「部隊長からフォワードまで総出で出張任務、か。
そう言えばそんなこともあったな」
送られてきた報告書を見ながら玉座で黄金が呟く。
「丁度退屈していたところだ……少々戯れてみるか」
【Side ティアナ・ランスター】
「異世界に派遣任務、ですか?」
「うん、フォワード全員と各分隊の隊長副隊長、後は八神部隊長とリインフォース三尉、シャマルでね」
問い掛けに対して返ってきた答えに耳を疑った。
全分隊に部隊長とリインフォース三尉と医務官のシャマル先生、主要メンバー勢揃いで異世界に出掛けると言うのか。
「ミッドチルダの方は大丈夫なんですか?
ロングアーチとバックヤードスタッフしか残らないと思いますが」
「八神部隊長は交代部隊も居るから大丈夫だって判断してるよ。
指揮はグリフィス君が取るし、ザフィーラも留守を守ってくれることになってるから」
グリフィス・ロウラン二尉は八神部隊長の副官であって機動六課の副隊長ではないのだが、その辺どうなのか。
ザフィーラが戦えるのはホテルアグスタで見たから分かってるけれど、部隊員ですらない使い魔に留守を任せるのもマズイのでは……?
色々気になることは多いのだけど、目の前の隊長殿はあまり気にしていないらしい。
戦闘力が高ければ脳筋でも出世出来てしまう管理局の人事制度に激しく疑問を感じる。
「2時間後に出発だそうだから、2人とも出動準備をしておいてね」
「第97管理外世界、文化レベルB。魔法文化なし、次元移動手段なし。
部隊長達の出身地……か」
魔法文化がないにも関わらずオーバーSランクの魔導師を4人も輩出してる土地。
過去2度に渡ってロストロギア事件が起こったその街で新たにロストロギアが発見された。
「何か呪われたり変な力場があったりするんじゃないかしら、その街……」
「あはは……」
「そんなまさか」
独り言のつもりだったが耳に入ったらしく、なのは隊長とギンガさんは苦笑していた。
それにしても、これって要するに任務にかこつけた部隊長達の里帰りよね。
土地勘があるというのは重要だけど、だったら尚更全員で行く必要はないだろう。
丁度自分達の出身地でロストロギア事件が起こったから全員で行くことにしてついでに里帰りしよう、と言うことなのだろう。
私達フォワードメンバーからすれば全然関係ない土地だけど、私達を置いて隊長陣だけ派遣というのは対外的にもマズイから一緒に連れて来られたのだと思う。
一応任務自体は聖王教会からの正式な依頼であり架空任務とかではないからそうそう問題にはならないと思うけど、先行きが不安になってきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どんな人外魔境かと戦々恐々としていたけれど、やってきた世界は魔法文化がないことを除けば概ねミッドなどとも差が無い世界だった。
化石燃料が多用されているらしく、ちょっと空気悪いけれど……。
隊長達の幼馴染が宿泊用にコテージを提供してくれるらしく、そこを拠点にしてスターズ、ライトニング、ブレードの分隊ごとに分かれて探査用の器具の設置、サーチャーの散布、及び探知魔法による捜索を実施することになった。
「ところで……なんでフェイト隊長はあんなに気合が入ってるんでしょう?」
バリアジャケットを纏って戦闘態勢に入るとキリッとした凛々しい顔を見せるフェイト隊長だが、普段はおっとりというかポヤポヤした感じの天然な女性だ。
しかし、この任務においては鬼気迫る雰囲気を放っていて正直怖い。
エリオとルーテシアは戸惑う様子もなく、どちらかと言えば苦笑いを浮かべ諦めた様な表情だ。
「あ~フェイトはねぇ、早く任務を終わらせて彼氏と過ごす時間が欲しいのよ」
部隊の立ち上げで忙しくて、ここ1ヶ月くらい会えていないって愚痴ってたし……と告げるのはブレード分隊長の高町まどか隊長。
「ええ!? フェイト隊長って彼氏が居るんですか?」
「ええと……そこまで驚く様なこと?」
「え、あ、いや……すみません」
何故か過剰反応したリジェだが、高町隊長に不思議な顔をされて動揺していた。
まぁ、捉え方によっては失礼にも受け取られかねない質問だったから、当然か。
「まぁ、私達も居ると言うことだけで顔も名前も知らないんだけどね。
何か特殊な地位か立場の人らしくって、あまり人には言えないって言われて」
「それって……」
不倫とかなのでは?
お子様達は分からなかった様だが、ギンガさんとリジェと私が思い浮かべたことは一致していた。
目配せしながらツッコむべきかどうかを無言で相談する。
「まぁ、贈り物とか結構貰ったりしているみたいだから、妄想とかじゃないとは思うけど」
そっちの心配!?
