そんな夕焼けに照らされながら私と灯里ちゃんの二つの風鈴はゆらゆらと揺れていました。
ふと、
「……綺麗だねぇ」
「そうだねぇ」
私達はその音色を聞いてポケっと見上げていました。
夜光鈴市から帰ってきた私達は、早速ARIAカンパニーに夜光鈴を置いてその音色を聞いていました。風鈴の音色を聞く機会は別に珍しくない筈なんだけど、こうやって火星の海を眺めながら見ていると思わず時間を忘れてしまいます。
どうやら、灯里ちゃんもアリア社長も同じ気持ちみたいで何をする訳でもなくずっと夜光鈴の音に耳を傾けてしまいました。
「……あらあら」
そんな風に皆で聞いていると、何時の間にかアリシアさんが帰ってきました。彼女は椅子に座って夜光鈴を見る私達を見て、嬉しそうに微笑みます。
「あ、アリシアさん、おかえりなさい」
「ぷいぷいにゅ」
「おかえりなさい」
「えぇ、皆ただいま……可愛い夜光鈴ね」
アリシアさんは私達の夜光鈴を見た後「紅茶はどう?」と私達に声を掛けます。
「はひ、頂きます」
「私もお願いします」
「えぇ、ちょっと待っててね」
私達の返事を聞いた後、アリシアさんはキッチンへと歩いていきます。そしてしばらくしたら紅茶を持って来て私達の横の椅子に腰を掛けました。そしてアリシアさんも目を閉じて風鈴の音に耳を傾け始めました。
静かな波の音と風鈴の音色だけが私たちの間に満ちています。なんだか、すっごく時間がゆっくり過ぎているような感覚です。
何だか、慌ただしさの無い静かな感覚に身を浸していると思わず眠たくなってきちゃいます。
「ことりちゃん、眠いのかしら?」
「あはは、なんだかこうやってゆっくりしてるとつい……」
「はひ、私もなんだか眠くなってきちゃいます」
こんな感じで私達は何もない穏やかな時間が流れていきました。
「……ふぇ?」
何時の間にか私は眠っていたみたいです。私が目を覚ますと隣で灯里ちゃんとアリシアさんもすやすやと寝息を立てています。私達の前に見える水平線に太陽はすっかり落ちてしまったみたいで夜の海が静かな波音を立てています。いつのまにか私達は夜まで寝ちゃっていたみたいです。
「……あ」
そんな暗闇の中で灯りに気がついて、ふと見上げます。
そこには私達が買った夜光鈴。その舌に当たる部分に付けられている小さな石が光を放っていました。
青白くて仄かな灯り……それはまるでネオ・ヴェネツィアの海の様に透き通っていて思わず見惚れてしまいます。
「灯里ちゃん、アリシアさ……」
その光を皆で見たいと思って二人に触れようとしますが、彼女たちの寝ている姿に思わず手が止まっちゃいます。
二人の寝ている姿が余りにも可愛くて……何だかもう少し眺めてても良いかな……なんて意地悪心がちょっと芽生えちゃいます。
「もう少し、もう少しだけ……」
小声でそう言うと私は寝ている皆を暫く眺めた後、私は再び夜光鈴を見上げ始めます。一人でこうやって夜に海を眺めている……何だか、私が初めてネオ・ヴェネツィアに迷い込んだ時の事をふと思い出します。
あの時も一人で海を見ていた。一人寂しく、頼れる人も居なくて……。何も分からずに、膝に顔をうずめていた私。
でも、今は……。
「ぷいにゅ?」
私の動いた音に反応したのか隣のアリア社長が目を覚ましてしまいました。
「あ、おはようございます。シーッですよ。社長」
「ぷいぷい」
私が親指でシーッのポーズをとると社長もそれに合わせて口元を前足で押さえてくれます。可愛い。
「アリア社長。見て下さい。夜光鈴綺麗です!」
「ぷいにゅ。ぷいぷい」
私の言葉を聞いて、アリア社長はちっちゃな尻尾をフリフリしながら夜光鈴を見上げます。
そんなアリア社長を私は抱き上げ、膝の上に置きます。アリア社長は私の膝の上で大人しく座って一緒に夜光鈴を眺めます。
「そういえばアリア社長が最初に見つけてくれたんですよね」
こっちに来た最初の夜を思い出していたら、前に灯里ちゃんが言っていたことを思い出しました。
アリア社長を探していたら、うずくまっている私を見つけたって。
「ありがとうございます。アリア社長が見つけてくれなかったら。こんな素敵な物には出会えなかった」
「……」
アリア社長は何の返事もしませんでした。ただずっと大人しく座って私に熱を伝えてくれます。
なんだか、その温かみが嬉しくてアリア社長をほんちょっと強く抱きしめちゃうのでした。