【Side 高町まどか】
「……………………は?」
ある日気が付いたら、私は何だか良く分からない空間に居た。
「ちょ、何処なのここ!?
それに何なのこの格好?」
極彩色の空間に広がる曼荼羅の紋様、そしてハスの様な御座に胡坐をかく私。
格好も何だか水墨画に描かれた菩薩の様な格好になっている。
その上、動けない。
「一体何がどうなってるのよーーーーー!!??」
一通り叫んで、冷静になる。
兎に角、これまでのことを振り返って現状を分析しよう。
どのみち動けないのだから、他に出来ることもない。
およそ半年前、ミッドチルダを……いや、全次元世界を襲った未曾有の事件は唐突に終わりを遂げた。
ラインハルト・ハイドリヒは詠唱の途中で忽然と姿を消し、その瞬間『城』も消失、私達は空中に投げ出された。
幸いにして突入に当たった者は全員空を飛べたため、大事には至らなかったが。
後で聞いたところによると、クラナガンの各地に陣取ってスワスチカを創っていた騎士団員もこの瞬間に姿を消したらしい。
本局に攻め込んでいた艦隊も姿を消しはしなかったものの主の異常を察したのか攻撃を中止、停戦を申し込んできた。
通常であればそんな申し出は受ける筈もないがこの時点で本局は常駐していた総ての次元航行艦を失っており継戦能力も皆無、その申し出に一も二も無く飛び付いたそうだ。
侵攻してきたガレア帝国とは停戦したものの、本局は半壊、地上本部は建物こそ無事なものの部隊は殆どが戦闘不能、そして管理世界の至る所で聖王教会が反乱を起こし、管理外世界では駐在局員が犯罪者として追われる始末。
正直、この時点で管理局が崩壊しなかったのは奇跡に近いと思う。
以降約半年に渡って復興作業を続けてきたが、まだ完全とは言い難い。
ミッドチルダはある程度元の姿を取り戻しつつあるが、管理局の目に見えた劣勢を受けて管理世界の3分の1程が独立を宣言、その中には各世界の聖王教会信者が集まって建国されたベルカ法国も含まれた。
多数の次元航行艦が撃沈させられたこともあり、実質的に管理局の力は嘗ての半分以下に落ち込んでいる。
いや、復興して何とか嘗ての半分まで盛り返したと言うべきかも知れないが。
機動六課は本来であれば一年間の試験部隊だったのだが、この状況下で有耶無耶になりそのまま正式部隊へとなった。
本当ならちょうど今日、解散していた筈なのだが……………………って、もしかしてそれ!?
新暦76年4月28日……正史における機動六課の解散日であり『ラグナロク』のリミット。
「あは……はは……は………………」
この状況の意味が分かってしまった。
思わず乾いた笑いがこぼれる。
「私…………神様になっちゃった」
そして、それを自覚した瞬間、この場から知識が流れ込んできた。
「座」と言う場所、流出の意味、これまで知らなかったことを知り、そして途方に暮れる。
強大な渇望を溢れ出させて世界法則を書き換える……確かに彼等にはそれが出来るのだろう。
しかし、そんな渇望も知識も能力も持たない、無理矢理ここに引き摺りこまれただけのインスタント神様に何をどうしろというのだ。
おそらく、私がここに来ても世界は元のまま何1つ変わっていないだろう。
世界法則の書き換えなど、私には出来ないのだから当然だ。
本物の覇道神が正社員なら私はパート社員かアルバイター、規則を変える様な権限はなく決められた範囲で仕事を行うことしか出来ない。
ついでに言うと、パート社員やアルバイターと言っても給料は出ない。
まぁ、それは
「はぁ」
思わず溜息がこぼれるのも仕方ないだろう。
これから永久にこの場で魂の管理だけをして過ごせと言われているのだから。
「……ん? そう言えば、私がここに連れて来られたってことはアイツはどうなったんだろう?」
半年前に対峙していた黄金の獣。
私なんかとは違う本物の覇道神……って、今考えると本当にとんでもない相手と戦ってたのね、私達。
まぁ、手加減に手加減を重ねてあれだったということは身に沁みて分かったけど。
彼は流出を行おうとして消えた。
あの時は何が何だか分からなかったけど、おそらく私達を転生させた神様達の介入があったのだろう。
しかし、それによって殺されたり消されたりしたのだったら、今になって私が勝者扱いされていることの説明が付かない。
もしそうなら、あの時点でこうなってもおかしくなかった筈だから。
「まぁ、別に死んでて欲しいわけじゃないんだけど」
「そうなのかね?」
「まあね、嫌な相手ではあるけど死んでほしいと思う程じゃ………………え"!?」
斜め方向から聞こえてきた声に、私はギギギっと軋む音を立てながら首を向ける。
そこには、先程私が思い浮かべていた黄金の獣様が立っていた。
「み"」
「み"?」
「み"ぎゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
我ながら乙女としてどうかと思う悲鳴が腹の底から飛び出した。
「何もそこまで驚くこともなかろうに」
「いや、だって……」
死んだと思っていた相手、嘗て敵対していた者、多分デコピン1つで私を粉々に砕ける力の持ち主、おまけに私は胡坐をかいた姿勢のまま身動き取れない。
これだけの条件が揃えば、誰だって悲鳴を上げると思う。
「安心するといい、今更に卿と戦おうとは思わんよ」
「本当に?」
私は彼の言葉を信じることが出来ず、疑いを投げ掛ける。
何しろ彼が目的を果たす為には現在「座」に座っている私を退かす必要がある。
そしてそれは彼にとって造作もない事だろう。
しかし、彼は肩を竦めながら何でもないことの様に言う。
「本当だとも、今更世界1つを飲み込んでも大して変わらんからな」
「……ちょっと待って、貴方今まで何をしていたの?
