魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Unus Mundus(dies irae)


02:戦争への誘い

「……………………………………………………?」

 

 光のない、上も下も分からない世界で唐突に目を覚ました。

 

「ここは……?」

 

 誰に問うでもなく、言葉を漏らす。

 取り合えず、辺りを見回してみようとしたその時、背後から声が掛けられる。

 

「気が付いたようですね」

「!?」

 

 気配もなく突然掛けられた声に対し、バッと振り返りそちらを見る。

 するとそこには、ノースリーブの黒いゴシックロリータを纏った少女が立っていた。

 自然にはあり得ない紫銀の髪を膝まで伸ばした、人間とは思えない程美しい顔立ちをした少女だ。

 

「君は……?」

「混乱しているとは思いますが、単刀直入に言います。

 貴方は死にました。そしてこれから転生してもらいます」

 

 

 

 

 

【side ??? ??】

 

「……は?」

 

 問い掛けを無視し返された言葉に呆然とする。

 死んだ? 転生? 何を言っている?

 

「とは言え、貴方の転生は一般的な輪廻転生とは違います。

 貴方にはとある世界で行われる『戦争』に参加して欲しいのです」

 

『戦争』だと?

 

「何故そんなことをしなければならない?拒否権は?そもそも何故俺なんだ?」

「選ばれたことに特に理由はありません。ランダムに偶々選ばれた、というだけです。

 拒否することは可能ですが生き返ることは出来ませんので、

 結局は何処かの世界に転生することになります。

 転生先はランダムですが、逆に言えば保障がないとも言えます。

 また、その場合は通常の輪廻に戻る形になりますので、記憶も残りません。

 現在の様に名前のみの消去ではなく、全ての記憶を消します」

「名前の消去?」

 

 何故かその言葉に凄まじい悪寒を感じて問い返す。

 

「はい。今の貴方は名前が消去された状態です。

 現に思い出せない筈です、自身の名前を」

 

 名前? 名前が思い出せないってそんな馬鹿な。

 俺の……俺の名前は……!?

 何故だ!? 出てこない!

 これまでの人生の記憶はあるのに、読んだ本や聴いた音楽の内容すら思い出せるのに、

自分の名前やそれに繋がることだけが思い出せない。

 

「何故こんなことをした!?」

「転生先に馴染む為には必要な処置です。

 前世の自分を完全に記憶したままでは色々と齟齬が生じますから」

 

 確かに前世の自分を記憶していたら違う名前で呼ばれても自分のことと認識出来ないかも知れない。

 他にも思い付くこととして弊害は多そうだ。

 しかし、だからと言って……。

 

「さて、それでは話を続けます。

 『戦争』──私達は『ラグナロク』と呼んでますが──に参加する場合は、

 このカードの中から1枚選択してもらいます」

 

 言い放つと同時に手を振るうと目の前に7枚のカードが出現する。

 

  セイバー  (剣の騎士)

  ランサー  (槍の騎士)

  ライダー  (騎乗兵)

  バーサーカー(狂戦士)

  アサシン  (暗殺者)

 

 残り2枚は裏面となっているが、アーチャー(弓の騎士)とキャスター(魔術師)だろう。

 見覚えのある柄に思わず呟く。

 

「聖杯戦争?」

 

 ゲーム『fate/stay night』において「万能の釜」や「願望機」とも呼ばれる手にする者の望みを実現させる力を持った存在、聖杯。これを手に入れるための争奪戦が聖杯戦争。冬木の地で行われるそれは、聖杯によって選ばれた七人のマスターが歴史上の英雄をサーヴァントと呼ばれる特殊な使い魔として召喚・使役して戦い合うもの。目の前のカードはサーヴァントの能力を当て嵌め魔術師にも召喚出来る様に削ぎ落とすための(クラス)を示すカードだ。

 

