レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第16話 迷子探しの特設屋台

 

「妖夢!」

 

 

慌てて妖夢のもとに駆けつける。

どうやらその女の子に怪我は無いようだが、妖夢は何故かあたふたと慌てている。

一体何があったというのだろう。

 

 

「ねえ、どうしましょう。」

 

 

「何が?」

 

 

「この子…記憶を無くしているわ。」

 

 

「えっ!?」

 

 

妖夢の口から聞かされた衝撃の事実に驚きを隠せなかった。

どうしてこの女の子が記憶を無くしてしまったのだろう。

妖怪に襲われたことで身体にではなく心に怪我を負ってしまったのだろうか。

 

 

「多分、妖怪に襲われたショックで一時的に記憶を無くしているのだと思う。」

 

 

「本当に?」

 

 

「いや、分からないけどそうとしか考えられないんだよね。」

 

 

その少女の前にしゃがみ、笑顔を浮かべた。

見たところ10代前半の女の子で、オレンジ色のかわいらしい着物に身を包んでいる。

髪型や着物の格好から、人間の里に住む女の子のようだ。外来人とは考えられないな。

 

 

「俺は葉月欧我。君は?」

 

 

笑顔を浮かべ、自己紹介を行う。

しかし、その少女は怯えたまま首を横に振った。どうやら、記憶喪失なのは間違いないらしい。

 

どうしようか…。

 

 

「とりあえず、人間の里に向かおう。この子に縁のあるものを見れば記憶が戻るのかもしれない。」

 

 

「そうですね。さあ、行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

その女の子を連れて、人間の里に入った。

先ほどよりも怯えなくなったが、相変わらず妖夢の後ろに隠れて歩いている。

もしかして、妖夢には心を開いてきたのかな?

 

なんだか親子…いや、姉妹のようだね。

 

 

「何を見ているのですか?」

 

 

「いや、別に。とりあえず買い物を済ませちゃおうよ。情報収集も兼ねて。」

 

 

「そうですね、闇雲に歩くだけでは時間を無駄に浪費するだけですし。」

 

 

あらら、その子と手を繋いじゃって。

なんか羨ましいな…。

 

 

その後、食糧庫に足りなかった食材を買いながら、女の子についての情報を集めた。

あらゆる商店を巡り、店主や客に聞いてみたが、結局情報は得られなかった。

 

ここまで来ると、本当にこの女の子は人間なのかという疑問さえ浮かんでくる。

 

 

はあ、一体どうすれば…。

頭を働かせながら、隣に座る妖夢に寄り添ってリンゴ飴を食べる女の子をじっと見つめる。

笑顔が戻ってきたのが嬉しかったが、未だに俺には懐かないようだ。

 

 

「もっと人が集まればいいんですがね…。」

 

 

そう呟いた妖夢の言葉を聞き、俺の頭に一つの案が浮かんだ。

 

そうだよ、人を集めればいいんだ!

そうすれば情報も集まり、もしかしたらこの女の子の親も現れるかもしれない。

 

 

「妖夢、人を集めよう。」

 

 

「集めるって、どうやって?」

 

 

「いい方法を思いついた。妖夢、ちょっと手伝って。まずは…綺麗な鉄板を頼む。」

 

 

「鉄板!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、いらっしゃい!どう、食べてみないか!?美味いよ!」

 

 

そう大声を張り上げた。

鉄板は熱々に熱せられ、油が敷かれている。

 

そこに切ったキャベツと肉を入れて炒める。

ジューッという心地よい音が辺りに響いた。

いい感じに焼けたら隅にどかしておいて、中華麺を投入し、水を入れてほぐしながら焼いて行く。

あらかじめ炒めておいた具材と混ぜ合わせ、塩とコショウ、そしてソースで味付れば…。

 

 

「いらっしゃい!!焼きそばだよ!ほら、妖夢も声を出して。」

 

 

「う、うん…。いらっしゃいませー!」

 

 

妖夢は恥ずかしそうに顔を赤らめながら声を張り上げてくれた。

たくさんの人を集めるにはもっと宣伝しないと。

 

うん、女の子も笑顔で焼きそばの配膳などを手伝ってくれている。

こうすれば、もしかしたらこの子の知り合いが現れるんじゃないかな。

 

 

「妖夢、野菜の準備はできた?」

 

 

「うん!」

 

 

「よし、じゃあどんどん焼いちゃうよ!さあ、欧我特製焼きそば!一皿300円!安いよー!外の世界よりも200円安いよー!!」

 

 

人を集めるために急きょ開いた即席の焼きそば屋台は予想以上に好評で、あっという間にたくさんの人が集まってくれた。

俺は料理人だ。料理人なら料理人ができることでこの女の子の情報を集める。

 

鉄板の上にある焼きそばはあっという間に売り切れた。

さあ、4回目を作ろうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「欧我じゃないか!ここで何をやっているんだ?」

 

 

その声の主は青いメッシュの入った長い髪に不思議な形の帽子…。

 

 

「あ、慧音さん!どうですか、食べてみます?」

 

 

「ああ、頂こうかな。…ところで、どうしてここで焼きそばなんか作っているんだ?」

 

 

「それはですね…。」

 

 

野菜を炒めながら、配膳をしてくれている女の子を指さした。

 

 

「命蓮寺の参道で妖怪に襲われているあの子を助けたんです。助けたはいいもののそのショックで記憶を失っちゃったみたいで。だから情報を集めるために人を集めていたんですよ。」

 

 

そう簡単に今までの経緯を説明する。

 

 

「あの子は…。」

 

 

その女の子を見た途端、慧音さんはそう言う声を漏らした。

焼きそばから目が離せなかったから慧音さんの表情を窺うことはできなかったが、どうやらその女の子について何かを知っているようだ。

 

 

「知り合いですか?」

 

 

「ああ、私の生徒だ。そうか、欧我が妖怪から助けてくれたのか。ありがとう!」

 

 

その言葉を聞いて、ホッと胸をなでおろす。

良かった、無事に女の子に関する情報を手に入れることができた。

これで『焼きそば屋台で情報ゲット大作戦』は大成功だ!!

 

 

「どういたしまして。はい、できましたよ。」

 

 

丁度焼きそばも出来上がり、慧音さんに出来立てを手渡した。

 

 

「ありがとう。欧我には何かお礼をしなくてはいけないな。」

 

 

お礼…?

あ、じゃあ今俺が一番ほしい物をねだろうかな?

 

 

「じゃあ、今ほしい物があるんですが。」 

 




 
鉄板と薪、火、皿と箸以外はすべて空気を固めて作りました。
いやあ、空気を操るって便利ですねぇ~。

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