「あ〜、これ全部お前が殺ったのか?」
「……」
少女は応えず、蓮華に目を向ける。紅い目から放たれる威圧感に思わずたじろぐ。
「襲って来たのがコイツらだとしても、やり過ぎは良くないぜ?」
「……」
「警察……つっても役に立たねぇか。まあ知り合いの顔が怖ぇ人なら、事情話せば分かってくれるから一緒に行こうや」
「…………」
「あの、なんか言ってくんね?」
「………………ッ!」
返答が無く、困り果てた蓮華が少女に一歩近づいた。瞬間、
ドゴォォ!!
「うおぉっ!?」
「……!」
一瞬で蓮華との間合いを詰め、右腕を振りおろした。本能的に後ろに飛び退いた所に、大きな穴があいた。敵意に満ちた瞳が蓮華に向けられ、追撃の左ストレートが蓮華を襲う。
「ガァッ!?」
衝撃を逃がすために、わざと飛ばされるも全部を受け流せる訳も無く地面に身を打ち付けた。直後に腹部に重み。少女が蓮華に馬乗りになり、右手を高々と振り上げていた。
(これはマズイ!!)
咄嗟に腕を交差させ、衝撃に備える。が、次にやってきたのは、
ぐぎゅぅぅ〜 。
ドスッ!
「ぐぇっ!?」
「……」
間の抜けた腹の音と鳩尾へのヘッドバット。というか、力尽きた少女の倒れて来た衝撃だった。
* * *
「ほらよ、飯だ」
「……」
「なんだよ。言っとくが、毒なんか入ってねぇぞ。それともあれか、敵のほどこしは受けねぇってか?」
「…………」
「……ホントに、なんか喋ってくんね?」
「………………」
「……ま、いっか。そんじゃま、いただきます」
そう言って、蓮華は箸を手に取る。倒れた少女を自宅に連れ帰り、介抱しつつ夕飯を作った。少女が目を覚ましたのは夕飯が出来てすぐだった。少女に目立った外傷は無く、ただの空腹と栄養失調だった。風呂に入れんのが先かとも思ったが、せっかく出来立てのご飯があるのだから夕飯を優先させることにした。和室の四畳一間にはちゃぶ台と隅に寄せられた布団しかない。聞こえるのは蓮華の箸を扱う音と外の喧騒。
気まずい静寂の中、ちらっと少女を見る。
まだ食事に手をつけていない。だが右手がちゃぶ台の上と下を行ったり来たりしているため、食べ始めるのも時間の問題のようだ。ゆっくりと少女の手が伸びる。そのまま今日のメインディッシュの鳥の唐揚げにたどり着き、
パクッと食べた。
ーー素手で。
「……おい」
「……?」
「なに?みたいな顔すんなや。箸おいてあんだろ?ちゃんと箸使ってくえや」
「…………??」
なおも疑問を浮かべた様な少女(実際には無表情なのだが)に飽きれたのか、自分の持っている箸を指差して説明する。
「これ使って、食べもんをつまんで食べる。OK?」
「……」
少女は見様見真似で箸を手に取る。だが、箸を握る手はグー。それで必死に鳥の唐揚げをつまもうとしていた。その様子に蓮華は違和感を覚えた。
「なあ、オレが言ってる事はわかるんだよな?」
「……(コク)」
首を縦に一回ふる。つまり肯定。
「じゃあ話す事は出来んのか?」
「…………(コク)?」
首を傾げながら頷く。微妙な反応。
「住んでる場所は?」
「…………(フルフル)」
横に首をふる。わからないらしい。
「うーん……。じゃあなんて呼ばれてたかだけでもわかんねぇか?」
「…………………し……ろ」
初めて少女が言葉を発した。途切れ途切れの言葉だったが、確かに紡いだ言葉。
「しろ……ね。じゃあそれがお前の名前だ。よろしくな、しろ」
そう言って、手を差し延べる蓮華。少女ーーしろは戸惑いながらもその手を取った。
秋の終わり、冬を間近に控えた寒い日のことだった。
すいません、結局今回も原作の内容に追いつけませんでした。
ですが、次回からは原作の内容に入ります!
それではまた次回