Muv-Luv Unlimited Base Shielders   作:しゅーがく

2 / 20
どうも、しゅーがくです。
今も並行しながら書かせていただいております。
色々と登場人物で悩んでいたところ友人が、「幼馴染でいいんじゃね?(白目)」と言われたので、幼馴染を出してみました。
そもそも、出すつもりはなかったのですがね......。
それでは、episode 1です

ー追記ー
矛盾していた箇所があったので、訂正させていただきました。
シンガポールまで勢力は拡大されていませんね。すみません。


episode 1 第221機械化歩兵中隊と摂津基地

圭吾はコンパクトに纏めた私物を持ち、下ろしたばかりの制服身を包んだ姿である場所に巽と立っていた。

そこは日本帝国中部方面軍内で一番大きな基地である摂津基地の正門の前に立っていた。MPに身分証明書を照合して貰っている待ちに近かった正門の前に立って、そこから見える基地を感じていた。

梅雨に入る前で、気温もそこまで寒く無く、暑くも無い丁度いい気温の中、巽とただボーッと基地を眺めていた。

圭吾は神八城士官学校で受けた強化外骨格装甲の訓練ではとてもいい成績を残し、戦術機乗りにはなれなかった後悔はあるが、その感情を表に出さぬ様に努力してきた。

 

「すみません。お待たせしてしまって。この時期は出入りが多くて......。」

 

摂津基地の正門のMPが圭吾と巽の身分証明書と中部方面軍から来ていた命令書を持って歩いてきた。どうやら照合が終わった様だった。

 

「ありがとうございます。」

 

圭吾と巽は身分証明書と命令書を受け取ると正門を潜り抜け、今日から着任する第221機械化歩兵中隊の中隊長に着任の挨拶をしに向かった。

_________________________________

 

「暑いな。」

 

巽は持っていたハンカチで額を拭きながら圭吾に尋ねた。

正門を潜ったというのに、施設の入り口までは相当距離があるみたいだった。基地司令部のある本棟までには格納庫が所狭しと並んでいる。司令部を中心に縁を描いている様に格納庫が設置されていて不便だと感じた。せめて移動手段位用意されていてもいいと思うのに、などと思った。

 

「それより、移動用の軍用車くらい用意してて欲しいよな。」

 

巽はどうやら喋ってないと暑くて気がどうかしそうなのだろうか、圭吾の返事も聞かずに永遠と歩きながら圭吾に話しかけていた。

 

「それより、何で第221機械化歩兵中隊には揚陸艦が装備されてるんだろうな?」

 

巽の疑問はもっともだった。日本帝国が前線でもない上に、海軍ですらない。一見、どういう意図で装備されているのか検討も就かないだろう。

 

「それは、機械化歩兵の訓練を始めた初日に言っただろう?南進を始めたんだとよ、BETAが。」

 

「それは知ってる。」

 

圭吾と巽はBETA南進について話し始めた。

 

「今じゃ軍事力のある中国はまだしも、発展途上国の多い南アジアは押されに押されてるらしいな。あそこには戦術機を買う金すら無いし、買えたとしてもソ連製の劣化版だろ?」

 

「じゃあ、他の兵士は?機械化歩兵がいるとは思えないが。」

 

「『生身』の歩兵がカラシニコフとRPGを片手に戦ってるらしい。」

 

この話はそこまで有名ではなかったのか、圭吾は訓練兵時代によく世界情勢と国連・BETA大戦の記事を読んでいたのでそこそこ国際情勢には詳しいのだ。

休日も資料室に篭ったり、自室で勉強したり、図書館に行って勉強をしていたのでそういった情報は知っていたのだ。

 

「は?どういうことだ?国連軍も派兵されてるんだろ?」

 

「その国連軍も敗走を続けていて現地住民に構ってられない状況らしい。大損害を蒙っていた国連軍の基地があった町にBETAの大群が押し寄せたんだが、国連軍は町の住民を守ろうともせずに戦術機は命一杯の弾薬と推進剤を、大型トラックは小破していて修理すれば動く戦術機や予備パーツを、小型トラックは基地の将官の貴重品を、軍用車は体の動く兵士や将官を乗せて一目散で逃げたらしい。その町の住民は酷く絶望したが、自警団や現地の軍隊が住民を元気付け、コンクリート作りの建物の地下に篭城したらしい。」

