魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Thrud Walkure(dies irae)


73:雷速剣舞・戦姫変生

【Side ティアナ・ランスター】

 

 

「うわああぁぁぁーーー!!!」

 

 私達がそこに着いた時、1人の管理局員が悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。

 辺りにはそれ以外にも管理局員が何人も倒れ伏している。

 しかし、幸いにして気絶しているだけで命に別条は無い様だ。

 

「……来ましたね、ティア」

「ベアトリス姉さん……」

 

 先程の管理局員を吹き飛ばし、そして恐らくはこの光景を作り出した人物であろう人に話し掛けられ、私は思わずその人の名前を呟いた。

 

「ティアナ、大丈夫?」

「っ! ええ、私は冷静です。 ありがとう、ギンガさん」

 

 私と一緒にこの場所に来てくれたギンガさんにお礼を言いながら、気を取り直して正面に立つ人物を睨む。

 目の前に立っているのは金髪をポニーテールにした小柄な女性。

 初めて見る黒い軍服を纏い、細剣を携えて悲しそうに微笑んでいた。

 いや、正確に言えばその服を見るのは初めてではない、以前廃棄区画の地下で遭遇した女性も同じ軍服を纏っていた。

 姉さんの向こう側には蒼い宝石が宙に浮かび強力な魔力を放っている。

 

「やっぱり、姉さんなのね」

 

 モニタ越しに姿を見て、高町隊長達から説明を受けて覚悟はしていたけれど、こうして直に目にすると矢張りショックだった。

 天涯孤独になる筈だった幼い私を拾ってくれた、血は繋がって無くても大切な家族であった人とこうして戦場で対峙することになるなんて、神様は私に何か恨みでもあるのだろうか。

 

「ええ、そうですよ」

「どうして?

 何で姉さんがそんなところに居るのよ?」

 

 私の質問に姉さんは首を傾げながら答える。

 

「何でと聞かれても……そう命令を受けたからですよ」

「違うわ、どうしてそんな集団に入ったのって聞いてるのよ!」

 

 意図が伝わらないもどかしさに思わず声を荒げてしまった。

 聖槍十三騎士団……高町隊長や松田副隊長の言葉が正しければ人外の悪鬼羅刹の集団だ。

 幼かった私を育ててくれた姉さんが、どうしてそんな集団に入ってこんなことをしているのか。

 

「どうやら、勘違いしている様ですね。

 私はティアに会う前からずっと聖槍十三騎士団の一員です」

「!? そう、そうよね」

 

 薄々分かっては居た。

 隊長達の話が正しいのなら、姉さんはもっとずっと昔から聖槍十三騎士団に入っていたことになる。

 だけど、それを否定したかった。

 何故なら……

 

「ねえ、姉さん……」

「なんですか?」

「あの時、私を拾ってくれたのはこうなることを知っていたからなの?」

 

 管理局に敵対している聖槍十三騎士団の一員がわざわざミッドチルダの墓地で私を拾った理由。

 私が機動六課に入ってこうしてこの場に立つことを見越した上で、最初から裏切るつもりだったのだろうか。

 

「いいえ、少なくともその時にはこんなことは知りませんでしたよ。

 貴女の名前も知りませんでした。

 でも、きっとあの方はこうなることを見越していたのでしょうね」

「あの方? それってあの……」

「ええ、ハイドリヒ卿です。

 いきなり『ミッドチルダの墓地で適当に墓参りしてこい』なんて命令されてどうしようかと思いましたよ」

 

 姉さんに騙されていたわけではないと分かって少し安堵している自分を自覚した。

 

「つまり、あの皇帝様は私が何れ敵に回ると知っていて姉さんに拾わせたってこと?」

「そうとしか思えません。

 貴女を引き取ってミッドチルダに滞在したいと言ったらあっさり認められましたから」

「……でも、何のために?