「参考にはしましたが、あれとは異なります。

 そもそも、聖杯などありませんし、サーヴァントを召喚するのではなく、

 7人の転生者自身が与えられた特典を用いて戦う形になります」

「特典?」

「ええ、力、能力、武器、なんでも構いません。

 それらの特典と生まれる年代と場所を選択してもらいます。

 ああ、そうそう。言い忘れていましたが、

 戦場として選ばれたのは『魔法少女リリカルなのは』の世界です」

「何でわざわざそんな世界を戦場に……?」

 

 げんなりして項垂れる。

 

「それも特に理由はありません。ランダムに偶々今回は選ばれた、というだけです。

 と言うか、分かるんですね。リリカル」

「ほっとけ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「幾つか質問したいんだが……」

 

 気を取り直して会話を、否、情報収集を再開する。

 

「ええ、どうぞ」

「聖杯がないなら、何を目的に戦うんだ?

 何か戦うことのメリット、あるいは戦わないことによるデメリットはあるのか?」

 

 目の前の少女、そして姿は見えないがその仲間は転生者達を殺し合わせたがっている。

 ならば、転生者が戦う事を拒否してしまっては意味がない。

 そうさせないために、殺し合いを強制させる飴や鞭がある筈だ。

 

「まず戦わないデメリットについてお答えします。

 定められた時点までに3人以上の転生者が生き残っていた場合、

 強制的に何もない異世界に飛ばされます。

 そこに飛ばされたが最後、生存者1名になるまでは帰還出来ません。

 なおリミットは新暦76年4月28日……機動六課の解散までです。

 尤も、そこまでの展開次第で機動六課自体が存在していないこともあり得ますが、

 その場合でも同日まででタイムオーバーとします」

「タイムオーバーの条件は3人以上なのか?2人以上ではなく?」

「2人で生き残る可能性を許容しないと同盟等を組む余地が無くなりますので、

 ペナルティ回避については残り2人まで勝ち抜くことにしました」

 

 つまり、2人で生き抜くことを目標とするものが居たら、

 何としても自分達以外の5人に脱落してもらう必要があるわけだ。

 3人以上残ってしまったら、残存1名になるまでの強制バトルロワイヤルになるわけだからな。

 

「なお、デメリットの回避は2人でも可能ですが、

 メリットを享受出来るのは単独優勝者のみになります。

 誰か1人が勝ち残った場合のみ、

 この『ラグナロク』の賞品として戦場でもあるリリカル世界の管理権が与えられます」

「世界の管理権?まるで神様だな」

「我々の定義では世界の管理を行うものを『神』と呼びますので、あながち間違いではありません。

 とは言え、世界の外側から管理する我々と比べれば、

 世界の内部の管理者は1段落ちる存在ではありますが」

 

 転生とか言ってる時点で薄々気付いていたが、目の前の少女は矢張り神様みたいな存在か。

 それにしても新たな神を生み出す儀式の名称が『ラグナロク』──神々の黄昏とは皮肉にも程がある。

 

「次の質問だが、特典に制限はあるのか?」

 

 先程は何でも構わないと言っていたが、言葉の綾で限界はあるだろうと思い聞いてみる。

 

「大まかに3つ制約があります。

 一つ目は『選んだクラスに纏わるものでなければならない』ことです。

 この7枚のカードからクラスを選択し、それに関する特典を選択してもらいます。

 例えばセイバーのカードを選んで斬魄刀を特典としたり、等です」

「その例からして、他のフィクションからも選べるってことか。

 ところで、裏になっている2枚は既に選択されたものか?」

「はい、その通りです。

 クラスの重複は禁止のため、既に選択されているアーチャーとキャスターは選べません」

 

 と言う事は、俺で3人目というわけか。

 裏返しの2枚は矢張りアーチャーとキャスターで合ってたな。

 イレギュラークラスはなしと言う事になる。

 真っ先に選ばれていることから選んだ特典も大体想像出来るな。

 アーチャーは「無限の剣製」か「王の財宝」でほぼ間違いないだろう。

 逆にキャスターはfateではなく他の能力。

 転生先を考えれば魔導師としての才能が最も可能性が高いな。

 まぁ、強力な魔法の力なんて様々だから断言は出来ないが……頭の回る相手なら世界に合ったものを選ぶだろう。

 問題は残り5枚の中から何を選ぶかだが、他の制約を聞かないと決められないな。

 

