インフィニット・ストラトス~紅の双剣(スカーレッドツインズ)~   作:Kyontyu

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 あらすじにも書いたとおりIS〈EVOLVE〉のリブート的な作品です。最初の方はほとんどそのまま使っているので読んだことがある人はそのあたりは飛ばしても構わないです。


プロローグ

開始

 

 球体のコックピットの360ディスプレイ(スリーシックスティディスプレイ)に映って多数の下半身の無い半人型ロボット「ドロック」とそのドロックが放つ弾丸、ミサイル一つ一つにターゲットサイトがロックされる。マルチロックオンシステム、通称MRSは対象を平面的にロックオンする訳では無く、宇宙など遠近感が掴みにくい空間での多数の対象を立体的に捉える為に作られているので通常のロックオンシステムよりも遥かに高精度、高性能なCPUとセンサーがなければ成り立たない技術だ。そしてパイロットは手慣れた操作で巧みにレバーを操りドロックの攻撃を避ける。

 そして両手に装備されている大口径高出力グロウリィア粒子ビーム砲「エクスハティオ」を両横に構え、放つ。「エクスハティオ」から放たれた2本の太いピンク色の光条は1本で2、3機のドロックを巻き込んだ。そしてビームを放った純白のの機械の巨人はビームで敵軍を薙ぐように回転する。

「全てのスペックにおいて現存するBOWNを遥かに凌駕するか……いろいろと規格外だな、こりゃ」

 気楽そうに呟くパイロットはふー、と長い息をつく。やがて光条は途切れ、遠くの方でちらちらとと爆発するドロックの光が見えた。その1つ1つが命の光だと言うが、パイロットの男にはその1つ1つに命があると微塵も感じられなかった。

 「エクスハティオ」の銃身の両側面から溜まっていた熱を排熱され、蒸気は消えずに漂う。そう、ここは生き物が外に出る事が許されない絶対零度の空間、宇宙。そこにある「蒸発」の名を持つ銃を持つ純白の巨人の名は「カラースカイゼロ」。その巨人は護る為に破壊する存在として作り出された『騎士』。カラースカイゼロの体には刻印された水色の光るラインが走っていた。そしてカラースカイゼロの頭部のセンサーアイが前方の敵『艦隊』を捕捉する。敵艦の数は5隻、全て宇宙でトップクラスのスピードを誇る細長く、先が尖った形をした宇宙用高速強襲艦グラッディウス級だった。

「じゃ、いっちょ無双しちゃいますか」

 男はパン!と手を叩き、レバーのグリップを握り締める。そしてカラースカイゼロは背中と脚部に搭載された二枚のプレートで挟まれた特殊なスラスター「ライトローダー」を出力し、宇宙に黄色い輝線を描きながら飛んだ。

 

「艦長! ドロックの第一次攻撃部隊が全滅しました……」

 旗艦の副長が艦長に信じられないといった表情で報告する。

「まさか……そんな事が……」

 艦長は茫然として立ち上がると眼の前には二丁の「エクスハティオ」の銃口をこっちに向けるカラースカイゼロの姿があった。

 

パイロットは無慈悲にもトリガーを引き、「エクスハティオ」から放たれた熱線が艦橋を溶かす。そしてそのまま下に薙ぎ、中心を斬られるような形で旗艦は爆散した。

 再び「エクスハティオ」の排熱を済ましたカラースカイゼロはもう一隻の方に向かって光の尾を引きながら跳んだ。

 

「アキレウス、撃沈!! 」

レーダーを見ていた兵士が報告する。

「くっ…旗艦がやられたか……ドロック全機緊急発進! 奴の破壊を最優先にしろッ!」

『了解!』

数で勝てると思った艦長の考えは後で良い選択では無いと誰もが認めざるおえない事態になってしまう事に誰も気づいてはいなかった。

 

 気付かぬ内に増大していた敵勢力にパイロットは驚愕した。

「…ドロックが30機!?……くっ…思っていたより展開が早い…」

 そしてあっという間にドロックに包囲されてしまった。パイロットは360ディスプレイに映るドロックを見渡し、眼を瞑りながら溜息をつく。

「はぁ…アレを使うしかないか…」

 パイロットが目の前のコンソールにある赤いボタンを押すと、360ディスプレイが赤く染まる。そして同時に自分の身体のルート・アクセス権限を使用して、自分の真のパワーを発揮させる。骨に詰まった量子演算コンピューターが目を覚まし、カラースカイゼロの視神経と、自分の視神経が繋がり世界が鮮明に見え始める。そしてカラースカイゼロの腰に腰マント状に搭載されていた12本の剣が独立稼働するビットに変わり、自由自在に飛び回り始めた。

