ロウきゅーぶ!!!~エリーゼ・ルタスの大冒険~ 作:藤林 明
今回、未侑が中心となって大暴走します(笑)
…でないと点差が縮められなかったので、かなりの凶キャラになります。
原作、どこへいったんだろう・・・?w
という事で本編どぞ!
~実況side~
ピッ!
「瑞穂っ!」
「はい!」
第3Qは慧心からの攻撃で始まった。
エンドラインからヒカリがこのQでPGをやる予定の瑞穂へとパスされ、コート中央までボールを運ぶ。するとそこに意外な人物が現れた。
「……次はあんたがポイントガードなの?」
そう、硯谷のエースにしてついさっきのタイムアウトでコーチに胸倉を掴まれ説教されていた未侑だ。
「……ええ。前の2人程は上手くありませんが一応。…それにしても、わざわざエース様が私の相手だなんて光栄ですわ♪」
「……ふん。お世辞なんて言ってる暇無い位にボコボコにするから覚悟してなさい」
瑞穂の皮肉に不機嫌そうに返すと未侑はディフェンスをする為に身構えた。
それに反応して瑞穂も戦闘モードになる。…だが
「……すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」
未侑は突然目を閉じて深呼吸を始めた。
「……(?…どういうつもりか知りませんが、今のうちにパスを…)…っ!?」
未侑の様子に最初疑問を持った瑞穂はパスをだそうと動き出してから目の前の人物の異変に気付いた。
――だが、それでも瑞穂の行動は早かった。
「エリーゼちゃん!!…?…!?」
雰囲気の変化に気付いたと同時に前方にいるエリーゼへとパスを出した瑞穂は瞬時に前を見るも本来前にいるハズの人間がいない事に気付いた。…そして同時に驚愕した。――なぜなら
「……………………」
「……早い!」
ボールをキャッチしてシュート体制に入ろうとしていたエリーゼの前にその人――――さっきまで瑞穂のマークをして目を閉じ深呼吸をしていたハズの未侑がシュートブロックの体制に入っていたのだから。
「……………」
「……っ!ヒカリ…っ!?」
「そんなっ!?」
シュートブロック体制の未侑が見えたエリーゼは慌ててシュートからパスに変え、ゴール下でポジション取りに成功していたヒカリへとボールを放った直後に未侑はそのパスを自らの手に当て弾き飛ばしたのだ。
「……………………!」
「っ!?未侑っ!!」
未侑が弾いたボールを偶然キャッチした甲本は、手を前に出し走り出した未侑に対してパスを出す。…当然甲本をマークしていたひなたが阻もうとするもわずかに届かずそのボールは未侑の手に収まった。
「………………」
「い、いけない…!皆戻っt…っ!?」
「…………」
状況を見ていた瑞穂が指示を出しつつも未侑の侵攻を阻止しようと自らディフェンスに向かうも一瞬のうちに横を抜かれ言葉を失う。…だが
「そう簡単にアタシは抜かせないぜ!!」
「…………」
瑞穂よりも早く自陣へと戻っていた真帆が未侑の進路を塞ぐが……
「?………………」
「え…………?」
パシュッ…トントントン…
「……」
真帆を一歩も動かすこともなく一瞬で横を抜きレイアップを決めた未侑。――そう。未侑は実質ヒカリ以外の4人を全て一息で抜き去りゴールを決めたのだ。
「……な……何…何だよ今の……」
ビィィィィーッ!!
タイムアウト・慧心!!
真帆が呆然と呟いたと同時にブザーとタイムアウトを告げる審判の声が体育館に響いた。
慧心 124-28 硯谷
~side out~
~昴side~
……信じられないモノを見た。
まさか…小学生のミニバスであんなとんでもないスキルが出るとは思わなかった。
…今は、それしか言えない。
「…昴さん、今の…何ですか?…あの子の動きが、急に……」
「それは…「ゾーンや」…ミサ?」
呆然と質問してきた智花に答えたのはミサだった。
「極限の集中状態でのみ発動することができるらしいそのスキルの本質は雑念、…つまり試合に不要な思考を全て捨て心を『無』にすることで本能的にかつ効率よく動けるようにするっちゅうもんや。でもな、その反面体力消費も激しいんや。せやから高校生でも本来第4Qまで使わんのが普通のこのスキルをここで使ってくるってことは恐らくあの子になんかあったんやろな」
簡潔に説明をしたミサは思案顔で自身の考察も話す。
「なるほど…つまり、相手が切り札を切ってきたという訳ね。…でも何でミサはそんなに詳しいの?」
ミサの考察を聞きながら紗季はミサへと質問をする。…確かに詳しすぎるような気も…俺だって噂程度でしか知らないゾーンの仕組みを知り過ぎているような気もするが。
「…兄ちゃんが春の大会で戦った相手に今のあの子と同じ状態になった人がおって、客席にいたおっちゃんから聞いたんよ。…なんかえらい踏ん反り替えってるから「アレ何かわかるんか?」って聞いたんや。」
そうか…確かにミサの兄貴ならゾーンを知っててもおかしくない。なんせあの地区にはとんでもなくバスケの上手い5選手の一人が在籍しているチームがあったからな。…確か、『海常』だっけ?