「次に二つ目の制約ですが、『人間か人間から成ったモノの力しか取得出来ない』というものです。

 人間以外の種族まで含めてしまうと神の力なども範囲に入ってしまいますし、

 際限がなくなりますので制約とさせて頂きます。

 これも例示を挙げるならば、真祖の吸血鬼の空想具現化などは選べません。

 そもそもクラスに該当しないと思いますが。

 他にも、王の財宝は不可、無限の剣製は可となります」

「英雄王は半人半神の生まれ、アーチャーは英霊になったとは言え元人間だからか」

「Exactly.」

 

 逆に言えば、人間から成ったモノであれば人外も範疇に含まれると言う事になるか……考慮しておくべきだな。

 待てよ? その条件であれば……

 

「最後は『直接攻撃以外の力は自身と同レベルの相手には半減、10レベル上の相手には無効となる』です。

「レベル? ゲームの中に出てくるような、あれか?」

「概ねその認識で良いのですが、

 一般的なゲームのそれと違いレベルが上がれば強くなると言ったものではなく、

 得た強さに応じてこちらが認定するという形になります。

 また、レベルシステムの対象は転生者だけでなく、その世界の住人も対象です。

 参考までに、一般的な成人でレベル3~5、魔導師ランクAでレベル15、

 Sランクでレベル30程になります」

 

 レベルと言うよりはランクと言った感じだな。

 しかし……

 

「Sランクでレベル30? 随分と低いな。

 その基準では、レベル50を超えるものなど存在しないことになると思うが」

「あの世界の基準で言えばレベル50どころかレベル40で次元世界最強クラスとなるでしょうね。

 しかし、転生者は選んだ特典次第でこれを超えることもあり得ると予測しています。

 なお、転生者は特典なしの状態でも魔導師ランクAに相当する才能をデフォルトで与えられますので、最弱でもレベル15以上になれます」

「成程」

「最初に戻りますが、このレベルシステムで同レベルの相手に対しては直接攻撃以外の能力は50%程の効果になります。

 更に1レベル差が開くごとに5%上下しますので10レベル上の相手には完全無効、

 逆に10レベル下の相手には100%の効果を発揮します。

 攻撃魔法や物理攻撃等の直接相手にダメージを与えるものを除き、

 負の影響を齎すもの全てが対象ですので、即死から能力低下まで全て対象になります。

 ですので、例えばアサシンのカードでデスノートを取得することは可能ですが、

 それによって殺害出来る可能性がある相手は9レベル上の相手まで、

 10レベル上の相手には効果がありません。

 逆に、10レベル下の相手は100%殺害出来ます。

 なお、回復等は負の影響ではないため対象外となりレベル差に関係なく効果を発揮します」

「概ね理解出来たが、レベルはどうやって上がる?

 それと、どうすれば自分や相手のレベルを知ることが出来る?」

「レベル認定は戦闘力の増加に対してオートで行われますし、特に知らせ等はありません。

 そのため、常に気を配っておくことをオススメします。

 なお、転生者には視認することで対象の名前とレベルを見ることの出来る能力が与えられます。

 レベルはそれで確認して下さい。ちなみに、ON/OFFは可能です」

 

 つまり圧倒的な強さを持っていれば、搦め手に足元を掬われることもないわけだ。

 考え付く限りの最強となる選択肢を採るべきだな。

 であれば、矢張り……

 

「なお、転生者は特典の他に『生まれる場所』と『生まれる年代』を選択できます。

 但し、前者は大まかな場所までしか選べません。

 『日本』は選択できても『海鳴市』は選択できません。

 後者については戦場となる世界の主人公である『高町なのは』を基準に年単位で前後を指定してもらいます。

 +1年であれば『高町なのは』の1年年下になることになります。

 注意点としては年単位であり年度ではありません。

 そのため、±0年を指定しても同学年とは限らなくなります。

 また、当然ですが+20年以上は選択できません。

 『ラグナロク』のタイムリミットを超えますので」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「さて、これまでの問答でほぼ確定だとは思いますが、改めて宣言してもらいます。

