Muv-Luv Unlimited Base Shielders 作:しゅーがく
前回の投稿から約一か月も放置してました。すみません。まぁ、この時期は忙しいので仕方ないという事にしておいてください。
さて、始めていきます。
砲兵195人の記録が無い事に気づいていたのは、圭吾だけだと思っていたが、違っていた。
当然の如く、皐は気付いていた。それにもう一人、気付いていた人物が居た。それは、入れ替わりで基地司令となった人間だった。
その基地司令に圭吾は呼び出されて、司令官室の前まで来ていた。
「普段だったら、下士官は来れないところだぞ......。」
圭吾は息を整えて、扉をノックした。
「第13機械化歩兵中隊 B小隊所属、鉄無二等軍曹、入ります。」
『どうぞ。』
圭吾は追悼式も、着任の挨拶も、この基地司令の計らいで負傷兵は出なくていいということになっていたので、今回顔を見るのが初だった。
「君が鉄無兄弟の弟だね。僕はこの前、日本帝国大陸派遣軍敦煌基地 基地司令に任命された、高衛だ。よろしく頼むよ。」
そう言って、目の前に立つ基地司令は手袋を脱いで手を差し出した。
「はっ......はい。」
圭吾もおずおずと手を差し出して、握手を交わした。
「早速で悪いんだけど、砲兵部隊の件。聞かせてほしい。紅茶かコーヒー、どっちがいいかな?」
「判りました。コーヒーを頂いてもよろしいでしょうか?」
「分かったよ。そこのソファーに腰かけてて。」
そう言うと高衛は給湯室に歩いて行った。
ほどなくして、高衛はコーヒーカップと紅茶の入ったポットと空いたティーカップをお盆に乗せて現れた。
「あぁ、座ってて構わないよ。僕が好きでやってるから。」
「はい。」
お盆をソファーとソファーの間に置いてある机に置くと、高衛はコーヒーを置き、ティーカップに紅茶を注ぎながら話し出した。
「それで、砲兵部隊の件だけど。まずは、敦煌基地防衛戦の際の砲兵部隊の任務について教えてくれるかな?」
「はい。砲兵部隊の配置に関しては、戦術機と共に最前線にて支援砲撃部隊として2個中隊。基地内待機に1個師団と2個大隊、1個小隊......。任務は支援砲撃部隊は、戦術機がCPに要請する座標に向けての砲撃が主任務でした。待機は命令が下るまで待機していました。」
圭吾が説明すると、高衛は顎に手を置き、考え出した。
「それは報告書に書いてあったなぁ......。具体的な動きは?」
「支援砲撃部隊は機甲部隊と共に前線から撤退中に全滅です。基地内待機だった部隊は、私の策に乗って戦闘開始後しばらくしてから弾薬の荷卸し作業をしていたはずです。それ以外には特に......。」
「それも報告書にあったなぁ......。君の作戦っていうのは、対空機銃を使った最終殲滅戦の事だろ?その時にも砲弾を使ったのかい?」
「はい。自走砲の撃つ弾薬は榴弾だけなので、地雷として使わせていただきました。」
圭吾がそれを言った瞬間、高衛の表情が少し歪んだ。
「それは......聞いてないぞ?」
その言葉に圭吾は少し混乱してしまった。
あんなに大々的に榴弾を寄越してもらっていたので、報告書に書かれないはずがないからだ。
「おかしい。君の対空機銃の搬出の記録は残っているけど、そこに榴弾の搬出記録は残ってないよ。」
圭吾は高衛が言った言葉が理解できなかった。それは、あまりに矛盾していたからだ。
「いいえ。確かに地雷として埋めた記憶があるんです。と言っても、埋めたというか埋めている最中というか......。」
「それはどういうことかね?」
「埋設作業中にBETAの先行個体群に接触したんですよ。予定よりも埋められずに大型種を多く取り残してしまったのが、最終防衛戦での大きな失態です。」
