インフィニット・ストラトス 光の彼方   作:ichika

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秘密の継承

side海斗

「くっ・・・、がっ・・・。」

イテェ・・・、こんな痛みは初めてだ・・・。

スコールとの死闘は、俺が辛くも勝利した。

 

捨て身の攻撃で、それも腕を一本犠牲にしちまうような無茶な攻撃だった。

アイツと俺の技量は互角、こうでもしないと勝てなかった・・・。

 

まあ、利き腕が無くなっちまったのはちぃとばかし痛いがな。

 

「深夏・・・、大丈夫か・・・?」

「ええ、貴方よりだいぶマシよ、出血は酷いけどね。」

「そうか・・・、アイツは・・・、一夏は・・・?」

アイツはどうなったのだろうか・・・?

流石に生きてはいるだろう、俺みたいに腕を失うみたいな事になってなきゃ良いが。

 

「分からないわ、でも大丈夫よ、なんせ私達の弟じゃない。」

「そうか・・・、そうだな・・・。」

 

さてと、俺達の因縁も終わった事だ、アイツも自分の因縁を断ち切って欲しいもんだ。

 

俺は奴等を、スコールとオータムを理解してやれなかった。

 

アイツらは優秀なIS乗りだった。

だが、この世界の有り様に絶望して、この世界を壊すために亡國企業にその身を投じたのだ。

俺は、いや、千冬も深夏も反対した、それでもあの二人の心を変える事は叶わなかった。

だから、俺にはアイツらをとめる、いや、殺す責任があった。

 

アイツらも俺に殺されるのなら本望だと言っていた。

だから俺は腕を一本犠牲にしてでもアイツらを止めたんだ・・・。

 

でもよスコール・・・、それで良かったのか・・・?

まだこの世界は変わる余地があるんだよ。

そんな命を掛けてまで壊す価値なんてねぇんだ。

 

「スコール・・・、テメェはこの世界に絶望したんだろうが・・・、

まだこの世界は捨てたもんじゃねぇぞ・・・。」

 

俺は嘗ての友人に届きもしない言葉を呟いた・・・。

 

sideout

 

noside

海斗達の決着が着いた頃、篠ノ之神社では、

戦いを終えた一夏達に、くぅを連れたリクとセシリアが合流していた。

 

束の傷は深く、既に手遅れで助からない状態であった・・・。

 

「束様・・・!!」

「やぁ・・・、くぅちゃん・・・、無事だったんだ・・・。」

掠れた声で話し掛けながら、束はくぅに笑いかけ、その頬を撫でる。

 

「ゴメンね・・・、私・・・、もう助かりそうにないよ・・・。」

「そんな事、言わないでください・・・!!」

くぅは泣きながら束にすがる。

くぅにとって、束は命を救って貰った恩人なのだ。

 

その場所から少し離れた場所に、一夏は横たわっていた。

白式を解除し、止血を行っていた。

 

「一夏!」

「先輩!しっかりしてください!」

「一夏さん!お気を確かに!!」

 

シャルロット、リク、セシリアが彼に声をかける。

 

「うっ・・・、だ、大丈夫だ・・・、けど、ちぃとまずいな・・・。」

一夏は刺された腹部を押さえつつ、掠れた声で言う。

 

一夏は束に比べれば軽傷だが、

それはあくまで瀕死の重傷を負っている人間に比べればという前提がつきまとう。

失血の為に体温が低下しはじめており、

このまま適切な処置を施さなければ間違いなく彼は命を落とすだろう。

 

「早く輸血しないと!!」

「で、でもそんな機具持ってないですよ!?」

「それに、私達の血液型で一夏さんの血液型に合うかも分かりませんわ!」

そう、今ここにいる三人は、一夏の血液型を知らないのだ。

それにもし、誤った輸血を行えば、彼はショックで命を落とす危険もあるのだ。

 

「どうすれば・・・、どうすれば良いの・・・!?」

シャルロットは涙でその美しい顔をぐしゃぐしゃにしていた。

 

その時・・・。

「私の・・・、血を使って・・・。」

束が腕を伸ばし、全員の注目を集める。

 

「篠ノ之博士・・・!?」

「私の血液型は・・・、いっくんと同じだから・・・。」

 

束は首につけていたチョーカーに手を添え、

何やら医療機具のようなものを呼び出した。

 

「さあ・・・、この管をいっくんの血管に繋いで、反対側を私の血管に繋いで・・・。」

「な、何を・・・、言ってるんですか・・・、束さん・・・?」

束の言葉に、一夏は弱々しく声をあげた。

 

「私は・・・、もう助からないから・・・、だから・・・、少しでも助かる確率があるいっくんを・・・、私は助けたいの・・・。」

「でも・・・!」

「いっくん!」

渋るように言う一夏を叱るように束は叫ぶ。

 

「お願いだよ・・・、これは・・・、私が犯した罪の・・・、

償いの一つだから・・・、いっくんに助かって欲しいんだ・・・。」

「束さん・・・!」

「束様・・・!」

束の言葉に、一夏とくぅは泣くのを必死に堪えながら言う。

 