 

「それじゃあ......。」

 

巽は苦いものを食べたような顔をして聞いた。

 

「BETAが去った後、近くの現地軍部隊が町に調査に行ったらしい。町の中で一番損傷の激しい建物を調査したらしいんだが、その建物の中は小型種が蹂躙していて何かがあるのはすぐに察知できたんだろうな。そして建物の傍には体の引き裂かれた民兵らしき死体と空の弾倉と血の付いたナイフ。入り口にはとても民兵とは思えない子供の頭の無い死体、女性の下半身の潰れた死体、さらに奥に入ると鈍器を握った千切れた腕。一番奥、地下への入り口付近には、老いた夫婦だろう、両足が無い死体。最後に地下には上半身の無い子供の死体の山。どの死体も内臓物は腹から出ていて周辺に散乱していた様だ。そんな事がこの地球上で起こってるんだ。罪なき人類を守れずただ敗走を繰り返した南・東南アジア国連軍の一部は既にトリバンドラムまで後退したみたいだな。」

 

巽は顔色を変えて口を押さえていた。圭吾の話した話の内容は普通では耐え難い程の吐き気を催す様だ。巽が今にも胃の中に収まっている合成肉が今にも巽の口から排出されるように思えたが、何とか耐え切った様だったので圭吾も安心した。

 

「インドは現地軍と民兵で構成されたインド軍によって防衛線を敷いたんだが、いつ撤退になっるのか分からないらしいんだが、インド政府は駐留国連軍用のタンカーと貨物船が用意出来てないんだとさ。」

 

「え?じゃあ、残存国連軍は?」

 

「BETAに蹂躙された赤道直下で『残留』だろうな。」

 

圭吾の最後の言葉を聞いた巽は顔から血の気がサァーと引いているのが目に分かる程、真っ青な表情をしている。何かある様に思えた。

 

「あっ......国連軍パキスタン派遣部隊って......インドまで撤退してるって情報は?」

 

「あるぞ?将官数名行方不明で、一般歩兵は壊滅、戦術機部隊はパキスタン派遣部隊の1/3がKIA・MIAしているが、その他の戦車部隊3個中隊、砲兵科戦車約1個師団、その他の人員は動ける者だけはインドまで撤退出来たらしい。でも、撤退用の輸送艦が国連軍が用意出来ないという事が公表されてる。なので罪滅ぼしで南アジア国連軍は撤退する現地軍と資源、兵器、避難民が沖まで出るまで港を死守する作戦を立ててるらしい。」

 

巽は圭吾に聞く前と変わらない顔色で聞いている。圭吾はその話を振られて直ぐに感付けなかったが、ここまで話して巽は何に対して青ざめているのか分かった。『親族がラオス派遣部隊に配属されている』のだろうと。

 

「悪い。あまり気持ちのいい話じゃ無かったな。」

 

圭吾は巽に謝ったが、巽は先程から表情を変えて無かった。ここまで来ると、圭吾の察知した『親族がパキスタン派遣部隊に配属されている。』という憶測は確信に変わった。

圭吾も申し訳無いと思いながら、口を開いた巽を見ていた。

 

「......っ...じゃあ......さぁ。そこまで知ってるなら、国連軍パキスタン派遣部隊のインド入り出来た部隊名まで分かるか?」

 

巽は不安気に圭吾に聞いた。

 

「国連軍ムルタン基地第183中隊、第543中隊。ラールカーナ基地781中隊......だったと思うが。」

 

「ほっ.....本当かっ!?ムルタンの第543中隊に兄貴が居るんだ。残ってる中隊でKIAは何人居るんだ?」

 

ムルタンの第183中隊と第543中隊、ラールカーナの第781中隊でそれぞれ4、3、7人。」

 

東南アジア国連軍は黄色人種は結構少ないらしいから、日本人が居れば直ぐに分かる。そこまでは巽でも知っているだろうとそこに関しては省略した。

 

「さっき挙げた中隊のKIA全14人中8人が白人で残りは中東やアフリカ系だった様だが。嵩音の心配してる嵩音の兄さんは戦死してないさ。きっとインドで再編成しているだろうな。撤退がまだ始まって無いからなぁ。」

