魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:無限の欲望(nanoha)


58:無限の欲望

「空に浮かんでいる聖王のゆりかごに大量のガジェット。

 ロッサから情報があったスカリエッティのアジト。

 それから、まどかちゃんから教えて貰ったゼスト・グランガイツによる地上本部への侵入。

 どれも見過ごすわけにはいかんなぁ」

 

 機動六課の会議室で、緊急招集された面々を前に茶色のショートカットの小柄な女性が顎に手を当てながら考え込む。

 

「戦力の分散になるけど、この場合はしゃあないな。

 まず空のゆりかごやけど、これはなのはちゃんとヴィータにお願いするわ。

 本局からクロノ君がクラウディアで急行しとるから、それまで何とか粘ってぇな」

「うん、分かったよ」

「任せろ!」

 

 破壊しても構わない屋内であればなのはも十分実力を発揮できるし、最も小回りのきくヴィータも突入部隊としては最適だ。

 

「ガジェットについては私が対応するわ。

 広域殲滅型の得意分野やしな。

 リインとザフィーラも付き合って」

「はい、我が主」

「承知」

「ま、それが妥当ね。

 指揮官が最前線に出るのはどうかと思わないこともないけど」

「それは言わんといてな」

 

 まぁ、指揮とかを置いておけばはやての適性を考えれば妥当な配置だろう。

 ザフィーラが盾となり詠唱の時間を稼ぎ、リインフォースとユニゾンしたはやてがガジェットを一網打尽にする。

 無数の敵を相手にするには一番適したフォーメーションだ。

 正史と異なりザフィーラは怪我を負っていないことがここで有利に働いた。

 

「スカリエッティのアジトにはフェイトちゃんとフォワード4名。

 まどかちゃん情報やとスカリエッティはゆりかごじゃなくてアジトに居るらしいから、きっちり捕まえてや」

「うん、了解」

「「「「はい!」」」」

 

 地上本部への戦闘機人の侵攻は確認されていない。

 おそらく、前回の公開意見陳述会で半数の戦闘機人が捕縛されてしまった為、アジトとゆりかごに配置するのが精一杯だったのだろう。

 おかげで、フォワード陣は地上部隊のフォローではなくスカリエッティのアジトに投入出来る。

 

「地上本部に向かうゼスト・グランガイツの対処は、シグナム頼むわ。

 それと、潜入しとるって言う戦闘機人についてもな」

「承知致しました」

 

 Sランクオーバーのベルカの騎士に真っ向から相対出来るのはシグナムくらい。

 潜入しているであろうドゥーエのことも、事前に知って居れば対処が可能。

 上手くすればレジアス中将の暗殺も防げるかも知れない。

 

「まどかちゃん達は……」

「私達は前に言った通り自分の相手に専念させて貰うことになる。

 そっちを手伝えなくて申し訳ないけれど……」

「あ、うん。それは構わんのやけど……本当に2人で大丈夫なん?

 彼女達、かなり強いんやろ」

「一応対策は練ったし、何とかするわ。

 手は欲しいけど、そっちだって余裕は無いだろうから贅沢は言わないわ」

 

 ゆりかごの浮上は完全に計算外だった。

 あれがなければなのはかフェイトのどちらかを此方に回してもらうことも出来たのだが、今更言っても始まらないだろう。

 

「それじゃ、機動六課出動や!

 何としてもこの事件を解決するで!」

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

 

【Side フェイト・テスタロッサ・ハラオウン】

 

 

 先行して調査を行っていたアコース査察官とシスター・シャッハと合流し、スカリエッティのアジトへと踏み込む。

 流石に7人で固まって動くのは効率的ではない為、3チームに分かれて突入する。

 私とエリオにルーテシア、シスター・シャッハにティアナとギンガ、それからアコース査察官だ。

 アコース査察官が1人で行動すると言った時は大丈夫かと思ったけど、数を補えるレアスキルがあることと任務が異なることから認めることになった。

 

 私にとって……いや、私達にとってスカリエッティは因縁の強い相手だ。

 私やエリオを生み出したプロジェクトFを実現したのは母さんだけど、基礎理論を構築したのはスカリエッティだと言われている。

 次元世界で様々に行われている違法研究のうち大半にはスカリエッティが絡んでいる。

 違法研究の撲滅を心に誓って執務官を続けてきた私にとって、スカリエッティは不倶戴天の敵だ。

 一方で、ルーテシアにとってもスカリエッティは母親の仇と言える。

 彼女の母親メガーヌ・アルピーノが所属していたゼスト隊は戦闘機人事件の捜査中に全滅したと聞く。

 まどかの話ではその時部隊を全滅させた戦闘機人の背後にはスカリエッティの存在があるらしい。

 