 私達の主催する『ラグナロク』に参加してもらえますか?」

 

 射る様な視線でこちらを見つめてくる少女。

 回答は……決まっている。

 

「参加しよう」

 

 ここで断っても全ての記憶を消されてランダムに転生させられるだけ。

 名前を消されただけでも恐怖を感じるのに、

 これ以上記憶を消されるのは御免だった。

 例え、その先に待っているのが殺し合いであったとしても。

 

「Good. それでは、クラスカードを1枚選んで下さい」

 

 5枚のカードが目の前まで移動してくる。

 先程考えたカードを視界に収め、手を伸ばしながら問い掛ける。

 

「念のための確認だが、選んだ特典は誕生直後ではなく一定の年齢になったときに取得・発現するように調整できるか?」

「勿論可能です。

 それを不可にすると、武器などを選択した場合に母親の胎内から持っていて惨事になりますし。

 特典の取得を定めた時点までの生存や特典を確実に得られることも運命付けられるためにほぼ確実です。

 ただし、この運命付けは転生者には通用しませんので、

 転生者に妨害されれば特典を手に入れる前に斃されることもあり得ますので注意して下さい」

「そうか。いや、問題ない」

 

 言いながら、カードを掴み取る。

 裏返し、少女に見せる様にかざしながら宣言する。

 

「選ぶのはランサーだ」

「意外ですね。次に選ばれるのはセイバーだと思ってましたが。

 まあ良いです。それでは次に特典を決めて下さい」

「特典は『dies iraeのラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの能力、才能、容姿、魂』だ」

「……は?」

 

 一貫して無表情だった少女がポカンと口を開けて呆然とした姿を見せる。

 どうやらかなり予想外な選択だったようだ。

 我ながら意地が悪いと思うが、少し溜飲の下がる思いだ。

 

 ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。

 ゲーム『dies irae』に登場するナチスドイツの闇に巣食った魔人の集団、聖槍十三騎士団・黒円卓第一位であり首領。

 「愛すべからざる光」「破壊公」「黄金の獣」と呼ばれており、腰まである金髪と金色の眼を持った魔人。殺したものの魂を喰らって強化するエイヴィヒカイトにより幾百万以上の魂を喰らい、またその源である聖遺物『聖約・運命の神槍』の力により殺した相手や聖痕を刻んだ相手を自らのレギオンとして使役する。最終決戦時においてはエイヴィヒカイトの最高位階である『流出』に至り、世界法則の書き換えが可能な覇道神と成り得る超越者だ。

 

 考え得る最強の選択をしたのだが、答えが返ってこないので念のためにもう一度告げる。

 

「望む特典は『dies iraeのラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの能力、才能、容姿、魂』」

「Pardon?」

 

 聞き返されるが、よくよく見るといつの間にか冷や汗を流している。

 

「だから『dies iraeのラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの能力、才能、容姿、魂』だ。

 能力は『座』における水銀との最終決戦時のものを。

 なお、聖遺物である『聖約・運命の神槍』は20歳になった時に取得し能力発現もその時点で行われるようにしてもらいたい。

 才能や容姿は途中で変わるとおかしいので、生まれた時からで頼む」

「やはり聞き間違えではないようですね。

 しかし、それは……」

「ルール通りだし、問題ない筈だ。

 能力の源である聖遺物は『槍』だし、ランサーのカードにも合う。

 神に等しい領域になるが、誕生時に人間であったことも間違いない」

「そ、それは……そうですが」

「それとも、特典が強力過ぎると何か問題でもあるのか?」

「……………………………………………………」

 

 押し黙る少女は強過ぎる力を与えることを躊躇しているように見える。

 

「分かりました」

 

 受け入れた?

