貫咲賢希様よりイラストを頂きました。
後書きに載せてありますので、是非ご覧下さい。
推奨BGM:開闢を讃う姫歌(MELTY BLOOD Actress Again)
【Side 高町まどか】
公開意見陳述会、当日。
はやてやなのは、フェイトそれにスターズとライトニングの両分隊が地上本部の警備に向かったのに対し、私や優介、そしてリジェは機動六課の隊舎に残り襲撃に備えていた。
副隊長のオーリス三佐も公開意見陳述会にレジアス中将の側付きとして出席している為、指示を出せる人間が私しかいない。
「た、大変です! 地上本部が大量のガジェットに襲撃されていると……っ!」
「落ち着きなさい!
あっちの方は八神部隊長が事態に備えて準備しているから問題ないわ。
それよりも、機動六課の周辺をサーチして!」
「え、は、はい!
周囲5kmの探知を行います……………………え? こ、これは!?」
地上本部の襲撃が始まった以上、こちらに対する襲撃も時間の問題。
そう思ってオペレータのルキノに周囲の索敵を指示すると、案の定反応があった。
「こ、これは……北東の方角からガジェットの機影が向かってきてます!
凄い数です!
こ、こんなことって……」
「来た様ね……襲撃に対応すべく迎撃態勢を取るわ!
ブレード分隊は私も含めて隊舎の正面に、裏側はザフィーラとシャマルがそれぞれ守りを固めて!
非戦闘員は隊舎の食堂に避難! 避難が完了したら各隔壁を降ろしなさい!
ロングアーチは発令所で周囲のサーチを継続、状況の変化は逐一報告を!」
「「「「了解!」」」」
騒然となり掛けた発令所だが、指示を与えたことで冷静さを取り戻したのか一糸乱れぬ回答が返ってくる。
「さぁ、優介、リジェ。ここが正念場よ、行きましょう!」
「ああ!」
「……了解しました」
2人を引き連れ、機動六課の正面口で待ち構える。
しばらくすると、空を埋め尽くす程のガジェットの群れが見えてきた。
「凄い数ですね……」
「怖気付いたかしら?」
「まさか。ガジェットだけなら幾ら数が多くても対応は可能です」
頼もしい言葉に思わず笑ってしまった。
しかし、ここを襲撃するのがガジェットだけである筈がない。
「そうね、あれはあくまで前座に過ぎないわ。
戦闘機人が出てきてからが本番よ。
まぁ、ルーテシアが敵でないだけマシだと思うけど」
「そうですね」
話しているうちにガジェットはかなり接近してきた。
そろそろ、頃合いだろう。
「これだけの数のガジェット相手だと、私は後衛よりも前衛に回った方が良いわね。
私とリジェが前衛、優介が後衛で行くわよ」
「分かりました」
「ああ、任せてくれ!」
私はライジングソウルをダブルソードモードで起動して構える。
リジェが同じ様にトンファーを両手に構えながら、私の横に並ぶ。
「I am the bone of my sword.」
後ろから弓を引き絞る音と共に優介の詠唱が聞こえてくる。
並んだ私達の間を閃光が飛び、ガジェットの密集地帯へと突き刺さる。
次の瞬間、その場に対空していたガジェットは爆発と共に吹き飛ばされた。
「ハッ!」
「せいっ!」
爆発と同時に私とリジェは合図することもなく、同時に前へと走った。
爆風でバランスを崩しているガジェットを左右に持った剣で薙ぎ払う。
6体程破壊した所で制御を取り戻したガジェットがビームを撃ち込んできたため、後ろに跳び下がる。
丁度入れ替わりで、背後から優介の援護射撃が始まる。
ガジェットのAMFの影響を受けない投影魔術による実体を持った剣による狙撃だ。
一撃ごとに2~3体を破壊する援護射撃は相手の戦線を容易く崩し、崩れたところを私とリジェが飛び込んで傷を広げる。
この繰り返しで、機動六課を襲撃してきたガジェットは見る見るうちに数を減らしていく。
このまま押し切れればラクなのだが……。
そう思ったところで、私は直感的に横に転がった。
一回転しながら起き上がりつつ先程まで立っていた所を見ると、地面が切り裂かれ溝が出来ている。
そこに居たのは、ピンクの長髪をした長身の女性。
青いボディスーツを身に纏い両手にはブーメラン状の刃、首にはⅦの文字……戦闘機人セッテだ。
正史ではトーレと共に地上本部の魔導師を攻撃していた筈だが、この世界では機動六課の襲撃に回された様だ。
おそらくだが、ルーテシアが居ないことによる影響なのだろう。
チラリと横を見ると、リジェも同じ様にディードと相対している。
更に、上空にはモニタを操作しているオットーの姿が見える。
おそらくここを攻撃しているガジェットのコントロールを統括しているのだろう。
優介の狙撃が彼女を狙うが、庇う様にガジェットが間に割って入り代わりに撃墜される。
