【Side ギンガ・ナカジマ】
「いよいよ……ね」
機動六課での初出動のため、移動するヘリの中で私は呟いた。
アルトさんの操縦するヘリの中に居るのは、スターズ隊長の高町なのは二尉、ロングアーチのリインフォース三尉、そしてフォワードの5名だ。
ライトニング隊長のフェイトさんは八神部隊長を聖王教会に送るために外出していた為、現場へ直行しての合流の予定だ。
ブレード分隊の隊長や各分隊の副隊長達は別件で出ているそうだ。
初出動の内容はガジェットに襲撃を受けて暴走しているレリック護送のリニアの奪還。
レリック……その単語に思わず拳を強く握り締める。
父さんが部隊長を務める108部隊に居た私がこの機動六課への出向を受け入れた理由、それがレリックだ。
八神部隊長から聞いた4年前の空港火災の元凶であるロストロギアの片割れ。
必ず1つ残らず見つけ出して封印してみせる。
高町隊長が空域のガジェットの殲滅のため先行し、残された私達はリインフォース三尉から指示を受ける。
「暴走しているリニアは5両、レリックは中央の車両に格納されている。
フォワード5名は二手に分かれ、リニアの両端から侵入しているガジェットの排除、及びレリックの確保を行って貰う。
車両の先頭側がスターズ、後方にライトニングとブレードの3名だ。
私はスターズと共に先頭側に降りるが、リニアの制御を取り返して停止させること専念するため、加勢は困難だ。
ここまでで質問はあるか?」
特に疑問は思い付かない。
それは他のメンバーも同様のようで、誰も手を上げること無かった。
「よし、それではリニアの後方から並走し、各員乗り移る。
アルト、頼む」
「はい!」
ヘリがグッと加速すると、リニアが近付いてくる。
「まずは後方組、オペル一士から行け」
「了解」
リジェがデバイスをセットアップしてバリアジャケットを纏うとトンファーを一本に戻してドアからタイミングを見計らって飛び出す。
エリオとルーテシアも同様にセットアップしてから手を繋ぐと飛び移る。
2人はリニアに着地した時に少しバランスを崩したけれど、先に降りていたリジェが手を貸して態勢を整えることが出来た様だ。
「それでは次、スターズも行くぞ」
「「了解!」」
私とティアナはヘリがリニアの前方に近付くのを待つ。
「私から行くわね」
「分かりました」
リジェがそうした様に年上の自分から先に行くべきだろうと、ティアナに提案すると特に異論は無く受け入れられた。
タイミングを見計らってリニアの屋根を目掛けて飛び出そうとする。
「スターズ3、ギンガ・ナカジマ……行きまぐぇ!?」「ちょっと待って下さい」
飛び出そうとした瞬間、襟を後ろから引っ張られ、首が閉まる。
「ちょっと、ティアナ!? 何するの!」
私は慌てて振り返りティアナを怒鳴り付ける。
仮にも任務中だ、ふざけている場合ではない。
「いや、何でバリアジャケットを展開しないまま飛び出そうとしてるんですか」
「え?」
確かに私はデバイスは空中でセットアップすれば良いと思ってそのまま飛び出そうとしたけど。
「飛び出した瞬間、死角から攻撃されたら命に関わりますよ。
後方組の3人だってちゃんと先にセットアップしてから降りたじゃないですか」
「で、でも……さっき高町隊長だって……」
「あれは悪い例です」
そんな、模範となるべき教導官が……。
そう思ってリインフォース三尉の方を見ると、冷や汗を流しながら目を逸らされた。
「そ、そうだな。
きちんとセットアップしてから降りた方がいい」
「でも……はい、分かりました」
ティアナの言い分が正論であるのは確かなので、大人しくデバイスをセットアップする。
この任務が発令される直前に受け取ったオーダーメイドの新デバイス、ブリッツキャリバー。
これまで使用していたデバイスよりも高性能なのは間違いないけれど、慣らしも調整もせずにいきなり実戦投入は不安が大きい。
まぁ、文句を言っても仕方ないし、高度な人工知能を積んでいるらしいので戦いながら調整出来るだろう。
……インテリジェントデバイスじゃないエリオとルーテシアが大丈夫か少し不安だけど。
ちなみに、新デバイスを受け取ったのは私とエリオ、そしてルーテシアの3人だけだった。
ティアナとリジェの2人は既にオーダーメイドのデバイスを持っていた為に支給の対象外だそうだ。
リジェは聖王教会で貰ったのだろうけれど、ティアナは謎だ。
知り合いが用意してくれたと聞いたけれど、オーダーメイドのデバイスはかなり高価で軽々しく贈れる様な代物じゃない。
それ以前に、ティアナのデバイス──ニーベルンゲンは古代ベルカ式とミッドチルダ式のハイブリットと言うあり得ない構成で、シャーリーさんが目を丸くしてティアナに詰め寄っていたのが印象的だった。
技術的な視点で言えば作れないわけではないのだけれどバランスを取るのが至難で実用化は不可能とまで言っていた。
そんなデバイスをティアナの為に用意した知り合い、一体どんな人なんだろう?
