それが夫妻スペルカードであり、
「虹符『蜻蛉の舞-巻の
空気を固めて大量の蜻蛉を作り出し、同心円状にばらまいた。ばらまかれた蜻蛉は一旦広がると、一斉に美鈴さん目掛けて襲いかかった。
「なんの、彩符『極彩颱風』!!」
美鈴さんも負けじとスペルカードを発動させ、粒状の光弾をまるで降り頻る雨のように放った。美鈴さんの持つ気によって形成されたその弾幕はまるで、空を飾る虹のようだ。なるほど、虹の弾幕には先駆者がいたか。
美鈴さんはスペルカードを発動させて蜻蛉と相殺させようという魂胆だろうが、甘い。さらにこんな避けやすい弾幕じゃあ尚更だ。この蜻蛉はただの弾幕ではない。その蜻蛉一つ一つが、まるで生きているかのように空気の流れを感じとって弾幕の無いところを飛び回ることができるのだ。これは日々の修行によって可能になった技だ。
「くっ!」
美鈴さんは自分の放った弾幕の隙間を縫って次々と襲いかかる蜻蛉を、拳や蹴りでことごとく打ち砕いていく。その動きに一切のムダは無く、しかも的確に蜻蛉の核を打ち抜いていく様を見ると、美鈴さんは相当の実力者だと改めて認識できる。門の前で居眠りばかりしている門番の時とは大違いだな。
まあでも、これである程度は足止めできるな。今のうちに文を助けないと。咲夜さんの能力である時止めに苦戦しているようだから。もし文が目の前で串刺しにされたら……
「華符『芳華絢爛』!!」
「っ!?」
まさか蜻蛉を打ち砕きながらスペルカードを発動させるとは…。美鈴さんを中心に、密度の濃い弾幕が次々放たれる。それはまるで、鮮やかに咲き誇る大輪の華のように。
この密度の濃い弾幕を避けきることはできず、蜻蛉のほとんどが相殺されてしまった。
「くそっ、助けに行きたいのに!」
自然と口をついて出てくる悪態。
「あっ!?」
背後から迫るナイフ。文は咲夜さんの投げるナイフに気を取られて全く気づいていない!このままじゃあ…
「文っ!!」
気づいたら体が動いていた。文の背後に移動し、弾幕を放出して前と後ろの両方から迫るナイフを打ち落とした。
「欧我!」
「えへへ、文は俺が守る」
親指をグッと突きだし、右目でウィンクを飛ばす。文はその様子を見て笑顔を浮かべたが、その直後笑顔が消えた。
「私を忘れないでください!」
「危ないっ!」
俺の背後から美鈴さんの蹴りが迫っていることに気づかなかった。文は右手に持つ葉団扇を扇ぎ、突風を巻き起こして美鈴さんを吹き飛ばした。
「あぶなかったわね。欧我は私が守りますよ!」
今度は文が俺と同じように親指をグッと突きだした。ふふっ、なんかとても心強いよ。
しかし、その直後俺たちの周りを大量のナイフが取り囲む。そのナイフの量と密度の濃さに圧倒されるが、これ以上に大変なのは抜け道が見つからないことだ。これをどう防ごうか…
…そうだ!