まだまだガジェットの数が多く狙撃では中々仕留めることが難しそうだが、私もリジェも目の前の相手で精一杯のため、オットーの相手は優介に任せるしかない。
セッテが両手に持ったブーメランブレードを投げ付けてくる。
私は回転しながら迫るそれを避けずに両手に持つ剣で打ち払い、即座にバインドで固定する。
セッテの持つIS、スローターアームズはこのブレードを自在に操る能力だ。
避けても軌道を変化させて狙われ、バリアブレイク性能もあるため防御も出来ず、対処法としては迎撃しかない。
「くっ!」
予想通り、ブレードを打ち払った隙を突いて、新たに取り出したブレードを手に持ったセッテが斬り掛かってくる。
何とか身を捩って回避するが、かわし切れずに左腕を掠り痛みが走る。
相手は戦闘機人の、それも上位のパワーの持ち主だ。
真っ向からぶつかり合っては力負けするのが目に見えているため、回避や受け流しを主体にして戦闘を組み立てていく。
幸いにして彼女は感情が希薄なため行動がマニュアル通りで至極読み易いので、対応はそれほど難しくない。
このまま戦闘を続ければ体力面で私の方が不利だろうが、私は構わずにセッテの攻撃を捌き続ける。
何合打ち合ったか数え切れなくなった辺りで、待ち望んでいた変化が訪れる。
背後から赤い光がセッテに向かって走る。
視界にその光が移った瞬間、私はこれまでの動きから一点してセッテに対して切り掛かった。
オットーを撃墜し再開された優介の援護射撃はセッテのブーメランブレードで弾かれたが、それだけの隙があれば十分。
面積の広い腹の部分を晒しているセッテのブレードに両腕に持った双剣を叩き付ける。
比較的脆い腹の部分に全力の打ち込みを受け、ブレードは呆気なく砕け散った。
表情は変わらないが驚きに硬直するセッテに対し、私は間髪入れずに次の行動を取る。
ライジングソウルを瞬時にシューティングモードに切り替え、セッテの鳩尾を叩き付ける様に突く。
「ぐ……っ!?」
「これで終わりよ!ライジングキャノン!」
苦痛に前のめりになるセッテに対して、私は零距離で砲撃魔法を放つ。
桃色の光と共にセッテは10数メートルも吹き飛び、地面に倒れ伏した。
少し離れたところを見ると、どうやらリジェもディードを倒し終えた様だ。
優介がガジェットのコントロールをしていたオットーを倒したことで、ガジェットの動きも単調な自動操縦に戻っている。
全機撃墜は時間の問題、増援も無い様なので機動六課の防衛はほぼ既に成功したと見ていいだろう。
「何とか守り切れましたね」
ディードを倒したリジェが残った数機のガジェットをトンファーで打ち払いながらこちらに向かって歩いてくる。
「ええ、お疲れ様──
──後は貴女だけね、転生者さん」
そう言うと、私は彼女に対してライジングソウルの先端を向ける。
「……え?」
私の行動に一瞬呆けるリジェだが、すぐに我に返ると鋭い眼で此方を睨み付けてくる。
「何の話ですか?」
その態度が既に真実を物語っているが、取り合えず話を続けることにする。
「『ルーテシアが敵でないだけマシだと思うけど』
さっき私はそう言ったわよね」
「それが何の…………っ!」
気付いたのか、更に表情を険しくするリジェ。
「そう、ルーテシアが敵に回っていた正史を知らなければ、何を言っているのかと思うのが普通よ。
あれに頷くことが出来るのは転生者だけ」
「だからって、それだけで……」
確かに、それだけであれば確実とは言えない。
襲撃を目前にして混乱していたと言われれば終わりだ。
「勿論それだけじゃないわ。
ホテルアグスタの時には不自然なほどにティアナの動きを気にしていたと優介から聞いてるし、
海鳴の派遣任務でマテリアルを見た時にも反応していたわね」
「く……………………」
先程の発言はあくまで確証を得るための誘いだ。
元より、これまでの言動で彼女が転生者であることは確実だと思っていた。
「気になるのは、貴女が何を狙っていたのか。
最初はスカリエッティ陣営かと思ってヴィヴィオの周りを手薄に見せ掛けて様子を見たりしていたのだけど、動きを見せないし。
後は……私や優介が狙いって線ぐらいよね」
その言葉と共に、干将・莫耶を携えた優介がリジェの背後に位置取る。
丁度私と優介でリジェを挟む形になっている。
「暗殺狙いだとして、今まで行動しなかったのは2人同時に倒せるタイミングを計っていたためかな。
どちらか1人だけなら幾らでもチャンスはあった筈だしね。
そう考えると、私達2人と同時に出撃して他の部隊員が居ない今回は絶好の機会だったのも頷ける。
気付いてなかったかも知れないけれど、ブレード分隊が機動六課の防衛に回ると知ってからの貴女は意識しているのが見え見えだったわよ」
「……弁解は無意味の様ですね。
ええ、確かに私は転生者です。
バーサーカーのカードを選んだ、ね」
!?
