副題:金の恋シリーズ第1話「金の出逢い」
【Side フェイト・テスタロッサ】
「いらっしゃいませ……あら、フェイトちゃん」
カランカランと音を立てて開いた扉の向こうで、桃子さんが声を上げた。
リンディ提督達が本局に行ってしまっていて1人のため、翠屋でお昼ごはんを食べようと思ってきたのだけど、少し遅い時間なのに席は全部埋まってしまっている。
「こんにちは、桃子さん。
あの、1人なんですけど……」
「ええと……今満席なのよ。
ちょっと待っててね、相席頼んでみるから」
「え、あ、あの……」
慌てて止めようとするが、桃子さんは既に相席を頼みに行ってしまった。
知らない人と同じ席に座るのはちょっと緊張してしまうし、少しくらいなら待つつもりだったのに……。
「あの、申し訳ございません。相席でも宜しいですか?」
「ふむ、私は構わんよ」
「ありがとうございます」
桃子さんが相席を頼んでくれて、相手の了承を得て私を手招きする。
相手の人はよりにもよって男の人みたいだ。
内心で緊張しながらも私は軽く小走りでその席まで行くと、頭を下げて席に座ろうとする。
席に近付いたことで先程まで観葉植物の陰になって見えなかった相手の姿が視界に入る。
流れる様な金色の髪
これまで見てきた誰よりも綺麗な貌
上品な黒いスーツに包まれた均整の取れた体格
そして全てを見通すような深い深い黄金の双眼
思わず呼吸を忘れ、座り掛けた中途半端な状態のままその男の人の顔に見惚れてしまう。
「どうかしたかね?」
固まっている私に気付いたのか、問い掛けられてハッと我に返る。
初対面の人の顔を凝視していたことに気付いて、恥かしくなる。
顔が熱い、鏡が無いから分からないけれどきっと真っ赤になってる。
「ご、ごめんなさい。何でもないです」
「ふむ?」
幸いにして大して興味がなかったのか、男の人は食事に戻る。
「フェイトちゃん、何にする?」
桃子さんが水の入ったグラスを私の前に置きながら問い掛けてくる。
目の前の人に気を取られていて、メニューを何も考えてなかった。
咄嗟に男の人が食べているメニューを見て決める。
「えっと……Aランチでお願いします」
「分かったわ、ちょっと待っててね」
頼んだメニューが来るまでの間、手持無沙汰になってしまう。
いけないと分かっているのに、どうしても目の前の綺麗な人が気になってチラチラと見てしまった。
変な子だと思われたくないからこっそりとだけど……。
男の人は静かに食事を続けている。
「お待たせ、フェイトちゃん」
しばらくして桃子さんがトレーを持って来てくれる。
私は食事を開始したが、正直全く味が分からなかった。
男の人は食後の紅茶をゆっくりと味わう様に飲んでいる。
とても絵になる光景に思わず嘆息が漏れそうになって、慌てて飲み込んだ。
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食事を終えて席を立つ男の人を思わず目で追ってしまう。
何とか私も食べ終えてお会計を済ますとマンションへと帰る。
帰る道でも頭がぼーっとしてしまい、世界がふわふわとしていた。
マンションの自室に戻ってからも、目を閉じるとあの金色の人の姿が浮かんでくる。
何だか恥ずかしくなって意味も無くベッドの上で転がってしまう。
「また、会えるかな」
(後書き)
嗚呼、惹かれてはいけない人に……。
しかし、3人娘で彼女が一番惹かれてはいけない人に惹かれそうなイメージがあります。
まぁ、年齢的に先は長いですが。
獣殿は総てを愛している⇒誰かが獣殿に想いを寄せれば両思い。
……しかし何故でしょう、「恋愛」が「恋愛(?)」にしかならないように思えるのは。