「灯里! ことり! どういう事!?」
灯里ちゃんの
「ど、どう言うことって?」
「アリシアさんの件よ!
「お、落ち着いて藍華ちゃん……それにそれは私も初耳だったの」
食ってかかるような勢いの藍華ちゃんにタジタジ気味の灯里ちゃん。アリスちゃんは何も言わずに2人を見つめているが彼女も興味津々という感じです。
アリシアさんの
「なんでも以前から
「それで灯里先輩が昇格試験に合格したのを機に……という事なのですね。でっかい納得です」
「うん、そういうことみたい」
アリスちゃんが納得の声を上げると灯里ちゃんは首を縦に振ります。そしてちょっとしてから「あ」と灯里ちゃんが一言呟きました。
「そうだ、私
「あぁ、そうよねおめでとう……ってそれどころじゃないでしょ!」
「はひっ!」
灯里ちゃんの報告は藍華ちゃんに一蹴されてしまいます。
「大丈夫なの、色々と」
「え、ARIAカンパニーのこと? それなら大丈夫です。アリシアさんが正式に引退するのはまだ先だから色々引継ぎをしてるの。今は忙しいけど……」
「そうじゃなくて……」
藍華ちゃんはそう言うと心配そうに灯里ちゃんを見つめます。不思議そうにポカンとする灯里ちゃんに藍華ちゃんは呟きます。
「あなたのことよ」
アリスちゃんもその言葉に同意するように心配そうに灯里ちゃんを見つめていました。
アリシアさんがやっていた書類仕事などの引継ぎ、それだけじゃなくて引退する前にアリシアさんの
なので私もアリシアさんのお手伝い、灯里ちゃんと一緒に書類を見たり……とにかく大変で、手が幾つあっても足りません。
「ぷいにゅ」
「あ、アリア社長。ありがとうございます……アリア社長も大忙しだね」
「ぷいぷい」
アリア社長も右へ左へと走り回って私達のお仕事をお手伝いしてくれています。その様子は微笑ましい様子を見て微笑みつつも私は灯里ちゃんの方へと向きます。
「えーっと、この書類はここで……」
書類とにらめっこしている灯里ちゃん。以前からアリシアさんのお仕事を手伝っている事はあったけれど今まで以上のお仕事に苦戦しているみたいです。
「あなたのこと……か」
ふと藍華ちゃんの会話を思い出しました。そしてチラッともう一度灯里ちゃんを眺めます。灯里ちゃんは新しい引継ぎの仕事に四苦八苦しているものの、そこまでいつもと違う感じはありません。
けれども、藍華ちゃんが不安がっていたようにアリシアさんの引退に動揺していない訳が無いはずです。
「あれ? 明日のパン無いや。灯里ちゃん、ちょっとパン買いに行ってくるね」
「あ、うんごめんね。私今忙しくて……」
「分かってる。私に任せて」
灯里ちゃんはまだ忙しそうに書類を見ているので、雑用は私が率先して行います。少しでも灯里ちゃんの負担を減らさないとね。
私がARIAカンパニーの扉を出る時、ふと灯里ちゃんの方を眺めます。むーんと顔を顰める灯里ちゃん。それに一抹の不安を覚えながら、私は出ました。
「アリシアさん、この思い出は一生忘れません!」
「ええ、今日はありがとうね」
私が買い物から戻るとアリシアさんが桟橋でお客さんと会話していました。泣きながらアリシアさんと話すお客さんとそれを嬉しそうにけれども寂しそうに笑うアリシアさん。
確か時間帯的にあの2人が今日最後のお客さんだった筈です。
アリシアさんが彼女たちとお話して別れた後、私はアリシアさんの元に歩きます。
「あら、ことりちゃん。お買い物?」
「はい、アリシアさんは今日のお仕事これで終わりですよね」
「ええ、今日は終わりね。ことりちゃんもごめんなさいね。最近忙しいでしょ?」
「いえいえ、アリシアさん、今まであの作業も一緒にやってたんですね……」
「あらあら、大丈夫よ。慣れればそう大したものじゃないわ」
「あはは……慣れれるように頑張ります」
アリシアさんと雑談をしながらARIAカンパニーへと戻ります。
「灯里ちゃん、ただいま」
そして扉を開けた瞬間、私達の動きは止まります。そこには灯里ちゃんが立っていました。けれども普段とは違って……。
「あ、2人共おかえりなさい」
彼女は涙を溜めて待っていました。その予想外の様子に私もアリシアさんも立ち止まってしまいます。
「アリシアさん、あれ、ごめんなさい、なんだか」
「灯里ちゃん……」
「なんだか、涙が止まらなくて」
彼女の涙交じりの言葉。呂律が回らなくて、必死にこらえていた言葉が溢れる様にどんどんと紡がれていきます。
「アリシアさんに、引退してほしくないんです……アリシアさんは私にとって、憧れの人なんです」
そう絞り出すような灯里ちゃんの言葉を聞いてアリシアさんは思わずといった感じで近づいて抱きしめました。
「ごめんなさいね。灯里ちゃん。あなたはずっと
「……はい、私も怖かったんです。アリシアさんも藍華ちゃんもアリスちゃんも……最近ずっと色々と大きな変化があって。それはとっても嬉しい事の筈なのに。二度と会えない訳じゃないのにこのまま変わっていくことが不安だった。だからそれが変わってしまうことが怖くて立ち止ろうとしていました」
そう灯里ちゃんは言うと少し赤くなった目を擦ります。
「でも、皆同じ道を歩いているようで少し違ったんです。皆違う行き先、目標があった。でも皆歩いてきたから私達はここで重なり合って皆に出会えたんです。だから、私歩きたいです」
そう言うと彼女は顔を上げました。
「皆の歩いた先の素敵な未来を見届けたいんです」
「ごめんなさい、ことりちゃん、その、変になっちゃって」
「ううん、大丈夫」
夜、ベッドで寝ていると灯里ちゃんが話しかけてきました。
「私も少しは気持ちわかるもの。何か変えようとするときの気持ち」
「そうなの? ことりちゃんも昔あったの?」
「うーん、まあ色々とね」
そう言って思い出すのは留学の話……あれの決断をする前に私はこっちに来ちゃった……でも私だけじゃ決断なんてできなかった。
「アリシアさんも灯里ちゃんも自分で進む事を選べたんだから偉いよ」
そう呟くとベッドから灯里ちゃんの静かな声が聞こえてきます。
「ううん、私1人だけじゃもっとうじうじしていたよ。私だけじゃARIAカンパニーを仕切るなんてとても……でもあなたと一緒だから」
「ん?」
「ん、ううん何でもない……ありがとね、ことりちゃん」
「え、うん。どういたしまして?」
突然の感謝の言葉に私はうろたえつつ返します。まだ
「まあ、明日も頑張ろうね。灯里ちゃん」
「はひ! 一緒に頑張りましょう!」
そう言うと灯里ちゃんはベッドから顔を出して布団に寝ている私を見ます。そして2人で目を合わせると微笑み合いました。
……うん、私達なら大丈夫。きっとどんな危機があっても乗り越えられる。そう思えたのでした。