かなり酷い高町隊長の考えに、思わず顔が引き攣るのを感じた。
更に、先入観かも知れないが贈り物を結構貰っていると言うのが不倫の可能性を高めた様に思えてしまう。
「いや、あの娘結構思い込み激しいから、割と洒落にならないのよね」
「お姉ちゃん……」
「まどか……」
とことん酷い高町隊長になのは隊長も松田副隊長も苦笑いだった。
なお、そんなことを言われているとは夢にも思っていないフェイト隊長はサーチャーを放って既にロストロギアの捜索を開始している。
って、サーチャー多!?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
結局、問題のロストロギアはフェイト隊長があっと言う間に発見し、ルーテシアが封印して任務は初日で完了となってしまった。
派遣任務は今日を含めて3日間で予定されていたため、残り2日はヒマになってしまった。
早目に切り上げて帰還すると言う意見も出たけれど、小規模ではあるが次元嵐が発生してミッドチルダとの通信や転移に支障が生じているらしい。
無理をすれば転移は出来ないこともないと言うことだったが、八神部隊長の鶴の一声で任務や教導を忘れてゆっくり過ごす実質的な休暇となった。
高町隊長達の実家である翠屋に行ったり、コテージに戻って夕食にBBQをしたり、デザートに翠屋で貰ったケーキをみんなで食べたりして時間を過ごしている間に日も大分落ちてきた。
コテージには入浴出来る場所がなかったため、近くにあるというスーパー銭湯「海鳴スパラクーア」までみんなで出掛けることになった。
総勢17名という団体で押し掛けた為に受付の人も驚いていた。
うち15名が女性と言う比率の方に驚いていたのかも知れないけれど。
フェイト隊長やルーテシアはエリオとも一緒に入りたい様子だったが、それをすると松田副隊長が1人になってしまうため、渋々諦めた様だ。
そうして脱衣所で服を脱ぎバスタオルを巻いて入った浴場に彼女達は居た。
「来ましたね」
「あ、ホントだ。やあ、オリジナル~」
「遅いぞ子鴉共、いつまで我を待たせるのだ!」
「あわわわわ……」
「3人とも……少しは隠して下さい~」
年の頃10歳くらいの何処かで見たことがある様な幼女達。
茶髪のショートカット、青髪のロング、銀髪のショートカットの3人はタオルすら巻かずに仁王立ちしている。
その後ろで、茶髪のロングと金髪のウェーブの2人がこちらはタオルを胴に巻いて立っていた。
茶髪のロングの娘は何故かパニックに陥ってるけれど……。
「む、昔の私達!?」
「ま、まさかクローン?」
「いや、そんな感じやないけど……」
「ど、どうしてマテリアルが……って、ユーリまで!? 何か1人多いし!」
「───────っ!?」
隊長達は彼女達を見て驚愕している。
確かに髪の色や髪形こそ違うものの、彼女達は隊長達が10歳くらいだったらきっとそっくりだろうと思う容姿をしている。
いや、高町隊長の反応は少し違う?
彼女はどうも、相手が何者であるか知っているような様子だ。
「どうやら御存知の方も居る様ですが、一度きちんと自己紹介した方がいいみたいですね」
「ふむ、已むを得んな」
隊長達の様子を見て、幼女達は一列に並んで自己紹介を始める。
「星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクターです」
「僕は雷刃の襲撃者、レヴィ・ザ・スラッシャー!強いんだぞ!」
「控えよ塵芥。我こそは闇統べる王、ロード・ディアーチェよ!」
「えとえと……陽光の殲滅者、ゾーネ・ザ・デストラクターです。宜しくお願いします」
「紫天の書の盟主、ユーリ・エーベルヴァインです」
なお、忘れてならないのはここはスーパー銭湯の浴場であり、当然ながら私達以外にも客は居る。
10人以上の集団の前で何故か並んで名乗りを上げる幼女5名……傍から見ていたらどう見えているのか、怖くて考えたくない。
取り合えずこれ以上衆目を集めるのは得策ではないとして、大き目の湯船に幼女5名も含めて全員浸かって対峙する。
かなり広い湯船だが、流石にこれだけの人数が居ると貸し切り状態に近かった。
「闇の書の奥に隠されとったシステムやて!?」
「バカな、そんなものが……」
無表情なまま話すなのは隊長似の幼女──シュテル・ザ・デストラクターの説明を聞いて、八神部隊長やリインフォース三尉が驚きの声を上げるが、私も声に出さないものの内心驚愕している。
闇の書……ロストロギアの情報はそこまで公にされていないが、流石にその大物の名前は私も知っていた。
次元世界に多くの災厄を振り撒いていたこのロストロギアが完全破壊されたと言うのは知っていたが、八神部隊長達がその当事者だったと言うのは初耳だ。
挙句の果てに、実は完全破壊されておらず何者かに奪取され、そこから出てきたのが目の前の幼女達と言うのだから、もう何に驚いていいのか分からない。
「ほんなら、あんたらも私の家族っちゅうことに……」
「たわけ!貴様は闇の書の主であっても紫天の書の主ではないわ。
身の程を弁えんか!」
八神部隊長のそれはどうなのと私も言いたくなる発言に、部隊長に似た銀髪の偉そうな幼女──ロード・ディアーチェが叫ぶ。
彼女の態度にシグナム副隊長とヴィータ副隊長が目を吊り上げ、臨戦態勢に入る。
なお、当然と言えば当然の話だが、今の私達は一糸纏わぬ姿で湯船に浸かっておりデバイスも脱衣所の貴重品ロッカーの中だ。
臨戦態勢と言っても睨み付けながら腕を構えることしか出来ない。
「気持ちは分かるが少し落ち付け、将。鉄槌の。
彼女達には聞かなければならないことがある」
「聞きたいこと?」
「なんだよ」
「防衛プログラムのコアがどうなったのかだ」
防衛プログラムのコア?