「文、竜巻を!」
「えっ!?…そう、分かった!」
文は頭に疑問符を浮かべるが、俺の真意を理解した途端葉団扇を握りしめて頷いてくれた。これぞ夫妻の阿吽の呼吸というやつだ。
「何をしようと無駄よ。空虚『インフレーションスクウェア』!!」
咲夜さんがスペルカードを発動させた瞬間、大量のナイフが一斉に襲いかかってきた。
「欧我、行くよ!」
「おう!」
その直前に文が俺の頭上で葉団扇を仰ぎ、2人を取り囲むように竜巻を発生させる。竜巻の中でパワーを溜め、大量の空気を一気に放出させた。
「「結符『アムールトルナーダ』!!」」
大量の空気を取り込んだ竜巻は大爆発を起こすかのように一気に膨張し、周りに迫っていた大量のナイフをすべて巻き込んだ。これぞ俺の空気と文の風を組み合わせた夫妻スペルカード、そして
「っ!」
「うわぁぁ!!」
咲夜さんは時間を止めている間に竜巻から距離を置いたので暴風を喰らわずに済んだのだが、そばにいた美鈴さんは暴風の直撃を喰らってしまったため吹き飛ばされてしまった。
しかし、まだこの夫婦スペカは終わってなどいない。巻き込まれたナイフは竜巻の回転スピードと遠心力によって俺たちの弾幕となり、高速で竜巻から打ち出された。このスペルカードには、相手の弾幕を自分の物にしてしまうことができるのだ。
「やったね欧我!」
「ああ!」
上から文が下りてきて俺に抱き着いてきた。おそらく2人の夫妻スペカが決まったことが嬉しかったのだろう。俺と文のように、空気と風の相性は抜群だ。この二つが組み合わされば、お互いの能力や技の威力を何倍にも強化することができる。
2人を取り囲むように発生していた竜巻が止み、体勢を立て直した美鈴さん、咲夜さんと再び向かい合った。
「大丈夫?美鈴」
「はい!それにしてもすごい竜巻でしたね!」
心からこの勝負を楽しんでいるように見える美鈴さん。どうやら竜巻で吹き飛ばされた時のダメージは殆ど受けていなかったようだ。やっぱり強いな…。
「こうなったら、私たちも負けていられないわね。美鈴、アレ行くわよ」
「アレですね!久しぶりに行きましょう!」
咲夜さんと美鈴さんの言うアレとは一体何なのだろうか。自然と体に力が入る。咲夜さんがフィンガースナップを決めた途端、目の前から2人の姿が忽然と消えた。
「えっ!?」
一体どこに消えたというのか!?慌ててあたりをきょろきょろと見回す。しかし、2人の姿はどこにも見られなかった。
「欧我、落ち着いて!」
しかし、文は逆に落ち着いていた。目を動かし、風の流れを感じ、姿を消した2人の行方を捜している。俺も深呼吸をして心を落ち着かせ、文と背中合わせになった。これでお互いの死角である背後を補いあえる。
「探知『
目を閉じて空気の動きを肌で感じ取る。人が動けば空気も動く。周りが空気に囲まれている以上、相手の動きは手に取るように分かる。ほら、さっそく頭上から…。
右腕を掲げ、空気を固めて壁を作り出す。
「はぁぁぁっ!」
その直後、その壁に美鈴さんの蹴りが激突した。さらに激突したと同時に弾幕が放たれたようだが、空気の壁はびくともしなかった。どうやら文も投げつけられたナイフを風で吹き飛ばしているようだ。
「やりますね…でも!」
その言葉とともに、再び美鈴さんと咲夜さんの姿が消え、別の所から姿を現した。しかも、空気の動きからその場所に高速で移動したわけではない。まるで手品のように突然別の場所に現れ、攻撃を仕掛けてくる。これは一体…?
目の前から迫ってくる大量のナイフを空気の壁で防ぎ、空気を固めて作った大量のナイフをお返しに放つ。
ん?咲夜さん…?
「そうか!」
なんだ、意外と単純な手品だったな。咲夜さんが時間を止め、その間に美鈴さんを別の場所に移動させているんだ。そして時間を動かせば、あたかも別の場所にテレポートしたかのように見えるというわけだ。
それにしても、この息の合った攻撃は素晴らしいとしか言いようがない。長年レミリアさんのもとで共に生活しているだけあって、そのコンビネーションは流石だ。俺たちも負けていられないか。
「なるほどね!」
この攻撃のタネを文に説明すると、文もそれに気づいたようだ。
その後に、何かを思いついたように頭に電球が灯る。
「あ、ねえ!私も新しいスペルカードを思いついた!」
「本当に?」
2人の周りを取り囲むように空気の壁で覆い、守りを固める。そして文の説明に耳を傾けた。
…これは面白そうだ。
2人の放った結符「アムールトルナーダ」。
これはフランス語で
アムール(Amour)…愛、愛情
トルナーダ(tornada)…竜巻
を意味します。
では、次回も繰り出される2人の夫妻スペカもお楽しみに!