ブラック・ブレット〜紅の斬撃〜   作:阿良良木歴

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突き刺さる雨

『蓮華君、例のモデル・スパイダー見つかったよ!』

 

「了解、少ししたら出る」

 

梓からの電話を受け、蓮華は眼光を鋭くする。元凶と言っても過言では無いガストレアに対しての殺意が静かに燃え上がる。

 

『だめ、今すぐ出てきて。あのモデル・スパイダーは空を飛んで移動してる。だから木更と一緒にヘリをチャーターして……ってさっきからずっとジュージューなってるけど今どこ?』

 

「ん?家だよ。今しろに晩飯作ってる」

 

言いながらフライパンの上の肉にブランデーを振りかけフランベを施す。肉好きなしろの為、肉も上質な素材を使っていた。電話の向こうで空気を吸い込む音が聞こえ、次の瞬間雷が落ちた。

 

『遅れる理由それ!?さっさと外に出てこっちに来てよ!!』

 

「耳元で叫ぶなよ、鼓膜破れるだろ。それに育ち盛りに上質な飯は必須だろ?」

 

『そんなことばっかりしてるから蓮華君はロリコンなんだよ!!』

 

「ロリコンじゃねぇっつってんだろ!?それに心配すんな、今日は5割の力でやる」

 

『……珍しいね。蓮華君がそこまで本気出すなんて』

 

「まあな。このままじゃ、しろの教育に悪いからな。さっさとケリ着けさせてもらう」

 

『理由がそれだもんね。世界救うことよりも幼女守りたいって、やっぱりロリコンでいいでしょ?』

 

「何一つ良くねぇわ!ああ、もう飯も出来上がるし切るぞ」

 

『早く来てね。ヘリのチャーター、安くないんだから』

 

ブツっという音と共に通話が終了する。携帯をポケットにしまい、焼きあがった肉と炊きたてご飯をちゃぶ台の上に乗せる。

 

「飯先に食っててくれ。仕事が入った」

 

「……りょ。…………はやく」

 

「わかってるって、さっさと終わらせて帰ってくるさ」

 

いつもの無表情に安心しつつ蓮華は部屋を出て鍵を閉めた。瞬間、蓮華の表情は激変した。いつものやる気の無いヘラヘラした表情はどこにも無く、無表情で能面の様な顔に冷酷な瞳がギラついていた。そのまま蓮華は雨脚が強くなる街を疾走し始めた。

 

 

***

 

 

「よう、調子はどうだ?」

 

「あんまり万全とは言えないな」

 

「……妾は大丈夫じゃ」

 

耳を叩くヘリの爆音に顔を顰めながら、蓮太郎へと声を投げ掛ける。蓮太郎も延珠も険しい顔をしており、討伐の前に少しでも気分を上げられるようにとの蓮華の配慮だった。心が痛む沈黙は続く。なんとか話題を変えようとしたが、目標の近くに来たとのパイロットからの言葉で気合いを入れ直す。

 

「手順はどうする?一応アンチマテリアルライフルは持ってきてるから、狙撃で地面に落としてから全員で叩くか?」

 

「それが一番安全にだろ。それに蓮華の方がIP序列は上なんだ、お前の指示に従うさ」

 

「いつもソロでやってる奴言葉信用すんじゃねぇぞ?」

 

『目標捉えました!』

 

作戦が決まったと同時に窓の外に目的のガストレアが見えた。ハンググライダーのようなもので空を飛行している。体の急所が見えないのが痛いな、と心の中で愚痴りながら蓮華はアンチマテリアルライフルの準備を開始する。が、その手はヘリの中を掻き乱した風雨によって中断された。

 

「おい、扉開けるの早いぞ!?」

 

「違う!延珠が飛び降りやがった!!」

 

「なっ!?」

 

すぐさま扉に駆け寄り眼下を見つめる。ちょうど飛び降りた延珠がモデル・スパイダーにカカト落としを決めながら落下していくところだった。

 

「ちぃっ!作戦変更だ!出来るだけ地面に近づいてくれ!!そっから強襲をかけるっ」

 

イラだった蓮華の声とは裏腹にヘリは風の影響でなかなか高度を下げきれない。

 

「すまん蓮華。先に行く!!」

 

「おい!」

 

言葉だけ残し、蓮太郎も垂らしたロープで下に降りていく。多少下がったとはいえ、まだ高さがある所からの無謀な降下に蓮華は声を荒らげた。

 

「あんのバカ!お前になんかあったら悲しむ奴がいるのわかってねぇのか!!」

 

未だに地上へと降りれない蓮華の視界に土煙が映り込む。もう時間は無い。素早くパイロットに土煙が上がったところへ急行してもらい、パラシュートもロープも使わずヘリから身を踊らせる。

 

「く、そがぁ!!」

 

空を裂く様な怒号を上げながら、落下の衝撃を木で緩和させながら地上に降り立つ。流石に全てのダメージを殺しきれなかったのか、右肩を押さえながら駆け出す。木々が折れ、唐突に開けた場所に延珠が蓮太郎に抱き着きながら立っていた。傍らにはモデル・スパイダーの死骸が転がっている。