「さぁ、来い!」

 ドロックはビットに任せてカラースカイゼロは敵艦の殲滅に向かう。敵の放つ主砲やミサイルを簡単に避け艦橋に向けて「エクスハティオ」を放つ、そして袈裟掛けに隣の艦にビームで斬る。そして排熱をすましてもう二隻の破壊に向かおうとすると急に右腕が動かなくなった。何かと思っていると四肢が動かなくなっていた。原因はドロック一機に二本搭載されているアンカーブレードによる拘束だった。

「くっ…なんのぉぉぉぉぉ!! 」

 ビットをすぐに呼び戻すも頭部のバイザー部分にもう一本アンカーブレードが突き刺さってセンサーアイが使用不可能になり、360ディスプレイが一瞬砂嵐に変わったと思うと「フルレンジ・センサー」のレーダー映像に変わり、同時にアンカーブレードを射出していた4機にビットが突き刺さり、爆発した。

 しかし頭部を拘束していたドロックが肉薄しながら右腕のアンカーブレードで頭部を引きぬく。そして頭が無くなった部分から銀色の冷却液が漏れ、同時に腹部にドロックの左アームの銃口があてられた。

「っつ!! 」

 そこで遅れて来たビットがドロックに突き刺さり、ドロックが爆発する。

 パイロットは冷や汗をかいて息を深く吸い込んだ。

『どう任務、進んでる?』

 と、そこでこの場には合わないような少女の声が通信機から聞こえてきた。

「まぁ、なんとか。残り二隻です」

『そ、じゃあ、頑張ってね』

 少女は素っ気なくそう言うと通信を切った。

「よし、残りは……え?」

 パイロットが再び意識を集中した途端、敵艦は撤退信号を出し、退却していってしまった。

『あ~撤退しちゃったのね。まぁいいわ、量子次元転送装置を積んだ艦は破壊したし、帰ってらっしゃい』

「りょ~かい」

 パイロットは付近の宙域をスキャンし、一番近場のグロウラインに乗って母艦に戻っていった。

 

「山野辺一級宇宙騎士、ただいま帰還しました」

 山野辺一級宇宙騎士、本名、山野辺タツヤはバトル・スーツを着たまま、ヘルメットを脇に抱えながら目の前でふんぞりかえっている――ひじ掛けをひたすらコンコン叩いている少女――に敬礼した。

「チッ、おっそい! あんたね、いちいち遅いのよ! なんなの!? あんたは亀? 亀なの?」

「あ、いやぁ、すいません。アハハハハ」

 タツヤは冷や汗をダラダラと流しながら頭の後ろに手をあてて苦笑いした。

 彼女、アリスは明らかにタツヤよりも年下に見えるが、彼女はタツヤの上司であり、この世界に存在する数少ない『女神』である。しかも彼女はその女神の中でも気性が一番激しく、恐ろしい女神である。彼女の逆鱗に触れて本当に亀として人生を送られざるなくなった宇宙騎士の数は数知れない。

 そもそも女神とは、量子の力を監視し、統括する存在であり、その歴史は古い。最初は一人だけだったようだが、人類が宇宙に進出するにつれ、その数を増やしていったという。本来、女神は実体を持たないが、彼女のように合成機(ファバー)で造りだしたアバターにその精神をインストールしている場合もある。

「それよりも、私達、どうやら一杯やられたらしいのよ」

 タツヤは頭にあてていた手を戻して「え?」と素っ頓狂な声を上げた。

「あの艦隊は時間稼ぎの為の囮、本丸は既に別次元に転送されてしまったわ」

「本丸って……まさか……」

 タツヤは汗を垂らしながら訊ね、アリスは深刻そうな顔で答える。

「そう、精神の強制アップローダーよ」

 その人個人の精神の全情報(記憶など)を全て量子状態に置き換え、それを体外に取り出す、それが精神のアップロードである。本来は複雑なプロセスが必要な作業を強制アップローダーは対象の頭に光ファイバーで作られたアップロード・テンドリルで穴を開け、脳髄に接触し精神を一気に量子状態に変換、そのまま自分のメモリに保存するというもので通常は一、二日は必要な作業を一分もかからずに終わらせてしまうので、それを使って通り魔的に不特定多数の人を襲い、精神を強制アップロード、アバターにインストールさせて過酷な労働に従事させるのだ。もちろん、その行為は法律で禁止されている。