 

先程まで顔色が青色にまでなっていた巽の顔はみるみる色の発色が良くなり、安堵した表情に変わっていた。何処か安心もしている様にも圭吾には見えた。

 

「そうか。今はそれだけで十分だ。」

 

巽は顔をそっぽ向いて司令部に向かって歩き続けた。もう、正門をくぐってから1時間は経っている。

_________________________________

 

圭吾達が正門から歩き続けて1時間と30分が経った頃、正面にとても格納庫には見えない建物が見えた。それはこの摂津基地の脳である摂津基地司令部だ。司令部正面玄関には警備兵が1つのドアにつき2人付いていて、そのドアが4つ並んでいた。その入り口は司令部に用のある者のほぼ全員が使っているらしく、通過する為の少しばかりの列には伍長の襟章から少佐の襟章まで、色々な階級の人間が行き来している。

その列に圭吾は並んだ。

 

「これだけデカい基地なら、司令部の玄関もうちょっと広かったらよかったのに......。」

 

巽はウンザリした顔で圭吾に訴えた。巽額からは少しばかり汗が垂れて、荷物も気だるそうに抱えていた。

 

「何がしかの意図があるんだろ?それに今更言っても作り変えないだろうしな。」

 

圭吾は手荷物を持ち替えて、手に身分証を握った。

巽はその言葉を聞いて、少し苦い顔をして黙ってしまった。

そんな中でも2人の間の空気は誰も感じ取らずに刻々と時間は過ぎ、列も進んで行った。

 

「身分証を提示して下さい。」

 

そのドアの警備兵が小銃を片手に圭吾達に身分証を提示することを要求した。

 

「はい。どうぞ。」

 

「有難う御座います。」

 

圭吾は巽の身分証と一緒に自分の身分証を渡した。その警備兵は身分証をマジマジと見た後、身分証に通過証を渡して圭吾に話し掛けた。

 

「最近任官したんですね、おめでとうございます。基地の外からいらしたので手荷物を赤外線センサーを通して貰います。お荷物をお預かりしても宜しいでしょうか?」

 

丁寧な口調で圭吾に言った。

 

「お願いします。」

 

圭吾は手荷物を渡して、身分証を提示し、検問の様なものを通過した。圭吾に続き巽も通過し、いよいよ司令部に入る事が出来た。中は冷房がかかり過ぎでは無いかと思う程、涼しく、逆に寒く感じられる程だった。

 

「中隊長室に行くか。」

 

「あぁ。」

 

圭吾と巽は並んで地図を見ながら歩き出した。

_________________________________

 

「失礼します。」

 

圭吾は廊下に手荷物を置き、手には身分証と配属する為の書類を入れたファイルを片手に『第221機械化歩兵中隊 中隊長室』に入った。

奥には中隊長らしき人影が見えていて、その周りには少し散らかっていた。遠目では報告書の様にも見えた。

 

「本日着任します、鉄無圭吾二等軍曹です。」

 

「同じく嵩音巽三等軍曹です。」

 

圭吾と巽は並んで敬礼をした。その光景を中隊長と思われる人影がのそりと立ち上がり、圭吾達を見ると、圭吾達に歩み寄ってきた。

 

「今日付で新任の兵士とは君たちだったか。私は第221機械化歩兵中隊の中隊長、御宮皐大尉だ。宜しく頼む。」

 

圭吾達に歩み寄って来ていたのは女性帝国軍兵士だった。外見は若く見え、圭吾達とは2年しか変わらない様にも見えた。その20歳も行かない様な女性兵士が何故大尉なのかは安易には想像出来ない。雰囲気は何処かクールにも見えるが、内心は読み取れそうにも無かった。表情は変わらないのだ。

 

「はい。」

 

圭吾と巽は再び敬礼をして、持っていたファイルを皐に渡した。そのファイルを開き、書く必要のある書類を抜き、隊長が着任を認めたという証のサインを書くと、皐はファイルを開き、見たまま動きを止めた。その光景は電池の切れたロボットの様に突然だった。

 