何の事だか分からないけれど、隊長達は把握しているらしく話が進んでしまう。
「防衛プログラムのコアですか? 私達が外に出た後に処分された筈ですが」
「確かに消滅したのを感じているが……ならば何故再生されない?
防衛プログラムは消滅すれば自然と私から新たに再構築される筈だ」
「我らが回収されたからだろうな。
闇の書の無限再生機能は所詮内部に封印されていた永遠結晶エグザミアによって維持されていたものだ。
動力源であるそれが無くなれば、再生しないのも道理だろう」
何やら難しそうな話をしている幼女2人とリインフォース三尉。
一方で、青髪ロングの少女──レヴィ・ザ・スラッシャーはフェイト隊長と、残りの2人は高町隊長達と話をしていた。
「おぃーっす、オリジナルー」
「オリジナルって……私の名前はフェイトだよ」
「ヘイト?」
「ヘイトじゃなくてフェイト!」
「ええと……貴女もしかして私の?」
「あ、は、はい。貴女のデータを元に構築されました!」
「そ、そう……。
ところで、ユーリだったわね?
貴女、力の制御は問題ないの?」
「へ? え~と、今は大丈夫です。
マスターが居れば暴走することは無いです」
「ならいいけど……ん? マスター?」
好き勝手に話をしていた幼女達だが、やがてゾーネとユーリの2人が逆上せてしまったため、上がっていった。
「宜しかったのですか、主はやて。彼女達を見逃してしまって」
「仕方ないやろ。どっちかって言うと、私らの方が見逃された感じやし」
「それはどういう……?」
「あの娘ら、私らがここに来るのを知ってて待ち構えてたんやで?
もしも戦うことになってもどうにでも出来るって自信がなければ無理やろ」
「それは……」
確かに、副隊長達が身構えても彼女は余裕な様子だった。
仮にあそこで戦闘が始まっていたらどうなっていたのか……あまり考えたくない。
最後の最後で予想外のことがあったけれど、派遣任務の初日は終わり私達はコテージに戻って眠りに就いた。
残りの2日は隊長達に色々案内して貰った。
なお、フェイト隊長は2日目の夜は帰って来なかったことだけ注記しておく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
任務も順調に完了し、実質的に観光旅行に近い時間を過ごすことが出来、充実した3日間だった。
満足感に明るい表情をしながらミッドへと帰還する。
しかし、転移を行った先には管理局の制服を身に纏った女性が数名の管理局員を引き連れて待ち受けていた。
「なんや?」
どう見ても私達を待ち受けていた様子に、八神部隊長は首を傾げながらも近付いていく。
しかし、その部隊長に待ち構えていた女性は冷たい声と視線で宣告する。
「古代遺物管理部機動六課課長、八神はやて三等陸佐。
査問委員会への出頭を命じます」
(後書き)
マテリアル娘達は幼女のままの設定。
成長するという話も何処かで見ましたが、ヴォルケンリッターは成長していないのに?と思ったためと、GoDのおまけシナリオで数年後の姿を見ても成長している様に見えなかったので。
まぁ、力の源が獣殿になってますし、むしろ不老の方が自然な状態ですね。
それにしても、5人並んで名乗りを上げると戦隊モノっぽい……。(むしろ乳製品の特戦隊?)
場所と格好を考えるとアレですが。
<こっそり嘘予告>
査問の場は敵地だった。
元より、はやてはその来歴から管理局の一部の者達からは酷く嫌われており、この様な機会があれば容赦なく責め立てられる立ち位置だ。
反論を許されずに罵声を浴びせられ、否定され、それでも弱みを見せることは許されず唇を噛んで堪えるはやて。
三提督や後見人の擁護により部隊の存続は認められたが、一連の件に片が付いた時既にはやての心はズタボロだった。
それでも、部隊の面々に弱みを見せることも出来ず、笑顔を取り繕う。
見かねたゲンヤははやてを飲みに誘い、はやてはアルコールの力を借りて漸く涙と共に心の澱みを吐き出す。
重度のストレスで箍が外れたはやては酔い潰れてしまい、仕方なくゲンヤは近くだった自宅へと連れ帰る。
そして……
「この映像は開発中のものであり、実際の商品とは異なる可能性があります」