【Side テスラ・フレイトライナー】
「随分とふざけた状態になっている様ね……」
空間ディスプレイに表示された報告書を閲覧していた私は、その内容に呆れて思わず声を上げた。
読んでいた報告書はP・T事件のものだ。
三佐待遇の執務官である私は事件のほぼ全ての情報を閲覧する権限を持っている。
にも関わらず、この報告書で閲覧出来ない部分があることがまず異常だが、見ることが出来た部分だけでも十分に原作から外れていることが分かった。
そう、この報告書と原作の違いが分かる私は転生者だ。
神を名乗る者に7枚のカードからクラスを選択して与えられた特典と共に、この世界に転生させられた。
『ラグナロク』……彼らがそう呼ぶ戦いの参加者として。
私が選んだのは魔術師のカード……SSSランク魔導師の才能だ。
この世界は魔法の力が強い程、権力と言う力を手に出来る。
第一管理世界ミッドチルダへ転生することを選んだ私は管理局高官の両親の間に生まれ、幼い頃から天才と呼ばれて順風満帆な人生を歩んできた。
8歳で管理局に入局し、9歳で史上最年少で執務官となった。
今では「海」のエースオブエースなどと呼ばれ管理世界中の名声を集めている。
将来を約束された私は、このまま行けば全てに恵まれた人生を歩んでいける。
その為にも、この『ラグナロク』を乗り切らなければならない。
P・T事件は敢えて介入せず、情報収集に専念することにした。
管理局の執務官である私は待っているだけでアースラが集めた情報を見ることが出来るのだから、何も難しいことは無い。
「と思っていたのだけど、まさか初っ端から狂ってるとはね」
ユーノ・スクライアが真っ先に死ぬなど予想外にも程がある。
おそらく転生者によるものだと思うが報告書には犯人について書かれていない、いや書かれているが閲覧出来ない。
出だしから狂ってる割にはプレシア・テスタロッサやフェイト・テスタロッサの結末については概ね正史と変わっていない様に見えるが、協力者として表彰されているのは3人。
高町なのはは良いとしても、問題な残りの2人。
高町まどかと松田優介、この2人はどう見ても転生者よね。
分かり易くて助かると言えば助かるけど、長生き出来ないタイプね……って私も分かり易さで言えば同じか。
「それにしても、何なのかしらこの閲覧制限は。
佐官権限でも見られないなんて……」
閲覧制限が掛かること自体は珍しいことではないが、佐官クラスでも閲覧出来ないと言うのはあまり見ない。
こう言う場合は大抵において管理局上層部の意志が絡んでいる場合が殆どだ。
もしかして管理局上層部に他の転生者が居て、そいつがユーノを殺した?
あり得ない話ではないが、何故ユーノを殺す必要があったのかが不明だ。
まぁ、ユーノは淫獣とか呼ばれて嫌う人間は嫌っていたキャラだから、その可能性は無いとは言えないか。
それにしても、佐官クラスにすら情報制限を掛けられる程の上層部に転生者が潜んでいるとしたらゾッとしない。
私は目立ち過ぎているから、そいつには既に転生者だと知られているだろう。
これまで動きを見せていないことからまだ大丈夫だと思いたいが、いつ任務に見せ掛けて始末されるか分かったものじゃない。
おそらく、今まで私が殺されていないのは私が管理局に有益な存在であるため、不自然に始末すれば周囲から疑念を抱かれるからだろう。
「いずれにしても、情報を制限される可能性がある以上は私も前線に出向くしかないか」
待っているだけで全ての情報を得られると思っていたが、今後も閲覧制限を掛けられる可能性がある以上はそうも行かない。
「闇の書事件は半年後か。
アースラへの転属願、今出しておけば間に合うわね」
前線で直接に情報を得ていれば閲覧制限に邪魔されることも無い。
直接得た情報と閲覧制限の対象を比較すれば、隠蔽を図った相手の事を探るヒントも得られるだろう。
狙うのは上層部に潜んだ転生者の在否の確認、居るとしたらその尻尾を掴むこと。
主人公の周囲に居る転生者2人にも死んで貰うつもりだが、私のキャリアに傷を付けるのは拙いから直接的に手を下すわけにはいかない。
理想は上手く指示を出して死に追いやることだ。