「そうなのか。いや、報告書では『対空機銃と共に、陸から砲兵部隊の西進』って書かれているんだ。そのあとに『砲兵部隊は損耗なしで生還』って書かれているけど。」
高衛の差し出した報告書にはそうやって本当に書かれていた。
にわかに信じがたいし、圭吾自体も砲兵部隊が基地から出て支援に来るなどといった報告は受けずに戦闘をしていたからだ。
「それで、真実は自走砲のみの護衛なしで出撃して、全滅ですか......。まさに、消えた部隊ですね。」
「そうだね。それにこの矛盾にはほとんどの人間が気付いていない。意図して気付いていないのか、気にもしていないか......。」
「恐らく後者でしょう。補充の戦術機部隊が着任の挨拶前に私たちを救って下さってから、内地ではなんでもドキュメンタリーが放送されたとか。」
「そんなものもあったな。それよりも、砲兵部隊の件をどうするかだ。」
圭吾はここで思っていたことを口にしてみた。
「その前に......どうして私なのですか?私や基地司令のようにこの矛盾にはまだ一人気付いている人間がいるの思うのですが。」
「あぁ、私もそれは気付いている。鉄無二等軍曹の中隊の中隊長、御宮大尉だろ?彼女にも同じことをもう聞いている。」
そういうと高衛はソファーから立ち上がり、執務を行う机の書類の束から1枚の紙を引き抜いた。
「彼女が纏めた敦煌基地においての矛盾点に関する報告書だ。」
そう言って見せられた紙には箇条書きで幾つかの事項が書かれていた。その中の消えた砲兵部隊に関しての事も書かれていた。
「彼女の提出した報告書の後に、貴官の名前が出ているんだよ。」
そう言われて高衛が指差した先に書かれていたのは、圭吾にも聞くことを進める文章だった。
『以上の件に関して、第9機械化歩兵中隊の出撃と消えた砲兵部隊に関しては、第13機械化歩兵中隊の鉄無 圭吾二等軍曹も私同様に気付いているので、確認を取ることを愚考します。』
そう書かれていた。
皐が圭吾がそのように考え付いたのを何故知ってるか。それよりも、高衛が皐が何故その違和感を覚えていることを知っているかだった。
「まぁいいさ。取りあえず、君への質問は終えたよ。鉄無二等軍曹は戻りたまえ。」
「了解。」
圭吾は疑問が消えないまま、司令官室を後にした。
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基地内は騒がしく、人が行き来していた。
中でも人事部の非戦闘員が書類の束を抱えて廊下を走り、荷物を載せた荷台を引いたりしている。とても忙しそうだった。
戦闘員はというと、衛士はシュミレーター室に列を成し、機甲部隊は新たな戦術の会議をあちこちで行っている。砲兵部隊は砲撃タイミングの合わせや速射の訓練を行っていた。
見かける戦闘員は数日であったが、それなりに覚えていたが、今は全く知らない人間になっている。
本当に全滅していったのだ。
圭吾は自分の部屋に戻るべく、歩みを進めるが、心に引っかかるものがあった。
補充兵の量と速さだ。
大陸派遣軍は圭吾の中では補充兵を回せれる程に余裕が無いように思えたからだ。そもそも、今の戦局では消耗戦だから、どこの戦闘地域も戦闘員が削り取られ続けて全滅している状態だった。
そんな大陸派遣軍が敦煌基地にかなりの戦力を回したことに関しての疑問まで浮かんだのだ。
確かに、敦煌基地は今や極東の最前線の一部。戦力を充てないなどとは到底考えないが、それはどこの基地や部隊も同じ状況に違いないのだ。そんな中、敦煌基地にのみ戦力がここまで憚れる理由が判らなかったのだ。
「まったく意味が判らん。」
圭吾は自室のベッドに腰を掛けた。
「そもそも、第13機械化歩兵中隊がここまで祭り上げられるのも意味が判らん。」