 重要な情報を流したりした記憶はないわよ」

 

 私を育てて何の特になるのだろうか。

 スパイになった憶えも無いし、むしろ姉さんは私を鍛えてくれてデバイスまでくれた。

 敵を強くすることに何の意味があるのか。

 

「知りませんよ、そんなこと。

 せいぜい、師弟対決を見てみたかったとかじゃないですか?」

「はぁ?」

 

 思わず間抜けな声を上げてしまった。

 そんな莫迦なことのために、わざわざこんな回りくどいことをするなんてそんなこと……。

 

「そういう人なんですよ。

 下らない思い付きを本気で実行したり、そうかと思ったらとんでもない深謀遠慮だったり」

「……正直信じられないわ」

「私もです」

 

 思わず2人して溜息を付いてしまった。

 

「……大人しく投降して貰うわけにはいかないの?」

「いきません。

 正直今回の命令は好ましくないですが、軍人である以上は命令は絶対です。

 それに投降と言っても、管理局は最早死に体ですよ」

「……どういうこと?」

「攻撃対象はここ(ミッドチルダ)だけではないということですよ」

 

 ミッドチルダ以外にも攻撃を仕掛けているということ?

 それに、管理局が死に体って……まさか!?

 

「まさか本局に攻撃を!?」

「そ、そんな……!?」

 

 次元世界の秩序を維持する管理局の本拠地に攻め込む……正気とは思えないけど彼等は本気だろう。

 そして拙い。

 本局が簡単に落とされるとは思えないけれど、攻撃を受けている状態ではミッドチルダへの増援も期待出来ない。

 

「逆に聞きます、投降する気はないですか?

 貴女達がここでどれだけ必死に戦ったところで、管理局自体が滅んでしまえば無意味ですよ。

 大人しく従うなら悪い様にはならないように私が取り成します」

 

 姉さんが本気で私を気遣ってくれていることは伝わってきた。

 その気持ちは本当に嬉しい。

 だけど……私はそれに従うわけにはいかない。

 

「それで私が降参するとは思っていないでしょ?」

 

 管理局員として使命を全うし命を落とした兄さんのためにも、管理局を滅ぼす敵に下ることは出来ない。

 

「そうですね、もしかしたら心を動かしてくれるかもと期待してましたけど。

 やっぱり、血の繋がらない家族じゃ本当のお兄さんには勝てないんですね」

「それは違うわ」

 

 悲しげに微笑みながら自嘲する姉さんに、私はきっぱりと否定を告げる。

 

「私は姉さんのことを本当の家族だと思ってる、血の繋がりなんて関係ない。

 降伏を受け入れないのは兄さんのこともあるけど、姉さんの教えでもあるわ」

「私の……教え?」

「兄さんから受け継いだランスターの弾丸も、姉さんから教わった剣も……強い敵に会ったら諦めろなんて軟弱な信念(武器)じゃないのよ!」

 

 私はニーベルンゲンをモードチェンジして左手に拳銃を右手に剣を携えて構える。

 

「ティア……決意は固いみたいですね。

 昔から貴女は言い出したら聞かないんですから。

 そこまで言うなら仕方ありません、力尽くで降伏してもらいます」

「望むところよ」

「加勢するわ、ティアナ!」

 

 デバイスを構える私の横に、ブリッツキャリバーを構えるギンガさんが並ぶ。

 

「ギンガさん……」

 

 その言葉に少し迷う。

 これは管理局の任務であると同時に、私と姉さんの個人的な事情による私闘でもある。

 そんなものに、無関係な彼女を巻き込んでしまっていいのか。

 それに、この決着はあくまで私自身が着けなければ意味が無いのではないか。

 しかし、逡巡する私の思考を断ち切ったのは姉さんの言葉だった。

 

「構いません、共に戦場に立つ戦友との絆も貴女が築いてきたものの一つ。

 2人纏めて相手をしてあげます」

 

 そう言うと、姉さんは携えていた細い剣を構えた。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第五位ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン=ヴァルキュリア。

