貫咲賢希様より転生者の2名、まどかと優介のイラストを頂きました。
後書きに載せてありますので、是非ご覧下さい。
推奨BGM:黒き覚醒(nanoha)
絶対たる力(nanoha)
その日、大阪市の病院の屋上にて絶望が開幕した。
黒い三角の魔力スフィアの上で少女は声にならない絶叫を上げる。
周囲には衣服が不自然に落ちている……まるで着ていた人間が消滅したかのように。
いや、実際に消滅したのだ。
人間ではないが彼女が家族と思っていた者達が彼女の目の前で闇の書にその身を喰われて消滅した。
その光景は幼い少女の心を砕くに十分であり、彼女の絶望と同時に闇の書は完成した。
≪
少女の身体が成熟した女性のものへと成長し、銀色の髪が腰まで伸び、黒い翼が生える。
その四肢は拘束具に包まれ、紅い模様が浮かび上がる。
「また、全てが終わってしまった。
一体幾度こんな哀しみを繰り返せばいい」
涙を流しながら翳した手の先に巨大な暗黒球が生み出される。
「我は闇の書。我が力の全ては主の願いのそのままに……」
主を乗っ取った闇の書の管制人格は、ただただ心を閉ざした少女の絶望に従い破壊を振り撒く。
「闇に染まれ……デアボリック・エミッション」
暗黒球が放たれ闇が爆発的に広がった。
放たれた広域空間破壊魔法の威力は凄まじく、半径100メートル以内の建造物を消滅させた。
八神はやてに絶望を与えて闇の書を起動させた仮面の男達が結界を張っていなかったら、1000を超える死者が出ていただろう。
実際には封時結界内のため被害は出ていない、無人の世界で無意味な破壊が撒き散らされただけだ。
彼女は特定の誰かを狙っているわけではなく、主が否定した世界そのものを破壊しようと広域殲滅魔法を次々に撃ち出している。
しかし、次々に闇を放っていた闇の書の管制人格は途中で手を止め、上空に視線を向けた。
そこにはバリアジャケットを纏った5人の少年少女の姿があった。
【Side 高町まどか】
「あれは……?」
「魔導師、なの?」
「闇の書の主よ。闇の書も手元に浮かんでいるし」
「で、でも映像で見たのと姿が違うよ!」
「正確には闇の書が主を乗っ取った状態だ。あの姿は管制人格のものが顕れているんだろう」
戸惑うなのはやフェイト、アルフに対して私と優介は苦々しいものは感じているが何とか落ち着いて3人に答えることが出来た。
尤も、管理局勢の中で誰よりも事情を把握しているのだから当然だろう。
「やっぱりこうなったか」というのが私達の表情を苦いものにしている理由だ。
事情を事前に知りながら、結局のところ正史と同様の流れになってしまっていることに対して、無力感が湧き上がる。
無限書庫での調査も結局は無駄に終わり、八神はやての精神力に頼るしかない他力本願な案に縋る以外に無かった。
いや、現状だけで考えれば確かに正史の流れと大差はないが、内実を考えれば状況は更に悪く不安要素は多い。
一番の問題は、現時点で八神はやてとなのは達の間には全く面識が無いことだ。
フレイトライナー執務官の仕掛けた捕縛作戦のせいではやて達は行方を眩ませてしまった為、出会うことがなかったのだ。
しかも追い立てられたことで、守護騎士どころかはやてまで管理局に対して隔意を抱いてしまっている可能性もある。
上手いこと闇の書の闇を切り離せたとしても、初対面の相手……しかも自分を追い回した者の仲間と一緒に戦うことになる。
連携に支障が出ないと言う保証は無く、闇の書の闇の対処が出来るかについても賭けになってしまった。
とは言え、今は目の前の事態の対処を優先しなくてはならない。
「それで、どうすればいいの。お姉ちゃん」
「無限書庫で見付かった情報だと、このまま放っておけば闇の書は暴走を始めて世界を破壊してしまう。
止められるのは今はあの中で眠っている主だけ。
私達に出来るのは眠っている主を叩き起こすことよ」
展開に追い付けず、情報を事前に説明出来なかった為、要点だけを絞って伝える。
正直、闇の書の完成を察知して暴走前に駆け付けることが出来たことさえ運が良かったとしか言いようがない。
守護騎士達が何故同じ世界に戻って潜伏していたかは分からないが、これが別の世界であればおそらく感知できなかっただろう。
「叩き起こすって……どうやるの? まどか」
「呼び掛けてダメなら実力行使ね。まぁ、ほぼ間違いなく後者になると思うけど。
魔力ダメージでぶっ飛ばすのよ、手加減抜きで」
「ハッ、分かり易くていいじゃないか!」
死んでしまったユーノの代わりに作戦を提示するが、反応したのはなのはではなくアルフ。
その事実に、変わってしまった流れを想い一抹の寂寥感を感じてしまう。
「魔力ダメージだと俺はあまり役に立てないな」
「アレは使える?」
「ああ、大丈夫だけど……」
「じゃあ準備をお願い。最後のトドメは砲撃で行くけど、そこまでの時間を稼ぐ必要があるわ」
「分かった」
優介の返答を受けて、作戦を組み立てる。
闇の書の管制人格は今は突然現れた私達に警戒して動きを止めているが、それも時間の問題だろう。
「なのは、フェイト、アルフ!私達は優介が切り札を使うまで闇の書の管制人格を押さえるわ。
私とアルフが前衛で押さえるから、フェイトは中距離、なのはは遠距離で攻撃!
