Dies Irae "Mephistopheles"(dies irae)
封時結界の内側は終末の世界の様相を呈していた。
あちらこちらから溶岩が噴出し、火の手が上がる。
建物は崩壊し、地面には大きな地割れが走る。
海の上ではその原因である巨大な半球型の闇の塊が胎動している。
上空では12人の男女がその闇を見詰めていた。
管理局勢からは執務官であるクロノ・ハラオウンとテスラ・フレイトライナー、そして嘱託魔導師フェイト・テスタロッサとその使い魔アルフ。
加えて、民間協力者として高町姉妹に松田優介。
一方、夜天の魔導書関係で八神はやてと4人の守護騎士。
「作戦の確認をしましょう」
「「ああ」」
高町まどかの呼び掛けに、クロノ・ハラオウンと松田優介の2人が応える。
「防衛プログラムのバリアは魔力と物理の複合4層式、まずはそれを破る」
夜天の主がこれから対する敵の情報提供と共に手順を話し出す。
「バリアを抜いたら本体に向けて私達の一斉砲撃でコアを露出」
金の閃光が決意を籠めて手に持つ大剣型デバイスを握り締めながら続ける。
「そしたらテスラさんとアルフさんの強制転送魔法でアースラの前に転送」
白の魔法少女がそれを受け、想像するようにアースラが待機しているであろう上空を見上げる。
≪あとはアルカンシェルで蒸発、と≫
≪上手くいけば、これがベストですね≫
アースラで待つ艦長と執務官補佐がそれを受け、締め括る。
突破口を見付けた彼らの表情に絶望は無く、未来を切り開く希望と覚悟に満ちていた。
そんな彼らの感情を察知したのか、胎動していた闇が急速にその蠢きを加速させる。
「始まる……」
「夜天の魔導書を呪われた魔導書と呼ばせたプログラム……闇の書の闇」
はやての呟きに答える様に凝縮した闇が割れ、中からは大型の獣の集合体の様な暴走体の姿が現れた。
「チェーンバインド!」
「縛れ!鋼の軛!」
先手必勝とばかりに、使い魔2人がバインドを放ち防衛プログラムを拘束する。
しかし、拘束力が足りずに防衛プログラムを完全に抑え込むことは出来ず、枷を外そうと身じろぎする。
抑え切れなくなるのも時間の問題だが、それを待たずに2人の少女が攻撃の手を加える。
「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」
「ヴィータちゃんもね!」
何度も戦って諍いがあった2人だが、口調は挑発的なもののまるでこれまでも共に戦ってきた戦友の様に息を合わせ、大技を放つ。
「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!」
≪Gigantform!≫
主の呼び掛けに応え、ハンマー型のデバイスがカートリッジを炸裂させフォームを変える。
振り被る動作に合わせ、ハンマーヘッドが一気にその体積を増す。
「轟天爆砕!ギガントシュラーク!」
防衛プログラムと同等の大きさまで拡大したハンマーが脳天に落ち、一番外側を為していた物理防御の障壁を打ち砕いた。
「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン……いきます!」
≪Load cartridge≫
対抗するようにカートリッジを炸裂させると、杖の先からまるで鳥が羽ばたく様な形状の魔力光が形成される。
「エクセリオンバスター!」
≪Barrel shot≫
レイジングハートから衝撃波が放たれ、防衛プログラムの周囲を守る様に囲んでいた触手を吹き飛ばす。
しかし、これで終わりではない。
「ブレイクシューーート!!!」
なのはの叫びと共に桃色の閃光が放たれ、2層目の魔力防御障壁が砕け散る。
「次、シグナムとテスタロッサさん!」
シャマルの呼び掛けにヴォルケンリッターの将がその剣を鞘から抜き放つ。
「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン。
刃と連結靭に続くもう一つの姿」
≪Bogenform!≫
右手に持つ剣と左手に持つ鞘を柄越しに合わせると、デバイスはその姿を弓の形に変え、魔力で造られた弦と矢が添えられる。
「駆けよ隼!」
≪Sturmfalken!≫
放たれた矢は3層に位置する物理防御障壁を貫いた。
残りは1層。
「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー……いきます!」
金の魔力刃を伸ばした大剣を構えながら、フェイトは叫んだ。
