魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Odi et Amo(dies irae)


33:いまはただ、この陽だまりに 【城にて】

【Side プレシア・テスタロッサ】

 

 目を向けた先でアリシアが楽しそうに笑っていた。

 積み木でお城を作って、その頂上にフェレットを乗っけていた。

 すぐに崩してしまいそうだが、フェレットは器用にバランスを取って見せている。

 その様にアリシアは手を叩いて喜んでいた。

 アリシアの周りでは2匹の猫が差し込む陽の光の元、丸くなって昼寝をしている。

 

 私はその様子を眺めながら紅茶を一口啜った。

 

 嘗ての事故によって失われたもの。

 こんな筈じゃなかった未来。

 望んでいた方法とはまるで違ったけれど、望んでいた結果は今、確かに私の前にある。

 生き返ったわけではないけれど、見て、触れて、話せる。

 何よりも、嘗ての様に笑い掛けてくれる。

 だから今の私達が死者であることなど、どうでもいい。

 私は確かに今、幸せだと断言出来る。

 

 チクリと僅かな痛みを感じた。

 魂のみで存在している今の私に病は存在しない。

 だからこれは、物理的な痛みではなく心に刺さった棘によるもの。

 

 時の庭園で拒絶した、1人の少女の姿が何故か脳裏に過ぎる。

 

「考え事?」

 

 掛けられた声に私はハッと我に返る。

 

「ええ、ちょっとね……」

 

 テーブルの反対側で私と同じ様に紅茶を飲んでいる穏やかな表情をした女性。

 長い髪と泣きボクロが特徴的な彼女は何処か見透かす様、それでいて穏やかな笑みでこちらを見詰めていた。

 聖槍十三騎士団黒円卓第十一位リザ・ブレンナー=バビロン・マグダレア。

 私がこの城に来て以来、恐らくは最も仲の良い相手と言って良いだろう。

 と言うより、他の者達とはあまり交流が無い。

 正直、まともに会話が出来ない相手やアリシアの教育に悪そうな者達ばかりで、交流する気も起きなかった。

 ベアトリスとか言う娘はまだ話が通じそうだが、騒がしいのは好きではないし、それに彼女を見ていると何だか心がざわめいて落ち着かない。

 

 リザは今、海鳴市に本拠を置いているが、たまに城に戻ってくる。

 そういう時には、こうして共に紅茶を飲むのが習慣になっていた。

 

「娘さんのこと?」

「あ、あんなの私の娘じゃ……!」

 

 先程脳裏に浮かんだ少女のことを思い浮かべて思わず声を荒げるが、すぐにハッと気付く。

 彼女はフェイトの事は知らず、私の娘=アリシアと認識しているのだった。

 つまり、今の娘さんと言うのはアリシアのことのつもりで言っていたのだろう。

 現に、私の反応を見て少々驚いた顔を見せている。

 

「あんなの……と言うのはアリシアちゃんのことじゃないみたいね」

「……………………ええ」

 

 私は気まずくなりながら、渋々と答えた。

 

「色々と事情がありそうね。

 良かったら話して貰えないかしら」

 

 私は戸惑ったが、やがてポツリポツリとこの城に来る前のことを話し始めた。

 正直軽蔑されるかも知れないと思ったけれど、それで失われる友人関係なら尚更早目に話しておいた方がいいかも知れない。

 しかし、私の予想に反してリザの目に軽蔑の色は無く、真剣に私の話を聞いている。

 

 長い話を終え、私は紅茶を口にするがすっかり冷めてしまっていた。

 

「倫理とかで言えば責められる内容なのかも知れないけれど、正直私にその資格はないわね」

 

 長い沈黙の後、リザが最初に口にしたのはそんな言葉だった。

 

「それで……貴女はそのフェイトって子のこと、どう思っているの?」

 

 私がフェイトのことを?

 

「そんなもの……役に立たない人形よ

 あの子はアリシアじゃない。

 こうしてアリシアが笑ってくれる以上、要らない存在だわ」

「それは嘘ね」

 

 何故かキッパリと告げられた言葉に私は動揺する。

 

「嘘? 何故そう思うのかしら?」

「何故って……今の貴女の顔を見れば誰でもそう思うわよ。

 本当にそんな風に思っているのなら、悩んだりそんな辛そうな顔をしたりしないでしょ」

 

 リザの指摘に私は思わず顔に手を当てる。

 この部屋には鏡が無いので、自分がどんな顔をしているかは分からない。

 

「ねえ、プレシア。

 私には嘗て双子の息子が居たの」

 

 初めて聞く話に思わず興味を惹かれた。

 

「そして私は2人の内の片方を愛して、片方を捨てたわ」

「──────っ!?」

 

 心臓が止まる様な衝撃を感じた。

 目の前の穏やかそうな女性がそんなことを?

 とても信じられずに、私は愕然とする。

 

「私が捨ててしまったその子は、今もこの城の心臓部で1人佇んでいる。

 それは避けられないことだったのかも知れないけれど……だからと言って私があの子を愛せなかった理由にはならない。

 私はねプレシア、ずっと後悔して生きてきたの……どうしてあの子を抱き締めてあげられなかったんだろうって」

 

 彼女は在らぬ方を見ながら、そう口にした。

 視線の先には何もない……が、おそらくその方向にこの城の心臓部があるのだろう。

 

「貴女の心に後悔はない?」

 

 そんなもの……と口にしようとした私を再びチクリとした胸の痛みが襲い、哀しげな表情をしたフェイトの顔が浮かんだ。

 

「別に今すぐ結論を出す必要はないわ、ゆっくり考えてみて欲しいの」

 

 そう言うと、リザは空いた私のカップに新しく紅茶を入れてくれた。

 私は無言のまま、フェレットと戯れるアリシアの姿を眺める。

 脳裏にもう1人の娘の姿を思い浮かべながら……。

 

 

【Side out】

 

「………………………………。」

 

『城』の心臓部、イザークは1人静かに佇んでいた。




(後書き)
 出番の補完としては色々詰め込んだ回。
 数話前のうっかり獣殿の目的とも微妙に繋がっていたり。

 シスターとプレシアさんは色々と重なる部分も多い様に感じています。
 凄く仲良くなるか凄く仲悪くなるかの2択でしたが、仲良くしてみました。

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