一番前の一段高くなった席に2人で座った後、司会進行役である妖夢によって結婚披露宴の開催が宣言された。一通り紹介やスピーチを行った後、ゲストを代表して魔理沙さんが乾杯の音頭をとることになっている。なんでも、「ぜひ私にやらせてくれ!」となぜか乗り気であったために、文と一緒にお願いしたのだ。
「えー皆さん!今日は欧我と文の結婚式に来てくれてありがとう!」
全員が起立したことを確認すると、魔理沙さんはワインが注がれたグラス…ではなく日本酒が注がれたコップを持って頭上に掲げた。
「この後やるのは披露宴なんだが、私たちが集まればやることは一つだろ?」
…はい?
「宴を楽しもうぜ!乾杯!!」
魔理沙さんの音頭に合わせて会場から一斉に「乾杯!」という声が溢れ、あっという間に盛大な宴会が始まってしまった。結婚式の披露宴とは思えないその宴に、あっけにとられる俺と文、そして司会進行役の妖夢。司祭役をやってくれた早苗さんは式の事をすっかりと忘れて神奈子さんたちとはしゃいでいる。
「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですか…」
改めて痛感したよ…
「そうみたいね…」
ボソッとつぶやいた俺の言葉を聞き、文は苦笑いを浮かべながらそう答えた。本来の披露宴では考えられないような光景だが、まあこれが幻想郷らしいというかなんというか…。咲夜さんに陽炎さん、藍さん、そして妖夢と一緒に用意した大量の料理を取り分けながらワイワイと騒ぎまくるみんなを見ていると、驚きや呆れといったマイナスな感情は薄れていき、逆に楽しさや面白いといったプラスの感情が溢れてきた。
「あの…ケーキカットはどうしましょう」
妖夢に聞かれたことで、この後するべき仕事を忘れかけていたことに気が付いた。でも、始まったばかりのこの宴会を中断することはできないだろう。妖夢にケーキカットは少し落ち着いてからと伝えると、はぁと小さいため息を漏らして幽々子様の所にトボトボと歩いて行った。おそらく、もう諦めて宴を楽しもうとしているのだろう。
「とにかく、俺達も楽しもうよ」
「そうね、行きましょう!」
いつも通りの宴会になってしまったため、もう披露宴の様式や順序は気にしなくてもいいか。ここには霊夢さんや萃香さんと言った宴が大好きな人が集まっているから、中断したら怒るだろう。なら、ここからはいつも通りの宴をやろう。文と手を繋ぎ、宴会の輪の中に飛び込んでいった。
それぞれの席を酒と料理を少しずつ頂きながら挨拶をして回り、今は会場を提供してくれた紅魔館メンバーの席で一緒に酒を飲んでいる。レミリアさんや咲夜さん、そして美鈴さん達と一緒に語り合っているとき、不意にレミリアさんが何かを思いついたような表情に変わった。
「ねぇ、今から弾幕ごっこをしてみない?」
「弾幕ごっこ…ですか?」
なぜここで弾幕ごっこを?
そう聞こうとしたら、少し離れた所でフランちゃんとはしゃいでいた魔理沙さんが「弾幕ごっこ」というワードを聞きつけ、目をキラキラと輝かせながら俺たちのもとにやってきた。
「弾幕ごっこか、いいね!結婚した夫婦のコンビネーションを見てみたいぜ」
「面白そう!見たい見たい!」
フランちゃんがそれに賛同したことによって、さらに弾幕ごっこの輪はどんどん広がっていった。あれ、これって披露宴だよな?
「文…どうする?」
隣に座っている文は…
「面白そうですね。でも、その前に着替えないと折角のドレスが破れちゃうな」
どうやら、かなりやる気のようだ。
「面白そうなことになってきたわね」
そう声を漏らした
「咲夜、美鈴」
「「はい」」
「2人の相手をしてあげなさい」
「かしこまりました」
「はい、わかりました!」
この状況、どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ…。しかも周りはやる気満々だし。
仕方ない、俺もやる気を出そう!
「よし、分かった。文、絶対に勝とう!」
「うん!」
タキシードからいつも着ている服に着替え、上空で咲夜さん、美鈴さんと対峙する。隣には、ドレスからいつもの服に着替えた文が立っている。噂を聞きつけた観客が屋上に集まり、レミリアさんとフランちゃんを日光からガードするかのように陽炎さんが日傘を掲げている。
隣に立って葉団扇を構えている文を見ていると、非常に心強く感じる。それが愛する妻だとなおさらだ。大きく深呼吸をすると、目の前に立つ美鈴さんに視線を向けた。
「美鈴さんとは、一度拳を交えてみたかったですね。それがこんな形で叶うとは…」
「そうですか、それは光栄です!悔いの残らないように全力で行きましょう!咲夜さんもいいですね?」
嬉々と語る美鈴さんは隣に立つ咲夜さんに視線を向けた。咲夜さんは太腿に付けたホルスターからナイフを数本引き抜いた。
「もちろんよ。それに、今日のディナーは鴉の焼き鳥で決まりね」
「そんなことさせないし、この俺が許さない!」
咲夜さんの焼き鳥発言を聞き、思わず文よりも早く反応をしてしまった。
「そうよ。それに、私は欧我以外には食べられたくありません!」
「そうそう俺以外に…って、文、その発言はちょっと不味くないか?」
「あっ…」
文は自分のした発言の意味を理解した途端、顔を真っ赤に染めてその場にうずくまってしまった。慌てて文に駆け寄って慰めようとしたが、それよりも早く咲夜さんがナイフを投げつけた。
まっすぐ文に迫るナイフは途中から倍の数に増え、しかも文はそれに気づいていない。
「全く…」
そう声を漏らすと、能力を発動して空気を固めて壁を作り出す。その壁にナイフが突き刺さり、文へのダメージを回避できた。ほっと息をついたその瞬間、
「はぁぁぁぁっ!」
いつの間にか目の前に美鈴さんが接近し、勢いをつけた回し蹴りを繰り出した。
「くっ!」
慌てて左腕でその蹴りを防いだが、美鈴さんの気を纏った蹴りの一撃は強力で、空気で腕を覆わなければ骨が折れていただろう。左腕を回して美鈴さんの足を掴み、それを支点にして身体を反時計回りに回転させ、脳天にキックを叩き込む。しかしその一撃はギリギリのところで防がれてしまった。
いったん美鈴さんと距離を置いて離れた直後、目の前に大量のナイフが迫っていた。おそらく時間を止めている間にセットしたものであろうが、美鈴さんと離れたことで気を抜いたその一瞬を突かれ、反応が遅れてしまった。
しかし、その直後俺を竜巻が包み、ナイフを弾き飛ばした。この風は…
「文、ありがとう!」
「さっきのお返し。気を引き締めていくよ!」
そうだ、弾幕ごっこは始まったばかりだ。ここで気を抜いていてはだめじゃないか。
ここから、自分の出せる全力で立ち向かおう!そう意気込み、一枚目のスペルカードを取り出した。
「よし、スペルカード!」