優介が切り札を使ったらその間に砲撃魔法のチャージに入りなさい。
アルフは砲撃を確実に当てる為にバインドの準備をして」
「切り札って?」
「まぁ、見ていれば分かるわ」
なのはが興味を刺激された様子だが、説明している時間はない。
百聞は一見に如かずとも言うし、見て貰った方が早い。
「さあ、まずは呼び掛けてみましょ……八神はやてさん! 聞こえてる!?」
私は半ば無駄と思いつつも呼び掛けるが、返答は広域殲滅魔法だった。
「く、有無を言わさずって感じね」
「初撃はこっちで引き受ける!
I am the bone of my sword……
優介が前に出て花弁の盾を展開する。
「アルフ! 相手の魔法が止まったら突撃するわよ!
準備はいい?」
「こっちはいつでも大丈夫だよ!」
管制人格のデアボリック・エミッションは優介の
「今!」
私は叫びながらライジング・ソウルを双剣モードにして管制人格へと切り掛かった。
「……盾」
切り掛かった私に対し、管制人格は障壁を展開し受け止める。
しかし、この状況でそれは悪手だ。
「うおおおぉぉぉぉーーーー!」
私は一歩下がると入れ替わりでアルフが障壁に対して拳をぶつける。
バリア・ブレイクが得意なアルフによる攻撃は数瞬拮抗すると障壁を粉々に打ち砕く。
その瞬間、私は再度切り掛かった。
「ハッ!」
管制人格は障壁の再展開が間に合わないと察したのか、翼を羽ばたかせると上空に回避する。
「ハーケンセイバー!」
しかし、避けた先に今度はフェイトのバルディッシュから魔力刃が撃ち出されて回転しながら管制人格に迫る。
体勢が崩れており回避は間に合わないタイミング、管制人格は右手を迫る魔力刃に向けて翳すとバリアを張る。
「ディバイーーン……バスターーーー!!」
フェイトの魔力刃を防ぐために動きが止まった管制人格に対して、遠距離からなのはが砲撃を放つ。
管制人格は右手で魔力刃を防ぎながら、左手を砲撃に向けてもう1つのバリアを張る。
砲撃はなのはが撃ち続けているため拮抗しているが、魔力刃は既にフェイトから離れているためこれ以上の出力は出ない。
フェイトの魔力刃は回転が止まると同時に消滅し、管制人格は用済みとなった右手のバリアを消して代わりに紅い魔力刃を創り出す。
「穿て、ブラッディ・ダガー」
「避けなさい!」
私は叫ぶと足元に作ったスフィアを蹴ってその場を退避する。
緊急避難は飛行魔法よりもこちらの方が早い。
次の瞬間、10を超える魔力刃がさっきまで私が居た場所を貫いた。
回避した先にも3本程向かってきたが、両手に持ったライジング・ソウルの双剣で切り落とす。
「みんな、無事!?」
「うん、大丈夫」
「何とか、危なかったけど」
「一発喰らったけど、これくらいヘッチャラだよ!」
私の問い掛けにそれぞれから回答がある。
アルフはかわしきれなかった様だが、軽傷で済んだ様だ。
私はふと、返答が無かった優介の方を窺う。
優介は円盤の様なものの上に立ち、詠唱を続けていた。
デバイスの製作を一緒に行っていたから分かるが、あれは優介のデバイス──ムーンライトのフルドライブ、ソーサーモードだ。