「君たちは愛知県の尾張にある神八城士官学校卒なのか。すまん。見ていたら驚いて動きを止めてしまった。」

 

皐はファイルをそれぞれに手渡しながら言った。確かに、圭吾達が卒業した士官学校はそれなりに有名であった為の反応なのだろう。皐は気を使う様に渡したファイルにある書類を事務に渡す命令を圭吾達に言い渡して圭吾達を部屋の外へと追いやった。

_________________________________

 

圭吾は宿舎に向かっていた。書類を皐に渡してからというもの、昼近くからずっと暇だった。最初は基地の司令部内の歩ける場所は探検した。外観といっても正面からしか見てはいないが、とても広かった。摂津基地の特徴は、司令部棟の内部が碁盤の様になっていて、どの部屋も広さが均一だということだ。

 

(そういえば、姉貴もここの基地に配属されたって手紙に書いてあったな。)

 

圭吾は階段横にあった第221機械化歩兵中隊の隊員が寝泊まりする部屋を探していた。

正門からは地上を歩いていたが、実は地下に道があり、普段はそこを使用することになっていたみたいだった。ありの巣の様に張り巡らされら地下道は司令部棟を中心に放射状に伸びていた。近いところからそれぞれの宿舎に繋がっていて、宿舎の地下には戦術機部隊と機械化歩兵部隊には格納庫が設置されている様だ。

司令部棟から1番遠い所には物資集積場や推進剤貯蔵庫、弾薬庫、戦術機や機械化歩兵装甲の予備パーツが収められている巨大倉庫などがある様だった。

第221機械化歩兵中隊は司令部棟から地下道N区画方面の道を行き、2番目の自動ドアの向こうが第221機械化歩兵中隊の格納庫になっている。宿舎はその真上にある建物だ。

見つけるのは容易だったが、どうも位置がおかしい。南側右端の部屋だ。夕方になれば夕日が差し込む、普通の部屋より窓が多い部屋だ。こういった部屋は普通は埋まっているものだが、どういうことかさっぱり分からなかったが、とりあえず見つけたのでその部屋に向かった。

________________________________

 

6号室が圭吾の部屋だ。

やはり中は広く、どうやらここの基地は優遇されているらしくて、個室それぞれにバスルームとトイレが設置されている圭吾の聞いた話では、帝国軍に配属されたら同性4人と相部屋とか、トイレは共同とか色々と聞いていたので少し驚いたりはしたものの、よくよく考えたら摂津基地に来た兵士は当たりなんじゃないかと思ってしまった。

 

(それにしても、一人では少し広いな。まぁいいか。)

 

圭吾は持っていた荷物を部屋の端に投げると、床に寝転んだ。今日は到着の挨拶と夜には親睦を深める為に格納庫でささやかな歓迎会をやるとの事。現在時間はまだ昼過ぎなので、少し寝ることにしたが、何かが圭吾の中で引っかかっていた。

 

(そういえば、姉ちゃんもこの基地でしかも同じ部隊所属だったっけか。)

 

圭吾は寝ながら足を組み換えて、天井を眺めながら考え事に更けていた。

そうすると、部屋のドアが叩かれ、何か少し今まで感じなかった空気を感じた。それは、既に2年以上も前の記憶だ。

 

「開けてっ!!」

 

ドアを叩いていたのは、女性のようだが何か慌てている様に声が聞こえた。圭吾は何処かで聞いた声だとは分かったが、その声の持ち主が分からないままドアに近づき、ドアを開けた。

 

「なんですか?」

 

「会いたかった!」

 

圭吾がドアを開けた瞬間、その隙間に手を入れてバンッ!という音を響かせて開いたドアの向こうに立っていたのは見覚えのある顔だった。

 

「遥姉っ!?」

 

「そうだ!って!遥姉って呼ぶな!」

 

圭吾の目の前に立っていたのは、圭吾が神八城士官学校に入学する1年前、星ノ谷士官学校に入学して、戦闘技術評価演習に1回落ちた圭吾の姉だった。

 

「戦闘技術評価演習、落ちてドンマイ。」

 

「それに気にしてるのに~。私の小隊以外全員受かったんだよ!?」

 