暗殺狙いならアサシンだとばかり思っていたけれど、バーサーカー?
彼女のどの辺がバーサーカーなのか、心当たりが全くない。
これまで見せていたトンファーの腕前が全てではないとは思っていたけれど、こちらの予想以上に力を隠していたのだろうか。
「不意打ちなら兎も角、この状態で2対1なら貴女に勝ち目は無いわ。
問答無用で殺す様な真似はしないから大人しくして」
私達としては彼女と一時的でも同盟を結ぶ事が目的である為、内心の不安を抑えながらも投降を呼び掛ける。
それに対して、リジェはトンファーを投げ捨てた。
大人しく投降するつもりになったのだろうか。
「確かに、その通りですね。
この状態で2対1で戦うのは困難です」
リジェはそう言うと何処からか1枚のカードを取り出した。
遠目だけれど黒い服を着てナイフを持った青年の後ろ姿が描かれたカード…………あれって、まさか!?
「まぁ、『2対1だったら』ですけどね。
『
その言葉と共に、カードに描かれていた青年がナイフを構えて姿を現す。
やっぱり、ネギまの仮契約カード!
「おいおい、大分予定と違うじゃないか」
「仕方ありません、私が転生者だってことが見抜かれてしまっていましたから。
作戦変更です」
「……それって、単にアンタのミスなんじゃないか?」
「………………今はそんなことを言っている場合じゃありません」
軽口を叩き合う彼女達に対して、私と優介は警戒心を一段上げる。
新たに姿を見せた青年は優介と、リジェは私と向かい合う様に構えている。
「いずれにしても、これで2対2です。
条件が一緒であれば、負けるつもりはありませんよ」
そう言うと、リジェは呪文詠唱を始める。
「
「くっ!? ライジングソウル!」
≪Protection≫
無数の光弾が生み出され、私に対して向かってきた。
この距離では到底避けられるものではなく、私は咄嗟にライジングソウルに指示して防壁を張る。
障壁に次々と光の射撃が叩き付けられる。
かなりギリギリだったが、何とか防ぎ切ることに成功した。
「防ぎましたか……では、これならどうでしょう。
「が……っ!?」
張っていた障壁の上から、旋風と稲妻が叩き付けられた。
私の防御魔法は旋風によって一瞬で砕け散り、無防備になったところに稲妻が降り注いだ。
私は数十メートルも吹き飛ばされ、機動六課の隊舎の壁に叩き付けられた。
全身が粉々になってしまった様な激痛に、呻き声を上げることすら出来なかった。
「……どうやらタイムリミットの様ですね。
決着を付けたかったのですが、まぁ仕方ありません。
今は引かせて貰いましょう」
言われて初めて、複数の魔導師が機動六課に向かってきていることを感知した。
おそらくだが、地上本部の襲撃がひと段落着いたため増援が来たのだろう。
リジェはそれを察し、この場を後にしようとする。
「ま、待ちなさい」
「この決着はスカリエッティが次に行動した際に着けましょう。
場所は追ってお知らせします。
2人だけで来るのも応援を連れて来るのも構いませんが、来た者に対しては全力で相手をさせて頂きます。
無駄な犠牲を増やしたく無ければ、2人だけで来ることをお勧めしますよ」
そう言うと、リジェともう1人の転生者は背を向けて去っていった。
優介が慌てて掛けてくる声を聞きながら、私は意識を失った。
【Side セアト・ホンダ】
「で、バレたわけか」
「……返す言葉もありません」
ミッドチルダの廃棄区画の建物の1つで、撤退してきた俺達は話合いを行っていた。
「まぁ、どのみち本来居なかった奴が居る時点で最初から疑われると思っていたし、想定の範囲内ではあるんだが。
しかし、目的だった他の転生者の情報が殆ど得られて居ないことが問題だな」
「そうですね。
介入があるとしたら今回のタイミングだと思って注意を払っていたのですが、そのせいで隊長達は勘違いして暴発するし散々でした。
一番怪しかった軍服の女性も確証は無いままですし……」