 全力で受けて立ちましょう。

 貴女の力、技術、信念、そして絆……全てを賭して挑んで来なさい!!!」

「時空管理局古代遺物管理部機動六課所属ティアナ・ランスター」

「同じくギンガ・ナカジマ」

「「管理局法に基づき、貴女を拘束します!!!」」

 

 叫ぶのと同時に、私とギンガさんは弾かれる様に左右に分かれて姉さんへと突き進む。

 丁度正三角形の位置取りをした私は、左手の拳銃から直射弾を連射する。

 稽古を付けて貰っていた私は姉さんの強さを良く知っている。

 姉さんの脅威はその速さだ……誘導弾では追い付かないから直射弾を選択した。

 勿論、直射弾には誘導性が無いから自前で照準を合わせる必要があるけれど、欠かさず鍛錬を行ってきた私は絶対に外さない自信がある。

 

 私が射撃魔法を放つのとほぼ同時に、ギンガさんが姉さんの右側からタイミングを合わせて突撃する。

 いや、同時ではない……射撃魔法からほんの一瞬遅らせての時間差攻撃だ。

 散々練習してきたコンビネーション、姉さんと同じく速さに特化したフェイト隊長にも初めて攻撃を当てられた自慢の戦術だ。

 射撃魔法を防御するか回避するか、どちらを採っても隙が出来る。

 その隙を逃す程ギンガさんは未熟じゃない。

 

「中々いいコンビネーションです……が、その程度では私には当てられませんよ」

 

 姉さんは防御や回避ではなく、手に持った剣で5発の弾丸を全て斬り払った。

 そして、その直後に振り下ろされたギンガさんの左拳の内側に剣を当て、そっと逸らした。

 

「な!?」

 

 目標を逸らされたギンガさんは勢い余って姉さんの立っていた所を通り過ぎた。

 一対一なら追撃を背に受けているところだが、姉さんは追撃を行わずに私の方を見据えていた。

 おそらく、追撃を行う際に出来る隙を私に突かれることを警戒したのだろう。

 その間に、ギンガさんは体勢を立て直して姉さんに向かって対峙する。

 最初の位置取りから交差して、丁度私とギンガさんの間に姉さんが立つ様な位置取りになっている。

 挟み撃ちの状態だが、姉さんはどちらにも背を向けない様に横向きになり、私達の両方を視界に捉えていた。

 だが、これはチャンスだ。

 

「合わせて下さい、ギンガさん!」

「了解、ティアナ!!」

 

 姉さんの武器が剣である以上、左右に同時に振るうことは出来ない。

 丁度左右から仕掛けられる位置取りとなったこの状況、同時に仕掛ければ当てられる。

 

「やあああああぁぁぁぁーーーーー!!!!」

「はあああああぁあぁぁーーーーー!!!!」

 

 射撃魔法ではかわされた場合ギンガさんに当たってしまうため、私は右手に持った剣で斬り掛かる。

 同時に、ギンガさんも反対側からパンチを繰り出す。

 タイミングは完璧、勝った。

 

「無駄です」

 

 そんな希望はあっけなく墜落する。

 左右から全くの同時に仕掛けられた攻撃は、同時に斬り払われた(・・・・・・・・・)

 いや、同時ではない。

 ガンナーである私の動体視力でも辛うじてしか見えなかったが、姉さんは私の斬撃を弾いた後に反対側のギンガさんの拳を返す剣で払った。

 姉さんは順番にそれぞれを対処しただけだ、ただそのあまりの速さに同時に見えた。

 

「は、速過ぎる……」

 

 戦慄するギンガさんの声が聞こえるが、私も同感だ。

 速いことは知っていたが、稽古の時とは段違いだ。

 フェイト隊長をも遥かに上回っている、最早人間に出せるスピードじゃない。

 人外の集団……その言葉が脳裏に蘇った。

 

「もう、終わりですか?」

 