【Side 高町まどか】
「それで、闇の書事件はどうする?」
夕食後、携帯電話で優介と連絡を取り、今後の打合せを行う。
『どうすると言われても……どんな選択肢があるんだ?』
「1つ目は正史通り。
八神家は無事だけどリィンフォースは消滅して心に傷を残すし、蒐集で被害は出る」
簡単に言っているけど、まずこれが難しい。
私達の様なイレギュラーが居るから正史通りの展開になる可能性が低い。
加えて、最後には八神はやてが夜天の魔導書を制御できるか否か次第になってしまう。
優介は電話の向こうで黙って考え込んで居る様なので、続いての選択肢を話すことにする。
「2つ目は事件自体の阻止。
あなたが
蒐集の被害は出ないし八神はやては助かるけど、ヴォルケンリッターは八神家とは無関係になるし、
闇の書自体も問題の先送りで解決しない」
その為だけに使い魔契約をしたりしたら、フェイトやアルフに物凄く怒られそうね。
八神家を監視しているであろう猫姉妹なら試しても……いや、ギル・グレアムに目を付けられるから駄目か。
『それは駄目だろ。
闇の書は今後も被害を出し続けるし、ヴォルケンリッターが居ないと10年後のJ・S事件が解決出来なくなるかも知れない』
それもそうか。
唯でさえジェイル・スカリエッティや戦闘機人が居るのに、下手をすれば転生者が敵側で登場する可能性もある。
戦力は少しでも多い方がいい。
「3つ目は基本的に正史通りに進めながら、リィンフォースを救う手立てを探すこと。
但し、具体的な方法は今の所思い付かないし、蒐集の被害は出てしまう。
この3つくらいかな、今思い付くのは」
そんな方法が存在するのかどうかすら分からないけれど、見付かればこれが理想的だ。
蒐集の被害は出てしまうけれど、ヴォルケンリッター込みで八神家を救う為には闇の書の完成が必須なので、この2つは両立し得ない。
『蒐集の被害だけど、死人は出ないんだよな』
「正史通りであれば、だけどね。
でも、干渉しなければそうなる可能性が高いと思う」
『なら、最後の案かな。
リィンフォースを探す手立てを探して、駄目だった場合でも正史通りの結末になるように動く』
簡単に言ってくれるわね。
「その方法を探すのも困難だし、正史通りも結構ハードルが高いけどね……。
まぁ、方針については私も同意するし、それで行きましょうか。
あ、あと1つだけ注意点が」
『? 注意点?』
「ええ、貴方は絶対に蒐集されない様に気を付けること。
……例えその為に私やなのはを見捨てることになってもね」
これは必須条件だ。
しかし、私達を身捨てろと言う部分について、優介は納得しなかったらしく電話越しに不満そうな雰囲気を感じる。
『……なんでさ?』
機嫌を損ねたのか、少々固い声で問い掛けが返ってくる。
「闇の書が完成した時、蒐集した魔法を使うリィンフォースと戦わなければいけないのよ。
原理が違うから大丈夫だと思いたいけど、もし貴方の投影魔術をリィンフォースが使えるようになってしまったら手が付けられなくなるわ」
666頁分の魔力を用いて降り注ぐ宝具の雨……想像するだけでゾッとする。
『た、確かに……分かった、気を付ける』
優介も同じ様な想像をしたのか、納得してくれた様だ。
「それで、リィンフォースを救う手立てなんだけど、具体的な案は何も無いけど可能性があるとしたら2つだと思う」
『2つって言うと?』
「1つは無限書庫。正史では結局見付かってないけれど、夜天の魔導書のオリジナルデータが見付かれば修復出来ると思うし」
あらゆる情報が集まるという話だし、正史よりも早い段階で無限書庫の調査を行えば、もしかしたら……。
「もう1つは転生者の特典。元々この世界に存在しないものだからこの世界の力で出来ないことでも出来る可能性がある。
ただ、こちらについては他力本願だから、あまり期待できないわ」
『そうだな。だとすると、俺達が出来ることは無限書庫の調査か』
「ええ、デバイスの件で本局に行く予定だし、その時にでもクロノ経由で無限書庫の入室許可を申し出てみましょう」
『分かった、それで行こう』
『……そう言えばデバイスで思い出したけど、レイジングハートってどうなったんだ?
