レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第30話 クッキーの出来上がり!

 

みんなが形作ったクッキーを持ち、教室の外へ出た。これからやるのは、クッキーづくりの最後の工程である“焼く”作業だ。そのためにはオーブンが必要不可欠なのだが、生憎ここにはオーブンが無い。ならどうするか…。それはもうすでに手は打ってある。

 

会場の外に出ると、空気を操る程度の能力を発動して目の前に巨大な直方体を作り出す。突如現れた真っ白な直方体に歓声や驚きの声を上げる子ども達。まあ、そりゃあ目の前にこんなものがいきなり現れたら驚くよな。

 

 

「さて、あとはこれを炎で熱すれば疑似オーブンの出来上がり。妹紅さん、矢印のところから炎を入れてください。」

 

 

手招きをして妹紅さんを呼び、矢印の位置を指さしながら頼んだ。

 

 

「薄々気付いていたが、やっぱりこのために呼んだのか。」

 

 

そう不満を口にしたのだが、矢印の下にある管のところに手を当てて炎を放出した。真っ赤に燃える炎はあっという間に直方体の中に充満し、高熱を帯び始めた。

 

 

「この直方体は二重構造になっていて、厚い外側と薄い内側の層の間に炎を通すことによって中の温度を上げ、疑似オーブンとして利用することができます。温度調節については、俺が酸素と二酸化炭素の量を操って炎の勢いを調節することによって可能にしている。まずは180℃を目指そう。」

 

 

この疑似オーブンについて説明すると、子ども達から分かったような分からなかったような判別の付きにくい「へぇ~。」という返事が返ってきた。

 

 

「そんなの、私じゃなくてもマッチとかの炎でもよかったじゃないか。私は調理器具かよ。」

 

 

「違うよ。炎を繊細に操らないとクッキーの焼き加減にムラができちゃって失敗するんだ。だから、炎を巧みに操る妹紅さんの腕前がどうしても必要だったんだ。それに、妹紅さんは立派なアシスタントだよ。」

 

 

そう言って、妹紅さんの隣にしゃがみ込んだ。

 

 

「俺が似顔絵クッキーを作っている間、代わりに子供たちの面倒を見ていてくれたんでしょ?」

 

 

「えっ、見ていたのか?」

 

 

俺の一言に驚いて、妹紅さんは若干顔を赤く染める。

あれ、まさか褒められ慣れていないのかな?

 

 

「もちろん。妹紅さんのおかげで似顔絵クッキーづくりに専念できた。ありがとう。」

 

 

妹紅さんはさっきよりも顔を真っ赤に染め、赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。

やっぱり、褒められ慣れていないんだね。

 

 

「ありがとね、もこたん。」

 

 

もう一度お礼を言って、妹紅さんの頭をポンポンと優しく撫でた。

 

 

「頭を撫でるな…ってもこたん!?」

 

 

うん、もこたん。

 

 

その後、もこたんの活躍によって疑似オーブンの中が目標の180℃に到達した。後は中にクッキーの元を並べて焼くだけ。

大きい物や厚いものは下段に、そこから小さく薄くなるにつれて上になるように並べていく。そうすれば焼けたものから順番に取り出しやすくなる。

 

流石に全員分を入れることはできないので、まずは1グループからだ。空気を固めて疑似ミトンを作って両手を覆い、バットを掴んでオーブンの中に入れた。後は火の強さと時間に注意して焼いて行くだけだ。

 

これからは集中しなければいけないから冗談とかそう言うのは無しだ。

もこたんと呼吸を合わせ、火の温度を調節しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、できたよー!」

 

 

ついに、最後のグループのクッキーを焼きあげることができた。すべてのクッキーを焼き上げるのにかなり時間がかかっちゃったけど、見たところ焦げた部分や割れちゃった部分が無かったので、ほっと安堵の息を漏らした。大成功だ。

 

あとは、クッキーを食べるだけ。

でもその前に…。

 

 

「プレゼントターイム!!」

 

 

俺の発した声に子供たちはシーンと静まり返り、視線が一斉に集中する。

ああ、横文字はまずかったのかな?

