インフィニット・ストラトス~紅の双剣(スカーレッドツインズ)~ 作:Kyontyu
一日
あの昼休みの後なんとかその日の授業を終え、桜花は先生に職員室呼ばれた為、夕日に照らされる廊下を歩いて職員室に向かっていた。
(そういえばあのカーリーっていう女子、授業に出てなかったな……謝ってこようかな……)
俯きながらそんな事を考えながら歩いていると人にぶつかってしまった。
「いって、あ、すいません……」
俺が顔を上げて謝るとそこには他の人には無いただならぬオーラを纏う女性が立っていた。
「こちらこそすまなかったな……む、おまえは……」
「あ、1年3組の鱗咲です……」
「自己紹介が遅れたな、私は1年1組の担任の……」
「織斑 千冬先生、ですね」
そう桜花が言うと織斑先生はフッ、と小さく笑った。
「わざわざ紹介するまでもなかったか」
「ええ、一応調べましたから」
「そうか……職員室には何の用だ?」
「ああ、ハイス先生に呼ばれていましてね」
織斑先生はその言葉を聞いた途端、顔が一瞬険しくなったと思うと何も言わずに歩き始め、すれ違いざまにこう言った。
「あの女には気をつけろ」
「えっ?」
桜花が後ろを振り向くと赤い夕陽に照らされた背中があった。
「一体……」
と、そこで本来の目的を思い出し急いで職員室に向かった。
「失礼します」
桜花は自動ドアを通って職員室の中に入り、ハイス先生の元に向かう。しかし、先生は机に突っ伏したままで動くそぶりを見せない。他の職員もいつものことのように無視している。
「あの~先生?」
桜花が先生を指先でつつくともの凄いいびきが聞こえた。
「ぐがぁ~ぐごぉ~。も、もうお腹いっぱいでひゅ。ぐが」
さらにつつくも反応が無い。
「先生~!?」
業を煮やした桜花はハイス先生の頭頂部を掴み、持ち上げる。
「痛い! 痛い! 痛い!」
桜花が手を離すと机がめり込むような勢いで額をぶつける。良かった。頭にはちゃんと脳みそが詰まっているようだ。
「いってぇ!? 貴様、先生の頭を持ち上げるとは何事じゃぁ~!」
ブォンという音共に頭を持ち上げ、般若の形相でこちらを睨む。いや、髪が前に垂れているので貞子か。
「先生! なに寝てんですか!?」
そして桜花の姿を認識したのか先生の顔が貞子から元に戻った。
「え? いやあ、だってぇ、あまりにも来るのが遅いんだもん。テへぺロ☆」
そう言って必死にポーズをとって誤魔化そうとする。この先生、謝る気ゼロである。桜花は怒りも呆れも全てすっ飛ばして感情が無になる。こんな人がここの教師になれるなんて……IS委員会とはなにぞや……?
「ってゆうか、先生。何の用ですか?何も無いなら帰りますよ?」
「え?何、もう帰っちゃうの?バカだなぁ……あ、いや、別に帰ってもイイケド……帰る所無いよ?」
その言葉を聞いた途端、自分の耳を疑った。『帰る所が無い』?いやいやまさか、わたしはは孤児じゃない。
「どういう事ですか、先生?バカでも分かるように説明して下さい!?」
桜花はその『バカ』という言葉に特に力を入れた。
「え、いやだってここ孤島だよ?どうやって家に帰るの?」
確かに、ここは孤島に出来た学園だが、帰る方法なんて……
「船とかは今はナイヨ?」
くっ、ならば!
「あ、ISで……」
「法律で禁止されてマース」
「気合いで……」
「私が逃がしまセーン」
(だ、駄目だ……この先生目がマジになってる。勝てる気がしない……)
完全敗北した。思わず項垂れてしまった桜花をよそに、先生は……
「HAHAHAHAHAHAHA!!」
絶賛高笑い中である。流石イライラさせ師特一級保持者(勝手に命名)。
「ん~でもぉ、桜花ちゃんがど~してもって言うんなら僚の鍵をあげてもいいけどぉ~さっき先生の頭を持ち上げたしぃ~どうしよっかな~」
いきなりの態度の急変に桜花は悩む。ここはどうする……?ここで謝れば負けを認めた事になる。しかし、ここから先雨風がしのげない状態で生活するのは……黄金伝説にもほどがある。
「先生、すいませんでした。鍵を下さい」
もちろんここは謝る事を選択した。しかし先生は手を耳にあて、「エ? ナンダッテ?」とふざけた態度をとる。
「ハイス先生様、本っっっ当に、申し訳ありませんでした。このとおりですので鍵を譲っていただけませんでしょうか」
桜花は額を床につけて謝る。周りからの憐みの目が逆に痛い。先ほどとはまるで逆の画である。
「うん! そこまで言うならいいよっ!」
先生、満面の笑み。これは成層圏を突き抜けたサディスト女だと痛感させてもお釣りがくるほどの態度だ。そしてハイス先生は僚室のカードキーと地図を渡し、俺はそれを受け取った。番号は「×××号室」と書かれていた。
「あ、それとも先生と一緒の部屋がいい?」
照れながらそういう事を言うのだが、ここは照れる事を恥じろと言いたい。
「謹んでお断りさせていただきます。俺まだ未成年ですよ?それ、犯罪ですよ?」
そこでハイス先生はいままで誰も見たこともないような優しそうな笑みでこう言った。
「ふっ、嘘つけ。先生はちゃーんと知ってるよ。来訪者さん。悩みなら、聞いてあげるよ?」
その言葉を聞いて顔から血の気が引くのが分かる。
「し、失礼しましたっ!」
桜花は駆け出した。取り敢えず外へ外へと。そして夜の涼しさが火照った両頬を冷やす。日はすっかり落ち、周りは暗くなっていた。
「と、取り敢えず部屋に行こう。うん、それがいい」
そして地図を頼りに敷地内を歩くこと五分、ついに目的の建物に到着した。そしてドアの取っ手部分にカードキーをかざし、部屋に入る。そして部屋に入るとタンクトップ姿で何やらパソコンを弄っている人物が一名。桜花はどこかで聞いた言葉を思い出した。人生には三つの坂があるという。それは上り坂と下り坂と……
『まさか』
「か、カーリー!?」
そしてこちらを向いたカーリーは口にくわえていたアイスキャンデーを落してしまった。