水の都とことり   作:雹衣

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第7話

「……どういうことですか?藍華先輩」

藍華ちゃんの言葉を聞いた後、呆れた顔でアリスちゃんが聞きました。それに対して「ふふん」といった感じの……確かどや顔って言うんだっけ?をしながら藍華ちゃんはビシッと私を指差します。

「分かる?後輩ちゃん。ことりはね、ここが何処かも分からない一匹の迷い鳥」

「うんうん」

藍華ちゃんの言葉を聞き、ふむふむと真剣に頷く灯里ちゃん。その様子を半目で見ているアリスちゃん。うーん、何だろこの感じ、何処か慣れ親しんだ雰囲気がするけど、何だったかなあ……。

「そこにアリシアさんは私達に案内するように頼んだのよ!それはつまり何も知らない人に如何にネオ・ヴェネツィアの魅力を伝えられるかのテストに違いないわ!」

「……そうですか?」

藍華ちゃんの言葉にアリスちゃんはますます半目になります。どうやらそれはないと確信しているご様子……けど藍華ちゃんの言葉でウンディーネの事が少し分かってきたかも。

「つまり、ネオ・ヴェネツィアを案内してくれるって事?」

「そうだよ。ここネオ・ヴェネツィアの素敵な所を紹介するのが、私達ウンディーネなの」

「まだヒヨッコでお客様を案内はしちゃいけないんだけどね」

「ああ、練習ってそういうことなんだ」

つまり、灯里ちゃん達の会社は観光案内をしているみたい。藍華ちゃんとアリスちゃんの制服からして別の会社みたいだけど……意外と激戦区?

「そう、だから私たちは早く一人前のウンディーネにならければいけないのだ!」

「わぁ~」

藍華ちゃんの言葉を聞き、パチパチと拍手する灯里ちゃん。私とアリスちゃんはそれを困ったように見つめているのでした。

 

 

 

 

 

「じゃあ、最初は灯里ね」

「はひ!」

というわけで私は灯里ちゃん達の練習のお手伝いをすることになりました……でも

「ねえ、灯里ちゃん」

「ん?」

「その、なんで私たちは船に乗っているの?」

何故か灯里ちゃんと一緒に乗ってきた船の後ろのところに立っている灯里ちゃん。そして座席のある所に私と藍華ちゃんとアリスちゃんの三人の合計四人が乗り込んでいました。これから街を案内してくれるんだよね?修学旅行とかで見た旗を持ってみんなを誘導するようなことをするんじゃないのかな?

「……本当に何も知らないのね」

「な、なに?藍華ちゃん」

私の言葉を聞いた後、藍華ちゃんから何か呟きました。けれど聞き返すと「ううん、何でもない」と言われちゃいました。

「よーし、灯里行きなさい!ARIAカンパニーの代表として恥じない活躍をして、ことりにネオ・ヴェネツィアのことをしっかり教え込むのよ!」

「はひ!水無灯里、行きます!」

「え、灯里ちゃん、もうちょっと教え……キャッ!」

私が灯里ちゃんにウンディーネの仕事を聞こうとしますが、集中している灯里ちゃんに無視され、ボートは動きだします。相変わらずボートはススーッと気持ちよく滑っていくけれどこの後どうするんだろう……なんて思っていると私たちの前を巨大な岩、ジャガイモ?みたいなものがまるで神殿みたいな建物からにょきっと現れ、空へと飛んでいきました。

「わぁ、何アレ?」

「へ?ああ、あれは宇宙船だよ。マンホームとアクアの間をいつも行ったり来たりしてるの。私もあれに乗ってネオ・ヴェネツィアに来たんだよ」

「へ~」

「灯里、口調!」

「あ、はわわ……」

「?」

一体何を慌てているんだろう。オールを持って、あたふたしている灯里ちゃんに思わず首を傾げてしまいましたが、その後、灯里ちゃん達の会話を思い出しました。どうやら灯里ちゃん達の仕事は船に乗って運転しながら、街を案内するお仕事のようです。練習はもう始まっているみたい。

「そっか……」

水の都なんて言われている位だもの。ただ街を案内をするだけじゃなくて、こうやって街の特性を利用した方がなんというか

「素敵だね」

そう思った時、私は意識せずに言葉が漏れてしまいました。でもそう思ったんだからしょうがない。そして、灯里ちゃん達がこういう仕事をしたいと思ったこの街をもっと知りたい。

「ねえ、灯里ちゃん」

「はひ」

私が話しかけたとき、あたふたしていた灯里ちゃんがキョトンとしながら見てきました。そんな彼女に笑顔を向けて言いました。

「この街の素敵なところ、私にしっかり教えて下さいね」

「……はい、かしこまりました!」

灯里ちゃんが私の言葉を聞き、しっかりと頷きました。先ほどまでの慌てっぷりは何処へやら。オールをしっかりと握り、ボートをしっかりと漕いで行きます。私ボートのことはよく分からないけど、灯里ちゃんはしっかり一生懸命練習している……そのことが伝わってきます。

「お客様、右手をご覧下さい」

灯里ちゃんの言葉を聞き、私は右の方を向きます。そこには先ほどのジャガイモ宇宙船が飛び出てきたとっても古そうなおっきな建物。

「あそこはマルコ・ポーロ国際宇宙港と言います。ヴェネツィアに実在したドゥカーレ宮殿を元にして作られた建物で……」

灯里ちゃんの口から建物の説明がスラスラと出てきます。多分一杯練習したんだろうな……なんて思っちゃって建物の方よりも灯里ちゃんの事が少し気になってしまいました。

彼女だったらどうするのかな?もし二つの大好きなものを選べって言われたら。どっちを選ぶのかな……なんて思ってしまうのでした。

 


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