疑問は尽きないけれど、今は目の前の任務に集中しなきゃ。
そう決意して今度こそ私はリニアの屋根に飛び移った。
風が強く吹き付けてきて飛ばされそうになるのを必死に堪える。
私に続いて、ティアナとリインフォース三尉もリニアに降り立った。
屋根の一部が開閉式のハッチの様になっている為、ティアナとリインフォース三尉に目配せしながら私はその取っ手を掴んだ。
勢いよく開くと同時に私は後ろへと跳び下がる。
一瞬の間を置いて、中から3体のガジェットが飛び出してきたが、2人の放った多重弾殻射撃で一瞬で撃墜される。
「私が中に飛び込みます」
「ああ、援護射撃は任せておけ。
ランスター、そちらもいいな」
「了解」
2人の頼もしい言葉を背に、私は拳を構えながらハッチからリニアの車両の中に飛び込んだ。
薄暗い車両の中にはガジェットが5体……飛び込んできた私に反応してこちらを向いた。
前に居た2体が中央の赤い部位に魔力を集中させる。
ビーム発射の予備動作だが、私は構うことなく走り込む。
果たして、発射前に3体のガジェットは上から撃ち込まれた射撃魔法に撃ち抜かれ、機能を停止する。
「ハッ!」
私は後ろに居た2体が反応する前に拳を叩き込み、2体纏めて壁に叩き付けた。
直接拳が当たった方は既に半壊して動きそうにないが、ガジェットをぶつけられただけの方はまだ動きそうだ。
しかし、私が追撃をする前に半壊した方も含めてガジェットは真っ二つになった。
「クリア、この車両内のガジェットはこれで全てですね」
横を見ると、いつの間にか車両内に入っていたティアナが剣を構えて立っていた。
「ああ。既に伝えた通り、私はリニアの制御の奪還に取り掛かる。
お前達はこのまま中央のレリックを格納した車両を目指せ」
「はい!」
「了解」
私とティアナは後方に、リインフォース三尉は運転席の方へとそれぞれ歩みを進める。
途中の車両に入り込んでいたガジェットを排除しながら、私達は中央の車両で後方から来たリジェ達と合流してレリックを確保した。
「リインフォース三尉、ナカジマ陸曹です。
車両内のガジェットは全て排除、レリックも確保しました」
『ご苦労、こちらもリニアの制御を取り戻した。
一度停車させるから揺れに備えておけ』
「分かりました」
私が通信越しに返事を返すと、すぐにリニアは減速してやがて完全に停止した。
『スターズ分隊はヘリに戻ってレリックを機動六課に護送しろ。
後の3人は私とこの場に待機、地上本部からの後発部隊にリニアを引き渡す』
「「「「「了解!」」」」」
私とティアナはリニアから外に出るとヘリから降ろされたザイルを使ってヘリに戻った。
【Side ジェイル・スカリエッティ】
「追撃しなくて宜しかったのですか。
あのレリックというロストロギアを求めていたのでしょう?」
後ろから掛けられた声に私は振り返る。
そこには予想通り、カソックを着た長身の神父の姿があった。
私の隣に居たウーノは彼の姿を見て露骨に顔を顰める。
「構わないさ、どのみち私の手元に回ってくる」
「成程……しかし、今のスポンサーに借りを増やすのは本意ではないのでは?」
痛いところを突いてくれる。
確かに、レリックを管理局が確保しても裏から手を回してこちらの手に入る手筈になっているが、借りを増やせば借りを増やす程にスポンサーからの要求も増えるから、出来れば自分の手で確保したいというのも事実だ。
しかしまぁ、今回については別にいいかとも思っている。