…でも、その兄貴から聞いたならともかく、その場にいたおじさんから聞いた、というのはちょっと腑に落ちないな…アレはまだ未知数のスキルだって話だし……
「とにかくや。早いうちにアレ破らんとこの点差でも危ないで!」
「「「「!?」」」」
「…………」
ヒカリ、瑞穂、エリーゼ、ひなたの4人は驚愕の表情となり真帆は無言で下を向いた。
「コーチ、最悪早い段階で智花ちゃん使わんとチームの士気にも関わるから動くなら指示今のうちにたのむで!」
「あ、あぁ」
……参ったな。どっちがコーチかわからないな…。
……よし、じゃあ早いけど――
ビィーーッ!!
タイムアウト終了!!
「……指示してる場合やないな。とにかく皆集中してや!!頼むで!!」
「「「「「うん!!」」」」
「……ごめんミサ、ありがとう」
「気にせんでええよ。あんなんがこんな身近におるなんて誰も思わんからな……それよかベンチへの指示、頼むわ。こうなったら自分含めて総力戦でいかな逆に潰される…!!」
「……あぁ、わかった。皆!ちょっと集まって!!」
ミサの真剣な表情を見て確信した。――この試合、第4Qまでに追い付かれる。なら俺がこれから取る作戦は――――
~side out~
~実況Side~
タイムアウト明け最初のパスをエンドからエリーゼが瑞穂へと出して試合が再開した。…が、しかし
「……………………」
「……っ!?」
瑞穂の前にはゾーン状態の未侑が両の手をブランと垂らした自然体の状態で佇んでいた。そう。まるで――
静かに……
ボールを……
掻っ攫って……
行こうと……
するかのように……
狙い澄ましていた……
「(あぁ……私、あの子の気持ちが痛いほどわかりましたわ……これが……)」
「…………………」
「(才能の差…そして…)」
パシュッ…
慧心 124-30 硯谷
「(無力な自分に対する悔しさ。なのですね……)」
そして、
このワンプレーで
瑞穂の心は
――――完全に折れた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから数分、未侑の一方的なスティールとシュート(ヒカリがディフェンスの際にダブルクラッチを混ぜながら)で得点を重ねられたスコアは
慧心 124-80 硯谷
となった。
心が折れたのは瑞穂だけではなく、チームのムードメーカーである真帆もであった。
失意の瑞穂に代わって真帆がパスを受け取るも全てスティールされ、ディフェンスも止められないどころか一歩も動かしてもらえないという状況に流石の真帆も最初こそ対抗心から挑み続けるも、段々とそのやる気を削がれ、今では一歩も歩けない位に呆然としていた。――だがそこへ
ビィィーーッ!
メンバーチェンジ慧心!
救世主が現れた。そう慧心のエースが、満を持してコートに立つ。そして――
「みんな!!試合はここからだよ!!!」
コートに立つとそう声を張り上げる智花だった。。。
IN 湊 智花
OUT 袴田 ひなた
~~~~~~~
「ヒカリ!ちょっといい?」
メンバーチェンジ後直ぐにヒカリを呼んだ智花は昴から伝えられている作戦を伝えた。
「――ということなんだけど…ぶっつけ本番でやれそう?」
「……できなくはない、と思う。…でもいいの?それだと瑞穂が……」
「うん、……本当はこんな策取りたくないって昴さんも言ってた。でもこのままじゃ余計に彼女の心を壊しかねないからって……」
「……わかった。じゃあ私たちで頑張りましょう!…私は皆の心の『光』になれるように頑張るからね!!」
「お願い!多分残りの対抗策はコレしかないから」
~~~
「ヒカリ!」
「はいっ!」
自陣エンドラインからボールを入れる智花と受け取るヒカリ。……そう。今度は
「皆!!ここから立て直すよっ!!」
ヒカリがPG(ポイントガード)として動く事になったのだ。……しかし彼女は体育の時以来PGを練習はおろか実戦でもしていないのでこれは慧心としてはかなりの博打だった。しかし――
「エリーゼっ!…っ!!」
「…………!」
「すごい……!」
「パスフェイクからのドライブ…」
そう。ヒカリはいきなり高等テクでもあるパスフェイクからの高速ドライブを、ゾーン状態の未侑相手に決めたのだ!
「(……でも彼女はついてくるからっ!)」
さらにヒカリは次の手に出る為にゴールポストへとペネトレイトを仕掛ける。
「…………」
そしてヒカリの目論見通りに未侑はヒカリを追従するが、それこそがヒカリの思惑通りだった。そうヒカリは――
「――今っ!!智花ちゃん!!」
「…………!!」
「ナイスパス!!」
シュッ!
スパン!!