俺達の目的は明らかに転生者と見て取れる高町まどか、松田優介の2人を監視することで近付いてくる残り2人の情報を得、あわよくば
「いずれにせよ、事ここに至った以上はあの2人と決着を着ける以外にはありませんね」
「まぁ、そうだな。
しかし、あの2人だけだったら勝てると思うが、他の奴等まで着いてくるとキツイな」
「次にスカリエッティが動いた時を戦いの時に指定していますから、少なくとも全員をこちらに割振ることは不可能でしょう」
ヴィヴィオが拉致されていないことや、ナンバーズが既に何人か捕縛されていることがどう影響するかは不明だが、それについては今考えても仕方ない。
「なら、あと数日の間は待機だな」
「ええ、態勢を整えておきましょう」
話が終わったと思った俺は、生活空間を整えるために部屋から出ようとする。
ここは万が一の時のために用意していたアジトの1つで一応それなりの物は揃えてあるが、食料などは流石に保存食くらいしか置いていない。
数日の間ずっと味気ない保存食では、慣れてる俺は我慢出来てもこいつにはつらいだろう。
まずは食料調達かと思ってた俺は、何故か話が終わった後もジッとこちらを見詰めているリジェの視線に気付いて首を傾げる。
「どうかしたのか?」
「……数ヶ月ぶりに直接会ったと言うのに、話すことはそれで終わりですか?」
何処か拗ねた様な表情を見せるリジェ。
その様子に俺は4年前にこいつと初めて会った時と比べての変わり具合に、思わず嘆息した。
転生時の特典でアサシンのカードを選んだ俺は、次に気が付いた時には「月姫」の七夜の里で育っていた。最初は何故こんな世界に転生したのか分からずに戸惑ったが、事情が推測出来た後は積極的に体術を学ぶように心掛けた。
体術を学びながら順調に成長していった俺だったが、何れ七夜の里が滅ぼされることは分かっていた為、ある時周囲にそれを訴えた。しかし、挙げた声は里の他の者だけでなく両親にすら否定され、俺は嘘付きとして扱われる様になった。
失望は無かった、元よりダメ元でやったこと……証拠も何も無しに信じて貰える可能性は低いと分かっていた。
結局俺は里のみんなを助けることは諦め、そのまま失踪してフリーの退魔師兼暗殺者として生計を立てる生活を送った。
この世界においてはミッドチルダで第97管理外世界からの移民の子孫として産まれた。
七夜の里での鍛錬は転生によって初期化されてしまったが、訓練メニューは記憶していたし技も覚えていた。
幼い内から身体を鍛えて10年以上掛けて元と遜色無いレベルまで力を取り戻した俺は、前世で培った隠密スキルを用いて情報収集を始めた。
集めた情報は管理局や聖王教会で転生者と疑わしい人物について。
あと可能性が高いとしたら第97管理外世界だが、流石にそちらに手を伸ばすことは管理局員でもない俺には難しい。
管理局においては、情報収集は呆れるくらいに簡単だった。
6年前に殺されたって言う執務官に、P・T事件や闇の書事件で魔法に関わって管理局入りした本来は居なかった筈の2人。
あまりにも露骨でまるで転生者だと拡声器で喧伝している様な有り様だったため、逆に何かの罠かと疑ってしまった。
一方で聖王教会の方はそう簡単にはいかなかった。
元より、管理局と異なり居る確率もそこまで高くは無かったため、何処まで調べれば「調べた」と言えるかの匙加減も難しい。
データだけではサッパリ収穫が無く仕方なく直接観察することにした俺は、それを始めてから数日後にいけ好かないガキを見掛けた。そのガキは年上のシスター──おそらくはシャッハだったのだろう──にトンファーの扱いを習っていて、俺が見掛けたのは習ったことを自習している時だった。トンファーの扱いは正直下手くそで、だからこそ分かった。
こいつは転生者だ、と。
何故なら、俺にはその時のガキのレベルが見えている。その数値の示す強さと目の前の弱さがどうしても紐付かない。つまりは、こいつは本来もっと強力な力を有していながら、それを隠しているということだ。勿論、力を隠すのは処世術であるためそれがイコールで転生者と言い切れる訳ではないが、この歳でそんなことをしている時点で、限りなく黒に近いだろう。