遥音は圭吾の知っている以前の遥音となんら変わらない姉を見て、少し安心した。圭吾は教官や先輩達に軍に入ると人が変わったり、口調が男っぽくなる女性兵士が多いと聞いていたので、自分の姉もそうなっているんではないかと不安になっていたが、全く変わっていなかった。戦闘技術評価演習で落ちた原因の1つとして考えられた。

 

「まぁまぁ、受かったんだしよかったじゃん。」

 

「でも、戦術機適正落ちたよ?教官に『普通は少しは適正が見えるのだが、鉄無はそれが微塵も見て取れん。だが、戦闘用強化外骨格装甲での訓練では類を見ない卓越した才能を発揮したな。よって、機械化装甲歩兵となり、基地を守れ!』って言われて、ここに居るんだよ。戦術機乗りたかった......。」

 

圭吾の目の前であからさまに落ち込む姉を圭吾は頭を撫でてやることしかできなかった。遥音は俯いていてどんな表情をしているのか分からなかった。

 

「ありがとう、もう大丈夫。」

 

そう言われたので、圭吾は無言で遥音の頭から手を離した。

 

「そういえば、神八城士官学校の話、聞かせてよ。どんな士官学校か気になってたんだ!」

 

遥音はさっきとは違い、昔よく見た笑顔になっていた。

圭吾はなんにも面白くないぞ、と念を押して話し始めた。それは、士官学校では普通に経験することを淡々と話した。だが、やはり士官学校毎に少しずつ違うところがあるらしく遥音曰く『似たり寄ったりだけど、聞いてて飽きない。』だそうだ。

既に圭が話し始めて2時間は経っていた。時刻は4時40分を刺している。格納庫集合は6時30分なので、まだ2時間位時間はあったが、いよいよ圭吾の話す神八城士官学校の話もネタが尽きて、何を話そうか迷っていたところ、あることを思いついた。

 

「なぁ、遥姉。星ノ谷士官学校のことも話してくれよ。俺ばっかり話してたら不公平だろ?」

 

「それもそうだね。何はなそうかなぁ?」

 

遥音は楽しそうに考え始めた。多分、俺に笑ってもらえるような内容を探しているのだろう。圭吾はそう思った。

 

「あっ!そうそう、士官学校の入学式の日にね、私たちのクラスの教官になった人が教室に入る時に足を掛けて転んだんだよー!」

 

遥音は楽しそうに話し始めた。圭吾はそんな遥音の笑顔を見て少し、摂津基地に着てからずっとあった緊張が和らいだ。懐かしい雰囲気なのだ。

 

それからというもの、遥音の口から機関銃の如く吐き出される星ノ谷士官学校で起きた珍事件を聞いて圭吾は笑ったりしてその、懐かしい時間を過ごした。圭吾にとってはそれはこの3年間で一番幸せな時間となった。

______________________________

 

「あー、遥姉?もう時間だ。格納庫行かないと。」

 

圭吾は2時間休み無しの遥音の珍事件の話を一旦中断させて自分のしている腕時計を見せた。

 

「へぁ?本当だ!」

 

遥音はオーバーヒートした銃身見たく顔が熱くなったのか、顔を真っ赤にして言った。

確かに、オーバーヒートしそうな勢いで言葉が口から出ていたから銃身が加熱したという表現は強ち間違いでは無かった。

 

「取り敢えず急ごう。早く立って!遥姉ぇ!」

 

圭吾は服を正すと、まだ座っていた遥音に急がした。だが、遥音は微動だにもしない。何かを言いたげな表情で圭吾を見ていた。

 

「そういえばさ.......そろそろ名前で呼んで欲しいな。」

 

遥音は重心を低くし、いつのまにか引っ張られていた手を引きながら言った。

 

「分かったから、遥音。とっとと行くぞ!」

 

「へぁ!?ちょっと待って!!」

 

圭吾と遥音は慌しく部屋を出て行った。

 

______________________________

 

格納庫の一角には、整備兵専用の会議用長机に少しのお菓子と酒のつまみになる干物などが乗っていて、端にはジュースやらビールやらが結構な量が用意されていた。

 

「すいません、間に合いました?」

 

「っ!?......ギリギリね。」

 