 圧倒的な実力差に心が折れ掛けた時、姉さんから声が掛けられた。

 その声に僅かに混じった失望感に、私は反骨精神から気を取り直す。

 そうだ、ランスターの弾丸と姉さんの剣に誓い、あれだけの啖呵を切ったのだ。

 姉さんが強いなんてことは最初から分かっていたことだ。

 この程度で膝を折ってなんて居られない。

 

「冗談でしょ、まだまだこれからよ」

「ええ、貴女の力は分かりました。

 本番はこれからです」

 

 絶望感を見せない様に笑って強がって見せた私に、ギンガさんも同調する。

 その様子に、姉さんは微笑んだ。

 

「それは良かったです。

 この程度で絶望されたら弱い者いじめになってしまいますから。

 ところで、ギンガさんでしたっけ?」

「ええ、何ですか?」

「私の力が分かったと仰ってましたけど、一体何が分かったのですか?

 私はまだ力なんて見せた憶えはありませんよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「え?」

 

 不吉な言葉に、ギンガさんが硬直する。

 私も同じ様に嫌な予感に襲われていた。

 

「そうですね、全力で受けて立つと言った以上、出し惜しみは止めましょう」

 

 そう言うと、姉さんは剣を構えながら口を開いた。

 

私が犯した罪は(War es so schmählich,──)

 心からの信頼において(ihm innig vertraut-trotzt’) あなたの命に反したこと(ich deinem Gebot.)

 

 呪文の詠唱?

 そうだ、高町隊長達が言っていた聖槍十三騎士団の騎士団員達の能力。

 エイヴィヒカイトの創造位階。

 

私は愚かで あなたのお役に立てなかった(Wohl taugte dir nicht die tör' ge Maid,)

 だからあなたの炎で包んでほしい(Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;)

 

 隊長達は姉さんだけは能力が分からないと言っていた。

 全く情報がない。

 

我が槍を恐れるならば(Wer meines Speeres Spitze furchtet,) この炎を越すこと許さぬ(durchschreite das feuer nie!)

 

 私達が戸惑っている間に、姉さんの詠唱が終わった。

 

創造(Briah─)

 雷速剣舞・戦姫変生(Donner Totentanz──Walküre)

 

 姉さんの構える剣から、雷が迸り全身へと広がる。

 

「これが私の創造位階、雷速剣舞・戦姫変生(Donner Totentanz──Walküre)です」

 

 言葉が出ない。

 先程までとは一変した姉さんの放つ威圧に気圧される。

 

「来ないなら、こちらから行きますよ?」

「う、うわあああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

「ギンガさん!? ダメです!!!」

 

 威圧に圧倒されたギンガさんはそれを無理矢理払う様に姉さんに対して殴り掛かった。

 自分に殴り掛かってくるギンガさんに対して、姉さんは何もせずに立ったままそれを迎えた。

 今の姉さんの雰囲気から、そんな普通の攻撃が通じるとは思わない。

 だから、ダメージを与えられていないことには驚かなかった。

 驚いたのは、ギンガさんの攻撃がかわされるのでも防御されるのでも、ましてや当たったのに通じないのでもなく──すり抜けた(・・・・・)ことだ。

 

「───────ッ!?」

 

 姉さんの身体の向こうでギンガさんは起こった事が理解出来ずに驚愕のまま硬直している。

 そんなギンガさんと私を見詰めながら、姉さんは自身の能力を告げた。

 

「私の渇望は『同胞たちが道を見失わないよう、戦場を照らす閃光になりたい』。

 能力は自身の雷化、雷に物理攻撃は通じません」

 

 自身の雷化……電撃を操るんじゃなくて、姉さん自身が雷になっているということ?