「それはそうだが……まぁ今回は挨拶代わりと言うか部隊結成の祝辞の様なものだからね。
このくらいで構わないよ」
「まぁ、貴方がそう仰るなら私達は構いません。
取り合えず、当面は我々の手は必要ないと言うことで宜しいですか?」
「そうだね、出来れば最後まで手を借りる様な事態にならないことが望ましいんだが」
「そう祈ってますよ。
それでは私は部屋の方に下がらせて頂きますよ」
神父はそう言うと、ドアから立ち去っていった。
「彼らの手を借りることは不満かい、ウーノ?」
彼の姿が消えて暫くしてから、私は無言で彼が去ったドアを睨みつけているウーノに問い掛ける。
「ドクター……ドクターの決めたことであってもこの件については私は賛成出来ません。
彼らは体よく貴方を利用しようとしているだけです」
「それは分かっているつもりだよ。
元より、我々の間に信頼関係などあるとは思っていない。
あちらが私を利用するなら、こちらも同様に利用させて貰うだけさ。
それに今の所は一方的に借りを作っている立場だし、無碍には出来ないよ」
人材の派遣と言うことで、彼の陣営からは先程の神父を含めて4名程私のアジトに滞在している。
最初に来た時に実力を見たいと模擬戦を挑んだトーレが一方的に叩きのめされたこともあって、正直娘達は険悪な状態だ。
黒髪の少女はまだまともだが、慇懃無礼な金髪神父に好戦的な白髪鬼、一見人懐こい様で腹黒な桃色髪の少女に、みな警戒していた。
「やれやれ、先行きが思い遣られるね」
【Side out】
眼鏡を掛けた女性が生体ポットの前でキーボードを操作している。
そこに、眼帯を着けた銀髪の少女が近付いてきた。
「クアットロ、トーレの容態はどうだ?」
銀髪の少女──チンクの問い掛けにクアットロは操作を続けながら答えた。
「見ての通り、修復自体は完了したわ。
あちこち傷付いてはいたけど、基礎フレームは無事だったのが幸いね。
多分今日明日には復帰出来ると思うわよ~」
「そうか、それは何よりだ」
そう言うと、チンクは生体ポットの前に立つクアットロの横に並び、一緒に中に浮かぶトーレを見上げる。
生体ポットの中のトーレに意識は無く、目を閉じたままで液体に浸かっている。
「……………………」
「……………………」
沈黙が場を支配するが、しばらくしてチンクがポツリと言葉を口にする。
「お前は、彼らのことをどう思う?」
「そんなの最初から決まってるわ、『いけすかない』よ」
常に周囲を見下し嘲笑う様な笑みを浮かべているクアットロにしては珍しく、苦々しい表情で吐き捨てる。
「とはいえ、強さについては認めなければならないだろう」
「それくらいは分かっているわよ、この結果を見ればね」
彼女達ナンバーズの中で最高戦力であったトーレが白髪の吸血鬼に一蹴されたのだ、その強さについては嫌という程に理解出来た。
しかも、おそらくその時の相手は全力では無かった
もしも全力で襲われたら、ナンバーズ全員でも対抗出来ない可能性がある。
その上、あちらにはまだ後ろに3人も戦力を残しているのだ
スカリエッティの方針で彼等は客人としてアジトに滞在している。
しかし、交流は最低限にして必要な時だけ話をする様な関係だ。
触らぬ神に祟りなし、と言うのが一番近いかも知れない
「まぁ、何とかやっていくしかないか」
「そうね」
生体ポットの前で、珍しく息の合った溜息を漏らした2人だった。
(後書き)
トーレ修復中