通常、フルドライブは効率を度外視した攻撃力の高いモードが多いが、優介のソーサーモードは一切の攻撃手段を持たない。
ミッドチルダ式魔法に拠らない攻撃手段を持つ優介だからこそ役に立つ、飛行と回避に特化したモードだ。
主目的は優介の切り札使用のための補助だ。
詠唱が終わる。
「……So as I pray, 『unlimited blade works』. 」
炎が走り、世界が書き換わった。
無数の剣の突き刺さった赤い荒野が広がる。
遠くには巨大な歯車が音を立てて回転し、ふいごの熱気が充満する。
ここは練鉄の英霊が抱いた心象風景……固有結界『無限の剣製』。
「ええぇぇぇ!?」
「な、これは……?」
「何だいコレ!?」
展開された固有結界になのは達が驚愕しているが、事前に知っていた私と違い、いきなり世界が変わったら驚くのも当然だろう。
しかし、状況を考えれば驚いてばかりいられても困る。
「なのは、フェイト!
驚くのは後にして砲撃の準備をしなさい!
アルフはバインド!」
私の声に、3人は戸惑いつつもそれぞれの魔法の準備に取り掛かる。
私もデバイスを杖にモードチェンジし、先端に魔力を集中する。
「行くぞ、闇の書。魔法の貯蔵は十分か」
どこぞの英雄王に対峙した衛宮士郎の台詞を捩って、優介が闇の書の管制人格に対して攻撃を開始する。
固有結界の中において、優介が剣製可能な刀剣は全てその世界に最初から存在しておりタイムラグなしに攻撃が可能だ。
それこそ、英雄王と同等以上の宝具の雨を降らすことも可能となる。
東洋西洋問わずにありとあらゆる刀剣が荒野から浮かび上がり闇の書の管制人格に迫る。
管制人格はバリアを張り宝具の雨を防ごうとしたが、贋作と言えど宝具の攻撃は並大抵ではなく、数秒の均衡の後に障壁は砕け散り、宝具の雨は管制人格へと降り注いだ。
しかし、彼女は障壁での防御が追い付かないと悟った瞬間、防御を迎撃に切り替え無数の紅い魔力刃を形成し、宝具の雨へとぶつけた。
「ブラッディ・ダガー、ジェノサイドシフト」
百を超える魔力刃が撃ち出され、宝具へのぶつかっていく。
それも一度ではなく、連弾で次々と撃ち出されては宝具を迎撃する。
勿論、ランクは様々とは言え宝具は宝具、魔力刃の1つや2つで対抗出来るものでもない。
しかし、数十を超える魔力刃がぶつけられれば話は別だ。
管制人格は質より量の作戦に出て、魔力刃を次々と生み出しながら宝具へとぶつけていった。
宝具の雨を凌がれていることに優介は驚いているが、元々彼の役目は砲撃の準備が整うまでの足止めだ。
その意味において、優介は自身の役目をキッチリと果たしてくれている。
≪優介! 固有結界が解けるまで後どれくらい!?≫
この作戦はタイミングが重要だ。
折角時間を稼いで砲撃魔法を撃っても、避けられたり防がれたりしたら意味が無い。
固有結界が消滅する瞬間に間髪入れずに攻撃を仕掛けなければならないのだ。
≪後10秒!≫
≪了解……みんな、もうすぐ優介の結界が消えるからバインドで動きを止めて砲撃を叩き込むわよ!
