魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Ω Ewigkeit(dies irae)


78:共にこの宇宙で謳いあげよう、大いなる祝福を

【Side ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ】

 

死森の薔薇騎士(Der Rosenkavalier Schwarzwald)

死世界・凶獣変生(Niflheimr Fenriswolf)

 

 初撃を相争う様に放ったのはベイとシュライバー。

 黒円卓の白騎士の座を奪い合う2人は我先にとその渇望を発露する。

 

 夜が広がり周囲にあった世界の鏡ごと『外なる神』を内へと捉えようとする。

 背後に下がろうとする『外なる神』だが、その機先を制するように髪を伸ばしたシュライバーが肉薄し一撃を叩き込む。

 シュライバーの攻撃は六芒星の形状をした障壁によって遮断されるが、回避を邪魔された『外なる神』はベイの創り出した夜へと飲み込まれる。

 

 その途端、凄まじい量の魂が私の総軍へと雪崩れ込んでくるのを感じた。

 今の一瞬で流れ込んできた魂だけで、嘗てカールと戦った時の私の総軍に匹敵するだろう量だ。

 しかし、見た所『外なる神』の魂の保有量は減っていない。

 いや、減ってはいるのだろうが総量が多過ぎて焼け石に水といったところか。

 

「無駄です。

 相手の弱体化と自身の強化を図ると言う意味で魂の吸収という発想は悪くありませんが、そんな調子ではどれだけ時間を掛けても私を枯渇させることなど出来ませんよ」

 

 事実なのだろう。

 実際、魂がこちらに流れ込んできているにも拘らず、彼女は何の痛痒も感じていない様に見える。

 

「今度はこちらからいきますよ──【ABRAHADABRA】」

 

 突き出された左手から死そのものが雷の形を為して私達へと襲い掛かる。

 

形成──(Yetzirah──)我に勝利を与えたまえ(Sieg Heil Viktoria)

 

 一歩前に出たシュピーネが巨大な蜘蛛の巣を我らの前に創り出す。

 死の雷は糸の迷路に突き刺さり、そしてそれを伝わって逸れていく。

 なかなかやる、嘗てのカールとの戦いでは決して前に出られなかった男が今ではこの雄姿だ。

 そうだ、それでいい。

 我がエインフェリアたる者、そうでなければいかん。

 

「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、

 我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者(Voltare)

 

 私の新たな詠唱と共に、体長15メートルを超える黒い竜が仁王立ちで顕現する。

 

「薙ぎ払え」

 

 その言葉と共に、真竜の胸部から砲撃が放たれる。

 砲撃は『外なる神』を目掛けて真っ直ぐに突き進む。

 

「闇に沈みなさい──【N'kai】」

 

『外なる神』が真竜の砲撃に対抗するように放った闇は一瞬にして砲撃や真竜だけでなく我が総軍を包み込んだ。

 その瞬間、凄まじい重圧が我等を襲った。

 

「これは……重力結界?」

 

 砲撃は重力に押し負けて圧殺される。

 また、我等もその圧力に押し潰されて身動きが取れない。

 

「このまま潰れてしまいなさい」

「そうはいかんよ……マキナ」

人世界・終焉変生(Midgardr Volsunga Saga)

 

 マキナの放った拳が結界を捉え、一撃で幕を引く。

 我等は重力の檻から解放され、反撃に出た。

 

拷問城の食人影(Csejte Ungarn Nachatzehrer)

雷速剣舞・戦姫変生(Donner Totentanz――Walkure)

爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之(Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.)

 

 マレウスの影が伸び、その横を雷と化したヴァルキュリアと炎と化したレオンハルトが駆け抜ける。

 足を引く影に捉われた『外なる神』を左右から雷と炎が襲い掛かる。

 しかし、『外なる神』は大したダメージも無く、平然としている。

 

「遊びは終わりにしましょう──【Hyperborea Zero Drive】」

 

 そう言うと、『外なる神』は白く焔える極々々低温の刃を放ってきた。

 総てを無の静寂へと落とす絶対零度の砲撃。

 これを受けては、おそらく私も一撃で滅びるであろう。

 しかし、臆する必要などない。

 

「出番だ、ザミエル。

 卿の炎を私に魅せてくれ」

焦熱世界・激痛の剣(Muspellzheimr Lavateinn)

 

 過去最高の灼熱が絶対零度の砲撃と相対する。

 しかし、無限に等しい熱量を以ってしても分が悪いのか、少しずつこちらへと圧されてくる。

 

「ぬ……くぅ………………っ!!!」

「どうした、ザミエル。

 卿の(想い)はその程度か?」

 

 私は前に立つザミエルの傍まで足を進めると、その肩と左腰に手を添える。

 ザミエルは真っ赤になると、背後の私を仰ぎ見る様に見返す。

 