さて、どうするか。
ここで殺すのは簡単に出来そうだが、管理局の2人は明らかに同盟を結んでいる為、こちらも出来れば仲間を増やしたいところ。だったら、ここは勧誘から入るべきか……そう思った俺は、そのガキの目を見て速攻で諦めた、無理だと。何故なら、そいつの目に浮かんでいたのは一目で分かる「人間不信」。周囲の人間が誰一人として信用出来ないという雰囲気を全身から醸し出していた。
同時に、何故俺がこいつをいけ好かないと感じたかも分かった……こいつの目、そして態度が里から逃げた直後の誰も信じられない俺自身に良く似ていたんだ。里から逃げた直後の俺は、みんなを見捨てた罪悪感と、嘘付きと罵った奴等が死ぬ事に僅かな喜びを感じてしまった自分への失望で混乱して、近付いてくる人間全てが敵に見えていた。
思い出したら当時の自分に腹が立ってきた俺は、取り合えずこんな思いをさせてくれたガキの背後に気配を消して近付き、蹴り飛ばした。
「──────っ!?」
無防備な所を後ろから蹴られたそいつは、受け身も取れずに顔面から地面に倒れ込んだ。しかし、すぐに起き上がると、土埃で汚れたままでこちらを睨み付け、すぐに表情を変えた。おそらく、俺のレベルを確認してどういう存在なのかを理解したのだろう。頭は悪くないみたいだな。
「安心しろよ、能力は使わないし殺しもしない。武器も無しだ」
俺はそう言うと、ナイフを使わずに素手のままで構え、そいつに対してクイックイッと手招きをする。そいつは付け焼刃は通じないと思ったのか、トンファーを投げ捨てると素手になって殴り掛かってきた。中国拳法……思ったよりも使えて強かったが、地力の差で俺が勝った。
動く気力が尽きたのか、大の字になってそいつはその格好のまま問い掛けてきた。
「貴方、何がしたいんですか……」
「さあな」
そんなこと、俺が知りたい。
結局、その場ではそれ以上の会話は続かず俺はそのままそこを後にした。
それ以来、俺は数日に一度リジェのところを訪れた。
最初の様に背後から蹴り飛ばして、その後は殴り合いになるのだが、何回目からかは警戒する様になったのか、蹴り飛ばせなくなった。
「貴方、本当に何がしたいんですか……」
そう聞いてきたリジェの目は呆れを示しているが、最初に会った時に孕んでいた不信の気配は感じなかった。
そっちの方が似合っているぞ……と面と向かって言うのも気恥かしかったので、俺はリジェの鼻を摘まみながら言った。
「手、組まないか」
いきなり話を変えた俺にリジェは戸惑っていたが、やがておずおずと頷いた。
「……アト、セアト!」
リジェの呼び戻す声に、過去の記憶に捉われていた俺はハッと我に返った。
「ああ、すまない。少し考え事をしていた」
「……それは、私と話すのが詰まらないと言うことですか」
俺の答えに途端に不機嫌になり膨れるリジェの姿に、俺は内心の苦笑を隠しながら悪そうな笑みを意識的に浮かべる。
「いいや。そう言えば作戦失敗したことに対するお仕置きを忘れてたな、と思ってな」
「は?」
そう言いながら、左手を伸ばしてリジェの腰を抱き寄せる。
膨れっ面から一転呆けた表情になっていたリジェは、今度はその顔色を真っ赤に変えた。
「え? あ、あの……許してくれたんじゃなかったんですか?」
「そんなこと言ったか?」
少なくとも、俺は許すなどと言った覚えは無い。
最初から、怒っているわけではないので当たり前だが。
「想定の範囲内って言ったじゃないですか!?」
「何れバレることを想定していたからと言って、ミスはミスだろう」
「そ、それはそうですけど……」
なおもゴチャゴチャと抜かすリジェの頭に右手を当てる。鮮やかな赤いショートカットの手触りが印象的だった。
「ま、待って下さい、心の準備が……」
「嫌なら突き飛ばせ」
結局、リジェは俺を突き飛ばさなかった。