圭吾は少し息を切らして、近くに立っていた女性兵士に間に合ったかどうかを聞いた。最初の反応はなんだが知っている様に反応したが、すぐに素っ気無くなったのであまり気にしなかったが、周りを見渡すと中隊長も出張ってきてる様で、中隊長の横にいる士官と話しながら酒を飲んでいた。

 

「ではでは!新兵の入隊を祝してぇ!」

 

「「「かんぱーい!!」」」

 

全員が集まったのを確認したのか、幹事をやっているらしき人が音頭を取って、全員で乾杯した。その後は自由なのか、話しをしながら酒やジュースを飲んでは話しが盛り上がっているように見えた。

 

「ではでは、新入りは前に来て!」

 

3分くらいしてから幹事らしき人が再び大きい声をだした。それは圭吾達、新入りに自己紹介させる為みたいだ。歓迎会で新入りが前に呼ばれるのはだいたいがそういう理由だ。

 

「今回、5人!新入りが入りました。おっ!?これは新入りだけで1個小隊編成しちゃいます中隊長?」

 

「いいんじゃないか?」

 

圭吾は少し驚いた。中隊長の皐はそういったものに乗らないと思ったら思いの外、結構乗ってきた事に驚いた。しかも、結構酒が入ったみたいでほんのり頬が紅くなっている。

 

「ちょ!それは流石に。」

 

一緒に前で並んでいた巽が乗れと言われたのかの如く、幹事らしき人のボケを普通に受け取っていた。

 

「まぁ、茶番はここまでにして。新入りたちに自己紹介して貰います!皆さん、お静かに。」

 

その号令で一斉に全員が談笑していたり、幹事らしき人と皐のやりとりで笑っていた人たちはピタリと止まり、前に並んでいる圭吾たちを眺めた。

 

「じゃあ、左から。どうぞ!ちなみに名前と階級、どこから来たか、出身校、特技を言ってね。」

 

「はい。では、鉄無圭吾二等軍曹です。尾張、神八城士官学校から来ました。特技はこれといって無いですが、情報収集ですかね?ありがとうございます。」

 

圭吾は最後に一礼してから一歩下がった。

圭吾は自分の自己紹介を簡潔にしてしまった。だが、圭吾にはそれが普通で、いつもしてきたことだ。

 

「次っ!」

 

「はい!鉄無遥音二等軍曹です。尾張、星ノ谷士官学校から来ました。特技はありません!あーでも、寝ること?ありがとうございました!」

 

遥音も圭吾に習ったのか、結構質素な自己紹介で済ませた。前なら軽く10分は超えてた自己紹介をたった20秒で終わらせた。遥音は成長したなぁ、と関心している圭吾だったが、すぐに現実に戻って自分の状況を再確認した。

遥音の自己紹介なのに、何故だか圭吾に目線が集中していたのだ。直ぐにその理由は判明した。圭吾と遥音の苗字が同じという事に少し疑問を感じているのか。特に、圭吾達が来たときに近くにいた人間はそう思っているだろう。そのときも遥音に言われた通りに、遥姉と呼ばすに遥音と呼んでいたので、少し疑問に思ったのかと考えた。

 

「えっと......二人はどういう関係で?私の見た書類によりますと、遥音さんの方は圭吾くんと1つ違いで遥音さんの方が年上なんですが?」

 

幹事らしき人が圭吾に質問をぶつけてきた。普通なら遥音の方に聞くのだが、何故だか圭吾に聞いたのだ。

 

「鉄無二等軍曹は私の姉です。姉弟揃って同じ部隊に配属されるなんて異例ですか?」

 

「そうですか。では次へ行ってみよう!!」

 

幹事らしき人はそれを聞くと直ぐに話を逸らし、圭吾たちの後にいる新入りの挨拶を急がせた。

 

「嵩音巽三等軍曹です。尾張、神八城士官学校から来ました。特技は......考えたこと無かったので、特には無いです。なんか面白くなくてすみません。」

 

「次いってみよー!」

 

「遠江菜緒二等軍曹です。三河、駈山士官学校から来ました。特技は弓で180m先の的を射ることです。」

 

「和泉佳奈三等軍曹です。美濃、十岐士官学校から来ました。特技は幼少の頃より槍術を習っていましたので、槍術です。」

 