 肉体が雷と化しているのなら、確かに剣も銃弾もすり抜けて終わりだ。

 そして……それはつまりこちらの持つ攻撃手段の殆どが封じられたことを意味する。

 ギンガさんはストライクアーツ……全て物理攻撃だ。

 私の場合は剣は通じない、銃撃は魔力弾だから試してみないと分からないけれど効くかも知れない。

 

 もう1つ、身体が雷と言うことはつまり、おそらく姉さんの動きは光の速さと同じということだ。

 到底対応出来るスピードじゃない。

 

「いきますよ」

 

 その言葉と共に、姉さんの姿が消えた。

 次の瞬間、ギンガさんの身体が宙を舞った。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 

 ギンガさんの身体は10メートル程上空に打ち上げられ、そのまま自由落下して地面に叩き付けられた。

 うつ伏せに倒れた彼女はピクリとも動かず、完全に意識を刈り取られてしまった様だ。

 

「? 打撃自体はそこまでの衝撃は無かった筈ですが……電撃に弱い体質か何かでしょうか」

 

 ギンガさんが立っていたよりも奥にいつの間にか姉さんが立っていた。

 倒れ伏すギンガさんを見下ろしながら、不思議そうに首を傾げていた。

 

「まぁ、いいです。

 次は貴女ですよ、ティア」

 

 その言葉に、私は身を強張らせる。

 通じないであろう剣を拳銃に変えて、両手に一挺ずつ構える。

 そして、カートリッジをロードして今の私に出せる限界までスフィアを展開する。

 8つのスフィアから放たれる48発の弾丸が、姉さんに襲い掛かる。

 

「甘いですよ」

 

 しかし、隙間も無い程の弾幕にも関わらず、姉さんはその全てを回り込んで軽く避けた。

 

「これで……終わりです」

 

 姉さんの剣が無慈悲に振り下ろされる。

 しかし、その剣は先程のギンガさんの拳の様に、私の身体をすり抜けた。

 

「!?」

 

 手応えの無さに驚く姉さんの後方で、私はオプティックハイドを解除して姿を現す。

 同時に、フェイク・シルエットで作った幻術の私は姿を消した。

 

「ニーベルンゲン!」

≪Variable Barret!≫

 

 驚きで硬直している姉さんの背中に向かって、私は4発の多重弾殻射撃を放った。

 魔力の高まりを感じ取ったのか、姉さんは後ろを振り返……らずに横に飛んだ。

 あそこで姉さんが振り返っていたら全弾命中したであろう私の射撃は大半がかわされて明後日の方向に飛んでいった。

 しかし、流石に反応が遅れたのか一発だけ左腕に命中する。

 

「……!」

 

 射撃魔法が当たった左腕を見ながら、姉さんは驚いた顔をしていた。

 

「強くなりましたね、ティア。

 正直感心しました、咄嗟の判断力も魔法の構築スピードも、私が教えていた時よりかなり上昇してます」

「そんな余裕そうに言われても心外なんだけど、剣は効かなくても魔力弾は当たるみたいね」

「ええ、魔力弾は物理攻撃ではないですから雷化状態の私にも通じます。

 とはいえ、それがダメージに繋がるかと言うと話が別ですけどね」

 

 確かに、当たったし感触は感じている様に見えるけど、姉さんにダメージを負った様子は無い。

 隊長達の話しではエイヴィヒカイトの使い手はその身に喰らった魂に応じた霊的装甲を纏う。

 おそらく、私の射撃魔法にはその霊的装甲の防御力を超える力が無いのだろう。

 つまり、雷化しているか否かに関わらず私の弾丸は姉さんに通じないことになる。

 

「そう、貴女の攻撃では私の防御を超えられません。

 つまり、貴女に勝ち目はないということです。

 諦めて投降しなさい」

「…………………………………………」

 

 改めて投降を呼び掛ける姉さんの声を聞きながら、私は目を閉じて思考を進める。

 

「もういいじゃないですか、貴女は良くやりました。

 結果として私には届きませんでしたが、貴女の実力は私が認めます。

 誰にも責めたりはさせません」

「ありがとう、姉さん。

 それでも私は、最後まで諦めたりしないわ。

 私を信じてここに配置してくれた隊長達のためにもね」

 

