水の都とことり   作:雹衣

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第6話

滑るように前へ進んでいく黒い船が水路に波を立てていく。その船の中で座っているとゆらゆらとした振動で思わず眠くなっちゃいそう……。

今の私は船の後ろに立って漕いでいる灯里ちゃんと練習する友達との集合場所へ移動しています。ここネオ・ヴェネツィアは未来とはいえ移動方法は本来のヴェネツィアと同様で船と徒歩位のようです。周りを見渡してみると野菜の入った箱を船に乗せて運ぶおじいさんとすれ違ったりしました。

「お~い」

「あ、藍華ちゃん!アリスちゃんも!」

私がヴェネツィアの風景を見渡していると近くにあった桟橋から髪の短い女の子が灯里ちゃんに手を振っているのが見えました。彼女は私たちの制服の青を赤くしたすればそっくりになる服を着ていていました。多分、彼女もウンディーネという職業なのでしょう。

その隣には緑色の長い髪をした女の子が立っています。彼女の場合は白と黄色の制服。灯里ちゃんよりも年下のような雰囲気がするけど彼女も友達なのかな?

「ごめん。ちょっと色々あって……」

「もう、今日は一体何処で道草を……」

そんなことを考えているうちに灯里ちゃんの船は彼女たちのいる桟橋に近づいていきます。その時に船に乗っている私の姿に気づいたのか、短い髪の女の子は途中で言葉を切り、私の方をジッと見てきます。

「どうしたの藍華ちゃん?」

髪の短い女の子(藍華ちゃんって名前みたい)が言葉を詰まらせたことに灯里ちゃんが首をかしげていると藍華ちゃんと呼ばれていた女の子が灯里ちゃんの方を向きます。

「どうして灯里のゴンドラに私が知らない人が座って……それはまあいいや灯里の事だし。でもなんでその人がARIAカンパニーの制服を着てるのよ」

藍華ちゃんとしては私がこの制服を着ているのが不満?というよりは純粋に驚いているみたいです。そういえばARIAカンパニーって灯里ちゃんとアリシアさん、後アリア社長しか居なかったけど、まさか二人と一匹しか社員は居ないのかな?本当にどんな会社何だろう……。

「あ、藍華ちゃんそれは事情が有って……」

そう言って灯里ちゃんがチラッと私の方を見ました。どうやら私の不思議な事情を伝えて良いか迷っているみたい。

「うん、良いよ」

私は灯里ちゃんに微笑みながら思いを伝えました。私程度のことで変ないざこざは起こって欲しくないし、それにこの子達なら信じてくれる。私は心の中で何時の間にか信じていました。

 

 

 

 

「21世紀の日本から来た……」

「でっかい驚きです」

灯里ちゃんは私が21世紀の日本から来た。そして服が無くてしょうがなく制服を着ているという説明をしてくれました。それに対しての二人の反応はとにかくびっくりといった感じ。まあ、想像通りの反応。

そしてアリスちゃんと呼ばれていた女の子が私の方に向きました。そして少し口ごもった後小さな声で私に聞いてきました。

「それは本当なんですか?えっと名前は……」

「ことりだよ。あなたはアリスちゃんだよね?」

「あ、はい。アリス・キャロルです。よろしくお願いします」

「うわぁ……かわいい名前だね」

「ありがとうございます」

「って何馴染んでんのよ後輩ちゃん!」

私がアリスちゃんと挨拶をしていると藍華ちゃんが横から私たちの間に入ってきます。それに対してアリスちゃんは不思議そうに首を傾げる。

「どうしたんですか藍華先輩?」

「いや、後輩ちゃん。何でちゃっかり仲良くなってるのよ」

「でも藍華先輩。灯里先輩のことですそれくらいの不思議なことはあっても可笑しくは有りません」

「いやいや……まあいいか」

アリスちゃんの言葉に藍華ちゃんは反論しようとしたけれども何やら諦めた様子。どうやら灯里ちゃんの周りは不思議なことが多いみたいです。

「で、灯里。その……」

「ことりさんです。藍華先輩」

「ことりさんが」

「ことりで良いよ。アリスちゃん、藍華ちゃん」

「そう?じゃあことりって呼ぶわ。よろしく」

「うん、よろしくね」

そう言うと藍華ちゃんとも握手をします。何か藍華ちゃんって雰囲気が年上みたいだからさん付けはちょっと違和感が有りました。でもこの二人を引っ張ってる感じがするし、ちょっと海未ちゃんに似てるかも。

「で、藍華ちゃん。私がどうしたの?」

「灯里、ことりがARIAカンパニーの制服を着ている理由は分かった」

「うん」

「それでどうして一緒に来たの?」

「アリシアさんが提案したの。ことりちゃんはネオ・ヴェネツィアの事全然知らないし、ウンディーネの事を知ってもらうついでに案内したらって」

「成る程……」

灯里ちゃんの言葉を聞き、手を顎に付けふむふむと頷く藍華ちゃん。次の瞬間、彼女は手をパンと叩きながら合わせました。何かに気づいた感じです。そして私たちに目を輝けながら顔を向けます。

「それはつまり、アリシアさんからの試験よ!」

「……はい?」

「はひ?」

「へ?」

藍華ちゃんの言葉に私たち三人は驚きの声を上げてしまいました。

 


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