なんだかなー…。
料理教室会場の控室で着々と準備を進める…はずだったのだが、なぜか文からプロポーズされたことが外部に漏れていたため、話を聞きつけた魔理沙さんや霊夢さん、そして生徒として参加する橙ちゃんと一緒に来た藍さんを含めて結婚式の話で盛り上がってしまった。
それにしても、一体誰が漏らしてしまったのだろうか。容疑者は絶対妖夢か幽々子様だろう。それ以外に思い浮かばない。7対3で妖夢かな?
まあでも、こんなにも多くの方が祝ってくれるのは本当に嬉しいな。小傘ちゃんにあまり元気が見られなかったのが気になるけど…。
「欧我、準備はできたか?…って皆揃って何を話しているんだ?」
そんな中慧音さんがドアを開けて入ってきた。おそらく、俺を呼びに来たのだろう。
「慧音、知っているか?実は欧我と文が結婚するんだぜ。」
不思議そうな表情を浮かべる慧音さんに魔理沙さんがそう伝えると、途端に驚きと喜びが混じったような表情に変わった。
「そうか!そいつはおめでとう!結婚式に関しては早苗に聞いてみたらどうだ?外の世界の結婚式についてはあいつが一番詳しいだろう。」
という助言をくれた。
…確かにそうかもしれないな。早苗さんは女子高生的な年頃だし、女の子だから結婚式にも詳しいだろう。でも、大丈夫かなぁ、あの
それよりも、行かなくていいのかな?
「あ、そうだ!もうそろそろ始めるぞ。準備はできたか?」
と、思い出したかのように手をポンッ叩いて聞いてきたので、俺は力強くうなずいて見せた。ちなみに今の格好はもはやトレードマークとなっているコックコートにコック帽、そして青いエプロン。
え?笑われるんじゃないかって?ご心配なく、もうすでに慣れました。
「じゃあ行ってきます。よかったら皆さんも参加してくださいね。」
慧音さんの後について部屋を後にした。
部屋を出る間際に聞こえた文の「頑張ってねー!」という言葉に背中を押され、気合を入れることができた。
会場に入った俺を包み込んだのは、割れんばかりの拍手の嵐だった。
いくつも並べられた調理台に5人がグループを組んで座り、部屋の奥には親御さんたちがずらっと並んでいる。部屋の廊下側の隅では文と小傘がそれぞれカメラを構えており、反対の方では慧音さんと妹紅さんがこちらをじっと見つめている。
「皆さんこんにちは!」
「こーんにちはー!!」
黒板の前に立ち笑顔で挨拶をすると、生徒達から負けないくらいの元気な挨拶が返ってくる。みんなの笑顔はとてもキラキラと輝いていてつい写真に収めたくなって…あ、カメラ持っていないんだった。
「元気な挨拶をありがとうございます!今回は皆さんに普段はあまり体験できないような素敵なひと時を提供していきます、俺の名前は葉月欧我です!よろしくお願いします!」
自己紹介をしてお辞儀をすると、拍手に混じって「お願いしまーす!」という声が返ってきた。すごい元気だな。負けていられないぞ!
「今日皆さんと一緒に作るのはクッキーです!詳しくはお配りしたレシピをご覧ください!クッキーというのは…」
白いチョークを握り、黒板に書きながらクッキーについての大まかな説明を行った。みんなに配ったレシピは俺の手描きで、文に印刷をお願いしたものだ。
そういえば、印刷機の調子がおかしくて故障した個所を治してもらうために、文はにとりのラボを訪れた。その時に潤さんに会ったと話してくれたな。…今はそれは置いておいて。
一通り説明し終えたところで、次に今日みんながやる工程について説明した。クッキーを作る工程は大まかに①生地作り、②形作り、③焼く の3段階に分けられる。今回みんながやるのは②番目の工程、形作りだ。さっそくお手本として実演しよう。
「今回生地は3種類用意しました。白色のプレーン、黒いココア、そして緑色の抹茶です。形作りはとても簡単で、まず生地を麺棒で伸ばし…」
プレーンの生地を少量千切ってみんなに見えるように頭上に掲げると、作業板の上に置く。その後同じく麺棒も頭上に掲げると、生地に押し当てながら伸ばしていく。
「はい、これで丸いクッキーの元ができました。これでもいいのですが…。」
次に取り出したのは円形の型抜き器。これを生地に押し当てて、作った生地の真ん中を丸くくり抜いた。
「こんな感じで真ん中をくり抜き、ココアパウダーの生地を五角形にして今くり抜いた生地に組み合わせれば…」
五角形の頂点を下にして、ドーナツ状の生地にくっつけた。それを板に乗せてみんなに見えるように持ち上げる。
「はい、指輪のかんせー・・・指輪?」
指輪!?
しまった、結婚の話がまだ頭に残っていた。新しい指輪を買うべきかなと考えていたら、無意識の内に指輪を作ってしまった。
部屋のどこかから苦笑いが聞こえてきて、思わず顔がうっすらと赤く染まる。
…気にしない。次行こう、次。
「でっ、では、今度はもっと難しいことをお見せします!今ここにいる誰かを作ります!誰を作っているのか、分かったら大きな声で言ってくださいね!」
まずはプレーンの生地を楕円形に伸ばし、輪郭を形作った。
次にココアの生地を切り抜いて髪を作り、先ほどの輪郭と重ね合わせた。黒髪のショート。
それに気づいた小傘が…
「わかった、文ね!」
と叫んだ。
それによって一斉に視線が文に集まり、文は俺の顔をじっと見つめている。顔を赤くしながら。
ああ…違うって言いにくい。
「あやややや…残念、違います。」
敢えて目を合わさないようにしよう。そうしよう。うん。
今作っているのは、3色の生地をすべて使う人物…いや、妖怪の顔だ。
会場で沸き起こった笑い声を聞き流し、今度はココアの生地で三角形を2つ切り抜いて頭に付けた。
どうやら数人は気づいたようで、ところどころで正解の名前があがる。
最後に抹茶の生地をドアノブカバーの形にしてくっつければ…。
「もう分かりましたね。正解は、橙ちゃんです!」
出来上がった橙ちゃんクッキーをみんなに見せると、「すごい!」や「わぁー!」という歓声と共に拍手が沸き起こった。それに混じって藍さんの「ちぇええええええん!」という
よし、掴みはバッチリだな。今度はみんなの番だ。
「では、今度は皆さんの番です!制限はありません。星でも、花でも、虫でも、大好きな人の顔でも、何でも構いません!自分の好きなように、協力しながら作っていきましょう!」
「はーい!」
みんなから返ってきた大きな返事に負けないように、声を張り上げた。
「さあ、調理開始です!!」