元々、ユーノの持ち物だった筈だけど』
「まあね、クロノ経由でスクライア一族に連絡してなのはに持たせる許可を貰っているところよ。
レイジングハート本人もそれを望んでいるし、これまで誰も出来なかったマスター認証がされている。それに、ユーノの遺志を継いで事件解決に貢献したことを伝えれば、彼らの性格上まず断られることはないだろうって」
『そっか。
まぁ、ユーノが生きていても死蔵するより役立てることを望んだと思うし……』
「今後の事件解決にも、レイジングハートがあるとないでは大違いだからね」
【Side ラインハルト】
『城』の玉座の間にて、空間ディスプレイを表示する。
6つのディスプレイが表示されるが、映像が映っているのはその内半分の3つのみ。
Saber :高町まどか
Archer:松田優介
Caster:テスラ・フレイトライナー
「結局、P・T事件での脱落者は無しか。
まぁ、悪い話ではないが」
私が本番としているのは10年後のJ・S事件だ。
P・T事件は予兆に過ぎんし、この後起こるであろう闇の書事件も前哨戦に過ぎない。
そう言う意味では、この段階で早々に脱落されては拍子抜けと言うものだ。
「それにしても、転生者の情報は中々集まらんな」
7人居る筈の転生者の内、所在が判明しているのは私を含めて4人。
残りの3人については全く情報が存在しない。
P・T事件に介入してくる人間がここまで少ないのも予想外だ。
介入しなかったのか出来なかったのか分からんが、『ラグナロク』に強制的な決着が予定されていて逃れられない以上は、逃げ回ることに利は無い筈。
あるいは情報収集のために陰に潜んだ可能性もあるが、次の闇の書事件を過ぎれば舞台はミッドチルダへと移る。
仮に地球に転生した者がまだ居る場合、闇の書事件に介入しなければそれ以降の関与も難しくなる筈だ。
であれば、闇の書事件には確実に介入がある筈……『ラグナロク』への参加を拒絶していない限りはだが。
「いや、その可能性もあり得るか……?」
『ラグナロク』は終了時点で2人以下になっていなければ、最後の1人まで潰し合うバトルロイヤルと化す。
逆に言えば2人までであれば生き残るチャンスがあると言うことであり、それが同盟の根拠にもなっている。
しかし、もし最初から単独勝利を諦めて2位の生存を狙って潜伏する参加者が居たのなら……。
「闇の書事件で地球人の介入者が増えない場合は、一度この国を虱潰しに調べた方が良いか」
幸いにして、転生者は最低Aランクの魔導資質を有していることが分かっている。
ミッドチルダであれば捜索は困難を極めるが、地球においてはそれだけの魔導資質を持つ者は殆ど居ない。
魔導資質の持ち主を洗い出し条件を絞っていけば、手間は掛かるが必ず付き止められる筈だ。
「失礼致します」
そこまで考えた所で、部屋の入り口から声が掛かる。
開け放たれた大扉の前に、エレオノーレが直立していた。
「ああ、入りたまえ」
「ハッ!」
律儀にも扉の前で待機していた赤騎士は声を掛けると、玉座の下の階段前まで進み出る。
「命を受け推参致しました、ハイドリヒ卿」
「ああ、ご苦労」
エレオノーレを真っ直ぐに見据えながら言の葉を紡ぐ。
「卿に1つの任務を任せたい」
「なんなりとご命令を」
打てば響く様に即答が返ってくる。
「永遠結晶エグザミア……覚えているかね」
「ハイドリヒ卿がとある男に貸し与えた魔力石であったと記憶しております。
しかし、この男……恐れ多くも持ち逃げし行方を眩ませたかと」
およそ数百年前、請われて貸し与えた魔力石。
ユリウス・エーベルヴァインと言う科学者に下賜したそれは、持ち逃げされ行方は分からなくなっていた。
「そうだ。
あの時、『貸し与えたものは何れ回収する』と言ったな」
「それでは……」
空間ディスプレイを表示し、記録映像を幾つか再生する。
中央の一番大きな映像にはベルカの剣十字が表紙に付いた茶色の書物が表示されている。
「ロストロギア、闇の書。
無限の再生と転生を繰り返し、魔導師のリンカーコアを蒐集し力を蓄えて無差別破壊を引き起こす呪いの魔導書だ。
貸し与えた魔力石で造られたモノはこの中に封印されている様だ」
「この中に……でありますか」
「正確には、闇の書が暴走する原因である防衛プログラムの中にだ。
尤も、暴走するプログラムの中にあると言うよりは、あれが中にあるせいで暴走すると言った方が正しいか。
無限再生や無限転生の原因も同じだろう」
過剰なエネルギーが暴走の原因であり、それらのエネルギーを用いているため再生や転生が行われる。
勿論、過去の改変も無関係ではないが、それらを支えるエネルギー源はあの魔力石だ。
「卿に任せる任務は魔力石の回収の準備だ。
あれを取り出すには闇の書を完成させる必要がある故、闇の書の蒐集を進めて貰いたい」
「魔導師を狩ってリンカーコアを蒐集させよ、と言うことでしょうか」
「ああ。
但し、蒐集自体は放っておけばオプションである守護騎士プログラムが勝手にやるだろう。
卿はその妨げになるであろう管理局の相手をしていれば良い」
八神はやての周囲に転生者らしき存在は見当たらない。
正史よりも管理局側の戦力が上がっている以上、テコ入れしないとバランスが崩れるのは必至。
あまりに管理局側が有利だと、下手をすれば闇の書が完成しないまま事件が収束してしまう恐れがある。
「ベイとマレウスを付ける。
また、有事の際には海鳴市に待機中の騎士団員を使って構わん」
「jawohl,mein Herr!」
胸の前で水平に翳した腕を真っ直ぐに斜め前に伸ばし敬礼すると、エレオノーレは退出する。
「呪われた闇の書に選ばれた少女と守護騎士、管理局勢に転生者、加えて復讐を目論む過去の英雄。
前哨戦の第二幕は前幕と異なり命懸けとなるだろうが……卿ら、私を失望させてくれるな」
(後書き)
勘違い 嗚呼勘違い 勘違い
情報規制のおかげでテスラさん、すっかり誤解してます。
そしてA'sにはザミエル卿が投下。