「ハ、ハイドリヒ卿!?」

「さあ、圧し返してやるといい」

「……jawohl,mein Herr!」

 

 一瞬茫然とした態を晒していたザミエルだが、すぐに決然とした笑みを浮かべると『外なる神』の砲撃へと向き直る。

 灼熱の炎がその熱量を更に上げ、圧されていた拮抗点が五分の位置まで圧し返される。

 やがて、双方の砲撃はどちらにもダメージを与えることなく相殺されて消え果てた。

 

「しぶといですね」

「当然であろう。

 その程度も出来なければ、反旗を翻したりせんよ」

「その程度が出来たくらいで一々反旗を翻されても困るのですが」

 

 その言葉に思わず私は苦笑を浮かべる。

 

「時に聞くが、今までに私の様に反旗を翻した者は居なかったのかね?」

「居ましたよ、大抵は最初の一撃で消滅しますけど」

「その様な惰弱な輩と私の愛を一緒にされては困る」

「そうですね、それは認めましょう。

 これまで我々に戦いを挑んできた中でも貴方は飛び抜けて強い力を持っています。

 しかし、だからこそ分かるでしょう……彼我の力の差と言うものが」

 

 そう、確かにそうだろう。

 依然として私と彼女の間には大きな差が存在する。

 ベイの結界は彼女や周囲の世界から魂を吸い続けているが、それでも差は一向に縮まらない。

 

「関係無いのだよ、力の差など。

 いや、寧ろ歓迎すべきことと言える。

 私が全力で愛して壊れないもの……私が常々望んでいたものだ」

「生憎、私の総ては1人の方に捧げています。

 貴方の愛など要りません」

「そうつれないことを言うな、砕け散る程に愛させてくれ」

「しつこい男は嫌われますよ──【Canis of Arrow】」

 

 巨大な黒き龍の躰を持った金色の弓から、5本の極光が放たれる。

 その熱量は余波だけで世界を灼き尽くすに足るものだ。

 私は、その攻撃に対して新たに総軍から魂を呼び起こす。

 それは、この『ラグナロク』で私の総軍に加わった参加者達──

 

「卿らも色々と思うところはあろうが、今はその鬱憤を元凶に叩き付けてやるがいい。

 ああ、それとカール。 卿もサボってないで、戦え」

 

 ──と、ついでに先程から何もしていない親友。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 赤いバリアジャケットを纏った赤茶色の髪の青年が、七枚の花弁からなる盾を展開する。

 

「Eternal Coffin」

 

 水色髪の少女が永久凍土の最高位魔法で迎撃する。

 

≪Absolute Terror Field≫

 

 紫の装甲を纏った巨人が赤い障壁をその眼前へと創り出す。

 

雷神槍・巨神ころし(ライジンソウ・ティタノクトノン)

 

 赤毛の少女が、神さえ殺す程の雷を槍として放つ。

 

「Ab ovo usque ad mala. Omnia fert aetas.」

 

 そして、我が友カールが、因果律を崩壊させる。

 

 

 それぞれの放つ技は本来であれば『外なる神』の攻撃に対抗出来る様なものではないが、私の後押しによって疑似流出位階まで高められることにより、放たれた矢を迎撃し防ぐ。

 

 しかし、防がれた極光の一部の欠片が流れ矢となる。

 欠片とは言え魂を消し飛ばすに足りるそれの向かう方向に居たのはレオンハルト。

 

「……………………あ……」

「螢!?」

 

 虚を突かれたのだろう彼女はかわすことも出来ずに自らを襲う光を呆然と見る。

 ヴァルキュリアが悲鳴染みた声を上げるが、如何に黒円卓で2番目に速い彼女であろうと位置が遠過ぎる。

 覚悟を決めたのか目を閉じてその瞬間を待つレオンハルト……しかし、極光は彼女の前に割り込んだ者が持つ武器で弾かれる。

 黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)、動く屍トバルカインの持つその聖遺物はその形と持つ者を大きく変えていた。

 偽槍は大剣に、そして持つ者は仮面で顔を隠しているが屍ではない生者の姿で。

 

「兄……さん…………?」

「戒!? 貴方どうして……」

「危ない所だったね、螢」

 

 意固地になって閉じ籠っていた筈が、妹の危機に黙って見て居られなくなったか。

 それもまたよし、この戦いが終わったら偽槍の呪いも解かせるとしよう。

 なに、自身が組んだものではないとはいえ、カールなら出来るだろう。

 

「まさか、あれを防がれるとは……。

 今のは私の持つ攻撃手段でもかなり上位の威力がある筈なのですが」

「愛が違うのだよ」

「…………………………」

 

 私の言葉が癪に障ったのか、『外なる神』は無言のままナニカを生み出す。

 それを眼にした瞬間、私の背筋に電流が走った。

 嘗てカールと戦った時以来の、そしてその時を遥かに超える期待と恐怖。

 

 捻じ曲がった神柱

 狂った神樹

 刃の無い神剣

 

 頭では理解できないが、戦いにおける直感が告げている。

 あれを撃たせたらその時点で終わり、総軍総てが何処かへ引き摺りこまれる。

 

「合わせろ、カール」

「承知した、獣殿」

 

 ならば、機先を制すのみ。

 ああ、イザークよ……卿も共に来るがいい。

 

怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し(Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla.)

 ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る(Teste David cum Sybilla.)

 

 たとえどれほどの戦慄が(Quantus tremor est futurus,)待ち受けようとも(Quando judex)審判者が来たり(est venturus,)

 厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える(Cuncta stricte discussurus.)

 

 我が総軍に響き渡れ(Tube, mirum spargens sonum) 妙なる調べ 開戦の号砲よ(Per sepulcra regionum,)

 皆すべからく 玉座の下に集うべし(Coget omnes ante thronum.)

 

 彼の日 涙と罪の裁きを(Lacrimosa dies illa,) 卿ら 灰より蘇らん(Qua resurget ex favilla)

 されば天主よ その時彼らを許したまえ(Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus.)

 慈悲深き者よ 今永遠の死を与える(Pie Jesu Domine, dona eis requiem.) エィメン(Amen.)

 

武器も言葉も傷つける(Et arma et verba vulnerant Et arma)

 順境は友を与え、欠乏は友を試す(Fortuna amicos conciliat inopia amicos probat Exempla)

 

 運命は、軽薄である(Levis est fortuna) 運命は、与えたものをすぐに返すよう求める(id cito reposcit quod dedit)

 運命は、それ自身が盲目であるだけでなく、(Non solum fortuna ipsa est caeca sed etiam) 常に助ける者たちを盲目にする(eos caecos facit quos semper adiuvat)

 

 僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、(Misce stultitiam consiliis)時に理性を失うことも好ましい(brevem dulce est desipere in loc)

 食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし(Ede bibe lude post mortem nulla voluptas)

 

 嘗ては互いに向け合ったそれを、今度は共に並んで解き放つ。

 ああ、これも悪くはない。

 共にこの宇宙で謳いあげよう、大いなる祝福を。

 

「「流出──(Atziluth──)」」

混沌より溢れよ──(Du-sollst──)怒りの日(Dies irae)」「未知の結末を見る(Acta est fabula)

 

「【Shining Trapezohedro──ぐっ!?」

 

 私とカール(カメラード)が放った攻撃は僅差で間に合い、『外なる神』へと初めて痛撃を与えた。

 激痛にその美貌を歪めた『外なる神』はその反動で顕現させていたナニカを維持出来ずに消失させてしまう。

 そして、大きな隙を生んだ……好機だ。

 

「眼を借りるぞ、暗殺者」

 

 好きにしろよと言う無言の回答を受けながら、私は此度のラグナロクの最後の参加者の力を眼に宿す。

 直死の魔眼、「」との接続によって対象の情報を取得することで成り立つ力故、法則の外に居る『外なる神』には何ら影響を齎さない──本来であれば(・・・・・・)、だが。

 実際、他の『外なる神』であれば何の効果も無いだろう。

 しかし、今目の前に立つ彼女だけは別だ。

 私を生み出した者であり、眷属としようとしていた者……ならばそこにはわざわざ「」から求めずとも繋がりがある。

 そして、こと死の理解に関して私の右に出る者などいない。

 

 神をも殺す眼を宿した途端、世界は線と点で埋め尽くされた。

 無数の死の中で、一際薄くそしてそれに反して強い存在感を放っている点を見付けた。

 間違いない、あれが彼女の「死」だ。

 

 私はこれまで重ねた総ての時を籠めて聖槍を振り被り──

 

「さあ、私の愛を受け取るがいい」

 

 ──全力を以って投擲した。

 

 聖槍は総ての守りと幻影を一撃で打ち砕き、彼女を素通りしてその遥か向こうに隠されていた一冊の本を貫く。

 

「───────────っ!?」

 

 その瞬間、『外なる神』は声にならない悲鳴を上げ、胸から血の様に光を噴き出す。

 

「ガアアアアァァァ……こ、こんなことが……」

 

 そして、そこから砕ける様に光へと還っていった。

 

「……マス……申し訳……ませ…………」

 

 最期に彼女が何と言っていたか、私は聞き取ることが出来なかった。




(後書き)
友情出演。
なお、ここでの彼女は格が上がり過ぎて単独で一柱と化してます。

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