天高く翳した大剣に雷が落ちる。
「打ち抜け、雷刃!」
≪JetZamber≫
振り下ろすと同時に大剣が際限なく伸び最後の障壁を切り裂き、防衛プログラムの巨体に大きな傷を負わせた。
全ての障壁を破壊された防衛プログラムが反撃の為に周囲に触手を生やし、その先に魔力を集める。
しかし、黙ってそれを見過ごす様では守護騎士は名乗れない。
「盾の守護獣ザフィーラ!攻撃なんぞ撃たせん!」
戦端を切り開いた白い拘束魔法が再度放たれ、砲塔である触手を貫き砲撃の発射を妨害する。
「同時に行くわよ、優介」
「ああ、任せてくれ」
まどかと優介の転生組は優介のデバイスである円盤の上に立ち、それぞれの武器を構える。
まどかが持つのはデバイス、ライジングソウルのフルドライブモードであるバスタードモード。
一方、優介が持つのはデバイスではなく投影魔法で作成した黄金の剣だ。
武器は大きく異なるが、放たれるのは共に誇り高き騎士王が持つ技だ。
「
「
大きく振り被られた2本の剣が振り下ろされ、極光が合わさり防衛プログラムを飲み込んだ。
「はやてちゃん!」
畳み掛けるために、シャマルは幼い主の名を呼ぶ。
「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて撃ち貫け。
石化の槍!ミストルティン!」
三角状の魔法陣から白い光の矢が放たれ防衛プログラムに突き刺さる。
それだけに留まらず、刺さった箇所が石と化しその面積を広げていく。
大きく傷付けられた防衛プログラムは傷付いた箇所や石化された部分を切り捨てその体躯を再構成する。
様々な生物の身体がグロテスクに蠢きより合わされ、その姿をより禍々しいものへと変えた。
「わ、わぁ!?」
「なんかすごいことに・・・」
≪やっぱり並の攻撃じゃ通じない!
ダメージ入れたそばから再生されちゃう!≫
その光景に悲鳴を上げるアルフとシャマル、エイミィ。
「だが、攻撃は通ってる。プラン変更は無しだ!
いくぞ、デュランダル」
≪ok,boss≫
クロノが恩師から受け継いだ新たなデバイスを構え、
これまでは上手く制御が出来なかった魔法、だがこのデバイスなら可能だと何故か確信できた。
「単なる攻撃よりも石化とか氷結させた方が有効みたいね。
私も便乗させて貰うわ」
同じ執務官である転生者がクロノに合わせてデバイスを構える。
氷結特化のデバイスを持っているわけでもないのに、何1つ気負う様子のないその姿は管理局最強と噂されるが故の自負か。
「「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて永遠の眠りを与えよ。
凍てつけ!」」
≪EternalCoffin≫
氷結魔法が同時に放たれ、防衛プログラムの巨体を一瞬にして氷漬けにする。
それどころか、半径数百メートルに渡って内海が凍り付いた。
防衛プログラムは魔力の塊であり無限に再生する機能を持っている。
例え氷漬けにしたところで、止められるのは僅かな時間でありすぐに再生しその呪縛から脱するだろう。
しかし、僅かな時間があれば切り札を用いるのには十分。
「いくわよ!なのは!フェイト!はやてさん!」
「「「うん!」」」
まどかの呼び掛けに3人の少女が応えると4方の上空から氷漬いたままの防衛プログラムを囲む。
「昇れ曙の光!サンライト……」
「全力全開!スターライト……」
「雷光一閃!プラズマザンバー……」
「ごめんな……お休みな……。
響け終焉の笛……ラグナロク……」
「「「ブレイカーーーーー!!!!」」」
4筋の極光が防衛プログラムの身を削り塵へと変えていく。
「本体コア露出……捕まえ、た!」
ダウジングチェーンの型をしたデバイスで円形を作り、防衛プログラムの本体コアを捜索していたシャマルが捕捉を成功させる。
「長距離転送!」
「目標軌道上!」
「「「転、送!」」」
アルフ、テスラ、シャマルの3人で転送魔法を展開、露出した本体コアを軌道上へと送り込む。
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「コアの転送、来ます!」
「転送されながら生体部品を修復中!凄い速さです!」
「アルカンシェル、バレル展開!」
転送されてくるコアの情報を受け、エイミィが凄まじい勢いで端末を操作しアルカンシェルの発射準備を整える。
アースラの正面から発射用のスフィアが展開される。
「ファイアリングロックシステム、オープン!