インサイドからのアウトサイドパスを自らの持ち味である高さをを最大限に使った
慧心 126-80 硯谷
「……へぇ、やるじゃない」
と、そこにゾーンに入ってから一言も話さなかった未侑が、ヒカリと智花に対して声を掛けてきた。
「……あなたには、絶対に負けないから」
「そうね。確かにゾーンに入った所で身長が伸びたりするわけじゃないから高さを最大限に使われたら未侑でも取れないわ。……でもあなたは大事な事を忘れてるみたいだからそれを思い出させてあげる」
そう言うと未侑はチームメイトからボールを受け取るべく戻っていった。
「……皆!ここから乱打戦になるから集中力切らさないでね!!」
「「「「うん!!」」」」
未侑のセリフに引っかかるものがあった2人だが、それでも不安が杞憂に終わる事はないと思い改めて気を引き締めるべく智花が声を掛けた。
「(……私が大事な事を忘れてる?…気になるけど、今は試合に集中しないと!)」
その隣でヒカリは未侑のセリフを反芻していたが、今はそれどころじゃないと気持ちを切り替えたのだった。
~~~~
久しぶりの得点に歓喜したものの、ゾーン状態の未侑を止める術は無く一瞬で返され得点は
慧心 126-82 硯谷
となった。そして慧心ボールでスタートしヒカリが相手コートへボールを運ぶが――――
「?…この陣形…」
非常に妙だった。未侑がマンツーで相手PGに付きそれ以外がゾーンで守るというゾーンシフトから最初の…第1Qの時と同じ3-2ゾーンに戻っていたのだ。
「(……何も無い。なんてことはない、よね……ん?)……あ…れ…?」
そして気づいた。相手の本当の目的は――
”外からのシュート以外の選択肢を潰す”
一見するとシンプルだし当たり前だとも思える思惑だが、この場合硯谷にとっては最善で最高でも現状の慧心にとっては最悪手となっている。そう、今は本来センターとしてインサイドにいるはずの人間がアウトサイドでボールをキープしている。つまり肝心要のインサイドがスカスカなのだ。
「中には入れさせないよ!!」
「ううっ…くっ…」
ヒカリの代わりにセンターとしてインサイドにいるのは低身長に華奢な体格のエリーゼ。万に一つもポジションを取れないし、硯谷のセンター・塚本は愛莉よりもさらに体格のいい選手だ。そんな彼女はオフェンスでもディフェンスでも現状やりたい放題なのでディフェンスのゾーン、オフェンスのスクリーンと、センターとしての機能を充分にこなしている。
その結果。
「…………」
「……あっ!!」
脚を止めて考える時間が増え、スティールをされる。そして――
パスッ
慧心 126-84 硯谷
失点に繋がるという最悪のシナリオを生んでしまうというまさに負のスパイラルを発生させていた。
「くっ…!」
「……だから言ったでしょ。あなたは大事な事を忘れてる、って……じゃ、精々頑張りなさい」
カウンターでシュートを決め、自陣のコートへと戻る際に未侑はそうヒカリにそう言い捨てていった。
「…………チーム、プレイ……あはは……なるほど。それじゃあ気付かない訳だ…」
未侑に気付かされたヒカリはその場で天を仰いだ。
不思議と悔しくはなかった。…言われた事が正論過ぎてスッキリとしていた自分に驚くと同時に、自分に足りないものが全て見えたとも感じていたからだ。
「…ヒカリ!今のはしょうがないよ、次取り返そう!!」
だからなのか、智花の普段通りな言葉に対して今まで感じたことのないものを感じたのは。
「……智花ちゃん、今のは確実に私のミスよ。しかも次以降もまた同じようにやられるわ。……だから少し作戦を変えよう」
「……ヒカリ?」
「ディフェンスはもうどうにもならない。だからオフェンス時のPGの役回りを智花ちゃんにお願いしたい。それでインサイドにボールを入れて欲しいんだ…ここからは落とせない。やり方は任せるよ。」
「え!?あ…う、うん、わかった…やってみるね」
ヒカリの聞いた事のない声音に驚きつつも智花はヒカリの指示に従って動く事にした。
……智花にとってそれは他ならない敬愛する昴からの指示だったが故に。
気付かなかったのだ。
彼女の変化に――
続く・・・
後書きスキッド:ベンチ会議?
~智花が出た後の慧心ベンチ~
昴「お疲れひなたちゃん!次は第4Qで出るからそれまで体を冷やさないようにね!」
ひなた「おー、わかった~」
昴「ミサ、すずちゃんの状態は?」
ミサ「やっぱりこのQで出るのは無理やな。4Q中盤以降がいいとこや」
昴「そうか……わかった」
紗季「……あの、長谷川さん」
昴「ん?どうしたの紗季?」
紗季「相手のキャプテンの動き、第3Q最初よりも遅くなってます」
昴「なんだって?それは本当か?」
紗季「はい、間違いありません。…最初は目に見えても動けない印象でしたが今では体も反応出来る範囲まで落ちてます。…おそらくは限界が近いのかと」
ミサ「……確かに、前半より話しかける回数増えてるな。あれは集中力が落ちている証拠やな…現にまたヒカリに話しかけとる」
昴「……なるほど、確かにそう見えなくは……」
葵「ねぇ昴?それなら次のディフェンスの時に――」
続く…
ご愛読ありがとうございましたm(_ _)m