圭吾は私物のラジオに手をかけ、周波数を調節した。
ラジオから流れ出る音声は、大陸派遣軍の情報を流しているラジオ番組だった。
『......中国での戦線は少しずつ後退しているという話ですが、実際問題どういったことが起きているのでしょうか。本日は大陸に派遣された際に負傷し、本国に帰還され退役された元日本帝国軍大陸派遣軍所属の川田さんにお越しいただきました。川田さん。実際の大陸での戦況はどういった様子なのでしょうか?』
『ご紹介に預かりました、川田です。そうですね......大陸での戦況は五分五分です。BETAの圧倒的な物量を目の前に果敢に軍が立ちはだかり殲滅する。それの繰り返しです。我々が敗退することもあれば、BETAを殲滅せしめる事もあります。ですが、BETAの強みは圧倒的な物量です。』
『そうなんですね。では、今後どう発展していくと考えていますか?』
『今後戦線は停滞する......若しくは後退するでしょう。BETAは虫けらの様に湧いてきますが、我々人類は有限、兵器も有限です。』
『では、押し返す事が出来ないと?』
『そうは言ってません。BETAに無くて我々人類にあるものがあります。』
『それは?』
『戦術です。前線の兵士や衛士はBETAをこう呼んでました≪下等生物共≫と。これは、BETAの戦術概念が無いのと、突撃しか行わないという特性から付いた俗称です。』
『成程......単一戦法しか取らないから≪下等生物共≫という訳ですね。』
『そんなところです。』
『それでは川田さんはここでお別れです。ありがとうございました。』
『ありがとうございました。』
『それでは、続いては大陸の現在の戦況です。』
ラジオから流れる音声になんとなく耳を傾けていた圭吾だったが、そのラジオのMCとゲストの会話がどうも聞き慣れたものだという事に違和感を覚えていた。
BETAの事を≪下等生物共≫と呼ぶのは、本国に居た時もよく耳にしていた。軍以外の国民にも俗称が良く知られていたのだ。
突撃しかしない地球外生物。それを比喩するにはそれを超えるいい俗称をつけれなかったのだろう。圭吾はそう考えた。
『大陸派遣軍は現在、中華人民共和国北西部に展開し、東進をするBETAの迎撃を行っています。現在は大陸派遣軍司令部成都基地傘下那曲基地、昌都基地、海西基地、敦煌基地が日々BETAと戦ってます。』
『視聴者様の記憶にも新しいであろう敦煌基地防衛戦は日本帝国軍史上最少戦力で最大戦力BETA群と対峙し、見事基地を守り抜いた『敦煌防衛戦の奇跡』は周辺基地への励ましとなっていると言われています。』
『そんな鬼神の如く基地を守り抜き、唯一生還した第13機械化歩兵中隊は、基地手前1.5km地点にて機械化歩兵用近接戦闘用装備のみでBETAの大群に吶喊したと私も風の噂で耳にしました。』
『なんでも数十分後の戦術機部隊の救援が到着した時にも戦闘中で、目につく機械化歩兵はボロボロで全機BETAの体液で血みどろになりながらもBETAに突撃していたという報告があったとも。』
『祖国の大地ではない土地で、日本帝国軍人の皆さんはそこまでしてBETAに抗っているのです。着実に地球上のBETAは掃討されていると私は思います。』
『次回の放送でもゲストをおよびしてます。次回も是非、ご視聴ください。ありがとうございました。』
ラジオはそう言って終わった。
圭吾はこのラジオをここまで聞いて、一つ悟っていた。これは日本帝国国民に対するプロパガンタだったという事に。
今回は束の間の休憩のつもりです。
内容はこれまでよりも軽い感じになっていると思います。
次回の投稿がいつになるのかも検討が付きませんのでご了承ください。
ご意見ご感想お待ちしております。