 

「蓮太郎!延珠、無事か!!」

 

「なんとかな。お間の方こそ大丈夫か?」

 

「脱臼したけど問題ねぇよ。もうハメたしな」

 

「相変わらず人間離れしてるな」

 

「うるせぇ。んで、それが七星の遺産か?」

 

延珠が泣いている理由も解決したのかも聞かない。それが蓮華に出来る最大限の優しさで、それを理解している蓮太郎は心の中で感謝しながらアタッシュケースを持ち上げる。

 

「ああ、これを聖天子様に持っていけば任務完了だ」

 

「なら早く行こう。モタモタしてると奴がーーッ!!」

 

背筋を舐めるような悪寒が走り、咄嗟に蓮太郎と延珠を突き飛ばす。同時に腹部に焼けるような痛みが広がる。

 

「ぐぅ、がぁ!?」

 

「蓮華!」

 

「おや?狙いが外れてしまったかな。まあ紅君の方が能力的に面倒だからこれはこれで良かったかな。ひひっ!」

 

森の中から出てきた影胤は煙の上がる銃口を下げることなく3人に向けていた。激昂し飛び掛るとする延珠にの後ろからは小比奈が2振りの刀で襲いかかる。数的有利を奇襲によって完全に崩された蓮太郎と延珠は防戦一方で蓮華の容態を見ることさえ叶わない。蓮太郎と延珠は背中合わせに立ち止まり、両方から影胤・小比奈に挟まれる。必死に頭を巡らせた蓮太郎は苦渋の決断を下す。

 

「くっ!延珠、蓮華を連れて逃げろ!!」

 

「イヤだ!それでは蓮太郎が1人になってしまう!!」

 

「いいから言うこと聞いてくれ!誰か1人が残ってコイツら足止めしなきゃいけないだろ!!」

 

「しかしそれでは蓮太郎が!!」

 

「仲睦まじい所悪いが、チェックだ」

 

一気に間合いを詰めた影胤の銃口と小比奈の刃が2人を襲う。反応しようとするが、間に合わない。

 

ーーガガンッ!!

 

襲い来る刃と弾丸は突然現れたナイフによって弾かれた。蓮太郎たちを守るかのように立つ人物は口から血を吐きながら、それでも倒れない。

 

「れ、蓮華!?大丈夫なのか!」

 

「これが大丈夫に見えるならお前は眼科か脳外科に行ってきた方がいいぜ」

 

いつもの様に軽口で答える蓮華は、荒い息で目の焦点が合っていない。だが、眼光は鋭く輝き影胤を射貫く。

 

「リーダー命令だ。テメェら2人で逃げろ」

 

「なっ!?怪我人のお前を置いていけるかよ!!」

 

「怪我人だから置いてけっつてんだよ。今のオレはただの足でまといだ」

 

「だからってーーッ!」

 

反抗する蓮太郎の胸倉を掴み額に頭突きを食らわせる。死に体の体のどこにそんな力が残っていたのかと思うほどの威力に蓮太郎はたたらを踏む。

 

「最後くらい命令を聞け。ったく最初から指示全部無視しやがって。それに心配なら、誰か助けでも呼んでくれ」

 

「っクソ!絶対死ぬんじゃねぇぞ!!」

 

「誰に言ってやがる」

 

「飛ぶぞ蓮太郎!!」

 

一刻でも早く助けを呼ぶため、延珠の背に乗り撤退する。2人を追おうとする小比奈の足元に弾丸が撃ち込まれる。リボルバー型の拳銃をリロードしながら、蓮華は不敵な笑みを浮かべる。

 

「敵はここだぜ、小比奈ちゃん?」

 

「……パパ、アイツ嫌い。斬っていい?」

 

「ダメだよ、小比奈。アレは私の獲物だ」

 

放たれる銃弾は避け切れず蓮華の体に細かい傷を付けていく。それでも距離を離せば蓮太郎たちの方に向かわれるため、反撃しながら森を疾駆する。だが、目の前に濁流の流れる川が現れた時、闘争は終焉を迎えた。振り向くと、影胤の不気味な仮面が更に笑みを深めている様に蓮華の目に映った。

 

「残念だよ紅君。君はもう少し賢いと思っていたんだがね」

 

「生憎、不器用なんだよオレは。……がふっ!」

 

今まで激しく動き回った代償が蓮華の口からこぼれ落ちる。朦朧とし始めた視界と聴覚を必死で保ち、なんとか時間を稼ごうとする。

 

「君のその蛮勇に応え、里見君を追撃しないと約束しよう。目的も達成したことだしね。最後に言い残すことは?」

 

「……くたばれ、クソッタレ」

 

「そうかい。さようなら」

 

銃声は豪雨に飲み込まれて、消えた。




長い間放置してごめんなさい(ToT)
ここから神を目指した者たちを一気に終わらせて行きたいです!

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