5……4……3……2……1……今!≫
カウントダウンが終わった瞬間、固有結界が粉々に砕け散り元の世界に戻る。
管制人格はその急激な変化に対して反応出来ずに硬直した。
「チェーンバインド!」
動きが止まった管制人格にアルフのバインドが絡み付き拘束する。
おそらく数秒でバインドブレイクされてしまうが、それだけあれば十分。
「ディバイーーンバスターーーー!!」
「サンダーースマッシャーーーー!!」
「ライジングキャノンーーーーー!!」
3方向からの砲撃が狙い違わずに管制人格を飲み込んで突き抜ける。
非殺傷設定のため傷にはならないが、魔力ダメージによる衝撃は相当なものの筈。
このショックで八神はやてが目を醒ましていてくれれば……。
立ちこめる爆煙が徐々に晴れていくのを固唾を飲んで見守る。
そこには、不自然に硬直したまま動かない管制人格の姿があった。
アルフのバインドは既に解けているが、管制人格は動こうとしない。
宙に浮いているし気絶しているわけでも無さそうだが、意識が身体に伝わっていない。
おそらくは、内側で八神はやてが目を醒まし、管制人格……いやリインフォースと話し合っているのだろう。
であれば、そろそろ……。
≪外の方! 管理局の方!
こちら、そこの子の保護者、八神はやてです!≫
来た!
念話ではやてからの呼び掛けが私達の元に届く。
「八神はやてさん! 民間協力者の高町まどかです!
単刀直入に聞きますが、闇の書……いえ、夜天の魔導書は制御出来そうですか?」
≪魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、自動行動の防御プログラムが走っていて管理者権限が使えないんです!
すみません、何とかその子を止めて貰えませんか?≫
「分かったわ、すぐに出してあげるからちょっと待っていて。
なのは、フェイト! もう一発行くわよ!」
「分かった、お姉ちゃん!
レイジングハート! エクセリオンモード!」
≪All Right.≫
「了解、まどか!
バルディッシュ! ザンバーモード、行くよ!」
≪Yes,Sir.≫
私の呼び掛けになのはとフェイトがそれぞれのフルドライブモードを解禁する。
「ライジングソウル、こっちもバスタードモード使うわよ!」
≪Roger!≫
私も両手剣に変形させたデバイスを後に振りかぶり、魔力を集中する。
「エクセリオン」
「スプライト」
「
先程の砲撃以上の魔力を籠めて、再度の集中砲火が放たれる。
「バスターーー!!!」
「ザンバーーー!!!」
「
動かない闇の書の管制人格……いや、その姿をした防御プログラムに放たれた3つの極光は外れることなく彼女を直撃した。
【Side out】
時は僅かに遡り、時空管理局本局の執務室で5人の男女が対峙していた。
1人はギル・グレアム提督、この執務室の主であり管理局の顧問官を務める英雄とまで言われた初老の男性だ。
その背後に寄り添い立つのは猫の耳が生えた少女が2人、グレアム提督の使い魔であるリーゼロッテとリーゼアリアの姉妹だ。
3人に対しているのは2人の執務官、クロノ・ハラオウンとテスラ・フレイトライナーだ。
2人は変身魔法を駆使して仮面の男として暗躍していたリーゼロッテとリーゼアリアの2人を捕え、この執務室を訪れていた。
「リーゼ達の行動は貴方の指示ですね、グレアム提督」
「違う、クロノ!」
「あたし達の独断だ、父様は関係ない!」
クロノの詰問にリーゼ姉妹が反論する。
しかし、それを止めたのは詰問されたギル・グレアムの方だった。
「ロッテ、アリア、いいんだ……。
クロノはもう、粗方の事を掴んでいる。
違うかい?」
最後の問い掛けに対し、クロノはしばし俯くと決心した様に顔を上げて自身の調査結果と推理を話しだした。
「11年前の闇の書事件以降、提督は独自に闇の書の転生先を探していましたね。
そして発見した……闇の書の在り処と現在の主、八神はやてを。
しかし、完成前の闇の書と主を押さえてもあまり意味が無い。
主を捕えようと闇の書を破壊しようとすぐに転生してしまうから。
だから、監視をしながら闇の書の完成を待った」
クロノは一度言葉を切ると、グレアムに対して真っ直ぐに見詰めて問い掛ける。
「見付けたんですね、闇の書の永久封印の方法を……」
真っ直ぐに見詰めるクロノに対して、グレアムは少し逡巡するが目を逸らしながら罪を告白する。
「両親に死なれ、身体を悪くしていたあの子を見て心は痛んだが……。
運命だとも思った、孤独な子であればそれだけ悲しむ人は少なくなる」
封筒と写真……おそらくは八神はやてから保護者であるグレアムに対して届けられたそれを提示しながらクロノは更に問い詰める。
「あの子の父の友人を騙って生活の援助をしていたのも、提督ですね」
「永遠の眠りに着く前くらい、せめて幸せにしてあげたかった……偽善だな」
「封印の方法は闇の書を主ごと凍結させて次元の狭間か氷結世界に閉じ込める……そんなところですね」
「そう、それならば闇の書の転生機能は働かない」
クロノの問い詰めに、我慢が出来なくなったのかリーゼ姉妹が叫ぶ。
「これまでの闇の書の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてんだ。
それと何にも変わんない!」
「クロノ、今からでも遅くない……あたし達を解放して!