 反応を見る為に少々無茶を言ってみたつもりだったが、許容範囲だったのだろうか。

 それとも、強過ぎる力を与えることの問題はそこまで大事ではないということか。

 読めないな……まぁいい、意図は追々考えよう。

 

「特典は『dies iraeのラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの最終決戦時の能力、才能、容姿、魂』。

 20歳に成った際に聖遺物『聖約・運命の神槍』を手に入れ、能力を取り戻す形とします」

 

 手に持ったランサーのカードが光の粒子になり飛び込んでくる。

 衝撃を予想し思わず目を閉じるが特に何も感じなかったため、目を開く。

 すると、ランサーのカードはもちろん、

そこに一瞬前まで存在していた他のカードもいつの間にか姿を消していた。

 

「特典が決まりましたので、次は『生まれる場所』と『生まれる年代』を指定して下さい」

 

 『生まれる場所』と『生まれる年代』。

 特典のついでのように扱われているが、こちらも負けず劣らず重要な選択だ。

 戦場がその世界で行われるだけで、所謂「原作」に関わることは強制的ではない。

 少なくとも、これまでの情報でそれを強いられる要素は無かった。

 しかし、『生まれる場所』と『生まれる年代』次第では関わりたくなくても関わる羽目になることや、逆に関わりたくても関われないことも大いにあり得る。

 

 そして、最も気を付けなければいけないことは『時空管理局』との接し方だ。

 魔法少女リリカルなのはの世界において最大組織である時空管理局。

 数多に存在する次元世界を管理する治安維持組織だが、魔法至上主義に染まり独善的な面もある。

 力があれば幼かろうが犯罪者であろうが組織に組み込もうとする面もあり、

転生者の力は間違いなく目を引くだろう。

 勧誘を受ければ組織の駒に成り下がり、しかし拒めば最悪全次元世界から追われる羽目になる。

 関わらずに居られれば最も良いが、強力な力を持った者が互いに相争うこの『ラグナロク』は最後まで秘匿するのは不可能だろう。

 

「『生まれる場所』は古代ベルカのガレア王国。

 『生まれる年代』は高町なのはの誕生する1000年前だ」

「1000年前!? それでは『ラグナロク』への参加が…………ああ、成程。

 確かに貴方の選んだ特典ならば可能ですね」

「そういうことだ」

 

 聖遺物を兵器として武装化して超常の力を行使するエイヴィヒカイト、

それを修得した者は聖遺物の加護ある限り不老となる。

 但し、幾ら身体が不老となっても精神や魂はその限りではなく、

 100年も経てば精神も魂も死を求める……通常の人間であれば。

 特典に魂まで含めたのはそのためだ。

 黄金の獣の精神力と魂であれば、1000年や2000年で摩耗することはないだろう。

 退屈しない限り。

 

『万軍を凌駕する単騎』、そんな力を得られたとしても矢張り組織というのは厄介だ。

 ましてや『ラグナロク』の敵は別に居り、管理局は横槍を入れてくる立場にある。

 そんな状況で巨大組織に対抗するためには、矢張りこちらも組織が必要となる。

 聖槍十三騎士団だけでは足りない。

 原作開始までの1000年、未だ管理局の黎明すら見えないその時期からであれば、

管理局に対抗し得る組織も立ち上げられるだろう。

 

 古代ベルカにしたのは武力を以って上に立つのに最も都合が良いと思われるため。

 幾つか存在する国からガレア王国を選択したのは、

ラインハルト・ハイドリヒの持つ力と類似したものがその国にあるためだ。

 ガレア王国の冥府の炎王が持つ屍兵器マリアージュは黄金の獣の髑髏の軍勢と近しいものを感じる。

 

「さて、これで全ての選択が決まりました。

 これから貴方を新たな世界に送ります」

 

 少女が片手を此方に向けながら言う。

 

「それでは、ご武運を」

 

 その言葉と共に、自分の身体が光の粒子となって拡散していく。

 完全に消える直前に、少女の呟きが耳に入る。

 

 

 

 

 

「とは言え、そこまで到達するのにどれだけ掛かるかが問題ですが」

 

 そんな言葉と同時に意識が途絶えた。

 

 

 


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