「はい!全員の自己紹介が終わりました。それでは、後は自由なので食べるなり飲むなり自由にしてて下さい。ですが、1時間後に中隊長から連絡事項がありますので全員この場で待機です。以上、解散!」

 

圭吾は4人目の自己紹介からずっと脳が停止していた。聞き覚えのある名前に顔が自分の並んでいる列に居たからだ。気づけば圭吾は聞き覚えのある名前の人物の前まで来ていた。相手も少し気になっていたのか、なかなか圭吾に話しかけず、ずっと黙っていた。そこに遥音が来てこう言った。

 

「お久しぶり、菜緒ちゃん。随分と大きくなったね。」

 

遥音が圭吾の横に来て、菜緒に向かってそういった。遥音は懐かしいといったので、圭吾はやっぱりそうなのかと自分に言い聞かせ、口を開いた。

 

「久しぶり、菜緒。元気だったか?」

 

「うん。圭吾こそ。」

 

圭吾は菜緒と何時振りかの挨拶を交わした。圭吾の小さい時に、近くに住んでいた菜緒は両親の都合で美濃に引越してしまって以来、連絡を取っていなかったのだ。

 

「それよりさ、圭吾が帝国軍に志願してたなんて思いもしなかったよ。きっとそっちもそう思ってるだろうけど。」

 

「その通り。てっきり、昔なりたいって言ってた看護師にでもなるのかと思った。」

 

そんな話をしていると自然に笑みもこぼれ始めた矢先、格納庫に注目するようにという声が挙がった。中隊長の連絡事項だ。

 

「御宮だ。これより、先ほど言った連絡事項について聞いて貰いたい。」

 

格納庫で楽しそうな笑い声が響いていたのが一変、緊張の張り詰めた空気に一瞬にして変わった。

 

「一昨日、帝国議会が大陸派兵を決定したのは知っているな?その事についてだ。」

 

緊張の張り詰めた空気は相変わらず、ただ、冷や汗が垂れてくる緊張感も折り重なった。

 

「摂津基地所属、第221機械化歩兵中隊は大陸派兵に沿い建設中である敦煌基地に転属することになった。出発は1週間後。詳しい説明は明日の午前ブリーフィングにて説明する。以上、解散。」

 

圭吾の額には冷や汗と脂汗の混じった嫌な汗が滴っていた。それは、以前より帝国議会にて騒がれていた大陸派兵に関する案についてだ。それが決定されたのは朝刊にも大々的に報道されており、気づかない方が不自然なくらいにまで知らされている事が、まさか自分の身に降りかかってくるとは思いもしなかったのだ。

てっきり圭吾は、人員の余りに余ってる中部地方にある基地から派兵されるのかと思っていたが、今圭吾の配属されている基地は山陽道付近で、対BETA防衛戦闘を想定した人員の確保や、部隊間の連携などの近いうちに想定されるBETA日本進行に対抗すべく固められているところからわざわざ引き抜く事はしないと思っていたからだ。

葛藤している圭吾に皐が近づいてきて、圭吾に話しかけた。

 

「この辺の基地から引き抜きはしないと考えたいたような表情だな。だが、もうこうなってしまったからには仕方が無い。」

 

そう言って皐は圭吾の返事も聞かずに去ってしまった。

圭吾はその言葉を聴いて、さらに葛藤してしまった。

まずは、新兵5人もいる機械化歩兵中隊は邪魔ではないのか。次に、敦煌基地建設地周辺は中国中央部の町だ。今後想定されるBETA東進に抗う為の基地に配属されたという不安。更に、死に対する不安。朝、巽に普通に東南アジアの戦況や町の様子などを語ったが、人の死には悲しいという感情しか持てなかったが、自分の死となるとそれ以上のことを考えてしまっていた。特に、『死に方』だった。戦車級に喰われるか、闘士級に頭を引き抜かれるか、要塞級の溶解液に溶かされるか......そんなことばかり考えてしまった。

圭吾はその日、夜遅くに寝た。

 




初回から1週間は経ったのでしょうか。閲覧数は3桁のままですが、感想なども下さるとうれしいです(泣)
次回は未定で、episode 1 投稿時には書き出してすらいません。何時になるのやら......。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。