「奴らは自分達の兵士を欲しがっている。これ以上戦争をながびかさせたくないし、被害も増える。そこであなたには奴らの強制アップロードを阻止、アップローダーの破壊を命じるわ。まぁ、出来ればその首謀者の抹殺もしてくれるとありがたいわ」

 タツヤはその言葉に少したじろいだ。

「抹殺……ですか……」

「そう。抹殺。本当だったらそいつのデータ全部量子化して円形牢獄(パノプティコン)で永久収監なんだから、全然あまあまな処遇よ」

「は、はぁ」

 円形牢獄(パノプティコン)で永久収監……考えただけでも恐ろしい。自分の身体も持つ事が出来ず、常に自分の心の中をモニターされ続ける……吐き気がしそうだ。

「んで、今からあなたをその別次元に転送するわけだけど、ちょっと特殊な世界でね、もう一度高校生に戻って専門学校みたいな所に通ってもらうわ」

「まぁ、高校生に戻るのはいいとしてですね……学校に通う必要、あります?」

 そうタツヤは訊ねると、アリスはいらただしげに顔を歪め、こう言った。

「だーかーらー。言ったでしょ!? 特殊な世界だって。フェイク用の兵器を所持するにはそこの学校に通った方が手続きが少なくて楽なのよ。全く、こんなことも分からないの!?」

 もう最後の方は完全なる奴当りだし……もうこれはあれだな……めっちゃイラついてるな。多分、自分が騙されたことに対してなんだろうけど。

「じゃあ、ほら、付いてきなさいよ。あなたの新しい身体をさっき合成(ファブ)してあげたから」

 

 付いて行った先には全裸の少女が横たわっていた。

「え? 女の子?」

 その少女は鮮やかな短めの赤い髪に、口元の左端に艶ぼくろがある。息はしてないと思われるほど静かに行われていた。

「ん、外見が女の子だからって舐めちゃだ駄目よ。骨には最新の量子コンピューターが詰まれているし、拡張体脳皮質(メタコルテックス)も入ってる。それに筋繊維はサイボーグ用のが使われてるから重機サイズの物でも何でも持ちあげられるわ」

「え……でも……」

 アリスは再びいらただしげに頭を縦に振って口を開く。

「ええ、ええ、分かってるわよ。『何で女の子か』でしょ。それはあなたの通う学校が女子しかいないから。髪の毛が赤いのはその世界の人類の塩基配列がこの世界のより特殊化して様々な髪の色があるからよ」

「え……はい。分かりました」

 でも……アバターの身体がちょっと小さめなのは気のせいだろうか……?

「じゃあ、新しいアバターにはもうあなたの大半の精神のコピーが既に入ってるから。後はあなたを作る本質のデータをインストールするだけだから。はい」

 そしてアリスは猫だましをするようにタツヤの目の前で手を叩いた。その瞬間、目の前が霞み始めてタツヤは意識を失った。

 

「うっ……何だか気持ち悪いな……そういえば私は……えっ!? 『私』!?」

 先ほどまで横たわっていた少女は立ち上がり、キョロキョロと周りを見渡し始める。下の方を向くとタツヤが倒れていた。

「え! じゃあ私は……」

 目の前で腕を組んでいたアリスはそれを遮るように答える。

「そ、あなたは新しい身体に入ったの。その身体の名前は『鱗咲 桜花(りんざき おうか)』よ」

 「そして」とアリスは後ろを向くとシャッターが開き始める。

「これがあなたの新しい機体」

 そこには薄いピンクで染められているパワードスーツのようなものがあった。左肩にはたくさんのピンク色の刃が付けられた盾のような物があり、右肩の装甲には筆で書いたような赤い字で「血桜」と書かれている。

「通称『血桜』」




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 では、また次回!

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