そして・・・。

「・・・、分かりました・・・、貴女の血を・・・、貰います・・・。」

「うん・・・、くぅちゃん、私の最期のお願い・・・、聞いて・・・?」

「・・・ッ!!はい・・・、束様ぁ・・・!!」

一夏は涙を流し、束の申し出を受け入れた。

彼の判断を、束は満足そうに受け入れ、

くぅは主の最期の望みを叶える為に、準備を進める。

 

 

そして・・・、

「それでは・・・、束様、始めます・・・。」

涙声で言うくぅの声に、束は微笑み頷いた。

くぅは震える指で、そのスイッチを押した。

 

震動と共に、束の腕の血管から血が抜かれてゆく。

一度機械の箱を通り、一夏の腕へと入っていく。

それは命を受け継ぐ、一つの儀式のようであった・・・。

 

「ねぇ・・・、いっくん・・・、図々しいけど・・・、

お願い・・・、聞いてくれるかな・・・?」

「なん・・・、ですか・・・?」

束は胸元より、何やらUSBメモリのようなものを取り出し、

一夏の方へ差し出す。

 

「それは・・・?」

「ISの・・・、コアの製造方法を記録したメモリだよ・・・、

これにはね・・・、男性がISを使えるようになるデータも入ってるんだ・・・。」

「なっ・・・!?」

 

その言葉に驚き、一夏は飛び起きようとするが、

シャルロットとリクが押さえ込む。

 

「篠ノ之博士、それは・・・、公表されれば俺と一夏先輩、

それに小早川中佐のような、男性IS操縦者が生まれるということですか・・・?」

一夏に代わり、リクがその先を訊ねた。

 

「そうだよ・・・、元々、ISは男女両方が扱えたの・・・、

でも・・・、私の父親に対する嫌悪がそれをさせなかった・・・。」

珍しく、他人の質問に返事を返し、更に言葉を続ける。

 

「あの人はさ・・・、武道を志す人間にしか興味がなかった・・・。

だから・・・、自分の娘にも武道を強いらせ、

それにあわなかった私をいらない娘とまで言ったの・・・。」

「・・・。」

 

一夏は静かにそれを聞きながら、何処か納得もしていた。

思い返せば、確かに束の父、篠ノ之柳韻は武道を極めんとする男だった。

しかし、それを周りに強いろうとする独善的な面もあったように見えた。

それに、彼の妻も夫の意見のみを尊重し、辛い思いをしている束を省みなかった。

 

故に、千冬、深夏、そして箒と言った、心を許せた者の性別に、

正しくは、その肉体データに近い者にしかISを使えないようにしたのだ・・・。

 

(だからか・・・、極端に、俺と海斗兄以外の男を嫌っていたのは・・・、

いや、それだけじゃない、女に対しても一部以外には興味がなかったのは・・・、

やっと・・・、やっと理解できた・・・。)

彼女の極端な対人スキルの根底を、一夏は理解した・・・。

だが、それは今となっては既に遅い・・・、いや、もう終わりかけている事だ・・・。

 

『・・・。』

誰も・・・、その真実に何も言えなかった・・・。

 

一夏は悩んでいた、

その情報を公表すれば、間違いなく虐げられてきた男性達による、

暴動、強姦等様々な問題が起きる。

 

だが、逆に彼が情報を秘匿すれば、彼とシャルロットが危険に晒される事は間違いない。

 

(・・・、俺は、俺の愛する人を守る義務がある・・・、

それはこれから産まれて来る、俺とシャルの子どもも同じだ。

けど・・・、この人は、俺の姉に等しい女性なんだ・・・。)

 

様々な葛藤の末、一夏は・・・、

「・・・、受け取ります、その後は、俺が守ります。」

「うん、お願いするね・・・。」

束の手からUSBメモリを受け取った。

 

「ふぅ・・・、疲れちゃったよ・・・、それじゃあねいっくん・・・、

おやすみ・・・。」

「束・・・、姉さん・・・。」

そう言った束に一夏は嘗ての呼び方で呼び掛けるが、

返事が帰ってくることは、二度と無かった・・・。

 

「束・・・、さんっ・・・!」

彼女の手を握り、徐々に温もりを失っていくさまを感じる・・・。

 

「束様ぁ・・・!うぁぁぁぁぁっ・・・!!」

くぅは束の亡骸に寄り添い、大声で泣いた。

 

シャルロット、セシリア、そしてリクは黙祷を捧げた・・・。

 

「束さん・・・、俺は。貴女の望み・・・、

無限の成層圏<インフィニット・ストラトス>を・・・、

目指してみせます・・・、だから・・・。」

そこから先を、彼は言うことができなかった・・・。

彼も泣いていたのだから・・・。

 

それに気付いたシャルロットは彼をそっと抱き締めた。

優しく、母親が子どもを抱き締めるように・・・。

 

一夏はシャルロットの身体に腕を回し、彼女の胸の内で声をあげて泣いた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに、世界中を捲き込んだIS大戦は、終結した・・・。

 

sideout




はいどーもです!

さて、残すところ、後三話で完結します。

と言っても、三種類のエンディングをそれぞれあげるだけですけどね(笑)

さて次回予告
IS大戦から一年と数ヶ月、一夏とシャルロットは新たな節目を迎えた。

次回インフィニット・ストラトス 光の彼方
卒業
お楽しみに!!

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