タケルがマァムと合流していた頃。
ダイとポップはヒュンケルと激しい戦いを繰り広げていた。
二人の手札は唯一つ。
電撃呪文ライデインだ。
だがそれを実行するにはヒュンケルに剣を使わせなければならない。
ヒュンケルはダイ達を完全に格下に見ている。
その為、剣を使わず拳で襲いかかってきた。
しかしヒュンケルは知らなかったのだ。
ダイは天才だったのだ。
以前の戦いからヒュンケルの動きを予測しながら先手をうつダイ。
心なしか速さも(スピード)も上がっている。
「おのれ!」
ヒュンケルは頭部の鞭を操ってダイを攻撃する。
鞭の鋭利な刃はダイの腹部を切り裂いた。
しかし-
「な、なにっ!?」
ダイは直ぐに起き上がりヒュンケルに飛びかかった。
敗れた服の隙間から灰色の網目が見えた。
「く、鎖帷子かっ!?」
「だぁっ!!!」
ダイの強烈な膝蹴りがヒュンケルの顔面を打つ。
ヒュンケルは堪らず膝をついた。
不覚を取った。いや敵を甘く見た自分が悪いのだ…。
ヒュンケルはダイ達を睨みつけるとゆらりと立ち上がった。
「いいだろう…それほど惨たらしい死が望みならば我が地獄の剣で息の根を止めてやる…っ!」
ダイの顔に緊張が走る。
しかしこの時を待っていた。
ダイは後ろで控えているポップを見た。
ポップもダイの意図を理解して頷く。呪文を紡ぐ。
「天空に散らばる数多の精霊たちよ…我が声に耳を傾け給え…」
ポップの祈りが通じ空に雨雲が集まっていく。
ヒュンケルは兜から剣を取り出すと空に掲げて叫んだ。
「くたばるがいい!」
「ポップ!今だーっ!」
「ラナリオー-ンッ!!!」
ポップから放たれた魔力の光が柱となって天を突いた。
雨雲は雷雲へと変わりゴロゴロと音を立てる。
「何ぃっ!?」
「くらえっ!」
ダイは剣を投げて叫んだ。
「ライデイン!!!」
「ぐあああああああっ!!!」
ヒュンケルの掲げた剣を避雷針にして落雷が落ちる。
まともに電撃呪文を受けたヒュンケルは金色の閃光に飲み込まれた。
鎧を通して雷撃がバチバチと肉体へと通電する。
雷撃の衝撃で地面はえぐれ爆発した。
「や、やった…」
予想以上の電撃呪文の威力にポップは溜息を漏らした。
パラパラと舞い上がった小石や砂が地面に落ちていく。
砂煙は徐々に晴れてヒュンケルの姿が顕になった。
「ハ、ハハハ…ハハハハハッ!」
両手と膝を付いて動かなくなったヒュンケル。
電撃呪文は完全に決まっていたのだ。
ポップの口から歓喜の声が上がった。
「やった!やったぞ~~っ!!あっはっは!予想通り鎧は壊せなかったけど中身は黒焦げだなこりゃあ」
ポップは動かない状態のヒュンケルを覗き込んでニヤリと笑った。
「オレたちを舐めてるからこうなるんだ!」
高笑いを続けるポップ。
だが僅かにピクリとヒュンケルの指が動いた。
それに気づいたダイはポップを注意する。
「ポ、ポップ…!」
「あん?」
だが遅かった。
次の瞬間、ヒュンケルの拳はポップの頬を穿っていた。
ガントレットによって覆われた鋼の拳がポップを吹き飛ばした。
「そ、そんな!ライデインも効かないなんてっ!?」
何事も無く立ち上がってきたヒュンケルにダイは愕然とした。
だが電撃呪文は効いてないわけではなかった。
タダ単純にヒュンケルが強かったのだ。
ライデインを耐える程の肉体を持っていたのだ。
「貴様らを侮った…これ程の真似が出来るのならば手加減はしない…っ!」
「ダイ…もう一度だ!上空に雨雲があるうちに…っ!」
「遅いっ!」
「ウ…あぅ…」
電撃呪文を放とうとしたダイにヒュンケルの暗黒闘気が襲う。
指から糸状の闘気を放ち操り人形の如く拘束する技だ。
しかし今回は全開とは違った。
「ううぅ…ラ、ライデインッ!!」
「な、何っ!?」
ダイの指のリングが輝く。
取り付けられた満月を模した宝玉にヒビが入る。
それと同時に放たれる電撃呪文。
しかし…。
「くっ、おのれぃっ!ブラッディスクライドーッ!!!」
落雷がヒュンケルに、必殺剣がダイにそれぞれ向かう。
ブラッディスクライドはダイの鉄の胸当てを貫く。
しかし電撃呪文はヒュンケルの肩を掠めただけだった。
「あ、ああ…ダ、ダイ~~~ッ!!!」
ポップは顔を歪ませて叫んだ。
ヒュンケルの剣を受けたダイの身体は高く吹き飛ぶ。
そして鈍い音を立てて地面に落ちた。
「お、終わった…」
肩を抑えながらヒュンケルは勝利を確信した。
その頃。
オレとマァムは通風口をひたすら進み続けていた。
「中々出口が見えないな…」
「えぇ、でも急がないと…」
マァムは先ほど手に入れた魂の貝殻を大事そうに抱えて言った。
「さっき言っていたヒュンケルか…マァム達と同じアバンの使徒…。でもそんな奴が魔王軍の軍団長なんて…」
「彼は誤解しているだけよ…真実を知ればきっと…」
「そう簡単にいくのかな?」
「え?」
「だってそうだろ?さっきのが真実なら今までの人生を全て否定するようなものだろう?本当の敵は別で敵だと命を狙った相手はずっと自分を見守ってくれていた…。きつい現実だ…」
「…そうね。それでも彼に伝えなきゃ…!」
凄いな、マァムは…。
ヒュンケルの事を信じているのだろう…。
なんか胸が熱くなるな…。
だったらオレも出来うる限りの事をしよう…。
「マァムの言う通りだ…ごめん、余計な事を言った…」
「いいのよ」
「オレを出来るだけの事をするから」
「ありがとう…:
「ピピィ!」
「どうした、ゴメちゃん…あ、あの光は…出口か!」
ゴメちゃんは嬉しそうに出口へと飛び出していった。
「ピ、ピピィッ!?ピピピィ~~~~~~ッ!!!」
出口を飛び出していったゴメちゃんから悲鳴の様な鳴き声が上がった。
様子が変だ。
俺達は頷き合うと急いで出口を飛び出した。
「あ、ああっ!?」
俺達が見たのはブラッディスクライドを受けて血を撒き散らしながら宙を舞うダイの姿だった。そのまま地面に落ちた。
今回の道具データ
超グリンガムの鞭 攻撃力140
改造されつくし最強になったグリンガムの鞭
近々出ます。
但し武器としてではなく…。