 そう、ここに居るのは私の我儘だ。

 そんな我儘を真摯に受け止めて作戦を捻じ曲げてまで私をここに配置してくれた八神部隊長や隊長達。

 そして、私を心配して一緒に来てくれたギンガさんの為にも、断じて降伏なんて出来ない。

 それに、漸く勝利の道筋が出来た(・・・・・・・・・・・)ところだ。

 私はニーベルンゲンを拳銃一挺にモードチェンジすると、両手で正面に構えた。

 

「射撃魔法で威力が足りないなら……」

 

 そう言いながら、カートリッジをフルロードする。

 

「砲撃……ですか。

 威力はあるみたいですが、そんな攻撃が私に当たると本気で思っているのですか?」

 

 私の持つ攻撃手段の内最大の威力があるこの魔法だが、発射には時間が掛かる。

 それに、射撃魔法と異なり何発も同時には撃てないし射線も直線的だ。

 雷と同じ速さで動く姉さんに当てるのは不可能だろう。

 それでも、私は砲撃魔法をチャージするのを止めない。

 姉さんは呆れたのか、そんな私の様子を妨害せずに見据えていた。

 

「やってみなければ、分からないでしょう!

 ファントムブレイザーーーーーッ!!!!!

 

 オレンジ色の魔力光がニーベルンゲンの銃口から放たれ、姉さんに向かって真っ直ぐに飛んでいく。

 姉さんは余裕を持ってその砲撃をかわした。

 その顔には失望が浮かんでいる。

 

「やってみなくても分かりましたよ、この結果は」

「ええ、計算通りよ」

「え?」

 

 怪訝そうにする姉さんに、私は自信を持って胸を張る。

 

「そう言えば、勝利条件を明確にしていなかったわね」

「勝利条件?

 何か条件を付けてお茶を濁すつもりですか?」

「違うわ、私達がここに来た目的よ」

 

 正確に言えば、私達がここに派遣されたその理由。

 

「私を倒して捕まえることじゃないんですか?」

「違うわ。私達の目的は──スワスチカの対処よ」

「な!?」

 

 姉さんの表情が驚愕に変わり、バッと真後ろを振り向いた。

 そう真後ろにある暴走していたジュエルシードを(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、だ。

 先程までの攻防で、私と姉さんを結ぶ直線上にジュエルシードがある位置取りを取ることが出来た。

 

「まさか、さっきの砲撃魔法は!?」

「ええ、封印魔法を組み込んでいたのよ」

 

 先程まで暴走し魔力を迸らせていた蒼い宝石は沈黙し宙に浮かぶのみとなっていた。

 私とギンガさんの目的は最初からジュエルシードの封印であり、その為に準備をしていたのだ。

 ここに来るまでに魔法の組み換えが終わるかどうかがネックだったが、なのはさんのレイジングハートからデータを貰ったおかげで何とか間に合った。

 

「まんまと乗せられてスワスチカを護り切る任務は失敗、と言うわけですか」

「まぁ、姉さんに本気で挑んでみたいという気持ちはあったし、疎かにしたつもりはないわ。

 ただ、管理局員としての任務が優先したってだけよ」

「はぁ、完敗ですね。

 任務よりも私情を優先した私と、私情よりも任務を優先したティア。

 軍人としてあるまじき失態でした」

 

 そういうと、姉さんは剣を降ろしその身に纏っていた雷も静まった。

 

「もういいの?」

「任務に失敗した以上、続けても仕方ありません」

「そう、助かるわ」

 

 本当に助かる。

 どさくさで勝利条件を満たしたが、正直続けていても姉さんを倒すことは不可能だっただろう。

 

「それで、貴女達は他の場所に向かうつもりですか?」

「いえ、私達の割り当てはここだけよ。

 それで十分なのよ」


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