凍結を掛けられるのは暴走が始まる瞬間の数分だけなんだ」
しかし、クロノは表情を変えずにそれを拒絶する。
「その時点ではまだ闇の書の主は永久凍結をされるような犯罪者じゃない……違法だ」
「そのせいで! そんな決まりのせいで悲劇が繰り返されてんだ、クライド君だって……」
「管理局は……」
それまで一言も発していなかった少女が唐突に言葉を挟む。
その声は決して大きな声ではなかったが、不思議と響き部屋にいた4人の注目を集めた。
「管理局の大義は治安と秩序の維持、人命を守ることは重要ではあるが絶対ではない。
多数の安寧のために少数を犠牲にすることは肯定されるわ」
「フレイトライナー執務官!?」
隣に座る少女の大胆な発言にクロノが疑問に声を上げる。
「たった1人の少女の人生と第97管理外世界に住まう数十億人の生命、秤に掛けるまでもないわね。
ましてや、今後において闇の書が出し続ける被害を考えれば尚更に。
その点において……ギル・グレアム、貴方の採ろうとした方法を私は肯定しましょう」
「な!? 本気ですか?」
「君は何を……」
突然の掌返しにクロノだけでなくグレアム一派も戸惑いを見せる。
クロノの態度を見るに示し合わせての行動ではなさそうだが、一緒になって捕えておきながら一体何のつもりか。
「ああ、勘違いしないで欲しいわね。
私が肯定すると言ったのは『方法』であって『計画』じゃないわ、グレアム『元』提督。
貴方達は既に犯罪者であり、私は貴方達に味方する気なんて微塵もない」
上げて落とす彼女の言葉にグレアムは僅かに顔を顰めた。
後に立つリーゼ姉妹は無礼な言動に目を吊り上げて怒りを露わにしている。
なお、実際には彼女の言は正しくない。
グレアム一派の行動はアースラの関係者の範囲でしか知られておらず、公になっていないため犯罪者にはなっていない。
提督としての地位も顧問官の権力もそのままだ、少なくとも現時点においては。
「ただ一つだけ聞きたいの。
貴方の採ろうとした方法は管理局上層部にとっても受け入れられる余地は多分にあった筈。
英雄とまで言われた貴方が提唱するなら尚のこと。
ハラオウン執務官の言う通り個人が行えば違法行為だけど、管理局の作戦行動として承認を受ければその限りじゃないわ。
このことは貴方も考えたと思うのだけど、どうしてそうしなかったのかしら?」
「そ、それは……」
「答えられないのなら代わりに答えてあげましょうか?
貴方は結局復讐がしたかっただけ。
闇の書の悲劇を終わらせるとかそういうことはどうでもよくて、ただただ自分の手で憎いロストロギアを破壊したかったのよね」
「ち、違……!?」
「結果だけを求めているならさっき言った通り管理局としての行動で構わなかった筈でしょう。
いいえ、そちらの方が危ない橋を渡る必要も無いし蒐集だってスムーズにいったと思うわ。
『自分の手で』と言う部分に拘らなければ、全ての点でそちらの方が良かった筈よ」
浴びせられる正論に、グレアムは顔を真っ青にして俯いた。
「……確かに」
しばらくの沈黙の後、グレアムはポツリと言葉を発した。
「確かに、そう言われても否定出来ない部分があるのは理解している。
闇の書を憎んでいるのも事実、自分の手でと思ったことも間違いない。
しかしそれでも……闇の書の悲劇を終わらせたいと思った気持ちもまた嘘ではない」
「そう……まあいいでしょう。
どちらにせよ貴方の計画は御破算よ」
「分かっている、ここまできて悪足掻きはせんよ」
そう言うと、グレアムはクロノに自らの計画の肝であった特注のデバイスを託した。