

 

 

「そんなこと言わずにさ、写真を撮ろうよ。ねっ、俺のお姫様(プリンセス)

 

 

「むぅ~、欧我ぁ~」

 

 

「えへへっ、すごく可愛いよ」

 

 

「もう許さない!倒れるまで酔わせてあげるから覚悟しなさいよ!」

 

 

「おお、こわいこわい」

 

 

 その後、みんなそろって写真を撮りまくった。終始文の顔が真っ赤に染まったままだったけど、まさか調子に乗ってお姫様抱っこをし続けたのが原因だったのかな?そして、文に思いっきり酒を飲まされて気を失ってしまったのは内緒にしておこう。

 

 大宴会となった結婚披露宴は、外で過ごすことのできる制限時間を迎えて俺たち冥界へ帰った後も、3日間は止むことが無かった。

 




 
無事に結婚式を終えることができました。
これで、気分新たに欧我と文のラブラブな生活を書くことができます。

でも、その前にコラボを書かないとですね。
結婚式に熱が入ってしまい、後回しにして申し訳ありません。
結婚式が終わりを迎えましたので、今度はコラボを執筆します。
booty様、お忙しいかもしれませんが、相談やサポートなどをお願いいたします。


それではまた次回、お会いいたしましょう!

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