強さって…一体何でしょうね。
強さには色々な形があっていいと思います。
人それぞれ、自分の信じる『強さ』を持っています。
何が言いたいのかというと…俺も強くなりたい(←は?)
「そう言えば、紫さんは?」
結界を抜けて冥界に入った後、隣を飛ぶ藍さんに向かって今まで感じていた疑問をぶつけてみた。
もし紫さんもいれば、一緒に食卓を囲みたいと思ったからだ。
しかし…。
「紫様は、今眠っておられる。当分は目を覚まさないだろう。」
え…寝ているの?
「紫様は、冬になると長い間眠ることがあるんですよ。皆さんは冬眠と呼んでいます。」
頭に疑問符が浮かんだ俺を見て、妖夢がそう説明をしてくれた。
そうなんだ。そう言えばあの時も文が冬眠がどうとか言っていたな。
いつもなら眠っているはずだった冬の時期に、幻想郷に影鬼が攻め込んできた。その影鬼に対抗するために、紫さんは寝ずに色々とサポートをしてくれた。
全てが無事に終わったことを確認して、いつもより遅い冬眠に着いたのだろう。
俺のために、幻想郷に住む妖怪たちが力を貸してくれた。
本当にありがたいことだ。
その恩を返すためにも、俺は料理人として料理を作り続ける。
「えーと…。」
白玉楼に帰ってきた後、すぐさま台所向かった。
藍さんたちは幽々子様と一緒に、妖夢が淹れたお茶を飲みながら縁側でのんびりとくつろいでいる。
俺もその輪に入りたかったが、帰ってきた直後何か食べたいとねだられた。
…え?また幽々子様だろうって?
いや、今回は違いますよ。実は…今俺の後ろにいる橙ちゃんです。
白玉楼に着いた途端お腹の虫が鳴り響いて。
橙ちゃんいわく「修行のし過ぎ!」だそうです。
「お腹減ったー!早く早く!」
「分かったから服を引っ張らないで。」
「む~。」
グハッ!
うるうるな瞳で、しかも上目づかいで見ないでよ。ノックアウトされる。
よーし、橙ちゃんのために美味しいものを作っちゃうぞ!(されましたー。)
…あれ?デジャヴ?
ま、まあいいや。
うーん、橙ちゃんは一応猫だから生卵の白身は危険だし、チョコレートやココアも危険すぎるな。牛乳も注意しなければいけないから…。
でも妖怪だからホイップクリームとかジャムは平気だろう。
丁度パンもあるし、簡単にサンドイッチにしよう!
食パンの耳を切り落とし、バターを塗ってレタスやトマト、チーズなどをマヨネーズと共に挟む。
その他にもリンゴやキウイなどのフルーツを薄く切ってホイップクリームと一緒に挟んだものや、長方形に切った食パンの真ん中に型抜きでハート形にくり抜き、ジャムを挟んだトランプサンドも完成した。
もちろんパンの耳も有効活用。
油で揚げ、砂糖と黄な粉を混ぜたものを塗せば簡単にもう一品の出来上がり。
「欧我ー、早く食べよ!」
「まだダメ。みんなとそろって食べた方が美味しいよ。よく言うじゃん、笑顔は料理の
「うん、大好き!」
そう元気な笑顔で答えた。
何とも微笑ましい笑顔だ。主従関係を超えた愛というか…本当に仲がいいね。
「でしょ。じゃあ一緒に藍さんの笑顔を眺めながら美味しく食べようね。」
「うん!」
人数分の紅茶(猫の場合お茶は注意が必要だから橙ちゃんの大好きなオレンジジュース)も用意して、みんなの待つ縁側へと向かった。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ん?何が起こったんだ?