 

 

「あ、えっと…贈り物の時間と言う事です。…こほん。」

 

 

軽く咳払いをすると続けた。

 

 

「みんなの手元には自分のクッキーが行き届いたよね。じゃあそのクッキーを大好きな友達や親と交換したりプレゼント…いや、あげたりしてください。10分時間をとります。それでは始め!」

 

 

俺の号令を聞いた直後、子ども達が一斉に立ち上がった。

ほかのグループの子と交換したり、親にプレゼントしたり、いろんなところで交換が行われている。ルーミアと、クッキーを取り上げられて泣いていた女の子はお互い俺の作った似顔絵クッキーを交換していた。どうやら仲直りできたようだ。

 

その光景を微笑ましく眺めていると、「先生。」という声が聞こえた。声がした方を見ると、数人の子どもがクッキーを持って立っていた。まさか…

 

 

「このクッキーをあげる!」

 

 

そう言って差し出されたのは、なんと俺の似顔絵クッキーだった。髪型やコック帽の大きさ、目や鼻の形など細かい部分はすべて違っていたけど、どのクッキーもしっかりと特徴を捉えることができていた。

まさか俺が見ていないところで作ってくれていたというのか!?

 

 

「ありがとう!」

 

 

お礼を言って、そのクッキーを受け取った。どうしよう、嬉しすぎて食べるのがもったいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺の生まれて初めての料理教室は大成功を収めることができた。

みんなが帰った後の教室で、みんなから受け取ったクッキーを眺めている。子ども達の笑顔はとても眩しく輝いていて、見ているだけで元気を分け与えてもらったかのような幸せな気持ちになることができた。それぞれの個性が光ったこのクッキー。正直食べるのがもったいないけど、こういったものは完食して初めて料理が完成するものだ。だから、頂こうかな。

 

クッキーの山の中から一つをつまみ、口に運んだ。サクサクな歯応えのおかげで噛むのが楽しくなってくる。それにこの甘すぎない味も最高だな。

 

 

「欧我、お疲れ様。」

 

 

1人でクッキーを堪能していると、部屋に文が入ってきた。どうやら子ども達へのインタビューを終えたようだ。

 

 

「うん、ありがとう。文もお疲れ様。はい、あーんして。」

 

 

「あーん」

 

 

文は顔を赤くしながらも口を大きく開けた。その中にクッキーを優しく入れる。

文の表情を見れば、クッキーが美味しいのかどうかが一目瞭然だ。

 

 

 

「結婚かぁ。」

 

 

「あやや、どうかしたのですか?」

 

 

ぽつりとつぶやいた俺の一言を、文は聞き逃さなかったようだ。

 

 

「うん、なんか未だに実感が湧かないんだよな。まさか俺が文と結婚するなんて夢にも思わなかったよ。」

 

 

「そうね。潤さんがそっと背中を押してくれたおかげね。」

 

 

もし、潤さんが文の背中をそっと押してくれなかったら…

もっと言えば、あの時印刷機が故障していなかったら…

 

そう考えると、今頃結婚なんか考えていなかったかもしれない。潤さんには借りができてしまったな。

 

 

「ところで、身体の状態はどう?」

 

 

「うん、まだ消滅しかかってはいないよ。大丈夫みたい。」

 

 

身体の細部まで見渡し、まだ消滅が始まっていないことを確認してほっと胸を撫で下ろす。

でも、どうしたというのだろう。

 

 

「そう。だったら今から一緒に潤さんに会いにいかない?」

 

 

「潤さんに?いいね、行こう!潤さんにお礼が言いたい。」

 

 

 

そして、2人で手を繋ぎながら空へと飛びあがった。

目指すは潤さんがいるにとりさんのラボ。

 

結婚を間近に控えた2人を祝福するかのように、傾いた太陽が2人をやさしく照らしていた。

 




 
次の章で、ついに欧我と文の結婚式が始まります。

正直に言って、未だに結婚式を挙げてもよかったのか不安がありますが、もう気にせずに書いていきます。
そんな2人を祝福してあげてくださいね。
 

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