命中確認後、反応前に安全距離まで退避します、準備を!」
「「了解!」」
タイミングを見計らい、リンディはアルカンシェルの発射キーを差し込み捻る。
「アルカンシェル、発射「目標付近に転移反応!」なんですって!?」
あり得る筈の無いエイミィからの報告に発射操作を行ったリンディが眼を剥く。
慌ててモニタを見ると、深海魚の様な姿になった闇の書の闇のコアの近くにローブを羽織った人物が浮いている。
「そんな……宇宙空間なのに人が!?」
「アルカンシェル、緊急停止して!」
「無理です!システム上一度発射したら止められません!!」
「そんな!?」
アルカンシェルの発射操作は既に為されており止めることは最早出来ず、あの場に居る人(?)物の命は絶望的だ。
「いやーーーーー!!!」
エイミィが次に起こる悲劇を想像して悲鳴を上げるが、アルカンシェルは無情にも発射されてしまう。
しかし、真に絶望的な光景は彼らの予想しない形でその場に現れた。
そこは宇宙空間、媒介する空気も無く声は伝わらない。
それでなくとも、数百kmの距離がある上に次元航空艦の外と中だ。声など聞こえる筈が無い。
にも関わらず、その声はアースラに居た全乗組員に届いた。
『
ローブの人物の右手に黄金の槍が顕れる。
その槍は神々しく輝き、その様を見た全ての人間はそこから目を離せなくなった。
目に見えない波動がローブの人物と槍から放たれ、アースラが微震する。
それが宇宙を覆い尽くす程の莫大な魔力が揺らいだことによるものであることに気付いたのは、ほんの一握りだった。
『
その言葉と共に振り下ろされた槍から金の閃光が放たれ眼前に迫っていたアルカンシェルによる砲撃を切り裂き飲み込む。
それどころか、その先に居たアースラに常時展開されているフィールドを瞬時に破壊し直撃する。
正面の映像を映した大型モニタを除き、全てのモニタがエマージェンシーのアラートで真っ赤に染まる。
「直撃しました!」
「被害状況は!?」
リンディの問い掛けに対して、各所からの報告をオペレータが次々に読み上げる。
「第1区画、損傷ありません!」
「第2区画、損傷ありません!」
「第3区画は半壊です! 火災が発生!」
「第4区画は壊滅的です! 重軽傷者多数!」
「第5区画、損傷ありません!」
「第6区画、損傷ありません!」
「機関部の損傷はありません!」
「バレル、消滅しました! アルカンシェル、使用出来ません!」
金色の閃光はアースラに対して正面から直進し、発射の為に展開されていたアルカンシェルのバレルを消し飛ばすとアースラ正面の下部に直撃した。
アルカンシェルを相殺しフィールドと破壊し、威力を削がれながらもアースラの4分の1を潰した砲撃。
これがもし何もない状態で撃たれていたら、アースラは一撃で撃沈されていた可能性すらある。
「ディストーション・フィールドを最大出力で展開、追撃に備えて!
第4区画を隔離! 第3区画の火災の鎮火には武装隊員を派遣しなさい!」
リンディの言葉に反射的に対応しながらもオペレータ達は顔を青褪めさせた。
そう、まだアースラの正面にはあの謎のローブの人物が居るのだ。
先程と同じだけの攻撃が間髪入れずにもう一撃来ていたらアースラは跡形も無く消し飛ばされていただろう。
とは言え、彼らに出来ることは少ない。
次元航空艦の戦力はアルカンシェル以外には乗っている魔導師しか存在しない。
基本的に彼らの想定している戦場は犯罪者の捕縛であり次元航空艦同士の艦隊戦など想定していないからだ。
勿論、魔導師である武装隊は居るが宇宙空間には派遣出来ない。
ローブの人物がどうして無事なのかは分からないが、如何にバリアジャケットを纏う魔導師であっても宇宙服も無しに宇宙空間で生きることは不可能だ。
故に、アルカンシェルを潰されれば、後はディストーション・フィールドで防御を固めるくらいしか出来ない。
そうしてやることが無くなると、今更に恐怖が湧き上がってくる。
なんだあれは?