いえ、
「『外なる神』の1柱ということになるな」
くらりと眩暈がした気がした。
「元より私は全力で戦える相手を探していたのだ。
ならば戦うべきはより強き者。
卿らではなく我等を転生させた『外なる神』を相手と定めるのは必定であろう」
「で、あの時流出を起こす振りをして戦いを挑んだってわけ?」
「その通りだ。
その結果、『ラグナロク』を主催していた7柱を飲み込んで今に至る」
「なぁ!?」
思わず絶句してしまった。
私達を転生させた神様を倒した……と言うだけでもとんでもないのに、7柱総てと戦って勝ったのかこの金ぴか。
…………………………ん?
「ちょ、ちょーっと待って欲しいんだけど、7柱総て倒して飲み込んだってことは……」
「ふむ? ああ、卿の上官でもあるな、必然的に」
「げ!?」
とんでもない事を告げられた。
私、コイツの部下として働かなきゃいけないの?
「不服か?」
「い、いえいえ、滅相もない」
本当は不服だけど、力関係的にとても逆らう気になれない。
機嫌を損ねたら即消されかねないのだから、情けないとは言わないで欲しい。
「それで、これからどうするの?」
「イクスを放置してしまったからな、一度顔を見せてやらねばなるまい」
「イクス?」
初めて聞く名前に疑問が湧いて尋ねる。
いや、何処かで聞いた名前でもある気がするが……。
「イクスヴェリア・ハイドリヒ。
この世界における私の妹に当たり、ガレア帝国の宰相を任せている。
黒円卓の番外でもあり、先の戦争においては本局への侵攻の指揮を取らせていた」
「イクスヴェリア……って、冥府の炎王イクスヴェリア!?
そう言えば、彼女の国がガレア王国だったわね……帝国に変わってるけど。
でも待って、顔を見せるって今の貴方が世界の内側に入り込むつもり!?」
元々、うっかり世界を踏み抜いても不思議ではないくらいの存在格を持った存在だった筈。
それが、更に強さを増していると言うのに気軽に世界の内側に乗り込まれたら……。
「なに、ここに来ているのは私の本体ではなく端末に過ぎん。
世界の中に入り込んでもそう大した問題は起きまいよ」
「いやいやいや、十分問題だから!
端末って言っても、今の貴方の存在だけで全次元世界の魂より重いから!」
「む……しかしこれ以上は削れんぞ。
これでも極限まで抑えているのだ。
まぁ、この世界の「座」に居る卿が全力で維持すれば何とかなるであろう?」
「ちょ、ま、駄目だって……無理……入らないでーーーー!!!」
必死に止める私を無視して、彼は「座」を通り過ぎて世界の内側へと降り立ってしまう。
「ぎょえええええぇぇぇぇーーーーーー!!!!」
その途端、胡坐をかいたままの私に凄まじい重圧が掛けられ、私は思わず悲鳴を上げた。
世界以上の質量を持つ存在が無理矢理侵入したため、その分の重みが私に掛けられたのだ。
例えて言うなら、自分の体重がいきなり3倍になった様なものだが、「座」に座る私は気絶も出来ない。
「ちょ、もしかして私、今後ずっとこんな目に遭うのーーー!?」
ああ、もう、神様なんてなるもんじゃない!
【Side ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ】
「ん?」
何処からか悲鳴染みた声が上がった気がしたが……気のせいか。
寄り道した「座」から世界の内側へと足を進めながら、私は先程の邂逅を頭に浮かべる。
まさか『外なる神』との戦いの間に場外負けになるとは思わなかったが、まぁ今更『ラグナロク』の勝敗などどうでもいいことだ。
それに、あの時褒美を与える約束をしていたのだから、彼女に勝利を譲ったと考えればいいだろう。
敗北して命を落とす筈だったところを勝者として神の座まで得られたのだ、奮闘の褒美としては十分だろう。
「さて、まずはイクスの機嫌を取るとして……その後はどうしたものか」
高町まどかが「座」に居たところから推測するに、既にあれから半年以上が経過している。
何も言わずに放置することになってしまったイクスはさぞかし荒れているだろうから、機嫌を取るにはそこそこ手間取るだろう。
まぁ、それに関しては已むを得ん、彼女が納得するまで付き合うしかあるまい。
問題はその後、これから私が何を目的に存在すればいいかだ。
『
これ以上、上には誰も居ない。
ならば……そう、ならばだ。
最早、下から駆け上がってくることに期待する他ない。
故に、次の『ラグナロク』は私が主催者となろう。
私が彼等に挑んだ様に、挑んでくる者を待つのだ。
いずれ私に届く者が現れるまで、
「私は総てを愛している。
私の愛に限りは無く、悠久に
True End 「Sieg Heil Viktoria」
(後書き)
True End「Sieg Heil Viktoria」でした。
流石にもうこれ以上ルートはありませんので、以上で本編完結となります。
が、79だとキリが悪いので最後に一話、蛇足を付け足して80話ピッタリで終わりにしたいと思います。