 2人に合わせる意味もあるが、アジトの中はAMFが展開されていて飛行魔法は負担が重い為に走って移動している。

 時々ガジェットが襲ってくるが、私とエリオで問題無く対処出来ている。

 私もエリオも、電気の魔力変換資質を有している。

 AMFは魔法の構成を阻害するが魔力変換資質による電気への変換は魔法でないために防げない。

 それにガジェット自体はあくまで機械である為に電気には非常に弱い。

 魔力を放出してぶつけるだけであっさりと機能を停止したり動作がおかしくなったりするため、そこを叩いて破壊することは簡単だった。

 

 順調に足を進める私達の前に、開けた空間が姿を現した。

 そこで待ち構えていたのは、紫の長髪の白衣の男性とショートカットにボディスーツを纏った長身の女性。

 男性の方は間違いなくスカリエッティだ。

 女性の方は戦闘機人、先日の地上本部襲撃の時にも相対したトーレだろう。

 まどかが言うには、12人の戦闘機人の中でも空戦においては最強の存在と言う話だった。

 ここは屋内とは言え飛び回るだけのスペースはあるため彼女の戦闘スタイルには適していると言える、しかしそれは私も同じ。

 懸念があるとすれば矢張りAMF、ガジェットと異なりトーレは魔力変換資質だけで戦える相手ではない。

 

「エリオ、ルーテシア。彼女は私が相手をするから、貴方達はスカリエッティを確保して」

「はい!」

「ん……!」

 

 スカリエッティの実力は分からないけれど、格好から見ても戦闘向きじゃない。

 2人掛かりなら問題無く捕縛することが出来るだろう。

 後は私の方だが、長期戦になれば体力的にも魔力的にも不利なため、AMF以上の出力で一気に倒してしまうべきだろう。

 

「いきなりで悪いけれど……」

 

 

 

「オーバードライブ・真ソニックフォーム」

 

 切り札であるオーバードライブを最初から使用する。

 ここで消耗してしまうと他の場所への増援は難しくなるけれど、なのは達ならきっと大丈夫。

 余計な装甲を省いたレオタードの様な形態にバリアジャケットを変形させる。

 デバイスは双剣のライオットザンバーにして片方を肩に担ぐように構える。

 

「装甲が薄い……当たれば墜ちる!」

 

 トーレが両手両足に魔力刃の様な武装を展開しながら独りごちる。

 確かに、速さを追求したこのフォームは防御力と言う意味では最低限で、Sランクオーバーの敵の攻撃が直撃すれば一撃で撃墜されてしまう。

 しかし……

 

「当てられるものなら、当ててみればいい」

 

 速さにかけては私は誰にも負けない。

 その自負と共に私は空中に飛び上がり、追い掛けてきたトーレと高速機動戦を開始する。

 

「ライドインパルス!」

「バルディッシュ!」

≪Sonic Move≫

 

 何度も交差しながら互いの武器を打ち付け合う、直撃を受けてはいないけれど装甲の無い手足に掠り傷を負い、ピリッとした痛みが走る。

 速さについては私の方が若干上、しかしパワーでは彼女の方が遥かに上だ。

 

「足りない力は……魔力で補う!」

 

 私は打ち合いの途中、最も離れた場所で静止すると2本の剣を一つに纏めてありったけの魔力を籠めて巨大なザンバーを作り出す。

 

「おおおおぉぉぉっ!」

 

 空中に留まっている私に対して、トーレが右腕振り被りながら突進してくる。

 私はそのトーレに対して、10メートル以上まで達したザンバーを振り被り叩き付けた。

 

「ぐ! あ……あああああぁぁぁっ!」

 

 叩き付けられた私のザンバーをトーレは両腕のブレードで防ぎ鍔迫り合いになる。

 数秒の間せめぎ合いが続くが、トーレのブレードが砕け散り、防ぐものの無くなった彼女に対して私はザンバーを振り抜いた。

 トーレはピンボールの様に跳ね飛ばされると床に激突して沈黙する。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 

 流石に消耗が激しかったが、乱れた息を胸元を抑えながら何とか整える。

 エリオ達が心配になって様子を見るが、そこにはルーテシアにバインドを掛けられてエリオにストラーダを突き付けられたスカリエッティの姿があった。

 どうやら、あちらも心配は要らないみたいだ。

 私は真ソニックフォームを解除してインパルスフォームに戻すと、捕縛されたスカリエッティの方へと近付いていく。

 

「広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ……貴方を逮捕します」

 

 数年に渡って追い掛けていた相手を捕まえることが出来た。

 後からじんわりと沸いてきた達成感に包まれ様としている時、水を差すかのように拍手の音が鳴り響く。

 勿論、エリオやルーテシアでも、別行動しているシスター・シャッハ達でもない。

 