アルカンシェルは空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する魔導砲、管理局の艦船武装の中でも屈指の殲滅力を誇る。
管理局の虎の子であり、複数の次元航空艦から集中的に撃ち込めば1つの世界の文明を滅ぼすことも可能な最終兵器だ。
撃ち込む相手として想定されているのは世界や国家、あるいは闇の書の様な世界を滅ぼしかねない危険なロストロギア…………断じて、個人に対して撃つものではない。
それがあろうことか、1人の人間が放つ砲撃であっさりと迎撃された。
こんなことがある筈が無い……いや、あっていい筈が無い。
何故ならば、何故ならばだ。
管理局の最大攻撃を個人で撃ち破られた、それはすなわちあのローブの人物1人で管理局を滅ぼせてしまうことを意味してしまうではないか。
何かの間違いだ!誰もがそう望み思い込もうとするが、事実は重い。
しかし、恐慌寸前となったアースラには興味が無いのか、ローブの人物はあっさりと槍を消すと闇の書の闇のコアの方へと向き直った。
追撃の様子が無いことにそこかしこで安堵の溜息が漏れる。
しかし、次に起こったことにアースラスタッフは再び凍り付くことになった。
ローブの人物がその右手を闇の書の闇のコアに向けて翳すと、周囲のものを吸収し膨張しつつあったコアが逆に凝縮しその姿を有機物の集合から黒い光を放つ闇の塊へと変える。
闇の塊は誘導される様に掌の上へと移動し、その動きを止めた。
「コ、コアの再生が止まりました! これは……制御しているのか!?」
「そんな……!?」
「ありえないわ! 闇の書の主でもないのに!
それにあれは暴走していた防御プログラムの大本、あれを制御するなんて闇の書の主でも出来ない筈!」
驚愕するアースラのスタッフ達を尻目に、ローブの人物は闇の塊を掌上に浮かべたまま、アースラを一瞥することもなく転移で姿を消した。
「転移先は!?」
「駄目です! 先程の攻撃でサーチ機能が沈黙しています! 転移先、追えません!」
「……………………そう」
リンディが慌ててエイミィに行方を尋ねるが、追跡は出来ずに見失ったと言う報告に落胆し艦長席に深く座り込んだ。
「今起きたことについては緘口令を引きます。口外しないように」
「いいんですか、艦長?」
「アルカンシェルを個人に防がれたなんて公開したら大騒ぎになるわ」
「それは……そうですね」
それにあんな規格外、奴等以外に居る訳ないじゃない。
続く言葉を飲み込み、リンディは思考する。
ローブの人物が持っていた黄金の槍、あれからはヴィルヘルムやルサルカと似た雰囲気を感じた。
おそらくあの人物も聖槍十三騎士団なのだろう。
ヴィルヘルムもルサルカも規格外だとは思っていたが、管理局の総力を挙げれば倒せない相手ではないと思っていた。
SSSランクの魔導師に相当する彼らの力は管理局の水準でも最強クラスだが、所詮は個人の力。
数の暴力の前では被害は大きいだろうが打倒できる、そう思っていた。
しかし、甘かった。
先程目にした人物の力はヴィルヘルムやルサルカと比較しても桁が、いや次元が違う。
「防衛プログラムのコア、一体どうするつもりなの……」
「そんな……艦長!!」
答えの無い問いを呟いていたリンディに、悲鳴染みたエイミィの叫びが聞こえる。
「どうしたの、エイミィ!?」
尋常ではないエイミィの剣幕に慌てて尋ねるリンディだが、目を向けた先にあった正面モニタに映る光景に釘付けになる。
【Side テスラ・フレイトライナー】
「エイミィ……おい、エイミィ!どうした!?」
アースラに必死に呼び掛けるクロノの声が海上に響き渡る。
闇の書の闇を倒してコアを軌道上に転送して私達の役目は終わり、後はアルカンシェルで消滅させたことを報告を聞くだけと思っていたが、いつまで経ってもアースラからの通信が来ない。
それどころかクロノがこちらから通信を行っても通じないと言う有り様。
一体何故?
こんな展開、無かった筈なのに……。
「……はやて!? はやて!」
ヴィータの悲鳴に思わず目を向けると、八神はやてが意識を失いシグナムに抱き抱えられていた。
慣れない魔法行使によるものだろうが、守護騎士達は気絶した主の周りを囲み必死に呼び掛けている。
集まった者達はみんなアースラに呼び掛けるクロノか倒れたはやての周囲に集まっている。
私はどちらに加わる気にもなれず、少し離れた位置からそれを見下ろしていた。
「
私の眼の前で、黒い何かが広がり集まっていた2組をその範囲に収める。
必死に声を上げていたクロノもヴィータも唐突にその呼び掛けを止めた。
……いや、これは動き自体が止まっている?