幽々子様たちが待つ中庭に面した縁側に向かうと、中庭で妖夢と藍さんが激戦を繰り広げていた。
妖夢が振り下ろした楼観剣を、藍さんが身を翻して躱し掌底を叩き込む。
その一撃を右腕で受け止めると、左手に持ち替えた楼観剣を振り上げた。
楼観剣の切っ先はわずかに藍さんの服の袖をとらえたものの、虚しく空を切った。
なるほど、2人で手合わせをしているのか。橙ちゃんも空腹を忘れて藍さんを応援しているし、俺も妖夢を応援しようかな。心の中で。
「そこだ!」
「なんの!!」
お互いに有効打を与えることができず、実力伯仲の攻防が続く。
橙ちゃんと幽々子様とともにサンドイッチを食べながら観戦していると、ついに決着がつく時がやってきた。
「はぁぁっ!!」
楼観剣を振りかぶり、一気に間合いを詰める妖夢。
藍さんは微動だにせず、その様子を落ち着いた眼差しで見つめる。
そして妖夢が楼観剣を振り下ろした直後、一歩前に踏み出すと右手で楼観剣の柄を受け止めた。
「っ!?」
藍さんの意表を突いた突然の行動に驚きを隠せない妖夢。
身体の動きが止まったその一瞬を逃さず、妖夢の鳩尾に拳を叩き込んだ。
「くぁっ!」
鳩尾に叩き込まれた強烈な一撃に耐えられず、妖夢の全身から一気に力が抜けた。
楼観剣を取り落し、両腕は力なく垂れ下がる。
そのまま、前のめりに倒れ込んだ。
「妖夢!」
地面に倒れ込む直前に、妖夢のもとに駆け寄って優しく受け止めた。
「ら…藍さん。」
「なんだ。」
「参り…ました。」
「っ、妖夢!しっかりしろ!」
その言葉を最後に、妖夢は俺の腕の中で気を失った。
「大丈夫かなぁ…。」
そう呟いて、紅茶のカップを口元まで持っていく。
あの後気を失った妖夢を隣の部屋まで運び、布団を敷いて寝かせた。
そして今は妖夢を除いた4人でサンドイッチを食べながら一息ついている。
しかし、手合わせで勝利した藍さんに元気が無かった。
サンドイッチに手を付けようともしない。
「どうしたのですか?」
「ああ、いや。別に…。ただ、妖夢は強いなと思ってな。」
藍さんは俯いたままそう答えた。その時の横顔はどこか悲しげだった。
「強い…ですか?」
「ああ、その心の強さがうらやましい。強くなるために常に努力を惜しまない妖夢の信念が羨ましいのだ。先程の手合わせだって妖夢が申し込んできたものだ。自分の強さのために、各上の相手に戦いを挑む信念、そして何よりも妖夢のキラキラと光る眼差しが羨ましくてな。」
「藍しゃま…。」
俯く藍さんを心配して、橙ちゃんがそっと寄り添う。
羨ましい…か。確かに、俺も妖夢の何事にも真剣に取り組む姿を羨ましいと感じたことがある。だから、その気持ちは分からなくもない。
「だったら、藍さんも強くなるために努力をすればいいと思います。自分よりも各上の存在を倒せるように、自分の強さを磨けばいいんです。」
「各上の?…っ、まさか!?」
藍さんの各上の存在。それは一人しかいない。
「そう、紫さんです。」
「しっ、しかし紫様は私の主であり、倒すと言う事は…。」
予想通りの返事が返ってきた。
藍さんは主である紫さんを尊敬し、紫さんの式神であることに誇りを持っていることは知っている。
そして、式神としてなのか自発的に考えて行動することが少ないと言う事も。
「今紫さんは冬眠している。だったら、紫さんが冬眠している今こそ式神という縛りから解放されて、自分の思う通りに行動すればいいと思います。式神としてではなく、一人の女性、八雲藍として。」
俺の言葉を聞き、藍さんは小さく「そうか…。」と呟いた。
そして空を見上げた。その時の横顔は、もう悲しみを浮かべてはいなかった。
「そうだよな。私も、もう少し自分の欲望に素直になってみよう。今度、紫様と手合わせをしてみようかな…。」
「はい、その意気です。じゃあ、俺は妖夢のそばにいます。」
縁側を後にし、妖夢が眠っている部屋に向かった。