追憶の螺旋ー短編集   作:楓麟

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1.月満ちる夜に
プロローグ


 下品な哂い声。

 気が付けば、僕は汚い腕に羽交い絞めされていた。遠くの方で、パパとママが泣き叫んでいるのがぼんやり見えた。こっちに向かって走っている。

 

「ルーピン!」

「ルーピン――ルーピン!」

 僕の名前を呼んでいる。

 

インカーセラス(縛れ)!」

 後ろの方で、誰かが呪文を唱えた――二人がロープでぐるぐる巻きにされて、動かなくなった。それでも、名前を呼ぶ声はやまない。

 

「我々に抗ったことを一生悔やめ――フェンリール」

 誰かが、誰かに言っている。よく分からない。

 だって、僕は何かに噛み付かれたから。

 

 痛い。

 苦しい。

 もがくけれど、僕を絞める腕はぴくりともしない。

 助けを呼んでも、誰も来ない。

 

「パパ、ママ……」

 それから、僕は何も覚えていない。

 

 目が覚めてから知った。

 僕が人狼というバケモノになってしまったということを。

 


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