そうだ、この影……以前に戦った時に奴等が使っていたものだ。
戦いが終わった直後の気が抜ける瞬間を狙って襲ってきたのか。
しかし、私は影には掴まっていない。
どうやら、全員を捉えることには失敗したらしい。
詰めの甘さを鼻で笑って対処しようとしたが、次の瞬間には別の意味で硬直してしまう。
ルサルカの影に触れたわけではない、触れたのは記憶に新しい殺気。
以前にもぶつけられたそれは変わらぬ鋭さで私の身を貫き、全身から冷や汗を流させる。
喉がカラカラに乾き、膝が勝手に笑う。
見たくない気持ちとそれでも見ずには居られない気持ちとで綯交ぜになりながら、恐る恐る殺気が飛んできた方を振り向く。
私から見て後方の上空に当たるそこには、黒い軍服を纏った赤い長髪を後で括った女性が空中から私を見下していた。
端正な顔立ちだがその半分を醜い火傷が覆っている、その口には煙草が咥えられ腕を組み、まるで虫けらを見る様な目で私を見ていた。
間違いない、以前炎の砲撃を撃ち込んできたのは目の前の女だ。
反射的に目を凝らし……すぐに後悔した。
レベル53、SSSランクの私よりも10以上も高い絶望的な数値。
無理だ、勝てるわけがない。
「ひっ!?」
反射的に逃げようとするが、私が飛ぼうとした先に炎の砲撃が撃ち込まれる。
「きゃああぁあぁーー!!」
直撃させると言うより逃げ場を塞ぐ意味で放たれたそれは当たらなかったものの膨大な熱量を周囲に振り撒いた。
余波で10メートルほど吹き飛ばされて、何とか飛行魔法を制御して態勢を整える。
「逃がすとでも思ったか? バカめ」
冷たい、それでいて激情を孕んだ声が私にぶつけられる。
「ハイドリヒ卿を侮辱したその罪、命で購え。
塵一つ残さず消し飛ばしてくれる」
軍服女の上空に巨大な魔法陣が描かれる。
ミッドチルダ式魔法とは全く様相を異にするそれは、術式は全く分からなかったが意味は分かった。
あれは砲台だ、そこから獄炎を撃ち出し私を焼き尽くす為の砲台だ。
殺される……っ!
「待って! 謝る、謝りますから!
お願い……殺さないで!」
恐怖に押し潰され、恥も外聞も捨てて懇願する。
しかし、返答は無言で放たれる炎の砲撃だった。
「イヤァァァァァーーー!!!」
地獄の業火に焼き尽くされる激痛に視界と意識が黒く塗り潰されていく。
一体何がいけなかったのだろう。
彼らの主を侮辱したことか。
上層部に転生者が居ると勘違いして原作への介入を決めたことか。
管理局に入局して執務官になったことか。
それとも、そもそも転生なんて話を引き受けたことか。
今更何が悪かったのかなど分からないけど、思うことは1つ。
こんなはずじゃなかったのに……
【Side out】
こうして、闇の書事件は集結した。
百年以上に渡って災厄を撒き散らしてきた魔導書の呪いは祓われ、悲劇は終わりを迎えたのだ。
しかし、関わった者達にとっては後味の悪い終わり方だった。
英雄と呼ばれた顧問官は裏切っていた。
闇の書の闇は滅ぶのではなく持ち去られた。
管理局のエースオブエースと言われた少女は惨殺された。
2度目の事件に至って初めての脱落者が発生した『ラグナロク』はここからが本番となる。
(後書き)
A's名物フルボッコ回
原作沿い原作沿い……あれ?
獣殿は降臨するも、顔も見せずにクリスマスプレゼントだけ持って帰りました。
獣殿のレベルについてはまだまだ焦らします。
リインフォースについては閑話の中で触れますので、これにてA's編は完結と相成ります。
空白期については短編連作の形を取る予定です。
内容としては主に下記の4つです。
①本編に直接関係しない閑話的な話
②Strikersに繋がる準備話
③これまで名前しか登場していない黒円卓メンバーに焦点を当てた話。(時系列無視も)
④恋愛(?)話
話の長さは様々で、短い話では1000字程度の回も存在します。