 私はバルディッシュをサイスモードに変えると、拍手の響いてきた方向に向ける。

 私の様子に、エリオもルーテシアも同じ方向を向いて警戒する。

 

「勝負あり……みたいね、ドクター」

 

 その言葉と共に通路から姿を見せた人物に、私は思わず息を飲む。

 10年も前に数回会っただけだが、彼女の……いや、彼女達の印象は強烈で記憶は決して薄れることは無かった。

 ピンク色の髪に黒衣の軍装を纏った小柄な少女。名前は確か──

 

「ルサルカ・シュヴェーゲリン……っ!?」

「あ、憶えててくれたんだ。

 フェイトちゃんだっけ、ひっさしぶり~」

 

 明るく振る舞うルサルカに対し、私は戦慄を隠せない。

 聖槍十三騎士団……確かにヴィヴィオを保護した時に姿を見せたって聞いてたけれど、スカリエッティと繋がっていたの?

 公開意見陳述会の時には姿を見せなかったから、無関係だと油断していた。

 

「あの格好は……」

「地下水道であった女の人の仲間?」

 

 横で上がった声に私はハッと我に返る。

 

「エリオ、ルーテシア! 下がって!」

 

 幼げな少女に見える──そう言えば、10年前と外見年齢が変わっていない──が、彼女は危険だ。

 突然叫んだ私に驚きながらも、エリオとルーテシアの2人は指示に従って下がってくれた。

 

「ちょ、いきなりその反応?

 人を危険人物みたいに言わないで欲しいんだけど」

「いやいや、君達はどう考えても危険人物に当たると思うんだが」

 

 バインドで拘束されたままのスカリエッティがルサルカにツッコむ。

 この男と意見が一致するのは不愉快だが、私も同感だ。

 

「ぶ~、こんな可愛らしい女の子にその言い草は酷くない、ドクター?」

 

 ふくれっ面になり拗ねるルサルカにデバイスを向けながら、私はスカリエッティの様子をチラッと横目で見る。

 言動を見る限り、彼らは知り合いの様だ。

 この場に姿を見せたことから考えても、手を組んでいると見るのが妥当だろう。

 

「この場に居ると言うことは、貴方達もスカリエッティに協力していると判断します。

 武器を捨てて大人しく投降して下さい」

「協力しているのは事実だけど、武器を捨てるのは無理かな。

 聖遺物は私に同化しているから離せないし。

 それよりも、そこに居ていいの?」

 

 唐突に走る悪寒に、咄嗟に後ろに飛び下がる。

 ……そのつもりだったが、私の脚は全く動かなかった。

 

「しまっ……!?」

 

 視界にルサルカの足元から伸びている影が映る。

 

「これは……」

 

 後ろでスカリエッティの声がするが、そちらに気を向けている余裕は無い。

 最悪だ……彼女の能力は10年前に見ていたのに、すっかり忘れていた。

 話せるし瞬きも出来るけれど、首から下は指一本動かせなくなってしまった。

 

「フェイトさん!?」

「エリオ、ルーテシア! 来ちゃダメ!!」

「でも……っ!」

 

 私の様子にエリオとルーテシアが駆け寄ってこようとするのを必死に静止する。

 彼女の影が届く範囲に来てしまったら、私の二の舞になってしまう。

 

「う~ん、麗しい親子愛ってところかしら。

 こういうの見せられると感動して──」

 

 

 グチャグチャにしてあげたくなっちゃう。

 

 美しい少女の姿のままで禍々しい気配を放つ彼女の姿に、私は悲鳴を必死に飲み込む。

 喉がカラカラに乾くが、動きを止められてしまった身体からは冷や汗は流れなかった。

 

「ああ、いけないいけない。

 ドクターの敗北を見届けたら速やかに撤退せよって命令だっけ。

 どうせベイの奴も回収しなきゃいけないだろうし、私はそろそろ行くわね」

「ふむ、私の出る幕はこれで終了かね」

「ええ、御苦労様。

 まぁ、私達が行動を起こした時に気が向いたら釈放してあげるわ」

「期待しないで待ってるよ」

 

 スカリエッティと軽口を叩き合うと、ルサルカは私達に背を向けて立ち去ろうとする。

 

「な、待ちなさい!」

「ん~? 待っていいの?」

 

 慌てて止めようとするが、返された反応に言葉に詰まってしまう。

 私が動きを封じられたままである以上、この状況で戦闘が継続されたら私達はあっさりと皆殺しにされてしまうだろう。

 

「理解出来た様ね。

 まぁ、心配しなくてもすぐまた会えるわよ。

 それじゃ、またね」




(後書き)
 何気にホームランを免れたスカさん

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